異界凶器 ~壊れるほど斬りつけても、3分の1も伝わらない~(脚本)
〇図書館
玲緒「もう、後輩ちゃんの試合が始まる時間! 急いでいかないと!」
玲緒「応援を頼まれた以上、きちんと応えないと」
白「さっきも言ってたな。何の試合があるのだ?」
ぬりかべ「そいつは、この文化祭の一大イベント」
〇体育館の外
〇体育館の中
玲緒「異世界探索メンバーの選抜トーナメントです」
体育館では、中を8つのスペースに区切り、そこに簡易のリングを建てて、試合を行っていた
リングの周りはもちろん、二階のギャラリーにも多く生徒や観客がごった返していた
白「なんだ、この盛り上がりは」
ぬりかべ「異世界へ行く実力がある奴を選び出すトーナメントさ」
玲緒「異世界転生した先が安全とは限りません。だから、戦闘技術も評価されるんです」
玲緒「私達が帯剣を許されているのも、その一環ですね」
ぬりかべ「剣だけじゃねぇぜ? 俺はナックルだし、他にもメイスや槍なんかの使い手もいる」
ぬりかべ「そんな奴らが異世界転生の椅子を求めて勝ち抜き戦をやるんだ」
ぬりかべ「滅茶苦茶、燃えるだろ?」
白「うむ、分かるぞ」
白「異界の英雄もまた、「そうだ、嬉しいんだ、生きる悦び」と戦いを詠っていたものだ」
玲緒「何か聞いたことがある歌ですが、そういう意味じゃない気がします!」
ぬりかべ「多種多様な武器でやり合う派手さと、負けたら終わりのドラマ性もあって、人気なのは本当だぜ?」
玲緒「私には、そういうドラマ性とかわかりませんけどね」
ぬりかべ「なんだ、この熱狂は。まだ予選だぞ」
白「あの隅の闘技場だ」
玲緒「あれは!」
白「玲緒?」
玲緒「嘘でしょ・・・?」
〇体育館の舞台
風紀委員・後輩「くっ」
どうでもいい風紀委員「ちょこまかと逃げて、諦めの悪い奴だ」
どうでもいい風紀委員「それとも、まだこれに勝てると思ってるのか?」
ぬりかべ「なんだ、あの武器は?!」
男の持つ凶器は、その柄が男の身の丈よりも長く、槌は頭を覆い隠せる大きさがあった
見た目通りの重量もあるらしく、男が全身の力で辛うじて支えていた。必然、直撃すれば、致死の威力を彷彿とさせた
だが、何より特筆すべきは、その凶器から滲み出る鼻をつく刺激臭をはらんだ邪気──
白「昨夜の、魔族を生み出した武器と同じ気配」
白「あ奴、何故、あんなものを持っている!」
風紀委員・後輩「笑わせないで」
風紀委員・後輩「そんな武器に頼るだけで、矜持も持たない人に」
風紀委員・後輩「私が負けるとでも?」
どうでもいい風紀委員「いつも後ろでビクビクしてるくせに、いきりやがって」
どうでもいい風紀委員「ぶっとべ!」
男が凶器を地面に叩きつけると、後輩の足元と、その前と左に薄気味悪く泡立つ影が生まれる
それは後輩が逃げ出すより早く、地面から天へと、間欠泉の如く、闇を吹き上げた
風紀委員・後輩「あああぁぁぁ!」
避けきれぬと悟った後輩は剣で幾度も斬りつけるが──
未知の力を前に剣は容易く折れ、闇は彼女の体を飲み込むのだった
風紀委員・後輩「きゃあぁぁぁ!」
どうでもいい風紀委員「弱虫が、俺を馬鹿した報いだ」
「正々堂々と戦う人を弱虫扱いですか」
玲緒「卑怯者らしい言いぐさですね」
闇が後輩を包み込む、その刹那、玲緒は彼女を抱えて、リングの隅へと移動していた
風紀委員・後輩「先輩・・・」
どうでもいい風紀委員「人の試合に割って入るのは、規則違反じゃないのかよ?」
玲緒「レフェリーストップです」
どうでもいい風紀委員「はっ! そいつの代わりに試合続行不可能を決めたわけか。妥当だな」
風紀委員・後輩「わ、私、まだ戦えます」
玲緒「私が止めたのは、反則行為があったからですよ」
どうでもいい風紀委員「反則だと?」
