極悪非道の正統ヒロインですが清廉潔白な悪役令嬢と幸せになります~咲かせて魅せます、百合の華~

イトウアユム

第19話「真の勇者」(脚本)

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〇噴水広場
  声の主はエリーザだった。
エリーザ「・・・お話が良く分からないのですが ・・・マリは・・・」
エリーザ「貴方のおっしゃる聖槍の乙女、 という存在なのですね?」
エリーザ「そしてマリは・・・穢れた感情を持ってしまったせいで、体の中にある聖槍・・・ つまり貴方を汚してしまったと」
  ひとつずつ、要件を確かめるかのように言葉を紡ぎながらエリーザはグングニルに確認をする。
グングニル「そうよ。アナタが殺されかけた事によって万理は世界を心から憎んだわ。 そのせいで我が穢れてしまったワケ」
グングニル「その贖罪のため、勇者の愛を受け入れ身も心も捧げるか、それとも死を選ぶか・・・ その選択を迫られたの」
グングニル「そして、万理は死を選んだ。 アナタの命を助けるためにね」
エリーザ「そうですか・・・納得しました」
グングニル「あらら? 万理を助けて~とか、 殺さないで~とか命乞いはしないワケ? 随分あっさりしてるわねぇ」
エリーザ「本人の覚悟に水を差すような真似はしたくありませんので・・・けれどもマリ」
  私の方を向いたエリーザの眼差しはとても冷たかった。
エリーザ「わたくしの事を・・・ 貴女を犠牲にしてまで生き延びたいなんて考える恥知らずだと思っているの?」
権田原万里「いいえ。これは私のわがままです。私はエリーザさんに生きていて欲しいんです」
権田原万里「それに・・・知ってますよ。絞首台の上で泣きそうになっていた事・・・ たった一瞬だけど見逃しませんでしたから」
エリーザ「そうね。確かに怖かったわ・・・ でもそれは死よりも怖い事があったからよ」
エリーザ「だって、わたくしには貴方の傍で死ねない事以上に怖い事なんて無いもの」
エリーザ「だから、今は・・・大丈夫。死ぬ瞬間にこうして貴方の顔が見られる・・・ わたくしはそれだけで満足なの」
  ふわりと笑い、はにかむ様にそう言うとエリーザはグングニルを真っすぐに見据えた。
エリーザ「聖槍グングニル、 貴方にひと言お伺いしたい事がございます」
エリーザ「――貴方がおっしゃる勇者の愛を受け入れ身も心も捧げるとは・・・ どのような状況を差すのでしょうか?」
グングニル「どのようなって・・・ そりゃ、文字通りよ」
グングニル「自分を愛する男に愛してもらうって事よ」
エリーザ「愛してもらう? 何故女性は受け身で無いといけないのですか? そもそも・・・」
エリーザ「男性でなければ勇者ではないという考えはわたくしには理解出来ません」
エリーザ「現にマリは女性なのにどんな男性よりも勇敢で行動力があり、秀でております」
エリーザ「わたくしに言わせればマリこそが誰よりも 『勇者』に相応しい真の勇者です」
グングニル「あのさぁ、男だから女だから以上に万理って根っからのワルよ」
グングニル「そんな悪人が勇者だなんて無理無理無理っ」
エリーザ「正しさや清らかさを貫く事だけが、 人間の生き方なのでしょうか?」
エリーザ「そして勇者とはそれを体現しなければならないのでしょうか?」
ミハエル「・・・だとしたら矛盾しているな。 勇者の称号を手に入れている私達は戦場で幾多の命をこの手で奪ってきた」
ミハエル「聖槍グングニルよ、貴方は一人殺せば殺人者で、百万人殺せば英雄となるとでも言うのか?」
リュウ「第一、悪人が勇者になれないって言うならオレはどうなるんですか?」
リュウ「勇者になる前は殺人未遂の前科持ちですし 裏社会で色んな事をしてきましたよっ!」
シモン「光と影は併せ持つもの・・・ 光が強ければ影も一層濃いのは世の摂理だ」
