極悪非道の正統ヒロインですが清廉潔白な悪役令嬢と幸せになります~咲かせて魅せます、百合の華~

イトウアユム

第15話「白薔薇から黒薔薇へ」(脚本)

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〇野営地
  翌日。
  私は教官と並んで本部テントから首都ミュラムの街並みを見下ろしていた。
権田原万里「最後の確認なのですが・・・」
権田原万里「城を制圧するためには多少の犠牲には目を瞑る、とのお言葉に撤回はありませんね?」
教官「ああ、だからこんなところにいないでさっさと全員で突撃して来い」
教官「昨日だって街を急襲したと思ったらすぐに撤退して──」
教官「お前達の任務は城を制圧する事なんだぞっ!」
  苛立ちを隠せない様子で睨む教官を私は笑顔でかわした。
権田原万里「その言葉・・・忘れないでください──」
権田原万里「『着火』」
  刹那。
  大きな地鳴りが辺りに響き渡った。
教官「な、なんだ!? こ、これは・・・っ!」
教官「街が・・・沈んでいく?! こんなの・・・ まるで街が巨大な蟻地獄じゃないかっ!!!」
権田原万里「ミュラムの街は水の神ドーリアの聖地」
権田原万里「ゆえに過去3度の大戦を経て、 同じ場所に復興しました」
権田原万里「瓦礫は地層のように積み重なり、 そして水の神の恩恵である地下水脈がある」
権田原万里「つまりはミュラム全体の地盤は不安定」
権田原万里「なので傭兵団が襲撃している最中に、マルス中隊には無数の魔法爆弾を仕掛けさせましたのです」
権田原万里「街中の井戸や噴水など水脈に繋がる水回り――全てに」
  水脈探しは僧侶シモンのダウジング、魔法爆弾は天才サーシャのお手製、と来れば死角は無い。
権田原万里「水魔法を使った防衛陣も、その元となる水脈と地面が破壊されれば意味がありませんからね」
教官「お前は・・・自分のしたことが分かっているのかっ?! 街1つを消失させたんだぞっ!!」
権田原万里「もちろんです。私の使命は帝国を勝利に導く事、そして私の大切な部下を死なせない事ですから。それに・・・」
権田原万里「多少の犠牲には目を瞑る、 と言ったのはあなたですよ、教官殿」
教官「これが・・・多少だと? おまえには人の心は無いのかっ!」
教官「こんなおぞましい行為を短時間で成し遂げるなんて、恐ろしい・・・ お前は悪魔に決まって・・・」
権田原万里「――うるせえな」
  私は教官の胸ぐらを掴んで持ち上げて首元を締め上げた。
教官「グううッ!!」
権田原万里「・・・人の心だと? てめえが言うな、このクソ野郎が」
権田原万里「少人数のヒヨッコ士官候補生に適当な命令をして、殺そうとしたのはてめえだろうが」
権田原万里「――残念だったな、私が利口な悪魔で」
権田原万里「さてと・・・」
  ダンッ!
教官「んぐっ!」
  教官を払い除けると私は笑顔を見せた。
権田原万里「我らがマルス中隊は作戦通り撤収致します」
権田原万里「大公の遺体の捜索及び確認作業は大変だと思いますが頑張ってください」

〇野営地
ヤス「――お嬢、称号を確認してください」
  教官のテントから退出した私にヤスがそっと耳打ちをする。
  《称号》【虐殺スル者】【慈悲ナキ者】
      【恐怖ヲ支配スル者】・・・
  ステータス画面いっぱいに凄まじい勢いで称号が増えてゆく様子にヤスは興奮気味に息を飲んだ。
ヤス「あっしの耳に届く、レベルアップのファンファーレが鳴りやみませんぜ・・・」
権田原万里「フッ・・・このままじゃあ名実ともに悪魔になっちまうな」
  この時。
  冗談めかしたこの言葉が数日後、
  現実になる。
  私の成し遂げた作戦は『悪魔の所業』として各地に知れ渡った。
  そしてゲームでは敬愛を込めて『白薔薇の聖女』と呼ばれたマリアンネ・シェンケルが・・・
  この世界では畏怖を込めて『黒薔薇の魔女』と呼ばれるようになってしまったのだった。

〇王妃謁見の間
大臣「――ですから、 今回の作戦はやり過ぎですっ!」
大臣「リーメルト大公は古き文化を尊び、 保護に尽力されていた」
大臣「あの街全体が遺跡であり博物館であり美術館だったわけです」
大臣「それが全て・・・大公もろとも瓦礫の中に消えた。水脈だって酷い有様だ」
大臣「あの周辺は希少生物の生息地だったのに、態系にも影響を与え今やその姿も確認出来ない」
  あの作戦から数日後。
  私の敢行したミュラム城制圧は国内外で大問題になったらしい。
  マルス中隊は即刻本国に帰還命令が出され
  私と副隊長のミハエル、そしてエリーザが
  審問会に出頭させられたのだ。
  この審問会で私は・・・初めて自身の主君であるローゼンダール皇帝と対面した。
皇帝「・・・・・・」
権田原万里(こいつが皇帝・・・確かに貫禄が違うな)
  好々爺の雰囲気を保ちながらも威圧的な空気を放つ、この世界の覇権を争う王たる男。
権田原万里(穏やかなフリをしているが肉食獣の目を していやがる・・・食えねえジジイだ)
ミハエル「だが、 侵攻を妨げる抑止力にはなったはずです」
  怒り狂う大臣にミハエルが食って掛かる。
ミハエル「それに彼女は司令官として期限ぎりぎりまで避難勧告を行っていた」
ミハエル「おかげで一般市民の死傷者はゼロに近い!」
大臣「公国の軍人達はほぼ壊滅状態ですがね」
大臣「リーメルト公の遺体も先日、 不眠不休の瓦礫捜索でやっと発見された」
ミハエル「しかし我が陣営の被害は最小に留まったではないか!」
ミハエル「まずはマリアンネの司令官としての手腕を誉めるべきでは?」
  ミハエルの熱弁に大臣は言葉に詰まり、
  会場は静まり返る。
権田原万里(・・・うーん。この場で私の活躍を力説するのは・・・あまり良い予感がしないな)
  この気まずい静寂を突如破ったのは皇帝だった。
皇帝「――エリーザはどう思う?」
エリーザ「わたくしで、ございますか?」
皇帝「街ひとつどころか文化も、信仰も、生態も全て破壊した彼女の手腕をお主はどう思う?」
皇帝「彼女、マリアンネ・シェンケルの作戦は妥当だったと思うか?」
エリーザ「わたくしは・・・ 破壊は悪しき事だとは考えておりません」
  エリーザは背筋を正し、毅然と答える。
エリーザ「新しき強きものは失った古きものの上に成り立つべきだと思いますわ」
皇帝「新しき我が国ローゼンダール帝国は古きリーベルト公国の上に立つべきだ」
皇帝「・・・そうおまえは言いたいのだな」
エリーザ「・・・・・・」
皇帝「・・・ははっ! お前のような聡明な者が兵士などもったいない!」
皇帝「いずれ上に立つ者として国のために勉学に励むべきだ」
皇帝「幸い、余の後継者はひとりだけではない ・・・今度こそ、おまえに相応しい王子を宛がおう」
  そう言って、やっとミハエルを見る皇帝の目は、親の目ではなく他人・・・
  それも下位の民を見る目付きだった。
権田原万里(――いくら勘当したとはいえ、てめえの 息子を見る目付きじゃねえな・・・ 気に入らねえ)

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