徳積助長(とくつみ すけなが)

山縣将棋

徳を積もう!「視点」編(脚本)

徳積助長(とくつみ すけなが)

山縣将棋

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〇グラウンドのトラック
楠木 悠「ハァハァ」
貝原 誠「先週よりタイムが遅いじゃないか!」
楠木 悠「す、すいません、体調が悪くて──」
貝原 誠「甘えるな!」
貝原 誠「スポーツの世界は弱肉強食なんだ、1番になるには最大限の努力が必要だ!」
貝原 誠「そして、自分を信じ抜く事!諦めない事!」
貝原 誠「その点がお前は、まだまだ甘い!」
楠木 悠「す、すいません、コーチ」
貝原 誠「僅かな運も必要だが──」
貝原 誠「今、お前に必要なのは、最大限の努力と自分自身を信じる事だ!」
貝原 誠「解ったら、もう10周走ってこい!」
楠木 悠「あの、コーチ、水分の補給をさせて──」
貝原 誠「甘えるなと言った筈だ!今すぐ走れ!」
楠木 悠「は、はい!」

〇ダイニング
貝原 歌美「うげ〜歌美、トマト嫌い!」
貝原 光希「好き嫌いしてはダメ、ちゃんと食べなさい!」
貝原 誠「そうだぞ!大事な命を頂いているんだ! しっかりと食べないと罰が当たるぞ!」
貝原 歌美「じゃあ、頑張って食べてみる」
貝原 誠「偉いぞ、歌美!」
貝原 歌美「やっぱり、無理」
貝原 誠「ちゃんと、食べろ!」
貝原 歌美「ママ〜!パパ怖いよ〜!」
貝原 光希「やり過ぎよ!」
貝原 誠「俺はただ、甘やかしたくなくて、その──」
貝原 光希「は?」
貝原 誠「す、すまん」

〇白い校舎

〇散らかった職員室
米田 俉「それは、大変でしたねぇ〜」
貝原 誠「ちょっと叱ったら、妻が口を挟むもんで」
貝原 誠「ガツンと──」
米田 俉「奥様に、言われたんですね」
貝原 誠「・・・わかります?」
米田 俉「ええ、わかります」
米田 俉「娘さんの件ですが、良い案があります」
貝原 誠「案?」
米田 俉「はい、食べ方を変えてみては?」
貝原 誠「食べ方を変える?」
米田 俉「トマトをジュースやソースにしちゃうとか?」
貝原 誠「なるほど、そういう手があったか!」
貝原 誠「良い案ですね、早速試してみますよ!」

〇グラウンドのトラック
楠木 悠「ハァ、ハァ・・・」
貝原 誠「よし、今日は外周3周したら切り上げていいぞ」
楠木 悠「・・・あの、コーチ」
貝原 誠「何だ?」
楠木 悠「給水を・・・」
貝原 誠「ダメだ!今すぐ走れ!」
楠木 悠「は、はい」
貝原 誠「ったく」

〇学校脇の道
楠木 悠「ハァハァ」
楠木 悠「うっ!」
楠木 悠((水が欲しい))
徳積 助長「大丈夫です?」
楠木 悠「は、はい」
徳積 助長「グホッ、これをどうぞ」
楠木 悠「あ、あの、その」
徳積 助長「さぁ、遠慮せずに」
楠木 悠「水、飲んじゃダメなんです」
徳積 助長「何故?」
楠木 悠「強くなれないし、努力が報われません」
楠木 悠「次の大会も絶対に上位に入りたいので」
徳積 助長「そうですか・・・」
徳積 助長「なら、水はここに置いておきましょう」
楠木 悠「お心遣いありがとうございました、それでは」
徳積 助長「グホッ!少しだけ、いいですか?」
楠木 悠「何でしょう?」
徳積 助長「上手くサボるのも努力のうちですよ?」
楠木 悠「そんなわけ──」
徳積 助長「手を抜くのと上手くサボるのは天と地の差がある事をお忘れなく」
楠木 悠「・・・」
徳積 助長「今、走る量を減らす事と、水を飲むか飲まないかの決定権は貴方にあるのです」
楠木 悠「そんな事したら、怒られちゃう」
徳積 助長「グホッ!その決断を下すか、下さないかを考えてみては?上手くサボるチャンスですよ?」
徳積 助長「先生も見ていない事ですし──」
徳積 助長「それに、貴方は自分の実力に酔ってます」
徳積 助長「グホッ!それでは──」
楠木 悠「・・・」

