第8話「焼殺」 (脚本)
〇黒背景
黛ましろ(私だけじゃなかった・・・)
黛ましろ(私だけが・・・静の頼れる『唯一』の スケープゴートじゃなかった・・・)
黛ましろ(私の前に・・・私よりも先に静に選ばれたスケープゴートがいたんだ・・・)
一度ひび割れたガラスは二度と戻らない。
自分だけが静に選ばれたというましろの
自信と誇りは全て粉々に打ち砕かれたの
だった。
〇街中の階段
綾瀬静(ましろの様子が・・・おかしい?)
綾瀬静(もしかして、前のスケープゴートの話に ショックを受けているのか? しかし・・・)
〇黒背景
黛ましろ「私が大好きで大切なのは、 『今』の静なんだなって」
〇街中の階段
綾瀬静(過去は興味が無いものとばかり 思っていたんだが・・・)
その時、小雨降る雲の合間に
夕暮れの真っ赤な太陽が少し見えた。
綾瀬静「まずいっ! ましろっ、どこかの陰に隠れろっ!」
吉野みくる「チャーンスっ! 太陽召喚!(サモン・サン)」
みくるの詠唱にましろの身体が赤く光る。
しかしましろはぼんやりと
立ちすくんだままだ。
綾瀬静「逃げろ、ましろーッ!」
黛ましろ(静・・・?)
吉野みくる「太陽発動っ!(オープン・サン)」
黛ましろ「きゃあああああーっ!」
突如現れた高温の炎は轟音を立てましろの体を包み、灰になるまで焼き尽くす。
――はずだったが。
吉野みくる「あれ? なんで鎮火してんの?」
地面に倒れ込んだましろは全身が煤け、
衣服も燃えて焼けただれていた。
しかし、
気を失っているものの息があるようだ。
綾瀬静「――二度も同じ手が通用するかっての」
静の手には節制のカードが握られていた。
節制のカードは水の罠カードで
相手の体を水で覆い溺死させる。
静はそれを逆手に取り、とっさに節制の
カードを呼び出して、ましろの体を水で
覆ったのだ。
黛ましろ「・・・う・・・うう・・・」
綾瀬静「ましろ、大丈夫か?!」
静は倒れたましろの元に駆け寄り、
抱き起こすがましろの反応は無い。
ただ苦しそうにうめき声を上げるだけだ。
吉野みくる「・・・って、マジ?」
みくるは空を見上げ舌打ちをする。
平山栞「太陽が・・・また雲に隠れたわ」
吉野みくる「ごめん、しおりん! もっと早くキメるべきだった!」
吉野みくる「でも、チェンソーで トドメさせるっしょっ!」
吉野みくる「・・・って、ええ?」
みくるの進路を遮るように
無数の杭が地面に突き刺さる。
仁王立ちしているレイナがいる。
レイナ「――まったく、なんなの? この茶番劇は? 最悪なんだけど」
レイナ「あたしたちは選ばれた人間なのよ? もっと気高いバトルをすべきよ」
レイナ「なのにねちねち精神攻撃の末に だまし討ちとか・・・」
レイナ「感じ悪いったらありゃしないっ! 正々堂々と戦いなさいよ!」
吉野みくる「はぁ? あんた何言ってんの? これは単なる殺し合いっしょ?」
平山栞「そうよ。 お互いカード持ってる時点で人殺しなのよ」
平山栞「ううん、あなたは私たち以上よね・・・ 正義の狂人さん」
レイナ「ふん、勝手に言ってなさい。 あたしはあたしの正義に乗っ取ってるのよ」
レイナ「ま、男に 棄てられた位で自暴自棄になって死んじゃったおばさんと、高校デビューの陰キャにはわからないだろうけど」
平山栞「あなたに・・・」
平山栞「私の辛さの何がわかるって言うのよっ!」
吉野みくる「・・・黙れよ、この厨二病女っ!」
レイナの言葉は2人の弱みを
的確に突いたようだ。
