第16話「攻められやすい法律が悪い」(脚本)
〇戦場
ローゼンタール帝国とヨルグ王国、双方の軍勢が睨み合う 、前線のまっただ中。
私はひとりの騎士と対峙していた。
いざ開戦、というタイミングでこいつが名乗りを上げ私を相手に一対一の対決を申し込んできたのだ。
騎士「お前の命運もここまでだ、黒薔薇の魔女め」
騎士「その薔薇はこの俺様が真っ赤に染め上げてやろう」
――正直面倒臭い。
だが、先陣を切ってカチ込まれた私が、ここで武勇を見せなければ部隊の士気が下がる。
権田原万里「――ごちゃごちゃうるせえなぁ、私を倒すなら一撃で倒せよ。二度目はねえから」
騎士「帝国の魔女め・・・その減らず口、 直ぐに聞けないようにしてやるっ!!!」
権田原万里「ふっ!」
私は騎士の振り下ろした斧をかわし、
そのまま騎士の脳天に刀を振り下ろした。
頭から真っ二つに裂けた騎士の体は、真っ赤な血しぶきを上げ、地面に崩れ落ちる。
権田原万里「だから言ったろ? 一撃で倒せって」
権田原万里「私には「見切り」と「見稽古」のスキルがあるんだ」
権田原万里「てめえの攻撃を避けて、 そっくりそのまま返すことが出来る」
権田原万里(思う存分暴れても、 何十人何百人とタマを取っても・・・)
権田原万里(サツにパクられる事も無ければ、 臭いメシを食う事も無い)
こんな大立ち回りで出来る事なんて、
元の世界では考えられない。
権田原万里(異世界様々だな・・・!)
権田原万里「さあ、次はどいつだ。まとめてかかって来いよ・・・ぶっ殺してやるから!」
鉄錆に似た甘い血の香りに酔いながら、私は沸き起こる興奮を抑えられずに高らかに嗤う。
そしてその嗤いが合図となり、ローゼンタール陣営の兵士達も昂った獣の様に咆哮した。
〇戦線のテント
権田原万里「・・・リュウ、ちょっと来い」
リュウ「ふぇ? なんすかアネゴ?」
昼間の戦闘で勝利を収めた夜。
野営地で傭兵団の面子と焚火を囲んで談笑しているリュウを捕まえ、その間抜けヅラをまじまじと眺めた。
権田原万里(――やっぱり、見間違いじゃない)
私は悔しさのあまり、リュウを睨む。
権田原万里「なんでてめえが勇者の称号を獲得してるんだよっ!」
リュウの称号【サイコパス】【快楽殺人者】の他に【勇者】の称号が燦然と輝いていたのだ。
ヤス「そりゃお嬢があんなにパシッてるから鍛え上げられちまったんですよ」
リュウと焚火を囲んでいたヤスがぽつりと呟く。
ヤス「そもそもミハエル以外にもシモンやサーシャも獲得してる時点で察するべきでしたよ」
ヤス「お嬢の子分に求める技量は高過ぎてステータスが爆上げされるんですよ」
権田原万里「――てめえの飼い犬を躾けて何が悪い」
リュウ「大丈夫ですよ、アニキ。俺はアネゴに理不尽にシゴかれるほど、気持ち良くなるカラダに変えられちゃいましたから」
権田原万里「てめえの気持ち悪い性癖を私のせいにするな、ドエムサイコパスが」
ミハエル「ええっ!? そういう趣味なのか、 マリアンネはっ!?」
シモン「安心してくれ! その欲望は僕の鍛え上げた筋肉でいくらでも受け止める!!」
サーシャ「ぼ、ボクだってマリアンネの為なら・・・痛くても気持ち良くなるから・・・っ!」
この3馬鹿どもめ。変なタイミングで現れて、妙な勘違いしやがって。
権田原万里「そんなわけあるか、ゴミクソどもが! てめえら、走って頭を冷やしてこいっ!!」
「はいっ!」
リュウ「はいっ!」
私の怒号に3馬鹿プラス1は威勢の良い返事をすると森へと駆け出して行った。
ため息を吐きながら、
私は焚火の前に腰を下ろす。
