異次元ミュージカル!   ~異世界のイケメンたちで2.5次元舞台を作ったら平日のマチネも残席わずか~

マスタード

第1場 開演のベル(脚本)

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〇劇場の舞台
  満員の劇場──
  
  響き渡る役者たちのセリフ──
  
  観客の歓声、そして拍手喝采──。
  舞台の裏側でそれを聞くのが、
  
  俺にとっての幸せだった。
  
  
  だが・・・

〇大劇場の舞台
  世界中でウイルスが蔓延したあの時から
  劇場は闇と静寂に包まれた──。
  誰もいない客席から
  
  ステージを眺めて
  
  俺は誓ったんだ。
  ──もし、状況が改善して
  
  また開演のベルを鳴らせる日が来たら
  世界一のショーを作ろう。って・・・

〇黒
  ──やがて時はたち
  状況は少しずつ良くなり、
  
  再び俺にも、
  
  舞台を作れるチャンスが来た・・・!
  それも「長剣団舞(チョウケンダンブ)」
  
  という2.5次元ミュージカルの
  
  超人気ビッグタイトルの再演だ。
  なのに・・・なんで・・・
  なんで・・・こんなことに!?

〇コンサート会場
坪内ショウ「『異次元ミュージカル!』」
小田島ユウコ「『異世界のイケメンたちで2.5次元舞台を作ったら平日のマチネも残席わずか』っ!」
リック「第一場、『開演のベル』っ!」
ブラント「作、マスタードっ!」
小田島ユウコ「開演しまぁーす!!」

〇事務所
  ──1週間前。
  この狭苦しいオフィスは俺の会社。
坪内ショウ「はい、坪内プロデュースです!」
  俺の仕事は主に、
  
  2.5次元舞台のプロデュースだ。
  予算を集めて、劇場をおさえて・・・
  
  細かい仕事を挙げるとキリがないが
  2.5次元舞台のプロデューサーにとって
  
  まず最初に重要な仕事──
  
  それは──!
坪内ショウ「キャスティングの件です!」
  そう。2.5次元舞台は
  
  原作のキャラクターのイメージを
  
  損ねないキャスティングが求められる。
  2次元の原作のキャラクターを
  
  3次元の役者が演じる2.5次元の世界は、
  
  絶妙なバランスで存在している。
  だから、キャラと役者が合ってない
  
  ミスキャストをすると、
  
  夢の世界は一気に崩壊してしまう。
  ヘタをすれば
  
  出演者発表の時点で
  
  炎上することだってある。
坪内ショウ「わかってます。ご心配なく!」
  チケットの売上にも影響するから、
  
  キャスティングは興行の命運を
  
  幕が開く前から左右する要素ってわけだ。
坪内ショウ「ええ。超満員にしてみせますよ!」

〇事務所
坪内ショウ「はい。では、失礼しますー」
坪内ショウ「っしゃああ!やったぜ!」
  大手の俳優事務所との
  
  電話を切ってから、
  
  俺は思わず小躍りした。
坪内ショウ「まさかあの人気役者の松上竹乃助を キャスティングできるなんて・・・!」
坪内ショウ「キャラにも合ってるし 動員も期待できる!」
坪内ショウ「この公演は・・・間違いなく! 大入りだぞっ🎵」
  いいキャストが決まった時は
  
  観客の歓声が聞こえてくるようで
  
  嬉しいもんだ。
  すると、
  
  アシスタントの小田切ユウコが、
  
  いつも通りドタバタと入ってきた。
小田島ユウコ「ショウさあん! たたた、大変ですうう!」
坪内ショウ「なんだよ。あいかわらず騒がしい奴だな!」
小田島ユウコ「だって、緊急事態なんですってば!!」
  大げさなやつだ。
  
  こいつが緊急とかいう時は
  
  たいてい大した問題じゃない。
  
  俺はユウコの言葉をさえぎって言った。
坪内ショウ「それより聞けよ! 「長剣団舞」の主演に、なんとあの! 松上竹乃助がキャスティングできたんだ! すげーだろ?」
  俺は驚かせるつもりでそう伝えたが
  
