異界決起 ~魔王への階段のぼる、君はまだ勇者さ~(脚本)
〇更衣室
玲緒(血が止まらない)
玲緒(傷口の壊死・・・だよね、これ)
玲緒は授業で習った知識と、仮面に付けられた傷を照らしあわせ、その変色した傷口が何かを悟った
仮面の剣には、死という概念が纏わりついていた。触れれば、どんなエネルギーでも停止させ、斬れば治らぬ傷と変えてしまう
玲緒(参ったなぁ)
聖剣「勇者よ、震えているのですか?」
玲緒「それはまあ、はい」
玲緒「こんな状態で、魔王を倒せるか不安です」
玲緒「無事に帰ってこれないんじゃないかと思うと怖いです」
玲緒「晴やぬりかべがいなくなるんじゃないかと思うと震えが止まらないんです」
玲緒「って、誰?」
聖剣「失礼しました。私は、あなた方が聖剣と呼称するもの」
玲緒「あー、あなた喋るんですね」
聖剣「話せても、私の声を聞けた勇者は、ほとんどいませんでした」
聖剣「故に、歴代の勇者の恐怖を身近で見てきながら、その心に寄り添えたことは数えるほど」
玲緒「やっぱり、みんな怖かったんですね」
聖剣「えぇ。ある勇者は言葉で、恐怖を振り切るのだと教えてくれました」
聖剣「『どんな結末になろうとも、自らの責任で結末を受け入れる覚悟があるなら」
聖剣「自らの意志で、やるべきことを選べ』」
聖剣「彼女はこの言葉で、自らの不安を打ち砕き、魔王へと挑みました」
聖剣「いかがでしょうか?」
玲緒「よし!」
玲緒「じゃーん!」
玲緒「動きやすいように制服に切れ込み入れちゃいました。風紀委員長なのに、制服改造なんて怒られますね」
玲緒「それでも、これが玲緒の選択です」
聖剣「帰らぬ覚悟ですか?」
玲緒「いいえ。ただ全力を尽くす以外、他を考えない覚悟です」
玲緒「行きましょう!」
聖剣「私は勇者の覚悟と共に」
〇中庭のステージ
仮面「聖剣が動いたか」
仮面「どこまでも足掻くか。お前らしいな」
仮面「なら、それを潰される覚悟もあるのだろう?」
〇宇宙空間
〇文化祭をしている学校
副風紀委員長「み、みなさん! おと、おつ、落ち着いて、体育館へ避難を!」
ありきたりな不良「はははっ! 逃げろ、逃げろ! こいつは誰にも渡さねぇ!」
???「あぁ、そうだ。我は汝のものだ」
ありきたりな不良「え?」
副風紀委員長「え?」
魔具那を手に暴れていた不良が、動きを止めたかと思えば、いきなり全身から血を噴出した
誰が攻撃したわけでもない。傍から見れば、何の脈絡もない不可思議な出来事
ありきたりな不良「え? な、なんで?」
???「そして、汝も我のものだ」
けれど、それは内から見れば当然の帰結だった
ありきたりな不良「があぁぁあぁ! や、やめ──」
魔族「あ、あぁ・・・」
副風紀委員長「えぇー!? 人間が怪物になった?!」
〇学校の廊下
どこにでもいる不良「だ、誰だ、てめぇ!」
どこにでもいる不良「相棒はどうした?!」
魔族「ここにいる」
魔族「じゃあ、相棒」
〇体育館の裏
ぬりかべ「なんで動きにくい制服なんだ?」
晴「防御力で言えば、圧倒的にこっちが上なのよ。一撃即死を、二撃即死にするくらいにはなるでしょう」
ぬりかべ「どっちにしても死ぬじゃねぇか」
玲緒「玲緒は、動きやすいように邪魔な部分を斬っておきました」
晴「それ、防御あげた意味なくなるから」
玲緒「いや、玲緒的には当たらなければどうということはないといいますか」
ぬりかべ「なら、ジャージで良いだろ」
玲緒「あー、えーと・・・」
玲緒「着替えてきます・・・」
玲緒「おっとぉ」
玲緒「後輩ちゃん?」
玲緒「酷い怪我!」
風紀委員・後輩「先輩! 早く・・・早くここから離れて!」
玲緒(暴動の気配が変わった?)
白(このむせるような悪意。狂気が空気を浸食してゆく、息の詰まる感覚)
白(まずい。これは!)
