第12話「指を詰めるに決まってんだろ」(脚本)
〇大広間
ミハエル「往生際が悪いぞ、エリーザ!」
エリーザ「わたくしはマリをいじめてなどおりません!」
舞踏会の当日。
制服姿の私がヤスと共にホールへ足を踏み入れると・・・。
王子やシモン、サーシャがドレス姿のエリーザを取り囲み、糾弾している真っ最中の様だった。
権田原万里(覚悟はしていたとはいえ、 胸糞悪いな・・・まるで魔女裁判だ)
ミハエル「マリアンネに対しての君の非道は既に周知の事実だと言うのに、なぜそう頑なに認めない?」
エリーザ「それは全て誤った事実だからです」
エリーザはまっすぐに前を向いて答える。
エリーザ「わたくしが陰で何を言われているか、 どう思われているか存じてますし、 言い訳も弁明も致しません」
エリーザ「けれども、マリは・・・ わたくしの親友なのです」
エリーザ「その大切な親友をいじめているという点だけは、絶対に認めるわけにはいきませんわっ!」
ヤス「・・・おかしいですね。ゲームではエリーザはすんなりいじめを認めたのに」
権田原万里「確かに・・・ゲームではそうだろうな」
ゲームの世界だったら。
親愛度が全く無いマリアンネに対してのいじめを、勝手に周囲に誤解されようが彼女はきっと気にも留めなかったはずだ。
でも今は違う。
この世界では私とエリーザは友人であると互いに確かめ合った。
そして・・・彼女は決して約束を違えない
まっすぐな人だ。
その関係を否定されたならば、
全力で訂正するだろう。
権田原万里(――その信頼には全力で答えないとな)
私はゆっくりとホールの中央の『糾弾会場』に歩み寄った。
エリーザ「マリ!」
ミハエル「ちょうど良かった。今、エリーザの君への 悪行を糾弾しているところだ。 もう安心して良いよ、君は私が・・・」
権田原万里「糾弾? 奇遇ですね、 私もそのためにお伺いしたのです」
権田原万里「ただ・・・私はエリーザさんを糾弾する気はありません」
私は数枚の便箋を取り出した。
権田原万里「ミハエル様、 この便箋に見覚えがあります?」
ミハエル「もちろんだ。そのピンクの薔薇があしらわれた便箋はマリアンネ、君のものだ」
ミハエル「私への返信の手紙はその便箋で必ず書いてくれたね」
権田原万里「ミハエル様、 私はこの便箋を使った事はありません」
権田原万里「それどころかあなたにお手紙を出した事も無いのです」
ミハエル「え? まさか・・・だって私は・・・ 君から援助に対してお礼の手紙を・・・」
権田原万里「援助? 私、一度もミハエル様から頂いた事はありませんよ、物もお金も──」
権田原万里「カーチャ夫人も、そうですよね?」
私が人だかりに声を掛けると、
1人の婦人が前に進み出た。
カーチャ夫人「ええ、マリアンネ様。 誓って申し上げますわ」
私の言葉にカーチャ夫人は自信たっぷりに頷く。
ちなみに言うと、私と彼女は今では極めて良好な関係を結んでいる。
彼女にホストクラブの招待状を送り、
家庭教師のお礼としてたっぷりと遊んでもらったからな。
男好きする夫人はホストクラブをいたく気に入ったらしく、今ではうちのホストクラブの常連だ。
カーチャ夫人「マリアンネ様の家庭教師を務めた際に、 私ははっきりと伝えられました」
カーチャ夫人「『これは報酬は出ないが殿下から直々に仰せつかった、大変名誉ある務めである』と」
カーチャ夫人「――そこにいらっしゃる、 殿下の侍従ハンス・ヘンケル卿に」
王子の後ろに隠れるように控えていたハンスの肩がピクッと震える。
権田原万里「この便箋はハンス様の机の引き出しからたまたま見つけたものです」
ミハエル「ハンス・・・まさか君がそんな事を・・・」
ミハエル「君はマリアンネの好みを把握していると ・・・だから全てを任せたのに・・・」