  ユウコは喜ぶどころか、
  
  悲しそうな顔で俺に言った。
小田島ユウコ「・・・坪内さん。残念ですが、 せっかく松上さんが主演しても、 準主演の二宮梅太郎さんが 降板しそうなんです・・・」
坪内ショウ「はあ?! 梅太郎が降りる?! なんでだよ?」
小田島ユウコ「実は・・・梅太郎さんがいま出演してる、 ウチとは別の芝居の殺陣のシーンで 大怪我をしたそうで・・・」
坪内ショウ「何いいいい!?」
  殺陣(たて)と言うのは、
  
  剣を使ったアクションのことだ。
  
  舞台で役者がライブでやる殺陣には
  
  当然、危険がともなう。
坪内ショウ「そ、それで!?」
小田島ユウコ「それで急遽、昨夜の公演は中止にして、 マネージャーさんが病院に送ったら、 全治6ヶ月だそうで・・・」
坪内ショウ「ウチの公演は4ヶ月後なのに!?」
小田島ユウコ「はい。で、マネージャーさんから 降板させてくれと 申し出がありまして・・・」
坪内ショウ「まずいな・・・準主役が降板なんて、 ファンもがっかりするし、 動員にも影響するぞ・・・」
小田島ユウコ「ただマネージャーさんからの提案で、 アクションシーンを無くしてもらえたら 出演できるかもって・・・」
坪内ショウ「「長剣乱舞」からアクションを無くす? 本気で言ってんのか?」
小田島ユウコ「ですよね・・・」
坪内ショウ「あきらめて他の役者をあたろう・・・ 三番手四郎はどうかな?」
小田島ユウコ「あの人はドラマの出演決まって大忙しです」
坪内ショウ「だったら五等六太だ! 芝居も上手いし、人気だってある!」
小田島ユウコ「知らないんですか? あの人、SNSで匂わせした彼女のせいで 大炎上して人気ガタ落ちしてますよ?」
坪内ショウ「動員のことなら大丈夫だってば! なにしろこっちには松上竹之助が・・・!」
坪内ショウ「ん?電話?」
小田島ユウコ「松上さんの事務所からですよ?」
  ──俺はなぜか、イヤな予感がして、
  
  おそるおそる受話器を取った。
坪内ショウ「はい。もしもし・・・ ええ。松上さんの出演については これから原作サイドに伝えるとこですが どうしました?」
坪内ショウ「え、ニュース?」
  するとテレビの電源を入れて
  
  ニュース番組をみたユウコが、
  
  冷や汗をかいて俺に言った・・・
小田島ユウコ「ショウさんっ! 見てくださいアレ!」
坪内ショウ「!?」
  俺はこわごわテレビの画面に
  
  視線を移した・・・
  
  すると・・・!

〇テレビスタジオ
アナウンサー「速報です」
アナウンサー「人気俳優として知られる松上竹乃助氏が、 違法な薬物を使用したとして 都内で現行犯逮捕されました」
アナウンサー「調べに対して松上容疑者は、 容疑を認めているとのことです」
アナウンサー「これを受けて所属事務所は、 松上容疑者の芸能活動を、 無期限停止と発表・・・」

〇事務所
坪内ショウ「うそだろ・・・そんな・・・」
  すると、どこかからの
  
  電話を受けていたユウコが叫んだ。
小田島ユウコ「ショウさああん! 大変ですうう!」
坪内ショウ「こんどは・・・なんだ?」
小田島ユウコ「スポンサーさんから 連絡があって・・・ 今回の舞台から手を引きたいと・・・」
坪内ショウ「あ・・・ああ・・・」
  俺は、立ちくらみがして、
  
  足元がふらついた。
小田島ユウコ「ちょ・・・!! ショウさん、大丈夫ですか!?」
坪内ショウ「い、いや・・・ 大丈夫じゃなさそうだ・・・」
  そう言うと、
  
  俺はそのまま床に
  
  倒れ込んだ。
小田島ユウコ「え!? ちょ・・・!!」
小田島ユウコ「ショウさん!? ショウさあああん!!」
  薄れていく意識の中で
  
  ユウコの叫び声を聞きながら
  
  おれは・・・気を失った。

〇黒
  ──それから何時間たっただろうか。
  どこからか、
  
  鐘が鳴る音が聞こえてきた。
  ああ・・・開演のベルが鳴っている。
  
  まだ、おぼろげな意識の中で、
  
  俺はそう思った。
  だが、それから俺は気付いた。
  
  ──俺は会社の床に倒れたはずだ。
  
  なぜ鐘の音が聞こえてくるのか・・・
  疑問を抱きながら、
  
  俺はまぶたを開けてみた。
  
  するとそこは──!!