白「反則があったのか?」
ぬりかべ「いや、分からねぇ。あの野郎、確かに際どい攻撃してるが、それを反則かというと・・・」
どうでもいい風紀委員「何が反則っていうんだ?」
どうでもいい風紀委員「戦闘放棄した相手への追い打ちか? そいつはまだやる気あるだろ」
どうでもいい風紀委員「それとも怪我させたのを危険行為ってか?」
どうでもいい風紀委員「力の差があるんだ、怪我したって仕方ねぇよな?」
どうでもいい風紀委員「まさか、そいつがやられてカワイソウとか言って、俺を反則にするとかじゃねぇよな?」
玲緒「あのですね。何故か誰も何も言いませんが」
玲緒「試合での使用は学園支給の武器しか認められてませんから」
ぬりかべ「何だと?!」
ぬりかべ「今まで、俺と戦った奴ら、角材やチェーン、栓抜きとか持ち込んできてたぞ。それが普通じゃないのかよ」
白「それは我も普通ではないと思うぞ」
玲緒「学園支給武器のスペックが高いから、わざわざ他の武器を使う人はいないので、有名無実化してますけどね」
玲緒「何か申し開きは?」
性格悪そうな風紀委員「し、審判は何も言ってませんよ」
玲緒「それが何か?」
性格悪そうな風紀委員「試合においては、審判が絶対。審判が白と言えば、例えそれが黒でも白になるんですよ」
性格悪そうな風紀委員「ね、審判」
審判「え? あ、いや」
白「この世界では、そういうものなのか?」
ぬりかべ「確かに、一理ある」
ぬりかべ「大きなスポーツの大会で、審判を買収して自分達に有利な判定を下したなんて事件があるほどだ」
ぬりかべ「それに、これは俺の話だが、何故か対戦相手が二人組になっても、審判が反則取らずにそのままやりあうこともあった」
ぬりかべ「あの時はそういうもんだと思ってたが、あれは審判もぐるだったのか」
白「大丈夫か、この世界」
どうでもいい風紀委員「どうなんだ、審判?」
どうでもいい風紀委員「なあ、グループAの俺らと女帝。どっちにつくべきか分かってるよな?」
審判「は、はいぃ」
審判「な、何も問題ありません」
性格悪そうな風紀委員「決まりですね」
ぬりかべ「くそが! あの野郎、審判を抱え込みやがった」
白「何故、あのような輩の肩を持つ」
ぬりかべ「スクールカースト・・・と言っても分からねぇか」
ぬりかべ「要は奴らは貴族のぼんぼんで、下々を脅してる。こんな感じだ」
白「卑劣な!」
どうでもいい風紀委員「さあ、結論は出た。さっさとどいてくれますか、先輩?」
どうでもいい風紀委員「それともまだ何か何かありますか?」
玲緒「当たり前でしょうが!」
玲緒「不正をしておいて、それをもみ消す? そんなの風紀委員長として見逃すわけないでしょう」
どうでもいい風紀委員「ひ、人聞きの悪い。証拠があるのかよ」
どうでもいい風紀委員「証明できなかったら、責任とって風紀委員長の辞任でもするんですか?」
玲緒「この!」
風紀委員・後輩「や、やめてください、先輩」
風紀委員・後輩「これ以上やっても無駄です」
玲緒「でも・・・」
風紀委員・後輩「私が悪いんです。私が弱かったから、先輩みたいになれなかったから・・・」
風紀委員・後輩「これ以上、先輩に迷惑かけたくないんです」
どうでもいい風紀委員「だとよ。ほら、もういいだろ?」
ぬりかべ「よし、あいつ、殴ってくる」
白「よしやるぞ・・・と、言いたいところだが、やめておけ。何の解決にもならん」
白(とはいえ、あの凶器だけでも破壊する必要はある)
白(今、動くべきか。しかし、剣を振れば、また眠りについてしまうだろう。その間に、また凶器から魔獣がでてきたらどうする)
白(この人の密集した場所では、我が剣技で魔獣を一掃しなければ、大惨事になるぞ)
白(どう動く?)