〇グラウンドのトラック
楠木 悠「ハァ、ハァ」
貝原 誠「よし、お疲れ様!」
貝原 誠「俺は先に帰る、楠木はストレッチを忘れずにして帰るように!」
楠木 悠「・・・はい」

〇古本屋

〇本屋
貝原 誠「え〜と、料理の本は〜」
徳積 助長「これなんて、どうです?」
貝原 誠「あ、ありがとうございます」
徳積 助長「お料理が好きなのですか?」
貝原 誠「いえ、娘の食わず嫌いを無くそうと思いまして」
貝原 誠「良いアイディア料理の本を探してました──」
徳積 助長「グホッ、素晴らしい!お嬢さんの為に食育を学ばれるのですね?すごい徳をつんだ行動です!」
貝原 誠「これって、徳を積んだ行動なんですかね?」
徳積 助長「もちろんですとも!徳をつんでますよ!」
徳積 助長「栄養士か何かをしてるのですか?」
貝原 誠「いえ、中学で体育を教えてます」
徳積 助長「そうなんですか──」
貝原 誠「・・・」
徳積 助長「・・・」
貝原 誠「えっと」
徳積 助長「グホ!、私の自己紹介がまだでしたね!」
徳積 助長「私、こういう者です──」
貝原 誠「世界「徳つみ」団体?代表、徳積助長?」
徳積 助長「そうです。徳を沢山つんで笑顔になりましょうをモットーに世界中で活動している団体です」
貝原 誠「へ、へぇ〜(知らないな)」
徳積 助長「どうです?貴方も加入します?」
貝原 誠「いえ、結構です」
徳積 助長「でしょうな!グホホホッ!」

〇ダイニング
貝原 光希「さぁ、晩御飯にしましょう」
貝原 誠「今日は、パパが料理を作ったんだぞ!」
貝原 歌美「美味しそう!」
貝原 歌美「いただきま〜す!」
貝原 誠「どうだ?」
貝原 歌美「トマトの味がして美味しくない──」
貝原 誠「ソースにしてもダメか──」
貝原 光希「貴方の気持ちも分かるけど、歌美の気持ちも尊重してあげて」
貝原 誠「・・・」

〇田舎の駅舎
貝原 誠((昨日の夕飯の事、歌美に悪い事したかな))
徳積 助長「おや?貝原さん」
徳積 助長「今日はオフですかな?」
貝原 誠「は、はい。徳積さん!?でしたっけ?」
徳積 助長「グホッ!お嬢さんへの料理はどうでした?」
貝原 誠「・・・失敗でした」
徳積 助長「グホホホッ!落ち込む事は無いです」
徳積 助長「私から、アドバイスがあります」
貝原 誠「アドバイス?」
徳積 助長「味覚を変えるのではなく、視点を変えることをお勧めします」
貝原 誠「視点?」
徳積 助長「グホッ!、いっその事、森にキャンプに行って食のありがたみを知ってもらいましょう」
徳積 助長「お嬢さんの好きな食べ物と嫌いな食べ物をもって1泊2日でもすれば食の大切さを学べます」
貝原 誠「う、う〜ん」
徳積 助長「何か新しい事に気づけるかもしれませんよ?」
貝原 誠「でも、キャンプ道具なんて持ってませんし」
徳積 助長「ご心配なく、私の知り合いにキャンプ地の オーナーがいるので話を通しておきます」
徳積 助長「もちろん、キャンプに必要な道具や、テントも無料で貸し出すように言っておきますから」
貝原 誠「で、でも」
徳積 助長「貝原さん達は手ぶらで来て下さって大丈夫です」
徳積 助長「今週の土曜日に予約しておきます」
貝原 誠「わ、悪いですよ」
徳積 助長「グホッ!そう、固くならずに、 行くか、行かないかは、自由ですので」
徳積 助長「それがキャンプ地の住所です──」
徳積 助長「キャンプでたっぷり、徳をつんで下さい」
徳積 助長「それでは──」
貝原 誠「あれ?」
貝原 誠「俺、名前教えたかな?」