白「急げ、玲緒! ここは我らに任せて──」
よくいる不良「逃がすかよ」
よくいる不良「まずは2匹!」
よくいる不良「くっ!」
玲緒「凶器使いが3人も?!」
晴「聖剣が起動した気配で、場所がバレたのね」
ぬりかべ「どうする?」
晴「気付いたのがこいつらだけなら、逃すわけにはいかない」
玲緒「なら速攻で倒します!」
よくいる不良「ぐはぁっ!」
性格悪そうなモブ「つ、強ぇ!」
どうでもいいモブ「こんなの勝てるかよ! 俺は降りるぜ」
よくいる不良「おい、待て、逃げる気か!」
???「いいや、まだこれからだ」
どうでもいいモブ「え?」
玲緒「え?」
暴徒の体が大きく膨れたかと思えば、たちまちのうちに鮮血をまき散らして、魔獣へと姿を変える
凶器は、握っていた手ごと、地面へ落ちて沈黙する
骨「魔獣になった?!」
よくいる不良「な、何が起きて──」
???「我の全て、くれてやる」
よくいる不良「え? 誰?」
???「だから、貴様の全てをよこせ」
よくいる不良「おぶっ!」
玲緒「人・・・、人が怪獣に・・・?」
白「あれは魔族だ!」
白「一体、何が起きている!?」
〇中庭のステージ
仮面「魔獣に魔族・・・大層な名を付けられているが、こんなものただの操り人形よ」
仮面「奴らの正体は、この魔具那だ」
モブ「お、おい! こいつを持ってれば、助けてくれるんじゃなかったのか!」
仮面「あぁ、助かるさ」
仮面「魔具那に打ち勝てば、私のように」
モブ「ぐっ・・・」
仮面「魔具那の操り人形たり得たら魔族に、なりそこないは魔獣として」
仮面「この世界が破滅しようと生き続ける。貴様の望み通りだろう?」
〇宇宙空間
魔具那──
それは異界を食い荒らして突き進む蝗害であり、異界の生物を自らの体とする寄生虫である
仮面の言う通り、魔具那の器たり得たものは魔族に、なりそこないは魔獣へと変貌する
全ての魔獣と魔族は、魔具那の王が生きている限り、死ぬことすら許されず、永劫に異界を食い荒らし続ける
異界を食い荒らすのは、眷属を引き連れて、次なる餌場へ転生をするためである
生きること。ただそれが、世界を破滅へ導く存在。それが魔具那であった
〇体育館の裏
聖剣「以上が、魔具那の生態です。魔具那を破壊する場合は、まず私の力を使って、宿主とのリンクを断ってください」
聖剣「宿主のいない魔具那であれば、通常の武器でも破壊が可能になります」
白「これが古文書が本当に伝えたかったことか」
玲緒「聖剣で倒せば、怪獣は人に戻りますか?」
聖剣「肉体は不可逆に書き換えられているため、私では元に戻すことはできません」
玲緒「なら、魔王を倒したら?」
聖剣「魔具那の王を破壊しても、精神の主導権争いをする者がいなくなるだけです」
玲緒「そんな・・・」
白「迷うな!」
白「今、すべきことを見失うな!」
白「晴、後は頼むぞ」
晴「分かってるわ」
晴「いくわよ、玲緒!」
玲緒「はい・・・」
白(心根の優しさは黄金(こがね)と変わらぬか)
白(なればこそ、この先の景色は見せられん)
白「二人共、ここは任せるぞ」
骨「あぁ」
白「感謝する」
骨「こっから先は勇者の花道だ。てめぇらが通れるなんて思うなよ」
魔族「アンデッド如きが、苗床にも成れぬ者がほざくな!」
〇山中の坂道
電話の声「現場は今までの最悪を通り越して地獄絵図です」
電話の声「凶器を持つ暴徒が次々と怪物に変化してゆき、単純に暴徒の力が上がったこともありますが」
電話の声「それ以上に、避難所の一般人がパニックに陥り、自棄になっての暴動や、凶器を奪いに走ったりと手が付けられません」
電話の声「委員会、部活動の境界を越えて、事態の収束に当たっていますが・・・」
晴「暴動に加わる生徒も多いのね」
電話の声「はい・・・」
晴「分かってるでしょうけど、助けに戻らないわよ」
玲緒「分かってます」
玲緒「みんなは玲緒を送ってくれた。ここで戻ったら、みんなを侮辱することになります」
玲緒「だから・・・」
〇中庭のステージ
仮面「新たな勇者よ、貴様はこの悪夢の中、何を選択する?」
白「主は、多くの街が魔族の襲撃を受けたことを知りながら、それでも魔王討伐を優先したな」
仮面「・・・魔族の大半による大侵攻だ。手薄になった魔王城を攻める好機を失うわけにはいかないだろう」
白「その街の一つに、身重の妻が残っていたのにか?」
仮面「行ったところで間に合わなっただろうに、自分勝手な理由で、今までの犠牲を無駄にしろと?」
白「きっと姉上も、主の判断を正しいと言ったろうな」
仮面「そうさ。全ては我らの世界を救う為に必要な選択だ」
仮面「貴様にはできなかった選択だ」
白「あぁ、そうだな。我は100年先より、今を守ることを選んで大罪人となった」
白「故に玲緒には、未来を守る選択をさせた」
仮面「全ての罪は、その選択をさせた自分が受け止めるか。相変わらずの傲慢だな」
仮面「なら、その罪を、もっと赤黒く染めてやろう」
仮面「異界の住民共! 受け取れ、新たな魔具那だ!」
仮面「戦え! 奪え! 殺せ! 迷う必要などない、生きる為の選択は全て正義だ!」
仮面「さあ、彼らの正義を楽しもうじゃないか、白金!」
白「貴様!」
白金の手が、刀の柄にかかる。同時に仮面の手もまた剣に手がかかる
次の呼吸で斬り合いが始まる。その時──
放送の声「これを聞いてる全員に告ぐ!」
ハウリングを響かせて、スピーカーから玲緒の叫びがこだました
白「玲緒?」
〇文化祭をしている学校
放送の声「これを聞いてる全員へ告ぐ!」
副風紀委員長「玲緒ちゃん?」
放送の声「聖剣が欲しければ、ここまで来い!」
〇体育館の裏
放送の声「魔王を倒されたくないなら、ここまで来い!」
〇体育館の外
放送の声「誰を差し置いても助かりたいと思うなら、ここまで来い!」
〇学校の廊下
放送の声「選べ、誰でもない自分の意志で!」
〇中庭のステージ
放送の声「どんな結末になろうとも、自らの責任で結末を受け入れる覚悟があるなら!」
〇山中の坂道
玲緒「かかってこい! 玲緒はここにいる!」
〇文化祭をしている学校
〇中庭のステージ
仮面「魔王を相手取りながら、自らを囮にするか」
仮面「新たな勇者は、よほどの愚か者か、自信家と見える」
仮面「だが魔族と魔獣、それに暴徒。魔王にたどり着けず、貴様らの敗北が決まったな」
白「いいや」
白「そうでもなさそうだぞ」