サーシャ「男だろうが女だろうが相応しいものが称号を得れば良いんじゃない?」
サーシャ「イマドキ流行んないよ、 そんな旧時代の考え方」
ヤス「聖槍グンニグルよ、 あっしからも進言させて頂きます」
ヤス「清濁併せ呑む器を持つお嬢こそが勇者に相応しい」
  ヤス達の言葉にエリーザは柔らかく微笑んだ。
エリーザ「人間として汚さや愚かさを受け入れ、 それでも輝きを放てる」
エリーザ「そして人々を魅了し、悪を背負い、 自分を貫く・・・」
エリーザ「そんな人間こそが人々を導く『真の勇者』に相応しいのだとわたくしは思います」
エリーザ「――少なくともマリは私にとっての誰よりも強く、賢く、勇敢な勇者様です」
  エリーザの力強い演説に私は言葉を失い
  ・・・そして笑みを零す。
権田原万里(悪を背負い、自分を貫く・・・ それって・・・ふふっ)
権田原万里(そのままあなたの事じゃないですか、 エリーザさん)
  常日頃、王子や周りに辛辣な言葉や態度で接していたのは、彼女自身の揺るぎない美学があるから。
  それを悪と言うなら悪で良いとばかりに、己の信念を貫き、彼女は孤立も困難も恐れなかった。
  そしていつだって、彼女は物事にまっすぐに真正面からぶつかっていく。
  時には大胆に、そう・・・今だって。
  この世界の神に対しても、ズカズカと質問し、核心に迫った正論をぶつける。
権田原万里(本当、怖いもの知らずなお嬢さんだよなぁ ・・・でも、)
  あっちの世界では生まれながらの極道の私を対等な人間として接する人は誰もいなかった。
  恐れ慄くか、忌み嫌い憎むかの2択。
  けれども彼女は違った。
  異端者として排除する事も媚びを売る事も敬遠する事も嫌悪する事も一切せず。
  彼女はいつでも、私を対等な人間として認め、接していた。
  それは私だけではない。
  平民も、物乞いも、奴隷も、ゴロツキも
  ・・・すべての人に。
権田原万里(だからこそ私は・・・ あなたに惹かれたんだ──)
権田原万里(誇り高き白百合、 エリーザ・アイファー・ユヴェーレンに)
  その瞬間。
  力強く、何かが体に満ち溢れるような
  ・・・そんな感覚が私を包み込み。
権田原万里「体が・・・光っている?」
  そして発光する私に吸い寄せられるように
  グレイプニルは縛めを解き、私の元に集まり光の一部になる。
エリーザ「わたくしの・・・傷が・・・」
  光はエリーザの傷を治癒し、
  衣服に染みついた血も消えていく。
ヤス「これはもしや・・・! お嬢! ステータスを見てくださいっ!」
  ヤスの言葉に私は自身のステータスを確認する。
  そこにはメッセージがめまぐるしく流れていた。
  称号【義ヲ貫ク者】【愛ヲ貫ク者】
    を獲得しました
  称号【義ヲ貫ク者】【愛ヲ貫ク者】
    を統合します
権田原万里「なんだ、この称号・・・しかも統合って ・・・勝手に実行しているし」
  ――失敗しました――再度実行しますか?
  ――失敗しました――再度実行し・・・
  私の意志に反して、幾度となく繰り返されるトライ&エラー。
  しつこく粘り強く繰り返される作業の末に――。
  私の体はひと際大きく光り輝いた。
  ――統合に成功しました。
  称号【選バレシ真ノ勇者】を獲得しました
  私の発光は収まり、ステータス画面は無機質に新しい称号の獲得を告げる。
権田原万里「選ばれし・・・真の・・・勇者・・・?」
グングニル「嘘ッ! 【選バレシ真ノ勇者】ってデータベースに無い称号なんだけど!」
権田原万里「そうか・・・単体で獲得出来ないから、 統合して別の勇者の称号を作り上げたのか・・・」

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