〇ダイニング
貝原 誠「なぁ、今週の土曜日は森へキャンプに行こう」
貝原 光希「えっ!キャンプ?」
貝原 歌美「楽しそう!」
貝原 光希「どうしたの?急に?」
貝原 誠「知り合いに勧められたんだ!」
貝原 誠「どうかな?」
貝原 光希「道具とかはどうするのよ?」
貝原 誠「大丈夫、無料で貸してくれるらしい」
貝原 光希「・・・本当に?」
貝原 誠「問題ないさ!」
貝原 誠「・・・たぶん」
貝原 歌美「パパ!歌美、行きたい!」
貝原 誠「よし、決定だな!」
貝原 光希「歌美が行きたいなら、しょうがないわね」
貝原 歌美「わーい!」
貝原 歌美「お気に入りのぬいぐるみも持っていっていい?」
貝原 誠「もちろんさ」
貝原 光希「楽しくなりそうね」

〇グラウンドのトラック
楠木 悠「あれ?」
楠木 悠「朝の練習時間、間違えたかな?」
米田 俉「おはよう、楠木さん」
楠木 悠「あっ、米田先生!」
米田 俉「今日は貝原先生が急遽お休みで、僕が代わりに指導に来たんだ」
米田 俉「毎日、走ってるようだけど体調は崩してない?」
楠木 悠「はい、問題無いです!」
米田 俉「良かった。じゃあ、早速、練習しようか」
米田 俉「これ、貝原先生から預かった練習内容」
  ストレッチ
  校庭6周
  100ダッシュ×30(休憩5秒)
  200ダッシュ×20(休憩9秒)
  腹筋×60回2セット
  給水なし
楠木 悠「うげっ」
楠木 悠「が、頑張ります」
米田 俉「楠木さん」
楠木 悠「はい?」
米田 俉「楠木さん、今日はここに書いてある内容の半分だけ練習しよう!」
楠木 悠「えっ?」
米田 俉「内容がキツいんだよね?」
楠木 悠「・・・えっと、その」
米田 俉「その内容はあくまでも参考って事にして今日は練習を進めて行こう」
楠木 悠「で、でも──」
米田 俉「今日は僕が指導役だから、責任は僕にある」
米田 俉「無理せず、練習しよう」
米田 俉「体調が悪くなったら、直ぐに知らせてね」
楠木 悠「はいっ!」

〇黒

〇停車した車内
貝原 誠「よし、着いたぞ」
貝原 光希「すごい田舎ね」
貝原 誠「その奥の山が住所になってるな」
貝原 誠「さぁ、行ってみようじゃないか」
貝原 光希「ねぇ?貴方」
貝原 誠「何だ?」
貝原 光希「危なくなったら直ぐに帰りましょうね」
貝原 誠「おう!」

〇林道
貝原 誠「ここを真っ直ぐ行った所がキャンプ地だ」
貝原 歌美「早く行こう!」

〇山道
貝原 光希「ねぇ貴方?迷ってないわよね?」
貝原 誠「心配するな!」
貝原 歌美「本当に?」
貝原 誠「だ、大丈夫だから」
吉田 庄司「おい」
「うわっ!」
吉田 庄司「ここで、ボケッとしてると熊に襲われるぞ」
貝原 誠「く、熊が出るんですか?」
吉田 庄司「出る訳ねぇだろ、冗談通じねぇのか?」
吉田 庄司「あんた、徳積さんの紹介で来た人だろ?」
貝原 誠「は、はい」
吉田 庄司「着いてこい」
貝原 誠「なんだよ、あの横柄な態度」
貝原 光希「シッ、聞こえるわよ」

〇キャンプテントの置かれた森
吉田 庄司「あそこが、あんた達のテントだ」
貝原 誠「ど、どうも」
吉田 庄司「あとは、好きにやってくれ」
吉田 庄司「じゃあな」
貝原 誠「・・・」
貝原 歌美「歌美、お腹空いた」
貝原 光希「いっぱい歩いたもんね」
貝原 誠「よし、お昼にするか!」

〇森の中
貝原 誠「キャンプといったらコレだろう」
貝原 光希「カレー?」
貝原 誠「正解!」
貝原 歌美「歌美もお手伝いする!」
貝原 誠「よしっ!」
貝原 誠「火をおこす為に木の枝を集めてくれ」
貝原 歌美「でもさパパ、木の枝落ちてなくない?」
貝原 光希「そういえば、落ちてないわね」
貝原 誠「なら、そこら辺の枝を折って集めればいいさ」
貝原 歌美「は〜い!」
貝原 光希「歌美、ケガしないようにね」

