クードクラース

イトウアユム

第1話「リストカット」(脚本)

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〇廃墟の倉庫
  小雨が降りしきる、朽ち果てたビル。
  灰色のひび割れたアスファルトの床の上に1人の少女が座り込んでいた。
  彼女の名前は《マユズミマシロ》
黛ましろ「・・・・・・」
  ましろは手にしたカッターの
  スライダーを押し出す。
  カッターから延びる銀色の刃。
  その刃をそっと手首に押し当てた。
黛ましろ「・・・きれい」
  手首にうっすらと滲む、赤い線。
  ましろはソレをうっとりと眺めた。

〇警察署の医務室
カウンセラー「黛さん、私と約束してくれないかな?」
カウンセラー「――死にたいと思っても、 絶対自殺なんてしないって」
黛ましろ「・・・・・・」
カウンセラー「あなたが死んでしまったら、 お母様はとても悲しむと思うわ」
カウンセラー「ベストセラー作家でありながら女手ひとつであなたを育て上げてくれた立派なお母様じゃない」
カウンセラー「そんな素敵なお母様を悲しませないで」
黛ましろ(――お母さん)
  ましろの脳裏に母の言葉がよみがえる。
  でもそれはカウンセラーの言うような
  立派で素敵な母親の言葉では無く――。

〇モヤモヤ
ましろの母「何故、あなたはこの世にいるの?」
ましろの母「あなたがいなければ・・・ 私はこんなに苦しむことがなかったのに」
黛ましろ(何故、私の存在を許してくれないの?)
ましろの母「ごめんなさい、どんなに頑張っても、 頑張っても、頑張っても・・・」
ましろの母「私はあなたを愛せないのよ」
  それは母の言葉とは思えない、
  まるで呪詛のような言葉の数々だった。

〇廃墟の倉庫
黛ましろ(・・・愛せないなら 私を殺せば良かったのに)
黛ましろ(・・・ずるい。自分だけ楽になろうとして――自殺するなんて)
黛ましろ(それなら・・・ 私だって楽になって良いよね?)
  ましろは自分の手首を見つめた。
黛ましろ(でも・・・血、思ったよりも出ない)
黛ましろ「これじゃ死ねないかも・・・ もう一回切ろうかな」
???「・・・もう一回切っても、 死ねないと思うけどな」
黛ましろ「え?」
黛ましろ(何この人・・・)
  顔を上げたましろの視線に飛び込んできたのは、1人の男の姿。
  整った顔立ちの長身で、髪も目も肌も色素が薄い廃ビルに似つかわしくない男。
  まるで別の世界から来た存在かのように
  異質だった。
???「死にたかったら、そうだな・・・」
???「もっと、手首を切り落とすくらいの 勢いで刃を強く押し当てないと」
黛ましろ「・・・手首を、切り落とすの?」
???「ああ。動脈を切れば血が止まらなくなって そのまま楽に死ねるかもって、思ったんだろ?」
???「だけど残念、そりゃ素人考えってヤツだ」
???「動脈ってのは切れると血管が縮んで 傷口を塞ごうとする」
???「人間は手首を切ったくらいじゃ なかなか死なないもんだぜ」
黛ましろ「・・・そうなんだ」
黛ましろ(・・・自分で死ぬのって、 案外難しいのかも)
???「――俺だったら・・・そうだな、 確実に死ねるココをバッサリ、斬る」
  男はましろの首筋にスッ、
  と指を這わせた。
黛ましろ(!!)
  皮膚の下の太い血管を確かめるかのような
  ゆっくりとした動きと指先の冷たさ。
  ましろはたじろいで
  思わず男の手を払った。
???「はは、ごめんごめん。 勝手に触れるのはNGだよな」
???「だけど――つれないな、 ましろは」
黛ましろ(えっ?・・・この人、 なんで私の名前を知ってるの?)
???「初対面だから、警戒するのも分かるんだが ・・・俺とましろはこれから一蓮托生」
???「死ぬまでずっと一緒の仲だってのに」
黛ましろ「死ぬまで、一緒?」
???「ああ、 俺にとってお前は必要な存在だからな」
???「でも、お前が本当に自殺したいというなら 俺はそれを応援するさ」
???「けれど・・・ それなら早く死なないと厄介な事になるぞ」
???「死ぬよりも苦しい思いを たくさんする事になる」
???「――なにせ、お前は厄介な連中から 命を狙われてるからな」
黛ましろ「私の命を・・・狙ってる? なぜ・・・私が狙われるの?」
???「何故って・・・お前は ”贖罪の山羊(スケープゴート)” だからだろ」
  ”贖罪の山羊(スケープゴート)”
黛ましろ(なんだろう・・・身体が、震えてる?)
???「ああ、だからまずは──」
黛ましろ「来ないでっ!」
???「お、おい! 待てっ、逃げるなって! もう少し話を──」