〇巨大な城門
  ・・・え?
坪内ショウ「どこだ? ・・・ここ」
  俺が倒れていたのは、
  
  ファンタジー感溢れる巨大な城の
  
  城壁の前だった──。
坪内ショウ「どうなってんだ・・・? 俺は会社で倒れたはずじゃ・・・!?」
  すると背後で声がした。
  
  ──俺はとっさに物陰に隠れた。
  物陰に隠れて見ると、
  
  これまたファンタジー感溢れる
  
  姫みたいな少女と、堅物の執事みたいな
  
  初老の男が歩いてきた。
ゴネリル「あーあ。退屈うー。 なんかおもしろいことないの? オズワルドお」
オズワルド「は。午後は宮廷にて ゴネリル陛下のお好きな お芝居の上演を予定しておりますが」
ゴネリル「えー。それってどんなお芝居?」
オズワルド「我がストラディア王国の古い英雄譚を 宮廷の楽人たちが上演するそうで」
ゴネリル「・・・なにそれ、クソつまんなそう!」
オズワルド「陛下っ! いみじくも一国を統べる女王が、 クソなどと言ってはなりません!」
オズワルド「それに! 宮廷劇は、我が国の歴史を知る上でも 非常に重要な・・・」
ゴネリル「だーかーらー・・・ それがつまんないんだってば!」
ゴネリル「どうせなら、楽人も歌って踊って 剣の戦いとかもド派手にして、 楽しく見せてくれたらいいのに!」
オズワルド「そ、そのように野蛮な芝居は、 宮廷劇にふさわしくありません!」
ゴネリル「・・・フン。 マジメなエリートしかいない宮廷には、 そんな楽しい芝居を作れる人材が いないからでしょ?」
オズワルド「ドキッ! ・・・い、いえ。ただ必要がないから 作らないだけで・・・」
ゴネリル「女王の私が欲してるんだから必要でしょ!」
ゴネリル「あーあ! どっかに楽しい芝居作れる人間は いないかなあー!」
  ・・・2人が去ってから、
  
  俺は現状をようやく把握して、
  
  愕然とした・・・。
  どうやら俺は、
  
  ストレスで倒れた挙句・・・
  
  「転生」しちまったらしい!!
坪内ショウ「やべえ・・・芝居の原作ならまだしも マジでしちまうなんて!?」
坪内ショウ「一体どうやって帰ればいいんだ・・・?」
  するとその時・・・!
  
  俺の背後に兵士たちがきて叫んだ。
兵士01「貴様ッ! そこでなにをしている!?」
坪内ショウ「え・・・!? いや、俺はただその・・・」
兵士01「あやしいやつめ! こっちへ来い!」
  兵士に槍を突きつけられ、
  
  俺はやむなく物陰から出た。
兵士01「貴様、さては盗賊だな? 宮廷の宝を盗みに来たかっ!」
坪内ショウ「いや、じゃなくて、俺は・・・」
  どう答えればいいかわからず、
  
  俺が困っていると、
  ゴネリルとかいう、
  
  さっきの姫っぽい少女が戻ってきて
  
  物珍しそうに俺を見た。
ゴネリル「なーんかおもしろそうな人いた!」
オズワルド「陛下! 近寄ってはいけません! 何者かもわからぬやつに!」
ゴネリル「ねー! あなたは何者!?」
坪内ショウ「お、俺は・・・」
オズワルド「何者か正直に答えろ!」
坪内ショウ「俺は・・・!」
  迷ったが・・・俺は正直に答えた。
坪内ショウ「芝居を・・・作ってる人間ですっ!!」
ゴネリル「!!」
オズワルド「!!」

〇劇場の舞台
リック「さあ、カーテンコールだよっ!」
リック「第1話『開演のベル🔔』っ!」
リック「出演っ!」
リック「坪内ショウ!」
リック「小田島ユウコ!」
リック「ゴネリル女王陛下!」
リック「その副官、オズワルド!」
リック「アナウンサー!」
リック「兵士その1!」
リック「そして、松上竹之助!」
リック「次回もお楽しみにっ!」

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