〇森の中
貝原 誠「よしっ、完成だ!」
貝原 光希「もう、夕方じゃない」
貝原 歌美「お昼じゃなくて、夕飯になっちゃったね!」
貝原 誠「ほ、本当だ、夢中で気付かなかった」
貝原 光希「キャンプだからかもね」

〇テントの中
貝原 光希「ぬいぐるみ抱いて、ぐっすり寝てる」
貝原 光希「はしゃいで、疲れちゃったのね」
貝原 誠「歌美が楽しんでくれたなら良かったよ」
貝原 光希「ねぇ、今日のカレーなんだけどアレって」
貝原 誠「気付いた?」
貝原 誠「ルーの中にトマトを少し混ぜたんだ」
貝原 光希「こういう感じで食べさせるのも良いわね」
貝原 誠「だろ!」
貝原 光希「美味しかったわ」

〇テントの中
貝原 誠「んっ?」
貝原 誠「雨か?」
貝原 誠((外、確認してみるか))

〇キャンプテントの置かれた森
貝原 誠「えっ!」
貝原 誠「マズイぞ!」
貝原 光希「う〜ん、どうしたの?」
貝原 誠「山火事だ!」
貝原 光希「えっ!」
貝原 誠「歌美を連れて直ぐに車に戻るぞ!」
貝原 光希「わ、分かったわ!」
貝原 誠「バックも忘れるなよ」

〇山道
貝原 歌美「パパ、歌美、もう走れない」
貝原 誠「よし、パパがおんぶしてやる」
貝原 光希「急ぎましょう!」

〇林道
貝原 誠「よし、車まで、あと少しだ!」
貝原 歌美「パパ!」
貝原 誠「どうした?」
貝原 歌美「ぬいぐるみ、忘れて来ちゃった!」
貝原 誠「また、買えばいいだろ!」
貝原 歌美「歌美、あれじゃなきゃ嫌!」
貝原 光希「今はそれどころじゃないのよ!」
貝原 誠「そうだ、諦めるんだ」
貝原 歌美「亡くなったおばあちゃんが買ってくれた大切なぬいぐるみなのに」
貝原 光希「歌美!いい加減にしなさい!」
貝原 歌美「いやだ、いやだ、いやだ!」
貝原 誠「・・・」
貝原 誠「パパに任せろ!2人は先に車に戻ってくれ!」
貝原 誠「鍵を渡すから車で待っていてくれ」
貝原 光希「貴方、ダメよ!」
貝原 誠「直ぐに戻ってくる!」
貝原 光希「貴方」

