エピソード20『3種の神器』(脚本)
〇荒廃した街
【2034年、イバラキ。『ヒト腹 創』】
それから、・・・『緋色』は独りになった。
理由は単純。彼は『ペスト』だからだ。
だから誰も近づかなかった。ボクが近づかせなかった。
ある日の事だ。
『緋色』は西の手勢が送りつけたキメラから女性を助けた。そこに駆け寄る少女が居る。きっと娘なんだろう。
由香「黒いお手手のお兄ちゃん、由香の、由香のお母さんを助けてくれて本当に、本当にありが」
ツクル「そいつに触れるな!」
ボクはその少女を押し飛ばした。
恐れるようにボクを見るその子へ、やんわりと笑いかける。
ツクル「ごめんな。このお兄ちゃん『病気』なんだよ」
後ろに居た『緋色』は、申し訳なさそうに笑っていた。本当に申し訳なさそうに、少女へその黒い右手を振っている。
緋色「た、タタミ、」
自身を『由香』と呼んだ少女を、『タタミ』が平手打ちした。そのいつも眠そうな瞳に、大粒の涙を湛えて。
みれい「『タタミ』、『緋色』にはもう」
タタミ「みんな邪魔! 五月蠅いよッ! 『ペスト』が怖くて恋が出来るかッ! この好きな感情を止められるかぁあ!」
『タタミ』はただ独り、『緋色』を守るように彼のその黒い腕を抱きしめた。
〇村の眺望
その後『タタミ』は『緋色』と皆の間に入ることで様々な障害を取り除こうとした。
タタミ「並んで~。先生とお話ししたい人は、わたしを通してからにしてね~。あ、1回10円だよ~♪」
ツクル「・・・負けたな。こりゃ」
みれい「そうだね。 私じゃ、私じゃ『タタミ』に勝てない。私、『タタミ』になら負けてもいいよ」
ツクル「だな」
〇田園風景
ボクは農場校舎の庭へ皆を集めた。
皆、緊張した面持ちでボクの前に立っていた。
ツクル「チーム『化けクリ』のリーダーとして、ボクから命令だ」
ツクル「『泉緋色』、副リーダーの彼と一緒に居たら遅かれ早かれ皆発症する」
ツクル「けれど『緋色』はボクたちの要だ。だから、『ペスト』感染が怖いものはうちから抜けてくれ。退職金なら望む額を払おう」
人間、そしてキメラの皆が張りつめた空気を解いた。
ボクの話を無視して、皆が『緋色』と『タタミ』の元へ奔っていく。
〇村の眺望
タタミ「!!」
楽々「まずは『楽々ちゃん』が1番ね! 『タタミ』! 私も仲間に入れてよ! 一緒に居させて! 『楽々ちゃん』一生ついていくから!」
タタミ「『楽々さん』や、退職金は『望む額』だよ? ほんとにいいのん?」
楽々「まぁ、未練無いとは言わないけどさ」
楽々「あたしたち、・・・家族じゃん」
楽々「みんな、みんな、・・・家族じゃん」
〇立派な洋館
【2034年、モンガル。『フォーチュン・ファーザー』】
パープル・マム「『フォーチュン・ファーザー』、アナタに命令があります」
歯車フォーチュン「仮にも『父』の名を冠する私に命令かい? まぁいい。なんだい? 『パープル・マム』」
先日夜の相手を断った小娘が、『モンガル大帝国』の首都に在る私の屋敷へやってきた。
パープル・マム「『ホーム』における重要任務です。聞き入れてくださいますか?」
『重要』という言葉に至極納得。蚕をはみながら顎を頷かせてやる。美しい女が頭を下げるのはとても心地よい。
歯車フォーチュン「言ってみたまえ」
パープル・マム「『フォーチュン・ファーザー』。 『ホーム』のトイレが詰まってしまいました。命令です。ホームの便所掃除主任を兼任なさい」
歯車フォーチュン「・・・・・・へ?」
〇古民家の蔵
【2034年、イバラキ。『ヒト腹 創』】
ボクは『黒い宝』に続き『赤い宝』と『青い宝』にも手をかけた。
『みれい』に頼み、赤い宝と青い宝にも電子パルスを撃ち込んでもらう。
2つの輝石は『ブロウ』と同様に、『みれい』の与える知識を際限なく取り込んだ。
赤い宝は『一振りの剣』と共に錬成し
『フリーシー』と名を付けた。柔らかい感性で頭の固い奴とも付き合えるよう教育する。
青い宝は『剣を矢として扱う長弓』として錬成した。
名前は『ファジー』。柔軟な対応が出来る神器として、その生成を目指した。
全ての錬成は、金内さんの工房スタッフによって行われた。
工房の皆は、あの『市原 剛』を恩人と呼んだ。「彼の為なら!」と際限なくそのチカラをボクたちへ貸してくれた。
工房の皆が自慢の腕で鋼を打ち、より強固で優秀な武具に仕上げてくれる。
作り上げた神器の核、赤い犬を模した耳飾り『フリーシー』とチカラ持つ剣はボクが使うことにした。
ツクル「『フリーシー』、ボクの言いたい事は解るね。『歯車フォーチュン』を殺す。それが最優先事項だ」
(【Yes.my master!】)
青い猫を模した耳飾り『ファジー』と、対になる長弓・剣は『みれい』に任せた。
みれい「『ファジー』、至らない所も多いと思う。けど私に付き合ってくれるかな? 一緒に親友の仇を討ってほしいの!」
(【任せて『みれい』。私がアナタのチカラと成る。どんな敵でも2人一緒なら大丈夫!】)
そこに『緋色』と『タタミ』のつがいがやってきた。何に付けても『タタミ』は『緋色』の傍を離れない。
緋色「『奈久留』、俺にチカラを貸してくれ。俺がお前の、『祈姉ちゃん』の仇を取ってみせるから」
(【うん、なら行こうよ『緋色』。『歯車フォーチュン』の根城。西の大国『モンガル』の首都『ホビロン』へ!】)
〇空
ボクたちは夕日を前に並び立つ。
そう遠くない決戦に向けて、海の先に在る世界を強く見据えた。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