第13話「キャラ変どころかキャラ改悪」(脚本)
〇華やかな裏庭
大ホールの喧騒が嘘のような静かな王宮庭園。
その一角にある大理石のガゼボでエリーザは1人、夜の庭園を眺めていた。
エリーザ「あら、マリも抜け出してきたのね」
権田原万里「はい・・・さっきはとても素敵でしたよ、エリーザさん」
エリーザ「ありがとう。 貴方は・・・ちょっとやり過ぎよ」
エリーザ「あの時わたくしが止めていなかったら、 あの場は血塗れになるところでしたわ」
権田原万里「大丈夫ですよ、 指ってそんなに血が出ないものなので」
エリーザ「そういう問題じゃなくてよ。 本当にもう、あなたって人は・・・」
大きくため息をついたエリーザだったが、急にふっと笑う。
エリーザ「ふふ、でも・・・スッキリしたわ」
エリーザ「なぜわたくしはあんな男を慕おうと努力していたのかしら」
権田原万里「この国のため、国民のため・・・ じゃないですか?」
権田原万里「エリーザさんは超が付くほど真面目ですし」
エリーザ「悔しいけどマリの言うとおりね。『未来の王妃として、未来の皇帝を支える』」
エリーザ「・・・おこがましいけど、それがわたくしの生まれ持った使命だと思ってましたから」
エリーザ「だからその使命が無くなり、 わたくしはどうしたら良いのかしら?」
エリーザ「・・・そう考えていたところだったの」
エリーザが戸惑うのも仕方ない。
今までの人生の指標を失ってしまったようなものだ。
権田原万里「好きに生きてみれば良いのではないでしょうか? エリーザさんの思うように」
エリーザ「貴方みたいに自由に気まぐれに、突拍子も無く? ふふ、それも悪くは無いわね」
晴れやかに笑い掛けてくれるエリーザに私は笑み返す。
その時、ホールからオーケストラのワルツが聞こえてきた。
権田原万里「・・・あっちは無事に仕切り直せたみたいですね」
エリーザ「そう言えば、結局1曲も踊らなかったわね」
権田原万里「では、1曲お相手しましょうか? キャバ嬢とのレッスンで男性役でばかり踊っていたので自信はありますよ」
私が冗談めかすと、エリーゼは悪戯っぽく片目をつぶって見せて、手を差し出した。
エリーザ「そうね・・・せっかく、 選んで頂いたドレスですものね」
月明かりの下、煌めくドレスを翻し、輝く笑顔で踊るエリーザこそが、この物語のヒロインであるかのようだった。
〇お嬢様学校
翌日。
私は上機嫌で登校していた。
昨日の舞踏会の一件のせいか 、生徒達は私と目を合わせず避けるようにしているが
・・・まったく気にならない。
そして毎朝、うんざりするほどの遭遇率だった3馬鹿も正門前に見当たらない。
ヤス「あの3人はどうやら休みの様ですね」
ヤス「昨日、お嬢に言われた事にだいぶショックを受けているんじゃないですかねぇ」
ステータス一覧で自宅にいる事を確認したヤスからの報告に私はほくそ笑んだ。
権田原万里「そのまま立ち直らずフェードアウトしてくれ」
そうすればエリーザと平穏無事な学園生活を送れるんだ。
ヤス「しかし・・・あの3人が休んでいるのは分かるんですが・・・」
ヤス「エリーザも自宅にいるようです」
権田原万里「婚約破棄の翌日じゃあ、 色々と忙しいんだろ」
私はエリーザが登校していない事をまったく気にしていなかった。
明日になればきっといつも通り、
彼女と今までと同じ学園生活を送れる。
・・・そう信じて止まなかったから。
しかし、その日は二度と来ない事を私は夜
知る事になる。
〇城の客室
権田原万里「エリーザが・・・退学だと!?」
リュウからの報告に私は思わず叫んだ。
リュウ「はい、エリーザ様は今日付けでシュルテン学園を退学したそうです」