〇山道
貝原 誠「ハァ、ハァ」

〇けもの道
貝原 誠「あれ!?」
貝原 誠「ま、まさか、迷ったか?」
貝原 誠「だ、誰だ!」
「ウォオオーン」
貝原 誠「げっ!オオカミ」
貝原 誠「く、くそ」
貝原 誠「ち、近づくな!」
貝原 誠「まだ、仲間がいるのか!」
徳積 助長「私は狼ではないですよ」
貝原 誠「徳積さん!」
貝原 誠「よ、良かった、助けて下さい」
徳積 助長「徳はつめましたか?」
貝原 誠「えっ?ええ、まぁ──」
徳積 助長「何かに気付き視点を変えれましたかな?」
貝原 誠「ど、どうでしょうかね」
徳積 助長「・・・」
貝原 誠「それより、手を貸して下さい!」
徳積 助長「私はただ山火事の様子を見に来ただけです 助けに来たのではありません」
貝原 誠「じょ、冗談はよして下さい」
徳積 助長「グホッ!狼に囲まれたこの状況で冗談を言う程、私は悪魔ではありません! 私はあくまでも、死神ですよ、あくまでも」
徳積 助長「おや?どっちなんでしょうね?グホホホッ!」
貝原 誠「と、徳積さん?」
徳積 助長「貝原さん、貴方この状況をどう捉えますか?」
貝原 誠「いま、それどころじゃ──」
徳積 助長「答えたら、手を貸しますけど」
貝原 誠「生きる事を考えてます、狼の命を奪ってでも」
徳積 助長「そうですか、狼に食べられるという 選択肢は無いんですね」
貝原 誠「当たり前です、何で喰われなきゃ行けないんですか!」
徳積 助長「やはり、視点を変えるのは難しいですな」
貝原 誠「何なんですか、さっきから!」
徳積 助長「貝原さん、命を頂いて生きているのは人類だけではありませんよ?」
貝原 誠「そんな事くらいわかってますよ! でもそれが狼に喰われる理由にならないでしょ」
徳積 助長「いえ、私が言ってるのはそんな狭い 範囲ではありません」
貝原 誠「何を言いたいんですか」
徳積 助長「地球も1つの生命体です」
徳積 助長「地球が生命体として活動をしてる中で抱えきれなくなった生命を間引くのはごく自然の摂理」
徳積 助長「それは、事故や他人の悪意、自然の力で淘汰されます」
貝原 誠「何を言っているんです?」
徳積 助長「我々は地球という生命体に 生かされてるのです」
徳積 助長「ですが、貴方の視点には人間しか写ってません。むしろ人間が一番上と考えています」
徳積 助長「これを傲慢といいます」
貝原 誠「それが、人間ってもんでしょ」
徳積 助長「グホッ!そ通り」
徳積 助長「今日テントに向かう際に、会った案内人はどうでした?」
貝原 誠「横柄なヤツだと思いましたよ」
徳積 助長「そう。貴方もですよ」
貝原 誠「何だと!」
徳積 助長「その態度では、迷惑をかけてる人の気持ちを考えた事はありませんな」
徳積 助長「娘の食わず嫌いを無くすとか、木の枝を折るとか、貴方は色々な場面で配慮が足りない人です」
貝原 誠「木の枝の件を何故知ってるんです?」
徳積 助長「側に居ましたから。気付かなかったですかな?」
貝原 誠「嘘だ!」
徳積 助長「嘘ではありません。 貴方を観察して思ったのですが──」
徳積 助長「貴方は登った山を直ぐに見下ろすタイプです」
貝原 誠「俺の何を知ってるんだ!」
徳積 助長「グホッ!わかりますよ」
徳積 助長「いいでしょう、手を貸しましょう」
貝原 誠「え?あ、ありがとうございます」
徳積 助長「グホッ!貴方ではありませんよ」
徳積 助長「狼にです」
貝原 誠「は?何を言って──」
徳積 助長「狼は絶滅危惧種です。よって地球の視点で見たら、命の価値は貴方より貴重だと思います」
貝原 誠「ふざけるな!」
徳積 助長「グホッ!狼が飢えていますよ」
「グルルルルルッ」
徳積 助長「まぁ、死にたくなかったら、走る事ですな」
貝原 誠「アンタは最低だ!」
徳積 助長「グホッ!僅かな運が有れば助かりますよ」
貝原 誠「く、くそ」

〇霧の立ち込める森
貝原 誠「ハァ、ハァ」

〇けもの道
貝原 誠「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
貝原 誠「ここまで、走ったら安心か?」
貝原 誠「くっ、まだついて来るのか」
貝原 誠「もう少し距離を離すか」

〇黒
貝原 誠「ハァ、ハァ、ここまで来れば安心だろ」
貝原 誠「んっ?」
貝原 誠「わっ!」

〇岩山の崖
貝原 誠「崖っ!」
徳積 助長「貝原さん、残念でしたな」
貝原 誠「お願いだ!助けてくれ!」
徳積 助長「無理ですな」
徳積 助長「どうします?火の森の中へ戻りますか? それとも──」
貝原 誠「あんた、徳をつんでるんだろ?だったら」
徳積 助長「あっ、勘違いしないで下さい私は徳を積んでいるのではなく、摘んでいるのです」
貝原 誠「そ、そんな事、言わずに・・・」
徳積 助長「グホッ!貝原さんがテントに戻らなければこんな状況にならなかったでしょう」
徳積 助長「ぬいぐるみなんて、また買えばいいのです そして──」
徳積 助長「味覚なんて大人になれば変わるものです」
貝原 誠「キャンプを提案したのはアンタじゃないか!」
徳積 助長「そう。でも、必ず来いとは言ってません」
貝原 誠「くっ、屁理屈だ」
徳積 助長「グホッ!そろそろ時間のようですな」
「ガルルルッ」
貝原 誠「クソッ!あっち行け」
狼 (白)「ガルルルルッ!」
徳積 助長「ムダです── 貝原さん、貴方は徳を摘みすぎました」
貝原 誠「ひっ、死神!」
徳積 助長「そう見えますか?グホッ!」
徳積 助長「ぬいぐるみを諦め直ぐに帰っていれば、こんな目に合わなかったでしょうに──残念です。グホッ!」
狼 「ヴゥゥゥ〜!」
徳積 助長「そういえば、赤い色に興奮する動物って多いらしいですよ?」
徳積 助長「運が無かったですな、貝原さん」
貝原 誠「ちくしょう!」
徳積 助長「それでは、貝原さん、サヨウナラ」
徳積 助長「グホホホッ!」

