クードクラース

イトウアユム

第2話「四つ裂き」(脚本)

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〇廃墟の倉庫
一輝「とにかく俺はお前を殺す!」
一輝「お前の”トゥルータロット”を 手に入れるためにな」
  一輝に「戦車」のカードで
  殺されそうになるましろ。
  しかしバイクは間一髪のところで
  バラバラに分解される。
  窮地を救ったのは、自殺しようとしていた
  ましろの前に現れた謎の男だった。
愛乃「戦車解除(キャンセル・チャリオット)」
黛ましろ(バイクの残骸が消えた?)
黛ましろ(あの女の人が持っているのは・・・ 戦車のタロットカード?)
一輝「さすが、 伝説のサイコドクター綾瀬静センセ」
一輝「登場の仕方が遅れてきたヒーローって 感じで良いねぇ」
綾瀬静「そういうお前の登場の仕方も、 最初にやれらるザコっぽくて良いと思うぜ」
黛ましろ(――アヤセシズカ。 それがこの人の名前なんだ)
一輝「はっ、アンタの患者みたいにその減らず口が叩けないようにしてやろっか?」
一輝「でもその前に・・・」
一輝「リスカちゃんのカードを 手に入れないとな!」
一輝「戦車召喚(サモン・チャリオット)!」
綾瀬静「危ないましろ!」
  バイクに装飾されたナイフの刃がかすり、静の左肩を引き裂く。
綾瀬静「ッく!」
  痛みで顔をしかめる静だったが躊躇する
  こと無く、ましろを抱き上げ走り出した。
黛ましろ「きゃっ!」
綾瀬静「しっかり掴まれ」
黛ましろ(・・・掴まれって、しがみついても、 良いのかな?)
黛ましろ(――あ・・・)
黛ましろ(私の首筋に触れた時の指は冷たかったのに ・・・体は温かい・・・)
一輝「あっははっ! 好きなだけ逃げまどえ、どうせこのビル からは逃げられないんだからよっ!」

