第20話「咲かせて魅せるは・・・」(脚本)
〇噴水広場
絞首台に降り立った私はエリーザの元に歩み寄ると高らかに叫ぶ。
権田原万里「彼女は私の友人であり、仲間。 この聖槍グンニグルに誓って決して魔女などではありません」
そして広場の正面。
この処刑を観覧するために仮設された玉座に座るヨルグ国王を指差した。
権田原万里「ヨルグ国王よ、 彼女は戦闘に参加していない衛生兵です」
権田原万里「非戦闘員の誘拐は戦争法に背いた行為ではありませんか?」
誘拐の言葉に広場はざわめき始めるが国王は悠然と構えたままだ。
ヨルグ国王「それは詭弁だな。衛生兵であろうとも戦場にいれば兵士のひとりに過ぎぬだろう」
ヨルグ国王「そして誘拐などではない、逮捕だ。彼女は多くの兵士を先導し、惑わしたからな」
エリーザ「兵士を先導するなど・・・」
エリーザ「そんな大それた事、 わたくしには出来ませんっ!」
国王の言葉を否定する悲痛な叫び声。
エリーザ「わたくしはただ、兵士の皆様を元気付けたくて・・・ただそれだけですのに・・・」
エリーザ「なのにいきなり連れ去れて、身に覚えのない罪を問われて、とても怖くて恐ろしくて・・・」
オレンジの瞳からはらはらと流れ落ちる大粒の涙はエリーザの美しい顔を濡らす。
その痛々しさに広場からはため息が漏れた。
ヨルグ国民「可哀そうに・・・あんなか弱そうな少女を誘拐して罪をかぶせるなんて・・・」
ヨルグ国民「人道的配慮に欠けている・・・ そもそも、国王の独裁を許すこの国の政治自体見直すべきでは?」
美しき令嬢への同情は次第に国政への不満と変化し、国民の熱狂はだんだんとエスカレートする。
サーシャ「貧乏人はパンすらも食べれない日があるっていうのに、王族は贅沢三昧・・・! こんなのおかしいよ!」
ミハエル「国際の場に手訴えるべき! いや・・・いっそここで革命を起こすべきなのではないか!」
群衆に紛れたミハエル達が焚き付けると、私は広場全体に語り掛けた。
権田原万里「ヨルグ国民よ、今こそ民衆の力を見せつける時です・・・あの玉座に座る暴君にっ!」
シモン「そうだ! 我らには勇者様がいる!」
リュウ「さあ、武器を手に取ってあのクソ野郎、そしてクソ野郎に味方する兵士も王族も貴族も、みんなぶっ殺そうぜっ!」
権力体制が崩壊するきっかけなんてささいなものだ。
勇者公認と言う御旗の元だったら尚更。
この熱狂を煽り、
勇者の私は彼らの背中を押せば良いのだ。
そして、ヨルグ国民に成りすましたミハエル達が彼らに武器を手に取らせれば・・・革命の出来上がりってわけだ。
――かくして玉座は怒れる暴徒に取り囲まれ、国王は玉座から引きずり降ろされ、絞首台に連れ出される。
ヨルグ国王「よくも我が国民をそそのかしたな・・・! こんな事をしてタダで済むと思うのかっ!」
取り押さえられ、顔を真っ赤にして取り乱す国王とは対照的に私達は優美に微笑んだ。
エリーザ「国王陛下にはご機嫌うるわしゅう。こんな機会を設けて頂いて感謝しておりますわ」
エリーザ「民衆が市民社会を目指すために封建国家の象徴の国王を処刑する・・・」
エリーザ「その劇的な瞬間に立ち会わせて頂けるなんて」
ヨルグ国王「しょ、処刑だと?」
権田原万里「仕事の早い国民で良かったですね・・・」
権田原万里「まあ、煽られやすい、 単細胞ばかりって事だろうけど」
権田原万里「てめえらはエリーザさんを誘拐して処刑しようとし、我が帝国を・・・ いや、私達のファミリーを脅かした」
権田原万里「舐めた真似を仕掛ける奴らは徹底にぶっ潰す」
権田原万里「それが、ひとつの『組織』を預かるアタマとしてのケジメだ」
権田原万里「かつては権田原の修羅姫と呼ばれてた私を舐めるなよ?」