〇黒

〇停車した車内
貝原 歌美「あっ!」
貝原 光希「どうしたの?」
貝原 歌美「あの、その──」
貝原 光希「ん?」
貝原 歌美「ぬいぐるみ、入ってた・・・」
貝原 光希「えっ!」

〇グラウンドのトラック
  2ヶ月後
楠木 悠「ハァ、ハァ」
米田 俉「楠木さん、休憩しよう」
楠木 悠「い、いえ、もう少し走ります」
米田 俉「そんなに、無理した練習してると体調を──」
楠木 悠「悔しいんです!」
楠木 悠「先月の大会で5位だったから──」
米田 俉「ごめんね、僕が貝原先生のように厳しく指導できなくて」
楠木 悠「いえ、先生が悪い訳じゃ・・・」
米田 俉「ねぇ?楠木さん」
楠木 悠「はい?」
米田 俉「高校でも陸上を続けるんだよね?」
楠木 悠「そのつもりです」
米田 俉「僕はね、1つの目標、山の頂上を目指すのはとても素晴らしい事だと思うんだ」
米田 俉「でも、成長過程の身体に無理をさせるのは良くないと思うよ」
楠木 悠「でも悔しくて──」
米田 俉「楠木さん── 目の前の高い山を登って終了じゃないんだ」
楠木 悠「え?」
米田 俉「高い山を登った後には、さらに高い山が見えるものなんだよ」
米田 俉「それは、人生にも部活にも言える事」
米田 俉「今、無理して身体を壊したら来年、再来年と大会に出る以前に、走る事が難しくなるかもしれない」
米田 俉「目標には、一歩一歩、近づいていけばいいよ」
米田 俉「僕は楠木さんに無理はして欲しくないんだ──どうかな?」
楠木 悠「・・・・・・ (前に誰かに似たような事言われたな)」
楠木 悠「そうですね。先生の言う通りかもしれません」
米田 俉「それに、5位で悔しいって言ってるけど、 去年の1位の子の記録と一緒なんだよ?」
米田 俉「それは、今年のレベルが高いって事だし、 自分の実力が素晴らしいって証拠じゃない?」
米田 俉「悲観する事はないよ!」
楠木 悠「は、はい」

〇学校脇の道
楠木 悠「あっ!」
楠木 悠「この前は水ありがとうございました!」
徳積 助長「いえいえ、体調は大丈夫ですかな?」
楠木 悠「この通り元気です!」
徳積 助長「グホッ!それは良かった、練習頑張って下さい」
楠木 悠「はい! それでは!」
徳積 助長「いい、笑顔ですな・・・グホッ!」
徳積 助長「彼女、ずっと真っ直ぐな心で走れるといいですねぇ〜将来、自分と関わる登場人物の『視点』にもよりますが・・・」
徳積 助長「もし悪い子と仲良くなったら・・・」
徳積 助長「まぁ、それもそれで運でしょうな── うんうん。なんちゃって、グホッ!」

〇白
徳積 助長「あっ、何かに悩んでるそこの貴方、視点を変えると運が開けるかもしれませんよ?」
徳積 助長「えっ?そんな必要ない?自分を信じ突き進む事が大切?グホッ!それもいいでしょう。 どちらを選ぶかは貴方次第です」
徳積 助長「でも、貴方は地球という生命体の一部だという事はしっかりと認識しといて下さいね」
徳積 助長「さもないと私が──」
徳積 助長「貴方の視点を遥か高くに上げちゃいますよ?」
徳積 助長「では、また会う日まで──」
  サヨウナラ

コメント

  • 視点を変えるって大事なことですね!!
    例えばドラマの受賞作品でも、上手い下手以上に、
    人が気づかない視点を指摘していたり・・・
    大袈裟なものではなく、むしろ身近なちょっとしたことなどを。
    その辺大事かなと思います。
    陸上の子のように、根を詰めると却って見えないものもあると思いました。
    気づきをありがとうございます🙇‍♂️

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