第14話「年利365%の愛すべきスキル」(脚本)
〇城の客室
士官学校に編入を決めた晩。
私は自室でヤスとサシで向き合っていた。
ヤス「上手くいきましたぜ!」
ウィンドウ画面が光ると無機質なテキストが流れる。
称号を変更しました
《称号》【慈愛ニ満チタ者】【聖女】
【オ針子】は
《称号》【支配スル者】【暗殺者】
【剣豪】に変更されました
私はヤスにゴリ押しして、マリアンネ固有の聖女系称号を強引に改ざんしたのだ。
私はスキルの項目を確認した。
称号を1つ入手すると、それに付随するスキルが複数付与されるからだ。
権田原万里「付与スキルも変更されたな」
権田原万里「「処刑」「闇討ち」「不意打ち」 「騙し討ち」「不可視」「見稽古」」
権田原万里「・・・まあまあ、使えそうだな」
権田原万里「――念のためとはいえ、 保険もかけておいて良かったぜ」
学生生活ではキャバクラ経営と金貸しに力を入れていたため、商業系の称号はかなり増えていた。
だから私は自身のステータスの底上げのためにそれらのスキルを密かに利用したのだ。
権田原万里(あの頃は3馬鹿どころか、普通の女子生徒よりも劣るステータスってのが気にくわなかっただけだったが)
権田原万里(・・・結果としてオーライだったな)
ヤス「このスキル「トイチ」はまさに万能スキルでしたね」
ヤス「まさか魔力や体力、各種ステータスも利息の対象になるなんて・・・」
ヤス「ゲームの常識が覆りました」
トイチとは借入金利が「十日で一割」の利率の略だ。
債権者に対して年利365%の暴利を稼ぐ事が出来る愛すべきスキルは非常に役に立った。
権田原万里「でも称号が改ざん出来るなら・・・ 【勇者】の称号にも変更出来るんじゃねのか?」
権田原万里「もしくはミハエルの勇者の称号を削除するとか」
ヤス「実はそう思って以前、王子の【勇者】の 称号に手を加えてみたんですが、さっぱりで・・・」
ヤス「どうもこれだけはあっしでも手を加えられねえみたいです」
男しか継承できないってのは、
どうにも曲げないんだな。クソ運営が。
・・・まあ、良い。
こうして士官学校編入前には既に私は対象キャラと変わらない、いやそれ以上の戦闘能力を得たのだった。
〇巨大な城門
士官学校では生徒は士官候補生として、
学校内に設けられている全10個ある中隊に配属される。
ゲームでは3馬鹿のひとりがマルス中隊の隊長だったのに対して。
この世界では私が中隊長に任命され、
奴らとエリーザが私の配下に配属された。
しかし私や3馬鹿が編入した直接的な戦闘を行う普通科ではなく、エリーザは衛生科に編入していたのだ。
ヤス「これはエリーザの親父の配慮ですかね?」
権田原万里「いや、おそらく『強制力』の仕業だろう。治癒系のステータスは聖女系称号獲得には必須だからな」
ゲームではマリアンネの固有称号だった聖女系称号は私が改ざんし、持つ人物がいない。
だからその穴を埋めるため、
戦闘向きではない・・・
というか前半で退場するはずだったエリーザを編入させたのだろう。
そして聖女系称号の保有者候補として、
治癒系称号が獲得しやすい衛生科に配属させた。
権田原万里(・・・『強制力』ってやつは、どうしてもエリーザを代打ヒロインに仕立てたいんだろうな)
権田原万里(まあ、エリーザが直接戦闘に出ないのなら好都合だ)
権田原万里(彼女が傷付いたり殺されたりする心配はないし、だったら私は・・・)
権田原万里(『強制力』の思惑の上にいってやる)
ただ、『強制力』の他に・・・
私の敵はまだ存在していた。
〇上官の部屋
権田原万里「ミュラム城制圧、ですか?」
教官室で私とエリーザに告げられた教官の『作戦命令』。
その内容に思わず問い返した。
教官「ああ、リーメルト公国の君主リーメルト大公の居城であるミュラム城の制圧」
教官「それが君達マルス中隊の初陣だ。 不服かね?」
各国との戦闘も激化し、士官候補生も早々に各地の戦争に駆り出される事になったのはゲーム通りの進行だ。
しかし・・・
権田原万里「いえ。ただ・・・そのような名誉ある作戦に参加するのは、我がマルス中隊だけでは些か兵力が足りないのではと」
リーメルト公国の首都ミュラムにある君主リーメルト公の居城ミュラム城の制圧。
ヤスの話だとゲームでは他の部隊と共に襲撃するが、激しい抵抗を受け全部隊は絶体絶命に陥る。
そこで士官学校では落ちこぼれだったマリアンネは聖女としての力を発揮し、一目置かれる存在になる・・・らしい。
権田原万里(ゲームでは他の隊との合同だったと聞いたが、この世界ではマルス隊単独での作戦かよ。それに・・・)
教官「人手が足りないなら傭兵を雇うなりなんなりすれば良い」
教官「金周りの良いシェンケル家なら私設兵団のひとつやふたつ、用意出来るのではないかね? 多少の事は目を瞑ってやる」
嫌味満載で言う、このモブ教官の名前は
グスタフ・ヘンケル。
あの王子の金をちょろまかして国外追放されたハンス・ヘンケルの叔父だ。
権田原万里(・・・可愛い甥っ子のために私達に一矢報いたいのか。私怨を混ぜるなよ、ったく)
教官「とにかく、ミュラム城制圧後はマルス中隊は撤退」
教官「その後メルクール中隊、ヴェーヌス中隊、 エールデ中隊が城内に突入しリーメルト大公の捕縛・確認を行う」
権田原万里(泥と流血と犠牲はマルス中隊に、 手柄と名誉は他の部隊にか)
権田原万里(ふん、えこひいきもここまで来るとわかりやすいな)
エリーザ「・・・つまり手柄や名誉はやらないが命は 賭けろ、と言う命令なのですね・・・」
エリーザ「随分と呆れた命令ですこと」
教官「――君が帝国の未来を担う薔薇よと褒め讃えられていた頃が懐かしいよ」
教官「今の君は・・・」
教官「まるで枯れた茨だ。棘ばかり鋭く・・・ 全く持って魅力は無い」
エリーザ「誰かに褒めて頂かれなくても結構ですわ」
エリーザ「わたくしは自分の価値は自分で決めますので」
エリーザ「それに・・・ 誰かのお身内の様に褒め讃える対価に勝手に横領などされては困りますもの」
教官「貴様!」
権田原万里「エリーザさん、そこまでで──」
権田原万里「かしこまりました」
権田原万里「マルス中隊以下10名、 謹んで任務をお受けします」
〇城の廊下
エリーザ「・・・あそこで止める事なんて無かったのに」
教官室から退出するなり不服そうに頬を膨らませるエリーザに私は思わず苦笑した。
権田原万里「一応、上官ですからね。それに・・・ 私は既に攻略の糸口は見つけていますから」
権田原万里「リーメルト公国は水の神に対する信仰が深い」
シモン「首都ミュラムは水の神ドーリスの聖地だからな」
シモン「そのため民のドーリスへの信仰心も厚い」
権田原万里「信仰心が厚いから、何度攻撃を受けようとも大公や民はあの地を離れず、同じ場所に首都を再建する」
サーシャ「3度の大戦で焼け落ちてもね」
サーシャ「それに地下水脈を利用した防御魔法が施されている城は難攻不落と言われてるし」
サーシャの言葉に私は鼻で笑った。
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