権田原万里「――修羅姫がブチ切れたら草木一本残さないで皆殺し、ってな」
権田原万里「まあ、私達にケンカ売ったのがてめえの、そしてヨルグ王国の運の尽きだ」
エリーザ「マリ、お喋りはそこまでよ。 元国王陛下にもケジメをつけて貰う時間が来たようだから」
怯え恐れ慄くヨルグ国王の首は処刑人の手によって絞縄が掛けられる。
やがて。新時代を継げる歓声が私の耳に心地良く響き、かくして私とヨルグ王国のケジメはついたのだった。
〇草原の道
馬車の列は郊外からローゼンダール帝国の城下へと向かって軽快に走る。
先頭の白馬に乗ったミハエル、シモン、サーシャと続き、リュウとヤスが運転する馬車に私とエリーザは座っていた。
街道に集まる人々は口々に賛美の言葉と、花々を次々と浴びせ、馬車は色とりどりの花で埋まり始めている。
権田原万里「・・・まるで見世物の気分ですね」
エリーザ「いつものように堂々としていなさいな ・・・これは貴方を讃えるパレードでもあるのだから」
権田原万里「私だけじゃなくて、私達ですよ」
ヨルグ王国に革命を起こしローゼンダール帝国に勝利をもたらしたマルス中隊。
その功績は既に本国で認められ、
私達は凱旋帰国の真っ最中なのだ。
エリーザ「それは建前よ。 戦争だって不戦勝のようなものだし」
権田原万里「外側の敵よりも内側の敵の方が厄介ですからね」
権田原万里「あいつら慌てて戦地から撤退しましたっけ」
権田原万里「・・・まあ正直、他国の人間に先導され、ノリと勢いで起こした革命の天下が長く続くとは思えませんが」
エリーザ「ふふ、この先はヨルグ国民の問題ね・・・とにかく」
エリーザ「貴方は捕らわれの公爵令嬢を救出しただけでなく、王国を内部から崩壊させて、我が国を最も有利な状況へと導いた」
エリーザ「そして・・・伝説の勇者なのですもの。 帝国の歓迎はもっともな事よ」
権田原万里「命令を無視して、ヨルグ王国に乗り込んだ罪は不問にして勇者として歓迎してくれるなんて」
権田原万里「・・・まったく、 陛下の御心は海の様にお広い事で」
エリーザ「ふふ、やせ我慢しているだけよ。 本当ははらわたが煮えくり返る位激怒しているでしょうね・・・いい気味」
ヨルグ王国の革命に関わった後。
私はエリーザに全て話した。
私やヤスが異世界で極道だった事、この世界はゲームの世界に酷似している事。
私は自分が死ぬフラグを回避しようとして
エリーザを窮地に陥らせてしまった事。
そして私の謝罪を聞いた彼女の第一声は──
〇野営地
エリーザ「何故、謝るの?」
権田原万里「・・・本来ならエリーザさんは平和な人生を歩むハズだったんですよ、でも窮地に陥ってばかりいたのは私のせい・・・」
エリーザ「・・・貴方の話を聞く限りだと、 称号は改ざんが出来ないものなのよね」
エリーザ「それなのに出来て、挙句にグングニルですら想定していない統合まで出来て・・・ 女性の貴方は勇者になった」
エリーザ「だったらこの世界に決められた本来のシナリオなんて、本当は無いのだとわたくしは思うわ」
エリーザ「だから貴方が謝る事なんて無いの。 それにわたくしは窮地だなんて感じた事は一度も無いのよ」
エリーザ「だって、どんな時でも・・・ 貴方がわたくしの傍にいてくれたから」
〇草原の道
エリーザ「ああ、皇帝陛下に謁見するのが楽しみだわ」
エリーザ「見限って見殺しにしようとしたわたくしをどういった表情と言い訳で迎えて頂けるのかしらね」
権田原万里「エリーザさん・・・ しおらしく涙ながらに民衆に訴えていた令嬢とは思えないほど悪い顔ですよ」
エリーザ「あらいけない、 ついうっかり本音が出てしまったわ」
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