玲緒「分かりました」
どうでもいい風紀委員「やっと諦めたか」
玲緒「この試合、私が引き継ぎます」
ぬりかべ「は?」
白「なるほど、その手があったか」
ぬりかべ「いや、ねぇよ!」
ぬりかべ「試合を引き継ぐとか聞いたことねぇよ。いや、そもそも引き継いで何する気だよ」
どうでもいい風紀委員「試合を引き継ぐ?」
玲緒「はい。そして、私はあなたを倒して、その凶器を没収します」
玲緒「次の試合がない以上、何ら問題ありませんよね?」
玲緒「その上で、この武器の使用が適正かを審議します」
どうでもいい風紀委員「ぶ、武器の審議なんて、今日の試合が終わってからでいいだろ」
玲緒「ダメですよ、こういうのは現行犯じゃないと」
玲緒「証拠品にハリボテの偽物とか提出されても困りますからね」
どうでもいい風紀委員「いや、だからって、試合を引き継ぐとか聞いたことないぞ」
玲緒「前例がないなら作ればいい! 審判、返事は?!」
審判「は、はいぃ!」
どうでもいい風紀委員「お、おい!」
玲緒「審判のOKも出たので、問題ありませんよね? なにしろ、試合において審判は絶対なんですから」
白「無茶な理論を、力技で押し通したぞ」
ぬりかべ「相手が不正を働いてんだ。このくらいバカな真似して丁度いいんだよ」
玲緒「さあ、どうしますか?」
性格悪そうな風紀委員「い、いいでしょう」
どうでもいい風紀委員「おい、バカ! 勝手に決めるな」
性格悪そうな風紀委員「ただし、試合を引き継ぐと言った以上、条件は同じにしてもらいますよ」
玲緒「条件?」
性格悪そうな風紀委員「そいつの使ってた制剣を使うってことですよ」
性格悪そうな風紀委員「あ、折れてるけど、仕方ありませんよね。引き継ぐんだから」
玲緒「・・・いいでしょう」
性格悪そうな風紀委員「それと」
性格悪そうな風紀委員「あなたが負けたら、風紀委員長を辞任してもらいます」
性格悪そうな風紀委員「無茶な要求を通したんです。そのくらいのペナルティ覚悟してるんですよね?」
性格悪そうな風紀委員「みなさん、どう思いますか?」
白「向こうも煽りおる」
ぬりかべ「ふざけんな! そんな条件出すなら俺が代わりにやってやる!」
白「だから止めぬか。これ以上、話をややこしくするな!」
玲緒「いいでしょう。断ったら、引き継ぎの話すら有耶無耶にするつもりでしょうし」
性格悪そうな風紀委員「決まりですね」
性格悪そうな風紀委員「では、二人とも立ち礼の位置へついて下さい」
玲緒「ちょ、着替えてないんですが?」
性格悪そうな風紀委員「偽物を用意する時間を作られても困るのでしょう? 少し動きづらいですが、制服でいいじゃないですか」
玲緒「くっ!」
玲緒「言っておきますが」
玲緒「私は常に下にスパッツ履いてるので、変な期待はしないで下さい!」
どうでもいい風紀委員「だ、誰もそんな期待してねぇよ!」
どうでもいい風紀委員「さっさと始めるぞ!」
ぬりかべ「この馬鹿、何考えてやがる」
ぬりかべ「その黒服、どんだけ必死に手に入れたか忘れたのか?」
風紀委員・後輩「そうです。あんなのほっておけばいいじゃないですか」
玲緒「不正に真っすぐ挑んだ人が苦汁を嘗めるなんて、あっちゃいけないんです」
玲緒「なんて格好つけてますが、本当はただ私がムカついただけです」
白「玲緒」
白「敵の持つ凶器は、間違いなく異界の武器だ。油断するなよ」
玲緒「獅子はウサちゃんを狩るのも全力といいます」
玲緒「なら、玲緒は全力に全速で、完膚なきまでに、勝利を掴んできます」
白「頼もしいな」
白「よし、行ってこい!」
玲緒「はい!」