権田原万里「ったく・・・あんな馬鹿でも勇者の称号を得れるのに・・・なんで私は・・・」
エリーザ「――どうしたの、マリ。浮かない顔をして」
権田原万里「エリーザさん・・・?」
権田原万里「いえ、なんでもないです」
エリーザ「本当に? さっきのため息と言い、 今日の立役者の顔では無くてよ」
この前線にはエリーザも従軍しているが、医療班の彼女は戦場に立つ事は無い。
いや、彼女の安全が確保できるなら私的には大賛成なんだが・・・
それも最近は私の悩みの種のひとつだ。
権田原万里「立役者はむしろエリーザさんですよ。 今日も兵士の千切れた腕を治癒魔法であっという間に治したとか」
権田原万里「エリーザさんの治癒魔法は効き目が抜群で治りが早いって兵士達の間でも評判ですし」
エリーザ「わたくしなんてまだまだよ。もっともっと精進して魔術に磨きをかけないと」
権田原万里「いえいえ、もう十分ですって。そうそう、あいつらにはエリーザさんの魔法が勿体ないので、塩でも舐めさせてください」
エリーザ「まあ・・・マリってば酷い。 わたくしはそこまで非道ではありません」
権田原万里(いや、非道であって欲しいんですよ。 このままだと善行のステータスが上がって 聖女系称号やスキルを獲得しちまうから)
――などと言える事は無く、
私は冗談ですよと言葉を濁した。
エリーザ「まったく、あなたって人は・・・こんな人にあの人達の親分なんて務まるのかしら?」
権田原万里「えっ? 何の話です?」
ヤス「リュウ達はお嬢の卒業後にこの傭兵団を編成して裏社会を守る組織集団として結成したいらしいですぜ」
ヤス「そしてその集団の親分をお嬢にお願いしたいとか」
権田原万里「・・・何勝手に言ってるんだ、あいつらは」
武力を持った裏社会を守る組織集団。
・・・そんなの、
あっちの世界の暴力団だろうが。
権田原万里「この傭兵団は私が卒業したら解散だ」
リュウ「そんなの断固拒否っすっ! 血飛沫と悲鳴がアネゴの一番の美容法じゃないですかッ!」
――またタイミング悪いな、こいつら。
走り込みを終えて帰って来た3馬鹿プラス1が血相を変えて割り込んできた。
ミハエル「私はリュウ達と共に戦い、そういう稼業も楽しいと思いはじめてきたんだぞ!」
シモン「団のならず者達と拳を交えて語り合い ・・・そしてお互いを認め合う関係も築き上げてきたところだったのに!」
サーシャ「ミハエルは勘当、シモンは破門・・・ そしてボクは家出!」
サーシャ「つまり、ボク達は卒業したら行く場所が無いんだよ?」
ヤス「あっしからもお願いします。 シェンケルファミリーの設立を前向きに考えてやってくれませんかね?」
シェンケルファミリー。
そのネーミングから反社会的勢力だろうが。
権田原万里「私に頼るな。食い扶持と寝床くらいはてめえで確保しろ・・・」
権田原万里「とにかく、傭兵団は私の卒業後、 即刻解散だ」
サイコパスに無職にマッチョにヤンデレ。
・・・ったく、揃いも揃って。
――そんな極道なシノギじゃなくて・・・もっとカタギのシノギに憧れろってんだ、この馬鹿どもが。
なおも取りすがる3馬鹿プラス1を無視して、私は自分のテントに帰って行った。
〇野営地
エリーザ「シェンケルファミリー、 わたくしは良いと思うわ」
ベッドに寝転がる私にテントに戻って来たエリーザは話し掛けていた。
権田原万里「エリーザさんまでそんなこと言って・・・ 私にゴロツキ集団のリーダーになれっていうんですか?」
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