異界転生 ~だから勇者は行くんだ、どこまでも~(脚本)
〇中庭のステージ
仮面「妻は生き残ったのか?」
白「子を思う母の執念か。魔王軍の襲撃の中であの子を産み、主に託すのを待っていたよ」
白「魔王の死骸が崩れ始めたか」
白「この様子なら、すぐに玲緒も戻ってくる」
白「頼む、義兄上。せめて最期の時だけは、妻と娘に誇れる父であってくれ」
仮面「・・・」
〇飛空戦艦
〇文化祭をしている学校
〇中庭のステージ
白「勇者の凱旋・・・か」
玲緒「白・・・ちゃん」
白「玲緒!?」
玲緒は魔王を討ち滅ぼし、勝利をした。だがしかし、戻ってきたその姿は想像した晴れ姿とは真逆にあった
右半身に酷い火傷を負い、右足と左わき腹は真っ赤に染まり、止まることなく血が滴り落ちている
左腕はだらりと垂れ下がり、赤く充血した瞳からは、次第に光が抜け落ちていった
仮面「・・・」
玲緒「よかった、白ちゃんも勝ったんですね」
玲緒「玲緒も魔王を倒しましたよ。ちょっと苦戦しましたが・・・」
白「そんなことはどうでもいい! 早く、手当を!」
玲緒「あはは、無理ですよ」
玲緒「玲緒はもう心臓が止まってるそうです」
玲緒「聖剣が生命維持をしてるおかげで、まだ話せてるだけです。それも長くは持たないって」
白「そんな・・・」
玲緒「それなのに晴ってば、玲緒だけここに帰したんですよ? 勇者が勝利の凱旋をしないと締まらないって言って」
白「それじゃあ二人は?」
玲緒「ぬりかべは、玲緒を庇って・・・。おかげで半分の火傷で済んで、戦えました」
玲緒「魔王の正体は次元潜航艇だったのですが、そこからの脱出用のポッドが一人分しかなくて。晴は玲緒を優先させて・・・」
玲緒「晴は、まだ助かる見込みがあったのに・・・」
白「そんな・・・」
玲緒「覚悟もしてたし、選択に後悔もありません。でも・・・」
玲緒「でも、痛いものは痛いんです!」
玲緒「勇者失格だと言われても! ここの人達がたくさん死ぬよりも、玲緒はたった二人を失ったことのほうが辛いんです!」
玲緒「うわぁぁぁぁ!」
白「玲緒!」
仮面「くくっ・・・」
仮面「はははははっ! やはり、世界は悲劇を望んでいるようだ!」
白「貴様!」
白「この術は?!」
仮面「異界転生!」
白「魔王の力、なくなったのではないのか?!」
仮面「魔王の命の、最後の一欠を焼き尽くしたのさ」
仮面「これが私の最後の復讐だ!」
白「貴様、ここまで来て──」
玲緒「か、体が吸い込まれる?!」
白「れ、玲緒?!」
〇体育館の裏
副風紀委員長「な、なにこれ?!」
〇放送室
不良リーダー「おい、どうなってやがるんだ? 怪物たちの動きが止まったら、今度は俺達か?!」
有江「知らないわよ!」
〇体育館の外
〇中庭のステージ
仮面「ここにいる魔具那以外の全て。人も、魔族も、死者も転生させた」
仮面「これで死者は生者に、魔族は人に戻り、この戦いに犠牲者はいなくなった」
白「助けて・・・くれたのか?」
仮面「復讐と言っただろう」
仮面「世界よ! 悲劇を求め続ける世界よ! これで貴様の望んだ悲劇は全て消え果てた!」
白「貴様・・・」
仮面「私は、あの時の選択に微塵も後悔などない」
仮面「子が残っても妻の死を理由に、復讐に走ったろう」
仮面「妻と子が残ったとしても、死んだ民の為に復讐に走ったろう」
仮面「結局、私にはその生き方でしか、生きられなかったのさ」
白「・・・」
仮面「復讐はいいぞ、白金!」
仮面「悲しみも、苦しみも、己の命すら忘れて、憎しみしか見ないで済む。まるで熱にうかされた恋のように!」
仮面「はーはっはっはっは──」
白「果てたか・・・」
白「他の道だってあったろうが・・・」
〇宇宙空間
〇空
仮面との戦いから一年後──
