第11話「おっ立てるのは命日フラグ」 (脚本)
〇西洋の街並み
エリーザ「貴方が一生のお願いと言うから・・・ 心配して来てみたら」
隣のエリーザは呆れたように目の前の建物を眺める。
私達は貴族御用達の百貨店の前に立っていた。
エリーザ「ショッピングに付き合うのが一生のお願いだなんて・・・」
エリーザ「随分安っぽい一生のお願いだこと」
権田原万里「私ってセンスも無いし、 流行も知らないんです」
権田原万里「だから、エリーザ様に色々とお教え頂けたら嬉しいなぁって」
エリーザ「はぁ? 風営業界の流行を作った立役者が何をおっしゃっているのやら」
エリーザ「でも良いでしょう、では今日はわたくしが貴方に淑女の流行をお教えするわ」
肩章を付けた制服姿のドアマンが開く正面玄関のドア。
そこへエリーザは堂々とした足取りで向かっていった。
〇西洋の街並み
エリーザ「こちらのハンカチの刺繍モチーフは・・・ 花なのね」
エリーザ「向日葵、蘭に桔梗・・・ 薔薇のモチーフは無いかしら?」
権田原万里「薔薇、ですか?」
エリーザ「ええ。ローゼンダール帝国民として、そして皇帝陛下の臣民として薔薇を選ぶのは当たり前でしょう?」
胸を張って答えるエリーザに私は問いかける。
権田原万里「帝国民として臣民として、ですか。 もしかして・・・」
権田原万里「エリーザ様が一番好きなお花って、 実は薔薇では無かったりします?」
エリーザ「・・・どうしてそう思うのかしら?」
権田原万里「エリーザ様の自己紹介を聞いた時からなんとなく思っていたのですけど・・・」
権田原万里「薔薇はローゼンダール帝国と国王を象徴する花」
権田原万里「だからエリーザ様は『次期王妃』としてこだわられているだけかなあって」
エリーザ「貴方は・・・」
エリーザ「変なところに鋭いわね」
私の言葉にエリーザは一瞬驚いて・・・
それから観念したように息を吐いた。
エリーザ「──その通りよ。薔薇の花は好きだけど ・・・一番好きな花は別にあるの」
エリーザ「わたくしは・・・真っ白なカサブランカが好きだわ、優美で凛としていて」
権田原万里「白い百合・・・ エリーザ様にぴったりだと思います」
薔薇の様なあでやかな花も似合うが、清純な高貴さの溢れるカサブランカの方が清廉潔白な彼女に似合うかもしれない。
エリーザ「ふふ、ありがとう。 そういう貴方の好きな花は?」
権田原万里「うーん、そうですねえ・・・ ズッキーニの花ですかね?」
エリーザ「ズッキーニの花?」
権田原万里「酢漬けにしたり、揚げたりすると美味しいんですよ」
エリーザ「・・・呆れた。わたくしは貴方の目が喜んで幸せを感じるお花を聞いていたのに」
権田原万里「黄色くて可愛い花ですから目も十分喜びますよ。お腹も膨れて幸せになりますし」
エリーザ「・・・マリアンネさんは、 本当に変わったわね」
エリーザはまじまじと私の顔を見つめる。
エリーザ「以前は何というか・・・儚いガラス細工の様な繊細な印象だったのに・・・」
エリーザ「今はまるで硬くてしなやかな鋼の様だわ」
権田原万里「ありがとうございます」
エリーザ「誉めていません。厚かましくて図々しくなったって事ですわ・・・」
エリーザ「まあ、 今の貴方は嫌いではありませんけどね」
権田原万里「え、それって・・・」
エリーザ「ほら、わたくしばかりではなく、貴方も選びなさいな。ドレス? アクセサリー?」
権田原万里「あっ! そうやってはぐらかすのはズルいですよ」
権田原万里「それに私は良いんです。 服は制服だけで十分ですし」
エリーザ「制服だけで十分だなんて・・・」
エリーザ「貴方、ミハエル様から色々とプレゼントされてるのではなくて?」
権田原万里「プレゼント・・・? いいえ、全く」
エリーザ「ではお礼のお手紙も書いていないの?」
権田原万里「ええ、1枚も」
確かに王子からは手紙は来るものの、
読まずに捨てているし、返信もしてない。