みくると栞は憎悪をむき出しにしてレイナに襲い掛かり、レイナは笑いながらまた杭の雨を無数に降らす。
来栖兼光「・・・あーあ、女3人集まるとかしまし いっていうけど、こうなると見苦しいわね・・・」
兼光がため息をつきながら
こっそり静の元に駆け寄った。
来栖兼光「アンタ達、今のうちに逃げなさい。 少なくとも回復の時間は稼げるでしょ?」
綾瀬静「兼光・・・」
来栖兼光「お礼なんて結構よ。 逆にあの2人を倒す口実が出来たんだし」
来栖兼光「アタシ達がカードを手に入れても 恨みっこナシだから」
綾瀬静「ああ・・・すまないな」
静は軽く頭を下げると戦車のカードを発動させ、気を失ったままのましろを背負い、バイクを走らせた。
〇荒廃した教会
綾瀬静(とりあえず、 ここで回復まで待機するか・・・)
綾瀬静(しかし、 こんなにも傷の回復が遅いとは・・・)
???「――ずいぶんこんがり美味しそうに 焼けちゃってぇ~」
綾瀬静「!」
セルベール「でも残念、 虫の息だけどまだ死んでないわう~」
綾瀬静「セルベールか。・・・なあ、 ましろの回復が遅いんだが・・・」
綾瀬静「スケープゴートは不死身のはずだよな?」
セルベール「回復が遅いのはマシロとシズカの 心の繋がりが弱まってるからわぅ」
綾瀬静「心の繋がりが弱まってる?」
セルベール「ストレイシープとスケープゴートの契約は 繋がりが不可欠だわぅ」
セルベール「その繋がりは愛情や信頼、憎しみ・・・ なんでも良いから強靭なものが必要だわう」
セルベール「しかしマシロの繋がりは今、 迷子の状態だわう」
セルベール「だから契約の恩恵に授かれないんだわぅ」
セルベール「ま、ミーとしてはこのままマシロが 死んでもかまわないけどねっ!」
セルベール「ナマも好きけどヤキも好きなんだわぅ~」
黛ましろ「・・・しずか」
綾瀬静「ましろ・・・気が付いたか」
黛ましろ「静・・・教えて―― 私の前に契約していた子のこと・・・」
黛ましろ「静の口から、ちゃんと教えて」
綾瀬静「・・・天音(あまね)は俺が最初に契約を結んだ、死神のタロットのスケープゴートだ」
綾瀬静「彼女はとても怯えていた。だから俺は彼女を守ると約束して契約した。そして──」
綾瀬静「・・・天音は生きながら焼かれて 殺されたんだ、みくるたちに」
天音は徐々に死の恐怖に捕らわれ、
必死に生へしがみつこうとした。
しかしそれは叶う事無く、逆に恐怖が
足かせになってしまい最後は絶望の中、
焼かれて死んでいったのだ。
綾瀬静「契約したストレイシープは不死身だ。 でもそれは身体があってこその話」
綾瀬静「太陽の業火のおかげで 天音は一片の骨すらも残らなかったよ」
黛ましろ「静、私そのカードを使いたくない。 ・・・ううん」
黛ましろ「静の持っているカードは全部、いや」
綾瀬静「・・・どうしたんだ、ましろ?」
初めて見る、自分の言葉を強く否定する
ましろの姿に静は動揺した。
綾瀬静(天音の末路と、瀕死の今・・・)
綾瀬静(さすがのましろも自分の運命を再認識しておじけづいたのか?)
綾瀬静「みくるたちが言った言葉を 気にしてるのか?」
綾瀬静「俺はお前を捨て駒だと思ったことは無いぞ」
黛ましろ「違うの・・・捨て駒でも良いの、 むしろそれでかまわない」
黛ましろ「だって、静の役に立てるから」
黛ましろ「――私よりもその子が 静の役に立つのが許せないの・・・」
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