権田原万里「なんでだよ・・・なんでエリーザが・・・ 学園を退学して・・・」
権田原万里「士官学校に転入する事になったんだ?!」
リュウが仕入れてきた情報によると。
エリーザと王子の婚約は結果として全て王子の不徳の致すところと皇帝からの謝罪と共にすぐに解消されたそうだ。
しかし、エリーザの父親であるユヴェーレン侯爵はそれを良しとしなかった。
婚約解消をエリーザ自身から言い渡した事実に、女の身でありながら出過ぎた真似と激怒したのだ。
ヤス「ゲームの正規のルートですと・・・」
ヤス「エリーザは舞踏会での糾弾の後、 学園で孤立しつつも静かに過ごします」
ヤス「そしてその後の士官学校編には登場しません」
ヤス「お嬢、もしかしたら・・・ あくまでもあっしの推測なのですが」
ヤス「あるべきものが無いために、それを補う為『強制力』ってヤツが働いたんじゃないんでしょうか?」
権田原万里「あるべきもの? なんだそれ?」
ヤス「それは・・・ヒロインです」
ヤス「逆境を受け入れながら、それでもキラキラした輝きを失わない、清廉潔白な正統ヒロイン」
ヤス「お嬢はその・・・ 正統ヒロインではありますが・・・」
ヤス「清廉潔白とは言い難く・・・ どちらかと言うと」
ヤス「逆境があればぶっ壊し、ギラギラした剥き出しの殺意を失わない、極悪非道の極道映画の主人公ですからね」
権田原万里「・・・自覚はあるが他人に言われるとムカつくのはなぜなんだろうな」
リュウ「安心してください! 俺は今では断然後者の方がタイプっす!」
権田原万里「てめえに好かれるのが一番安心出来ねえんだよ」
ヤス「ともかく、今のお嬢とエリーザですと、 エリーザの方が『正統派ヒロイン』としての素質が高いんです」
権田原万里「じゃあ・・・ヒロイン不在のつじつま合わせのためにエリーザは士官学校に転入させられたのか?」
リュウ「でも、これって当初の目的通りっすよね?」
リュウのあっけらかんとした言葉に私はハッとする。
リュウ「ヒロイン不在とかよく分からないっすが・・・」
リュウ「士官学校編入を回避し、学園は適当に卒業」
リュウ「稼いだ金で悠々自適に暮らす・・・」
リュウ「アネゴの思い描いていた明るい未来じゃないっすか」
確かに自分の望んだ展開ではある。
でも、それは『当初の私』が望んでいた展開だ。
『今の私』はその対価にエリーザに過酷な運命を背負わせるつもりはない。
なぜなら・・・
権田原万里(――エリーザの笑顔が見れなければ意味が無いんだ)
〇寮の部屋
エリーザ「・・・何故、あなたがここにいるの」
荷物を抱え驚いたエリーザが私に問い掛ける。
そりゃ驚くだろう。
寮の部屋のドアを開けたら・・・
ベッドに腰を掛ける私がいたんだから。
権田原万里「何故って・・・ この部屋が2人部屋だからですよ」
権田原万里「私とエリーザさんは相部屋なんです」
私は屈託なく微笑んで見せるが、
エリーザの表情は強張ったままだ。
そして震える声で呟いた。
エリーザ「ここは・・・士官学校の寮なのよ・・・」
エリーザ「貴方まで・・・ ここに来る事なんて無いのに」
そう。
私はエリーザを追って、
士官学校に転入したのだ。
権田原万里「兄が立てるはずだった武勲を私が代わりに立てようと思いまして」
エリーザ「武勲? 元引きこもりのあなたのお兄様には ・・・程遠い言葉じゃない」
権田原万里「まあ、そんな兄も今は経営に大忙しですし 従業員の信頼も厚いんですよ」
権田原万里「だからなかなか従軍する機会が無くて・・・」
権田原万里「なので私が代わりにこの学校に転入しました」
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