第17話「手前ら屋号はシェンケルファミリー」 (脚本)
〇野営地
犯人側から本国に接触があったと聞かされたのは、彼女が拐われた数日後の事だった。
ミハエル「エリーザを誘拐したヨルグ王国が身代金と休戦を要求してきたそうだ」
権田原万里「やっぱり計画的犯行か・・・ 舐めやがって」
権田原万里「・・・でも、だったら安心だな」
権田原万里「エリーザさんはミハエルとの婚約を破棄したと言え、未だに未来の王妃の座を約束されている皇帝のお気に入りだ」
権田原万里「ヨルグ王国もそんな切り札である彼女に無体は働かないはずだ」
権田原万里「あのジジイはきっと要求を受け入れるハズ・・・」
ミハエル「王国もそう思っていたのだろうな」
ミハエル「ローゼンダール皇帝ならば、未来の王妃を約束した少女を助けると──」
ミハエルは苦渋に満ちた顔で遮った。
ミハエル「だが皇帝は要求をすべて拒否したそうだ」
ミハエル「そして先ほど本部伝令が来た・・・ 戦闘は続行、エリーザ嬢の生死は問うなと」
権田原万里「はあ?」
ミハエル「陛下は人でも物でも、得にならないと判断したら容赦なく切り捨てる」
ミハエル「・・・私を見ればわかるだろう?」
権田原万里「しかし・・・!」
自嘲気味に笑うミハエルに私は言葉をつまらせる。
シモン「それに我が帝国にとってはエリーザが処刑されれば好都合だ」
シモン「戦争を続ける理由になるからな」
シモン「そしてヨルグ王国としても、思惑と外れてしまったとはいえ、一度抜いてしまった剣を収めることは出来ない」
リュウ「って・・・つまりは・・・」
サーシャ「ヨルグ王国はこの誘拐を正当化するために ・・・エリーザに罪を着せたんだ」
サーシャ「エリーザは明日の朝、 公開処刑をされるそうだよ」
サーシャ「罪状は人を惑わし、先導した罪・・・ つまり魔女として」
権田原万里「・・・なんだその、中世かぶれな設定は ・・・まったく笑えねえな──」
権田原万里「行くぞ」
リュウ「行くぞって、どこにです?」
権田原万里「エリーザを助けに行くに決まってるだろう」
権田原万里「ジジイの戯言なんざ聞けるか」
ミハエル「マリアンネ・・・ これ以上エリーザを辱めるな」
権田原万里「何言ってんだ?」
ミハエル「エリーザは次期王妃としての教育を受けた」
ミハエル「そして私よりも陛下のお考えを読み取る事が出来る」
ミハエル「エリーザは陛下が要求を拒否したと聞いて覚悟をしているはずだ」
ミハエル「・・・そんな彼女を助けに行く事は彼女の尊厳を無視し、高貴な魂を傷付ける事になる」
リュウ「そうっすよ! それにアネゴは言ってるじゃないですか!」
リュウ「感情で動くな、結果で動けって・・・ 矛盾しますって」
シモン「そうだ、悔しいかも知れないが・・・ 今は皇帝陛下の決定に逆らうな」
シモン「いつかきっと好機が来る、 それまで機会を伺うんだ」
サーシャ「マリアンネ、 ボク達だってエリーザを助けたいよ」
サーシャ「でも・・・今動くのは得策じゃない」
権田原万里「・・・得策? 何が、誰にとっての得なんだ?」
権田原万里「今はだの、機会を伺えだの・・・ てめえらは随分気が長いな」
権田原万里「ヨルグ王国だけじゃなく、 皇帝にもコケにされてるんだぞ?」
権田原万里「相手の出方を伺ってから大義名分を立てようとするようなそんなイカサマ野郎どもには反吐が出る」
権田原万里「それにな・・・私は決めてんだよ。 絶対にエリーザを死なせないって」
権田原万里「助け出す事でエリーザに憎まれても構わない。私は・・・」
権田原万里「理不尽だろうがなんだろうが、 惚れた相手に生きて欲しい・・・」
権田原万里「そう願って何が悪い」
権田原万里「命を懸けて何が悪い!」
そう言い切ると、
私は愛刀をゆっくりと抜く。
権田原万里「そこをどけ・・・どかねえと、 ここでてめえらも叩き斬ってやるぞ」
そして刀身以上にギラついた眼差しで目の前に立ち塞がる舎弟達に凄み、構えた。
〇噴水広場
わたくしが粗末な馬車から引き出された場所は大きな広場だった。
手錠をかけたままのわたくしに広場を取り囲む群衆は野次を飛ばす。
市民1「あれが黒薔薇の魔女の手下か・・・!」
市民2「ミュラムを一夜にして消し去った悪魔の仲間・・・ああ恐ろしい!」
わたくしの先にあるのは絞首台。
わたくしは今からあれで処刑されるのだ・・・戦犯として、魔女として。
エリーザ(わたくしが死んだら、 マリは悲しむかしら・・・?)