〇廃墟の倉庫
黛ましろ(・・・さっきは、 なんで体が震えたんだろう)
黛ましろ(怖かった? あの男の人が? それとも命を狙われてるから?)
黛ましろ(ううん・・・もっと違う・・・それに)
黛ましろ「”贖罪の山羊(スケープゴート)”って?  一体なんのことなんだろう?」
一輝「――おいおい、 マジで分からねえのかよ?」
一輝「セルベールの説明を ちゃんと聞いてたかぁ?」
愛乃「ふふ、ぼんやりしてそうな子だから 聞き逃したのかも」
黛ましろ「!?」
一輝「ハジメマシテ、リスカちゃん。 俺の名前は一輝、こっちは愛乃」
一輝「あ、 リスカちゃんは別に名乗んなくて良いぜ」
黛ましろ「・・・・・・」
一輝「俺たちはカードにしか興味が無いし」
一輝「リスカちゃん的には、殺される相手の 名前くらい知りたいだろうって思って」
黛ましろ(殺される相手・・・ この人は何を言ってるの?)
一輝「おー、わけがわからねえって顔してんなぁ」
一輝「なんでリスカちゃんが俺たちに殺されな きゃならないのか、優しい俺様が簡単に 説明してやるよ」
一輝「それは”トゥルータロット”って言う悪魔の作ったカードが、お前の魂に融合されてるからだ」
黛ましろ「悪魔の作った、トゥルータロット・・・?」
愛乃「そのカードに選ばれ、 その身に宿した哀れな人間は」
愛乃「”贖罪の山羊(スケープゴート)”と 呼ばれるの」
黛ましろ(スケープゴートって、 さっきの男の人も言ってた・・・)
黛ましろ(つまりは私の体にカードが 宿ってるって事なの・・・?)
愛乃「私たちはそのカードを集めているのよ。 とある”ゲーム”に勝利するためにね」
黛ましろ「ゲームってなんのこと? さっきから何を 言ってるのか本当にわからない・・・」
一輝「細けぇことはいいんだよ。 とにかく俺はお前を殺す!」
一輝「お前の”トゥルータロット”を 手に入れるためにな」
黛ましろ(私を・・・殺す?!)
一輝「戦車召喚(サモン・チャリオット)!」
  一輝が叫んだ途端、
  凶悪な改造バイクが空から降ってきた。
黛ましろ(えっ!? なに、これっ!?)
一輝「どうよ、俺のバイクは? カッコ良すぎて声もでねーだろ?」
一輝「トゥルータロットはカードの効果を イメージした処刑道具や拷問道具を 召喚出来るんだよ」
一輝「俺のカードは『戦車』。知ってるか? 自動車やバイクは使い方によっては 殺人道具にも成り得るんだぜ?」
一輝「このバイクは俺のイメージした 最強の改造バイクだ」
一輝「ひき殺して、はね殺して、引きずり殺す」
一輝「ダイジョーブ、即死なんてさせねえよ」
一輝「その可愛いお顔がミンチ肉になるまで ・・・ゆっくりじっくり、遊んでやる」
黛ましろ(この人は・・・本気で私を殺そうとしてる ・・・そして、それを楽しんでる)
黛ましろ(この人、おかしいよ・・・ ここから逃げなきゃ)
  しかし逃げる間も無く、甲車のようなバイクが爆音を上げてましろに飛び掛かった。
黛ましろ(!?)
  ゆっくりとスロモーションの様に、
  バイクのタイヤがましろに迫る。
黛ましろ(――お終いだ)
黛ましろ(こんな風に意味も分からずに 殺されるなら──)
黛ましろ(さっきの人の話、もう少し聞いておけば 良かった・・・かな)
黛ましろ(不思議で怖そうな・・・ でも話すと少し、優しそうな人)
???「死神召喚(サモン・デス)!」
  複数のバイクのパーツが床に叩き付けられ
  けたたましい不協音が、廃ビルのフロアに
  木霊する。
???「――間一髪ってとこだな」
  大きな身の丈ほどの鎌を持って
  ましろの前に立つ男。
  その人物は先ほどの男だった。

〇魔法陣2
  この世の全てに絶望し
  呪いながら死んでいった哀れな人間。
  彼らは天国に阻まれ、
  永久に地獄を彷徨う死霊となる。
  そんな死霊達に
  とある悪魔が慈悲を与えた。
  悪魔に魂を捧げる契約の報酬として、
  ”羊飼いのタロットゲーム”に
  参加する権利と
  肉体を与えるという慈悲を。
  死霊たちが狙う獲物は
  ”トゥルータロット”を
  魂に埋め込まれた
  罪なき哀れな人間
  ”贖罪の山羊(ストレイシープ)”
  さあ迷える仔羊達よ
  哀れな山羊を襲い、タロットを手に取り、
  存分に殺し合いなさい
  ”慈悲の一手(クードクラース)”を
  相手に与えるのです

次のエピソード:第2話「四つ裂き」

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