〇文化祭をしている学校
放送の声「皆さんおはようございます。放送委員長の弥生です。界陵学園祭はお楽しみいただけてるでしょうか」
〇高い屋上
???「師匠!」
風紀委員・後輩「またここにいたんですか」
白「どうした、風紀委員長は仕事中じゃないのか?」
風紀委員・後輩「ちゃんとやってますよ。やーっと氷狩先輩の跡を引き継げたんですからね」
風紀委員・後輩「って、そうじゃなくて、急いで来てください。もうすぐ先輩たちの出発の時間ですよ」
白「もうそんな時間だったか」
白「場所は体育館だったな。なに、ここから飛び降りれば、すぐ──」
風紀委員・後輩「階段を使ってください!」
〇学校の廊下
白「祭りの日はやはり人が多いの」
風紀委員・後輩「この世界が平和な証ですよ」
白「いくら平和になっても小競り合いはなくならないか」
風紀委員・後輩「いきましょう」
勇者「だから、俺に決まってるだろ!」
不良リーダー「違ぇよ! 俺だ!」
どうでもいい風紀委員「ふざけんな、俺に決まってるだろ!」
白「何をやっておるのだ、あの馬鹿弟子は」
風紀委員・後輩「うちの生徒も一緒ですみません・・・」
勇者「おっ、師匠じゃねぇか」
白「主らは、一体何を騒いでおるのだ?」
勇者「いや、騒ぎの元は暴れてる不良連中だよ。もうやっつけたけど」
勇者「ただ、他の奴らも一緒に倒しに入ってたらしくてさ」
白「誰の手柄かで、もめてる訳か。下らんな」
風紀委員・後輩「残念過ぎる兄弟子ですね」
勇者「いや、俺はむしろ兄弟子としての威厳を見せようと頑張ってだな」
風紀委員・後輩「とりあえず三人共、いつも通り指導室へ行ってください」
勇者「兄弟子に対する扱いじゃなくね?!」
風紀委員・後輩「いきましょう、師匠」
白「うむ」
勇者「置いてかないでくれよ、師匠!」
〇文化祭をしている学校
白「全く、あの馬鹿弟子は、骨のままが良かったのではないか?」
風紀委員・後輩「でも、あの人柄だと、骨のままでも今と変わらず受け入れられたんじゃないでしょうか」
白「まあ、良くも悪くも自由な生き方が、あやつらしさだからの」
???「師匠、待ってくれよー!」
勇者「あいつらの見送りに行くんだろ? 俺を置いてくなよぉ」
風紀委員・後輩(指導室行きって言ったのにな)
白「自由過ぎるのも困りものだな」
〇体育館の裏
白「ここは・・・」
風紀委員・後輩「どうかしましたか?」
白「なに、激しい戦いの跡が刻まれていたのに、すっかり元通りだと思ってな」
風紀委員・後輩「跡を残しておこうという意見もあったんですが」
白「学園側ては早く消したかったわけか」
風紀委員・後輩「心に傷を負った人の為と言ってますが、本当はあの戦いを不祥事としか思ってないみたいです」
勇者「自分達は何もしてねぇ癖してよ。まったくどこの世界も上の奴らはよ!」
白「そう言うな。異界人の我らを保護してくれた、八乙女博士のような御方もおるのだぞ」
勇者「そうだけどさ」
白「それに建物は直っても、あの時、玲緒が点けた皆の心の火が消えるわけでもあるまいよ」
風紀委員・後輩「はい!」
〇魔法陣のある研究室
前風紀委員長「おっ、来ましたな」
前風紀委員長「転生ラボにようこそ!」
白「ここが、皆が異界へと出立する場所か」
白「ついに一年越しの念願を叶えるときが来たのだな」
前風紀委員長「いやー、そんな改まれるとプレッシャー感じちゃうんだけどな」
白「すまんな。我も、この日を待ちわびていた故、気持ちが抑えられぬのだ」
白「あの戦いから一年・・・」
白「ようやく玲緒達を探しに行けるのだ」
〇宇宙空間
──一年前、魔王と仮面との戦いのあと
その場にいた全ての人は、仮面の男が施した転生術によって、新たな肉体へと転生した