〇荒れた倉庫
黛ましろ「・・・どうして、私を庇ったの?」
綾瀬静「――ましろは、生きてるのが苦しいから 自殺しようとしたんだろ?」
黛ましろ「・・・うん」
綾瀬静「だったら、更に苦しんで死ぬのは いやだろうって思ったんだ」
綾瀬静「おせっかいだったか?」
黛ましろ「・・・ううん」
綾瀬静「なら良かった。 殺されるのは痛いし苦しいからな」
綾瀬静「――俺は経験者だからわかるんだ」
黛ましろ「経験者?」
綾瀬静「そ、殺された経験者。どうせ死ぬなら 自分の好きに死にたいもんな」
黛ましろ「自殺は・・・止めないの?」
綾瀬静「それがましろの望む事なら止めはしないさ」
綾瀬静「愛せないって言うのも辛いが・・・ 愛されないってのも、結構辛いってな」
黛ましろ「!!」
黛ましろ(私を愛することが出来なかったお母さん。辛かったんだよね・・・)
黛ましろ(それこそ自分で死を選ぶくらい。 だけど──)
黛ましろ(お母さんも辛かったけど―― 私だって・・・辛かったんだ)
黛ましろ(この世でたったひとりの肉親にすら 愛されなくて、孤独で、みじめで・・・)
黛ましろ(それをこの人は・・・気付いてくれた)
綾瀬静「なあ、ましろ」
綾瀬静「――お前がまだ、もう少し生きても良い って思えるなら・・・」
綾瀬静「俺とこのゲームに参加してくれないか?」
黛ましろ「ゲームに、参加する?」
黛ましろ(それは・・・ 殺し合いに参加しろってことだよ、ね?)
黛ましろ(・・・うん、それでも良いや)
黛ましろ(だって、もともと死ぬつもりだったんだし それに──)
黛ましろ(この人は・・・クラスメイトや大人たちや スクールカウンセラーや・・・)
黛ましろ(お母さんとも違う)
黛ましろ(私を理解してくれる、私の望んでいるものを与えようとしてくれてる・・・)
黛ましろ(なら、私も)
黛ましろ「――あげる、全部」
黛ましろ「私のカードも、命も、全部。 あなたの・・・静の力になりたい」
黛ましろ「そのためには・・・どうすれば良いの?」
綾瀬静「――まず、俺と契約するんだ」
黛ましろ「けいやく?」
綾瀬静「ストレイシープは1人だけ、 スケープゴートと契約することが出来る」
黛ましろ「静はストレイプシープなの?」
綾瀬静「ああ、俺はストレイプシープ・・・」
綾瀬静「ゲーム”羊飼いのタロットゲーム”に 参加する悪魔と契約をした死霊だ」
綾瀬静「ストレイプシープと契約したスケープ ゴートは生きたままでもカードの力を 使う事が出来る」
綾瀬静「一輝がカードを使えたのは、 愛乃と契約しているからだ」
黛ましろ「あの一輝って人も・・・ 私と同じスケープゴートなの?」
綾瀬静「その通り。そして――契約は1度に 1人としか交わす事が出来ない」
綾瀬静「ま、死が2人を別つまでってヤツだ」
黛ましろ「・・・そんな大切な契約を・・・ 静は私と結んで良いの?」
綾瀬静「ああ、むしろましろだから 俺は契約をしたいんだ」
綾瀬静「どうした? なにか気に障るようなことを言ったか?」
黛ましろ「ううん、違うの・・・」
  『ましろだから契約したい』
  その言葉が嬉しくて緩んだ頬を
  見られるのが恥ずかしかったのだ。
黛ましろ「・・・ねえ、静」
黛ましろ「カードを使えるようになれば―― あのニ人を殺せるの?」
綾瀬静「え?」
綾瀬静「・・・殺せる、のか?」
  ためらいもなく、まるでテストの模範解答を確認するかのようにましろから紡がれた「殺す」という単語。
  その違和感に静は驚いた。
黛ましろ「うん? だってゲームに勝つには カードを集めないといけないんだよね?」
黛ましろ「だったら、 あの人達のカードが必要だよね」
黛ましろ「ちがう?」
綾瀬静「そうだが・・・平気なのか?」
黛ましろ「平気もなにも・・・静が望む事なら わたしはどんな事も出来るよ」
綾瀬静(――こいつ、”ゲーム”を理解して 順応するのが・・・早過ぎないか?)
綾瀬静「それは――心強いな」
  内心の動揺を隠しながら
  静はましろに微笑んだ。