不思議と、周囲の騒音は耳に入らず、
先ほどから彼女の事ばかり考えてしまう。
死ぬのは怖い。
でもそれ以上に無様な死に方だけはさらしたくない。
それに、マリには・・・わたくしの死を、悲しんで憐れんで欲しくない。
いつまでも歩き出さないわたくしの肩を隣の看守が押そうとするが、それを払いのける。
エリーザ「気安く触らないでちょうだい。 自分の足で絞首台に登れるわ」
看守「・・・今から死ぬってのに、 随分強気な女だな」
エリーザ「わたくしを誰だと思って?」
エリーザ「わたくしは黒薔薇に寄り添う誇り高き白百合、エリーザ・アイファー・ユヴェーレンよ」
泣くな、前を向け。
そして笑うのよ。
気高く、美しく。
わたくしの好きな白百合のように。
エリーザ(まただわ・・・)
脳裏にマリの姿が蘇る。
貴方に笑われない様に、最後の瞬間まで毅然とした態度で処刑に望みましょう。
だからわたくしは笑う。
不敵に、優雅に、大胆に。
けれども・・・最後に一目だけでも貴方に会いたいと思ってしまうのは・・・
エリーザ(わたくしの弱さかしら? ・・・ふふ、困ったものね)
マリ。
わたくしは貴方と出会って強くなったわ。
でも同時に・・・弱くなった。
けれどもこの強さも、弱さも。
わたくしは等しく愛おしいの。
エリーザ(だって貴方が・・・わたくしにくれた最高の贈り物だから――ありがとう、マリ)
そして潔く、死を受け入れるためにわたくしは絞首台の階段を、ゆっくりと一段ずつ登っていく。
市民1「早く魔女を縛り首にしろーっ!」
無慈悲な言葉がエリーザに投げつけられたその時。
「な、なんだ、あれ!?」
天空に浮かぶ、銀色の船。
その船から・・・絞首台の上に1人の少女が舞い降りたのだった。
〇噴水広場
間一髪とはこの事だろう。
サーシャに密かに作らせていた魔導空挺から絞首台に降り立った私をエリーザは驚いた顔で見つめていた。
権田原万里「無事ですか、エリーザさん?」
エリーザ「マリ・・・貴方なんでここに・・・」
飛空艇からは猫や男が次々と絞首台に降り立ち、広場の真ん前で頭を垂れた。
ヤス「――ヨルグ王国の皆さんに置きましては仁義を切らせてもらいます」
ミハエル「軒先の仁義、失礼ですがお控えなすって」
シモン「早速ながら、処刑台の三尺三寸借り受けまして、稼業、仁義を発します」
サーシャ「手前ら屋号はシェンケルファミリー。 稼業、昨今の駆出し者で御座います。 以後、万事万端、お願いなんして」
リュウ「ざっくばらんにお頼み申しますッ!」
そう仁義を切りながら看守や衛兵を次々と倒していく3馬鹿プラス1プラス猫に私は呆れる。
権田原万里(・・・ヤスだな。 あいつらにあんなの教えたのは)
権田原万里(あっちの世界でも極道映画でしか見た事ねえってのに)
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