ハンス「殿下、信じてください! 私が殿下を欺くようなことするはずはありませんっ!」
権田原万里「・・・ハンス様、あなたは歓楽街の賭博場にかなりの頻度で出入りをされているようですね」
ハンス「王子! こんな女の言葉など耳を貸す必要はございませんっ!」
権田原万里「では目を貸して頂きましょうか?」
そう言うと私はリュウから渡された書類の束を王子に渡す。
権田原万里「こちらはハンス様の賭博場での借金の証書です」
権田原万里「しかし借金をしてもすぐにご返済をされますよね、一体どこからお金を工面されてるのでしょう?」
ハンス「こんなの・・・どうやって・・・」
今や私は、この街の貸金業の総元締め。
レアな《称号》【金ヲ貸ス者・極】は
伊達じゃないんだ。
こいつはマリアンネを舐めていたんだろう。
だから王子からのマリアンネへの贈り物の資金は全て横領して、マリアンネを騙って王子に手紙を書いていた。
そしてバレても、慈悲深く聖女の様なマリアンネなら上手く口裏を合わせてくれると思ってたんだろう。
でも『私』は違う。
そして、大切な友人もコケにされたんじゃ
・・・タダじゃおかないに決まってる。
権田原万里「エリーザ様は王位第一継承者の婚約者。 皇帝陛下の名によって毎月、支度金が支給されています」
権田原万里「でも、この支度金が国庫から捻出されている金額と微妙に合わないんです」
権田原万里「そしてその合わなくなった時期は・・・ あなたが借金を始めた頃と同じ時期なんですよね」
権田原万里「私に贈ったはずの贈り物、 私に援助したはずの金銭、」
権田原万里「そしてカーチャ夫人への報酬・・・ それらは全て消えた」
権田原万里「――それだけではなく、未来の王妃のエリーザさんへの支度金まで手を付けるとは」
ハンス「そ、それは・・・」
権田原万里「ねえ、ハンス様。 この落とし前はどう付けるおつもりです?」
ハンス「お、落とし前?」
権田原万里「――ケジメって事だよ、この小悪党が」
途端、リュウがハンスに飛び掛かった。
そしてうつ伏せにして床にねじ伏せ、
その手を抑えつける。
ハンス「ちょ・・・、なにをっ!」
リュウ「何をって・・・ケジメっすよ、 アネゴの話を聞いてました?」
権田原万里「ケジメって言ったら指を詰めるに決まってるだろ」
ハンス「ゆ、指を詰めるっ!?」
権田原万里「リュウ、きちんと押さえてろ・・・ いくら私でも暴れられれば、指どころかうっかり手首ごと切り落としちまう」
そう言ってヤスから渡された短刀(ドス)の鞘を抜いて私はハンスに近づく。
その時、
ヤスの前にミハエルが立ちはだかった。
ミハエル「やめてくれ! マリアンネ!」
ミハエル「彼は・・・彼は私の乳兄弟であり、 大切な侍従なんだっ!」
ミハエル「私が責任を持ってきちんと罪は償わせるっ! だから・・・」
シモン「そ、そうだマリアンネ・・・ 神も仰っている、罪を憎んで人を憎まずと」
サーシャ「う、うん・・・こんな場所で騒ぎ立てるのはちょっとさ・・・」
サーシャ「だからいつもの優しいマリアンネに戻ってよ」
ブチッ
3馬鹿の哀願に私の中で何かが切れた。
権田原万里「だからなんだ? アホを庇い、 挙句に罪を憎んで人を憎まず?」
権田原万里「てめえらどこまで頭が腐ってんだ!」
権田原万里「こんな場所で騒ぎ立てるな? エリーザさんを冤罪で吊し上げたのは誰だよ!」
権田原万里「てめえらの指も詰めてやろうか、ああっ!」
「ヒ、ヒッ!!!」
エリーザ「――止めて、マリ。 わたくしは誰の指もいらないわ。 そんなもの、何の役にも立たないもの」
ブチ切れた私と怯える3馬鹿。
唯一当事者の中で冷静なエリーザは静かな声で淡々と言葉を紡いだ。
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