〇荒れた倉庫
一輝「しかし・・・リスカちゃん、 案外イケてるよな」
一輝「あのエロい体にどんなタロットが 入っているか楽しみだな、へへっ」
愛乃「やめてよ一輝! あんなガキに鼻の下伸ばさないでよっ!」
一輝「うるせーなっ! また殴られてーのかよっ!」
愛乃「ご、ごめんなさい・・・でも」
愛乃「私の前でほかの女を誉めないでよぉ!」
愛乃「じゃないと、私、 私・・・怒りに任せて・・・」
愛乃「――契約破棄、 しちゃうかも知れないわよ?」
一輝「!! ・・・チッ、 はいはい、分かりましたっ!」
愛乃「良かった・・・ 私もごめんね、取り乱しちゃって」
綾瀬静「――痴話喧嘩はお終いで良いか?」
綾瀬静「そろそろ試合開始と行こうぜ、ヤンキー君」
一輝「おっと、こそこそ逃げてたねずみちゃん たちがやっとお出ましかぁ」
一輝「おおっ、お前ら契約したのか」
綾瀬静「・・・行くぞ、ましろ」
黛ましろ「うん」
綾瀬静「吊るされた男召喚 (サモン・ハングドマン)!」
  静の掛け声に反応するかのように
  ましろの胸元が仄暗く光る。
  すると1枚のカードが浮かび上がった。
  やがてカードは1束の紅い縄となり、
  ましろの手の中に納まった。
黛ましろ(私のカードは・・・ 『吊るされた男』なんだ)
黛ましろ(・・・これは、赤い縄?)
一輝「あはは! なんだそれ、縄?」
一輝「そんなの縛り首にされないように 近づかなければ良いだけだ」
一輝「戦車召喚(サモン・チャリオット)!」
  現れたバイクに一輝は飛び乗ると
  ましろへ一直線に突っ込んだ。
  ましろはバイクを交わすと
  フロア中をやみくもに走り縄を投げる。
一輝「はは、へたくそがっ! 縄は俺をすり抜けたぜ」
  縄は一輝を捕らえる事が出来ずに
  朽ちかけた梁に当たった瞬間に消えた。
一輝「おいおい、縄がかすりもしねえぞ! 早く 俺の首を締め上げて吊るして見せろよ!」
愛乃(攻撃と言っても縄を投げるだけ。このままだと一輝に捕まるのも時間の問題ね)
綾瀬静「ましろは適当に縄を投げていただけじゃ ないんだぜ、ヤンキー君」
黛ましろ「――吊るされた男発動 (オープン・ハングドマン)」
一輝「な、なんだこれ!?」
  いままでの縄の軌跡が部屋中に張り巡らせられた蜘蛛の巣のように現れたのだ。
綾瀬静「ましろは最初からお前を 狙ってなんてなかった」
綾瀬静「フロアの柱や梁やいたるところに 縄を『巻き付けて』いたんだ」
愛乃「なんですって・・・」
愛乃「戦車解除(キャンセル・チャリオット)!」
愛乃「一輝ッ、早くそこから逃げてっ!」
一輝「ナイス愛乃!」
一輝「バイクが消えれば縄の拘束が緩んで・・・」
一輝「って! ちょ、ちょっとなんだよ、これ!」
  フロアに張り巡らされた縄の大部分が
  消滅し、4本の縄だけが残った。
  それらは一輝の手足に蛇のように絡まり
  捕らえ、空中に吊り上げる。
愛乃「ちょ、ちょっと! 首以外に巻き付くのは反則じゃないの!」
綾瀬静「吊るされた男のカードをよく思い出せ」
綾瀬静「あれは絞首台だが、 吊るされているのは首じゃないぞ」
一輝「いてえっ! おい、やめろ!」
一輝「手足に縄が食い込んで・・・ 肩が、足がぁ!」
黛ましろ「・・・縄は絞首刑以外にも使われるんだよ」
黛ましろ「四つ裂きの刑って、知ってる?」
黛ましろ「罪人の手足をね、 4頭の馬の脚に結んで・・・」
黛ましろ「一斉に4方に引かせて、 ばらばらに引き千切るの」
一輝「お、おい・・・ウソだろ・・・ やめろ、やめろ・・・」
愛乃「一輝、一輝っ! ダメ、やめてよっ! いや、いやー!」
黛ましろ「――こんな風に」
一輝「ぎゃああああああああ!!」
愛乃「一輝ィィィッ!!」
  一輝の断末魔と愛乃の絶叫が
  廃ビルを壊さんばかりに揺るがし
  ――やがて消えた。

〇黒背景
黛ましろ(ああ、やっぱり綺麗だな)
黛ましろ(――この世界から解放される赤は、 とても綺麗)
  一輝の鮮血越しに静を見るましろ。
  目が合い、微笑む静に
  ましろは嬉しそうに笑み返した。
  ――静の本当の胸の内を知らず。
綾瀬静(なんなんだ、こいつは・・・ 初めて人を殺して・・・)
綾瀬静(こんな笑顔を浮かべられるのか?)
  目の前にいるのは躊躇いも無く残虐に
  人を殺せる少女の皮を被った化け物。
  しかし、ゲームの勝利には
  絶対欠かせない大切な駒だ。
綾瀬静(俺のせいで死んでしまった・・・ 愛しい人を生き返らせるためになら・・・)
綾瀬静(いくらでもこいつの望む静を演じてやるさ)
綾瀬静(優しくて、寛容で、 決して自分を否定しない・・・)
綾瀬静(ましろの理想の静ってヤツをな)
綾瀬静(――どうせいつかは スケープゴートは死する運命・・・)
綾瀬静(その日までとことん利用させて貰うぜ、 ましろ)

次のエピソード:第3話「首吊り」

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