しかし、玲緒達3名と魔王の亡骸は、この世界からなくなっていた
〇魔法陣のある研究室
白「転生術が失敗したわけではない。ここではない異界へと飛ばされたのだ」
白「だから、この学園の異界探索装置だけが頼りだったのだ」
前風紀委員長「暴動のせいで壊れちゃって、修理に時間かかったけどね」
前風紀委員長「ちょっと時間は掛かったけどさ、これで迷子の玲緒ちゃんを探しに行けるよ」
白「あぁ!」
勇者「よっしゃ! じゃあ、早速行こうぜ! どのボタン押せばいいんだ? これか? これか?」
前放送委員長「あ、勝手にいじらないで!」
前放送委員長「何したの!?」
勇者「ま、まだ何も押してねぇよ!」
作業員「私達の転生装置に共鳴する巨大なパルス反応あり! こちらに吸い寄せられるように近づいてきます!」
白「お主たちの異界転生技術は、魔王の破片から作られておったな」
前風紀委員長「そうだけど、でも、魔王は玲緒ちゃんがたおしたはずでしょ!」
白「魔族の残党か? 近しい存在か? ともかく、迎え撃つぞ!」
風紀委員・後輩「はい!」
〇文化祭をしている学校
どうでもいい風紀委員「落ち着いて、避難を!」
風紀委員・後輩「避難状況は?!」
どうでもいい風紀委員「粗方、校内に避難完了した」
風紀委員・後輩「では、逃げ遅れた人がいないか確認しつつ、あなた達も避難して」
どうでもいい風紀委員「了解!」
白「くるぞ!」
白「あれは!」
〇飛空戦艦
「まさか魔王?!」
〇文化祭をしている学校
勇者「倒したんじゃなかったのか!」
白「転生術は元々、魔王の力だ。あの時、力を奪って自らの転生に使っていたのやも知れぬ」
勇者「くっそ! 探してるのは魔王じゃないんだよ!」
白「構えよ! 魔王から、何か来る!」
「白ちゃん!」
白「その声、まさか!」
玲緒「お久しぶりです!」
玲緒「風紀委員長改め、勇者・玲緒! 故郷に凱旋です!」
白「玲緒・・・?」
風紀委員・後輩「先輩・・・?」
白「本当に玲緒・・・なのだな」
勇者「お前、今までどこ行ってたんだよ!」
玲緒「いやぁ、なんか玲緒達だけ、白ちゃんの故郷に転生させられたみたいで」
玲緒「どうにか元の世界に戻ろうと、魔王の残骸を修理して、異界航行してたんですよ」
玲緒「でも、次元座標? というのが、わからなくて、色んな異世界を渡り歩く迷子になってました」
勇者「しょうもねぇ理由だな」
勇者「げふっ!」
晴「しょうもない理由で悪かったわね」
玲緒「晴、いくら笑われたからって、知らない人をいきなり攻撃するのはどうかと思いますよ?」
晴「あれ、骨君でしょ」
玲緒「そうなの?!」
白「晴も一緒だったか」
晴「当然でしょ」
玲緒「もちろん、ぬりかべも! 他にも色んな異世界で出会った友達も一緒に旅してるんですよ」
晴「感動の再開もいいけど、先にやることあるでしょ」
玲緒「そうでした!」
玲緒「実は今、異世界で遭遇した魔王と交戦中なんです」
白「我らの世界以外にも、まだ魔王がいたか」
玲緒「仲間たちと戦っていましたが、そいつが、この世界に引き寄せられているみたいで」
玲緒「白ちゃん、また一緒に戦ってくれますか?」
白「無論だ!」
勇者「当然、俺達もやるぜ!」
玲緒「みんな・・・」
玲緒「ありがとう、とっても心強いです!」
玲緒「では、私達の船へ!」
〇宇宙戦艦の甲板
白(かつて異界の英雄は『愛と勇気だけが友である』と言ったと聞く)
白(誰に理解されずとも、人の為に戦うという意味だと思っていたが)
玲緒「白ちゃん、どうかしましたか?」
白「いや、少し考え事をな」
白(今なら、その真意が分かった気がするよ)
〇飛空戦艦
「さあ、みんなの世界を守る為、いきましょう! どこまでも!」