ロボットは星空なんか見上げない

アボカド

第五話 わたしのせい(脚本)

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〇断崖絶壁
リーシュ「あ──」
エール「・・・・・・」
リーシュ「エール!!」
リーシュ「エール、エール!!」
エール「・・・・・・」
  エールは微動だにせず、
  額には2センチほどの弾痕が残っている。
  頭髪と肌から色素投影が失われて、
  半透明に塗りつぶされていく。
デルフ「フーッ」
リーシュ「・・・・・・」
デルフ「どうなっているんだ・・・?」
  近づいてくるデルフを見上げながら
  リーシュは停止したエールを抱き寄せている。
デルフ「退け、リーシュ」
デルフ「こちらで対処する」
カリン「・・・・・・」
デルフ「カリン・・・」
デルフ「お前の所有物がどうなろうが 知ったこっちゃない・・・」
デルフ「しかしな、 俺の管轄で拾い物を キズモノにしようっていうなら──」
デルフ「俺なりに仕事はさせてもらう」
  エールの胸ぐらをつかみ、
  持ち上げるデルフ──
  その腕に
  力なく掴みかかるリーシュ。
リーシュ「待って・・・」
リーシュ「待って下さい お願いします・・・」
デルフ「押収する」
リーシュ「な、なにが起こって・・・ 分からなくて・・・ まだ・・・」
デルフ「こちらで調べさせてもらう 解析には時間が──」
カリン「ふざけんな・・・」
カリン「”リコール”だろ」
カリン「返すつもりなんてない・・・」
リーシュ「え・・・」
カリン「解析するつもりだったなら──」
カリン「腕を撃てば十分でしょ・・・?」
デルフ「憶測でしかモノを言えなくなったか」
デルフ「おまけに 銃をズボンの飾りにしている」
デルフ「もしそうなら辞めてしまえ」
デルフ「警察なんてな」
カリン「・・・・・・」
デルフ「よっと・・・」
  エールを肩に担ぎ、
  デルフは下を向いたまま歩き出した。
リーシュ「・・・・・・!!」
リーシュ「ちょっと──」
リーシュ「待ってください!! デルフさん、待って!!」
カリン「リーシュ!!」
リーシュ「カリン!? なんで──」
カリン「エールはもう停止しているけど あんな行動を取った以上 異常例として対処しなきゃいけない!」
カリン「何が起こるのか分からない だから・・・」
リーシュ「・・・!」
リーシュ「異常なんて・・・!!」
リーシュ「エールはそんなものじゃない・・・!!」
カリン「・・・・・・」

〇暖炉のある小屋
  夕方過ぎ──
カリン「・・・・・・」
リーシュ「・・・・・・」
  カリンの膝元に
  リーシュは頭を横たわらせていた。
  慟哭と昼寝を繰り返して、
  今はただ目を閉じている。
リーシュ「・・・カリン」
カリン「うん・・・」
リーシュ「・・・・・・」
リーシュ「撃たないでくれてありがとう」
カリン「・・・・・・」
リーシュ「どうしてあんなことになったのか 考えていても」
リーシュ「今はさ・・・」
リーシュ「あっけなくて・・・ ショックが大きすぎて・・・」
リーシュ「これからどうしたらいいのか そればっかりでさ・・・」
カリン「・・・・・・」
リーシュ「・・・けど」
リーシュ「エールを傷つけたのが カリンじゃなくて良かった」
リーシュ「これは、その・・・」
リーシュ「それだけは はっきりしているから」
リーシュ「もう・・・大丈夫だから」
カリン「・・・・・・」
リーシュ「こんな時間まで居てくれて ・・・ありがとう」
カリン「・・・・・・うん」
  ゆっくりと起き上がり
  微笑むリーシュの目元に浮かぶ
  涙の跡が夕陽を鈍く照り返している。
リーシュ「車に乗せた毛皮のロボット、 傷つけてゴメン・・・」
リーシュ「代わりにはならないけど 行動食がまだ余っているからさ」
リーシュ「持って行ってよ 皆に分けてあげて」
カリン「分かった」
カリン「・・・・・・」
  リーシュの温もりが残る
  膝元をさすり──
  カリンはそのまま
  立ち上がろうとしなかった。

〇断崖絶壁
リーシュ「僕もさ・・・」
リーシュ「その・・・ カリンたちと・・・」
カリン「・・・・・・」
カリン「ありがとう、リーシュ」
リーシュ「・・・・・・」
カリン「けど、ここがあるから」
カリン「その、私にとって・・・」
リーシュ「・・・・・・」
カリン「帰ってきたいって 思える場所だから」
リーシュ「ホントに?」
カリン「うん」
カリン「けど・・・ もう戻らない方が良いかもしれない」
リーシュ「え・・・」
カリン「これ以上リーシュに あんな思いしてほしくない」
リーシュ「カリンのせいじゃないよ・・・!」
カリン「そうじゃなくても」
リーシュ「・・・・・・」
カリン「”リコール”のせいで始まった 私たちの問題が終わるまで」
カリン「・・・たったそれだけの間」
リーシュ「・・・・・・」
リーシュ「うん、その間だけ・・・」
リーシュ「きっとそうだよね」
リーシュ「・・・気をつけてね」
カリン「うん」

〇断崖絶壁
カリン「・・・・・・」
「僕のせいかな?」
カリン「もしそうだったら 海に沈めてやる」
ミリオン「優しいんだね」
カリン「何処がだよ・・・」
ミリオン「カリンも、リーシュも」
カリン「・・・・・・」
ミリオン「あんなに長い時間 寄り添える相手がいるなんて」
ミリオン「羨ましくなっちゃた 本当に素晴らしいことだよ」
カリン「・・・・・・」
ミリオン「あ」
ミリオン「もしかして恋人だったの!? そうだよね、そうじゃなくても互いに 想い合っている関係!? 膝枕している間に心拍数が──」
「あーーっと!」
カリン「・・・・・・」

〇暖炉のある小屋
リーシュ「・・・?」
  翅の模様が鮮やかな蝶が
  夕陽が射す窓に向かって
  羽ばたき続けている。
リーシュ「・・・・・・」
リーシュ「ほら」
  蝶は開かれた窓から
  風に吹かれて勢いよく飛び出す。
リーシュ「・・・・・・」

〇断崖絶壁
デルフ「・・・ああ、今出てきた」
  デルフは無線機を片手に
  カリンたちを岩陰から見つめている。
  こちらとしては
  速やかに持ち帰って
  頂きたいのですが──
  確かなんですね?
デルフ「エールが首を絞めた理由は分からんが あるとすれば カリンが連れているヤツの方にある」
デルフ「単独行動であることは確認した、 追跡する」
  了解しました
  本部からも私を含めて
  数名そちらに出動します
デルフ「・・・できることなら お前からヤツらに戻ってくるように 呼びかけてほしいんだがな」
デルフ「いちいちあちらこちらと 出向いていられない」
  前署長の件は
  不遜な奴らを振り落とす機会だった・・・
  私にとってはその程度です
デルフ「・・・まあ、退職までにある程度 稼げたら俺は十分だよ」
デルフ「頼むぜ、若旦那」

次のエピソード:第六話 若旦那

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