バタフライ-0.6%-

ラム25

眠れるサナギ(脚本)

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〇綺麗なリビング
羽子(いつからだろう、私、黒川羽子が引きこもりになったのは)
羽子(大学デビューに失敗した時・・・ いや、高校もろくに通っていなかった時が始まりかな)
  羽子は心配する両親により、心療内科にまで連れて行かれた。
  そこで検査を受けた結果こう言われたのだ。

〇病院の診察室
医者「あなたは自閉症スペクトラムです」
羽子「なんですか、それ?」
医者「この病気はマイルールを作ったり、こだわりの強さや共感性の低さが特徴です」
羽子「なるほど、それで私は・・・ 薬を飲めば治るんですか?」
医者「いえ、治療法はありません」
羽子(あ、詰んだな)
医者「ですが羽子さんは集中力が非常に高く、また、こだわりの強さは〜」
  医者のフォローなど頭に入らない。
  治らないと聞いた時点で羽子は自分の人生に希望など無いと思った。

〇綺麗なリビング
  羽子は特定のことにしか関心がない。
  アイドルやゲーム、世間一般が興味を持つことに無関心で、強いて言えば音楽の歌詞にこだわりがあった。
  羽子は他にも4という数字にこだわり、4の倍数の20時に寝て4時に起きるなどの生活をしている。
羽子(このこだわりの強さが自閉症スペクトラムの診断の決め手らしいけど どこがこだわってるのかしら)
  羽子は大学もいつの間にか退学させられ、無職となっている。
羽子(私は言ってしまえば芋虫。 蝶になることもなく惨めに死ぬ運命)
  自分は生きる価値のないゴミ。
  羽子はそう強く思っていた。
羽子(楽な自殺法ないかな・・・ 飛び降りがいいかな)
  ふと作業用に流していた音楽が耳に入る。
  〜♪君に出会って僕は変わった
  地に足つかず
  ふわふわ舞う様はバタフライ
羽子「何この曲? 歌詞が拙いわね」
  羽子はその曲の評判を調べると、流行っている曲らしかった。
羽子(でもなんで歌詞が心がふわふわと舞い上がっている様を表現していると解釈されているのがしら?)
  歌詞の続きを見るとますます腑に落ちなくなる。
  〜♪地面に帰らない僕は
  どこまでもどこまでも高く飛ぶんだ
羽子(この箇所は天に舞い上がるほどの気分を表現しているとされている)
羽子(しかし地面への執着・・・ 空に飛ぶしかない蝶の嘆き、つまりその女性に縛られている苦しみを表現しているのでは?)
  歌詞へのこだわりの強さ故に気付いた点だ。
  それをSNSに投稿する。
  そのSNSで行った指摘は無視され、見た殆どの人は歪な解釈だと認識した。
  しかしこんなコメントがあった。
「あなたは豊かな感性の持ち主ですね。小説家に向いていると思います」
羽子(私が小説家・・・?)
羽子(私は小説なんて書いたこともないし滅多に読まない。 しかしこの言葉はどうにも引っかかる)
羽子(とりあえずウェブで適当に小説読んでみましょうか)
  小説なんて退屈な物・・・
  そんな偏見を抱いていたがそれはあっさり覆った。
  文章を読むと、その光景が鮮明に浮かび、感動を抱いたのだ。
羽子(そうか、私は歌詞ではなく文章にこだわりがあったのね)
  羽子は1日1000P本を読むというマイルールを作り、それに従った。
  朝から晩まで本を貪るように読む。
  そんな生活が3年続き、ある時思った。
羽子(理想の小説はないのかしら)
羽子(いや、ないのなら作ればいいのでは?)
羽子(しかし書いたことのない素人にはその壁はあまりに高く、分厚く思えるわ)
  〜♪ ふわふわと舞う様はバタフライ
羽子(この曲、あの時の・・・ そうね、蝶を題材に書きましょうか)
  そして羽子は短編小説を書き、小説投稿サイトに投稿した。
  内容はこうだ。
  主人公は声にコンプレックスのある少女で、人との交流も避けていた。
  しかし少女は実は素晴らしい美声の持ち主で、芋虫から蝶になるように羽ばたいていく、というもの。
  それは瞬く間に広まった。
  毎日1000P読むというマイルール、また文字への強いこだわりから生まれた、独創的な比喩を交えた文芸的文章。
  それからしばらくネットで小説を書いていると、メールが届いた。
  出版社からのものだった。
  内容は専属の小説家にならないか、という物だった。
羽子(わ、私が本当に小説家に・・・!?)
  断る理由などあろうはずもなく、受け入れる。

〇異世界のオフィス
  小説家になって、羽子の文章は磨きがかかるばかりだった。
  そして名声も広まる一方。
  羽子の文章は芸術とまで評価された。
アシスタント「黒川さん、よろしければ展示会を開いてはみませんか?」
羽子「でも、私そういうの苦手で・・・」
アシスタント「お願いします! 読者も黒川さんに興味津々なんです!」
羽子「・・・わかりました」

〇展示場
  そして開かれた展示会。
  規模はそれほどではないはずだが、人、つまりファンが溢れかえっていた。
羽子(こんなに私のファンが・・・!)
  羽子は感極まって涙ぐむも、それを拭い、決意を持って語る。
羽子「私は自閉症スペクトラムです」
羽子「私は死のうとばかり考えていました」
  突然のカミングアウトに場は一瞬ざわめく。
羽子「でも、自分を惨めな芋虫だと思っても本当はサナギなんです。 誰でも蝶になるチャンスはあります」
  そして羽子は拍手を浴びた。
羽子「成功して良かった・・・ ありがとう、私を受け入れてくれて」
  拍手を浴びつつ、羽子は喜びを隠せずに再び涙を流した。
  それにより一層拍手は強まった。

〇大樹の下
  0.6%。
  芋虫が蝶になれる確率だ。
  黒川羽子はこのうち無事蝶になることが出来た。
  彼女が蝶になれたのは、運が良かったから、才能があったから、それだけかもしれない。
  しかし人は誰しもサナギのように、蝶になる瞬間を今かと望み、その可能性を秘めて眠っている。

コメント

  • 最後のスピーチが胸を打ちますね!!誰でも蝶になれる可能性はある。でもそれはわずか0.6%という厳しい現実。
    夢と現実を描いて、素敵な作品でした。
    これからもタップノベルを盛り上げてください!
    いつか私のも読んで欲しいです(^O^)

  • とてもすてきな内容でした。こうとかああとか、批評するより、素直に作品が強く胸に刺さったとお伝した方がいいかな??1位おめでとうございます㊗️感動しました☺️

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