極悪非道の正統ヒロインですが清廉潔白な悪役令嬢と幸せになります~咲かせて魅せます、百合の華~

イトウアユム

第18話「選ぶは一択」 (脚本)

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〇噴水広場
権田原万里「!」
  目を開けると恐ろしいくらいの静寂が訪れる。
権田原万里(なんだこれは・・・)
  目の前に広がった光景に私は息を呑んだ。
  広場の全ての時間が止まっていたのだ。
  人も、モノも、感じる空気も全て。
  ――私達以外に。
リュウ「アネゴっ! なんなんすか、さっきの光は!?」
ミハエル「皆、無事かっ?!」
シモン「ああ・・・なんとか・・・」
サーシャ「ウソ・・・ ボク達以外、誰も動いてなくない?」
  リュウと3馬鹿は不思議そうに辺りを見回している。
  そして・・・
エリーザ「痛みが消えた・・・? これは・・・どういう事なの?」
  先ほどまでの弱弱しい意識が飛びそうな声とは違い、エリーザの声ははっきりとしている。
  出血もおさまったようだ。
  しかし顔は青白く、背中に矢が刺さったままなのは変わらない。
ヤス「あっし達の時間が止まっているんですよ」
ヤス「そしてこの世界でそんな事が出来るのは ・・・あのお方しかいない」
  ヤスの緊張した声と共に私達の頭上に現れたのは1本の槍だった。
グングニル「――我は聖槍グンニグル。 いかなる存在でも破壊出来ず、 そしていかなる存在をも破壊する」
グングニル「・・・伝説の聖槍であり、 この世で最も尊き至高の神」
  厳かな渋い声で高飛車に継げる槍はグングニルを名乗った。
グングニル「・・・さあ裁きを下そう。 その身を憎しみと絶望に焦がす大罪を犯した聖槍の乙女を断罪するために」
エリーザ「聖槍の・・・乙女? 貴方の事なの?」
権田原万里「・・ええ。私の事です。実は巫女の末裔だった、という設定なんで・・・」
権田原万里「おまえら、エリーザさんに治癒魔法を頼む」
  設定と言う言葉に不思議そうに首を傾げるエリーザをミハエル達に託すと私はグングニルに近づいていく。
グングニル「聖槍の乙女は聖槍の鞘。 その鞘が世界に対して怒り、憎しみ、絶望した時・・・その穢れた感情が聖槍を汚す」
グングニル「これは許されざる罪。 罰として乙女は呪いの業火に焼かれ、 死の呪いを受けるのが定め」
グングニル「その罪を許すのは聖槍の真の持ち主であり 救世の使命を持つ『勇者』のみ」
グングニル「彼の愛があれば乙女の呪いも解ける・・・」
グングニル「さあ、乙女よ選べ。 許しを乞うか、死を受け入れるか・・・」
  ブンッ!!!
  グングニルの言葉を私の日本刀のひと突きが遮る。
  聖槍はすんでのところで刃を回避した。
グングニル「・・・・って、あぶなっ! なにすんの! 最後まで言わせなさいよっ!」
  取り繕うのを忘れたのか、口調どころかキャラまで変わったグンニグルはぎゃんぎゃんと吠えたてる。
権田原万里「ごちゃごちゃ話が長いんだよ―― なにって、こんなクソみてえなゲームに巻き込んでくれたお礼だよ」
権田原万里「話から推測するにてめえはこのゲームの神ってやつに一番近いんだろう?」
  『愛と哀しみの輪舞』の制作会社の名前はオーディン。
  そして北欧神話のオーディンの持つ槍の名前はグングニルだ。
  こいつが神を名乗るなら・・・
  最高神の名を持つ制作会社の意志に近いと踏んだのだ。
グングニル「なんなのアナタはっ! そうよ、我はこのゲームシステムの管理者であり、監視者」
グングニル「あのさ、 文句言いたいのはこっちなんだけど!」
グングニル「アナタ達が転生したおかげでこの世界は滅茶苦茶じゃないのよ!」
グングニル「大体ヒロインが指詰めろなんて迫る乙女ゲームなんて聞いた事無いわよ!」
権田原万里「うるせえな、それはそれで面白いだろうが」
ヤス「しかもそれに百合成分が含まれるとあればオタクのあっしも納得のアリ寄りのアリだと思いますぜ」