エリーザ「そう・・・」
エリーザは何か考え込むように顎に手を当てた。
権田原万里「何かありました?」
エリーザ「いいえ、気にしないで頂戴」
・・・これは何かあるな。
エリーザがこうやって躊躇するって事は、
噂絡みで何かある。
彼女は噂を良しとしないタイプだから告げ口をするようで言いたくないのだろう。
まあ良い、
後でリュウにでも調べさせるか。
エリーザ「――ねえ、マリアンネさんは・・・ やはり舞踏会に出席しないおつもりなの?」
権田原万里「はい。家業が忙しいですし、 パートナーも決まっておりませんし」
エリーザ「ミハエル様なら・・・ きっと今からでも喜んで、貴方のパートナーになるのではなくて?」
囁くように呟くエリーザの言葉に私は笑う。
権田原万里「冗談が過ぎますよ。第一、王子はエリーザ様の婚約者ではありませんか」
エリーザ「そうね・・・ふふ。 わたくし、何を言っているのかしら・・・」
エリーザ「マリアンネさん、 今の言葉も気にしないで頂戴ね」
私は含みのある彼女の言葉に問い質したかった。
けれどもさっきの件と同じく、
はぐらかすだろう。
なので・・・
ここは話題を変え、いつも不満に思っていた事をこの機会に彼女にぶつけてみた。
権田原万里「あの・・・エリーザ様」
権田原万里「そろそろ、さん付けは止めて・・・ 呼び捨てで呼んで頂ければと思うんですが」
エリーザ「え?」
権田原万里「恐れ多いのは重々承知しているのですが・・・」
権田原万里「私と、 エリーザ様はもう既にお友達ですよね?」
エリーザ「おおおお、お友達っ!?」
大きくのけ反るエリーザに私はずい!
と距離を縮めた。
権田原万里「ええ、私はお友達だと思ってますが・・・ エリーザ様はどうお考えでしょうか?」
エリーザ「そ、そうね・・・わたくしと貴方は、 その、あの・・・」
エリーザ「一応は、お友達って言う関係になるわね」
権田原万里「でしたら・・・」
エリーザ「で、でも! ・・・わたくし、 ・・・その・・・」
エリーザ「お友達を呼び捨てにした事って無いの・・・」
権田原万里「だったら、なおさら呼んでください」
逃げ腰及び腰のエリーザに私は語気も強く畳みかける。
エリーザ「わ、わかったわ・・・ 貴方がそうおっしゃるなら・・・ ま、ま・・・」
エリーザ「――マリアンネ」
よっしゃエリーザのお初、ゲットだぜ。
でも・・・
やっぱりソッチじゃしっくりこねえな。
権田原万里「エリーザ様。マリアンネではなく、 愛称のマリでお願いします」
エリーザ「ま、・・・マリ・・・って、駄目よ!」
エリーザ「・・・貴方もわたくしを呼び捨てにしてくれないと」
権田原万里「それは無理ですよ、だって私はしがない男爵家の娘であなたは高貴な公爵令嬢」
権田原万里「身分が違い過ぎます」
こういう上下関係ははっきりさせておかないと筋が通らないし、私の気が済まない。
しかし不満そうにエリーザは頬を膨らませた。
エリーザ「・・・貴方が言ったのよ、 わたくし達はお友達だって」
権田原万里「しかし、それとこれとは・・・」
エリーザ「違いませんわよっ!」
権田原万里「・・・わかりました、では・・・ エリーザさん、でどうでしょうか?」
エリーザ「・・・そこがあなたの妥協点なのね。 はぁ・・・仕方ないけど良いわ、マリ」
ぷい、と私に背を向ける。
権田原万里「ご理解頂いて何よりです、エリーザさん」
しかし・・・。
こう、改まって「友達」である事を確認すると、なんだか恥ずかしい気持ちになるな。
エリーザも同じ気持ちなのだろう。
背を向けつつも、
耳が真っ赤になっている。
でも恥ずかしくても・・・
「マリ」「エリーザさん」と互いを呼び合う事は、とても嬉しかった。
〇宮殿の門
エリーザの母「エリーザ、 あなた宛てにドレスが届いているわよ!」
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