グングニル「まあ、我もそう思ったりするけど・・・」
グングニル「って何言わせんのよ!」
  グングニルは気を取り直したのか、再びムードをまとい厳かな口調で私に問う。
グングニル「万理。 おまえが通常のゲームシナリオ通りに学園に登校しミハエルと交流していたら・・・」
グングニル「ハンスに悪しき心など芽生えず、 横領など考えなかったはずだ」
権田原万里「もとより、あいつにはそういう考えがあったから出来心に付け込まれたんだろうよ。 自業自得だ」
グングニル「おまえがカーチャ夫人の不倫を脅さなかったら・・・」
グングニル「彼女はホスト狂いにはならなかった」
権田原万里「旦那も浮気じゃなければ良い、って公認なんだし、本人達が幸せならそれで良いじゃねえか」
グングニル「おまえがあんな作戦でミュラムを制圧しなければ・・・」
グングニル「数千の命が無くなる事は無かった」
権田原万里「シナリオ通りだったらこっちの部隊の命が無くなるけどな・・・」
権田原万里「大体、 命ってのは数の問題じゃねえだろうが」
グングニル「んー!!! もうっ!!! あー言えばこう言うっ! ホント憎たらしい子っ・・・!」
グングニル「でも・・・あの子があんな状況でも強気でいられるかしら?」
権田原万里「なんだと・・・」
  含みを持たせた言い方のグングニルに私は嫌な予感がして慌てて振り返る。
  そこには真っ青な顔をしたエリーザと彼女と同じくらい蒼白な3人の顔があった。
シモン「・・・何故だ、 何故エリーザの傷が塞がらないんだ・・・」
サーシャ「なんで・・・ 魔力を全開にして魔法をかけてるのにっ!」
エリーザ「わたくし・・・死ぬのかしら・・・」
ミハエル「エリーザ、気を確かに持て・・・ 大丈夫、大丈夫だから・・・」
  矢を引き抜いたエリーザの背中には赤黒い傷がえぐれて見えるが、その傷は一向に塞がる気配はない。
グングニル「時間が停止した空間で、 魔法なんか使えるわけないじゃない・・・」
グングニル「この世界の神であり、管理者であり、 監視者でもある・・・我以外にね」
エリーザ「っ!・・・ごほ、ごほっ!」
  エリーザが再びむせ返り、
  地面に膝をついた。
  口元からまた血が流れ、ぽっかり空いた背中の傷からは血が噴き出す。
リュウ「てめえ・・・! エリーザ様になにをっ!」
権田原万里「待て、リュウっ!」
リュウ「ぐはっ!!!」
  グングニルに飛び掛かろうとしたリュウは弾き飛ばされ、それと同時に私達の体も紐状の光で拘束される。
権田原万里「なんだこれはっ!!!」
  蛇の様にまとわりつく光の紐はどんなに力を入れようともびくともしない。
ヤス「これは・・・グレイプニル! 神々が使う魔法の縄です、お嬢! 無理に抜け出そうとすると死にますぜっ!」
グングニル「万理、これは全ておまえのせいよ。 おまえさえいなければ彼らは約束された人生から転落することは無かった」
グングニル「そして・・・エリーザはこんなに苦しんで死ぬ事は無かったのに」
エリーザ「あああああっ!」
  光の縄の締め上げに苦悶の叫びを上げるエリーザに私の目の前が怒りで真っ赤に染まった。
権田原万里「このクソ外道槍があああっ!!! 止めろっ!」
権田原万里「それ以上やるなら、 私がてめえをぶっ殺してやるっ!」
グングニル「――殺せるものならね。ねえ、万理・・・ アナタの好きな取引をしましょうよ」
権田原万里「取引? 何を言ってるんだ・・・」
グングニル「我はシステムの管理者としてこのシナリオを正さないといけない」
グングニル「この世界のシナリオはだいぶ・・・」
グングニル「っていうかかなり変わってしまったわ」
グングニル「だけど、今ここでアナタが勇者を選ぶか選ばずに死ぬかすれば、なんとかシナリオ通りのエンディングになるの」

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