極悪非道の正統ヒロインですが清廉潔白な悪役令嬢と幸せになります~咲かせて魅せます、百合の華~

イトウアユム

第6話「這いつくばって土下座しなさい」(脚本)

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〇ヨーロッパの街並み
  何かを探すように周囲を見渡すエリーザ。
  そしてそんな彼女をじっと見つめる浮浪者の少年がいた。
ヤス「気付きました? あいつ、ゲームでマリアンネにちょくちょく小遣いをせびっていたガキですよ」
権田原万里「説教すると、子供を働かせるのかとだの、 世の中が悪いだの言い訳ばかりしやがったガキだよな」
  そんなガキにこの女は「かわいそう」とすぐに施すからイライラしてたっけ。
  タカリに来たら、ゲンコツでもくれてやるかと、軽く拳を握り締めて待っていたのだが。
ヤス「・・・おや? あのガキ、 エリーザのところに向かってますね」
浮浪者の少年「お貴族様、どうかお恵みを・・・ 俺は天涯孤独で・・・ もう3日も食べていないんです」
浮浪者の少年「・・・恵まれないものに施すのはノブレス・オブリージュ 貴族の義務ですよね?」
  憐れそうに、しかししたたかに語り掛ける少年にエリーザは痛ましそうに目を細めた。
エリーザ「まあ、難しい言葉をよくご存じね・・・ 良いわ、施してあげる」
  そう言うと・・・エリーザは冷たい笑みを浮かべて地面をゆっくりと指さす。
エリーザ「――わたくしにめぐんで欲しいのなら・・・」
エリーザ「そこに這いつくばって土下座して、 涙ながらにお願いしなさいな」
「!!!」
  エリーザの言葉に一瞬、
  周囲の空気が凍り付く。
ヤス「・・・さすが悪役令嬢・・・ 学園の外でも相変わらずえぐいですね」
リュウ「・・・いやあ・・・子供相手にあんな事、 なかなか言えませんって」
権田原万里「――・・・はぁ、揃いも揃って阿呆が」
「え?」
  確かに一見、非道な仕打ちに見える。
  しかし・・・私は少年を煽るエリーザの真意に気付いた。
浮浪者の少年「土下座?! て、てめえ・・・ 金持ちだからって馬鹿にすんなっ!」
  最初は呆気に取られていたものの、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす少年にエリーザは微笑む。
エリーザ「そんな悪態をつける元気があるなら大丈夫ね・・・これをさしあげるわ」
  そう言ってエリーザは1枚の名刺を少年に渡す。
エリーザ「わたくしは帝国の太陽に寄り添う誇り高き薔薇、エリーザ・アイファー・ユヴェーレンよ」
エリーザ「この先の慈善院に行き、 私の紹介だとこれを見せなさい」
エリーザ「そうすれば温かいスープとパンが提供されるわ」
エリーザ「――職業訓練を真面目に受ければね」
浮浪者の少年「子供の俺に・・・働けって言うのか?」
  少年の言葉にエリーザはコロコロと笑った。
エリーザ「ふふ、まさか。わたくしは人に何かを押し付けたりはしないわ」
エリーザ「ただ、物乞いをするよりも能力が正当に評価される労働の方が貴方に合うと思っただけよ」
エリーザ「――わたくしの言葉にプライドを捨てずに否定し、怒った貴方ならね」
浮浪者の少年「・・・・・・」
浮浪者の少年「俺の名前はゲルトだ」
エリーザ「そう。ゲルトと言うのね。 貴方の名前、覚えておくわ」
  微笑を浮かべたままのエリーザにゲルトは何も言わずその場から去った。
ヤス「・・・どうしたんでしょう? あのガキ、マリアンネには名前を教えた事なんてなかったのに」
権田原万里「・・・おまえだって舐めてる相手に名前なんて教えるつもりも無いだろ」
権田原万里「エリーザの事を対等な存在だって認めたんだろうよ、あのガキは」
  エリーザはあのガキ・・・
  ゲルトを対等な人間として接した。
  だから施さず、仕事を与えようとした。
  その心意気にゲルトは心を打たれ、名を名乗った相手に自分も礼を尽くして教えた。
  たったそれだけの事だ。
  でも・・・それだけの事が当たり前のように出来る人間なんてのはそういない。
権田原万里「――おまえら、先に帰ってろ」
  そう言い捨てると私はエリーザの元に駆け寄った。
  私は興味が湧いてきたのだ。
  エリーザ・アイファー・ユヴェーレンと言う悪役令嬢に。

〇ヨーロッパの街並み
権田原万里「エリーザ様」
エリーザ「マリアンネさんっ!」
  エリーザは私の姿に気付くや否や、
  慌てて駆け寄ってきた。
エリーザ「何をしていらしたの? 今日、貴方は学園をお休みしていたのにこの街に入っていくのが馬車から見えたから・・・」
権田原万里「もしかして・・・ 私を探していたんですか?」
エリーザ「べ、別に心配なんてしていなくてよ!」
エリーザ「ただ、この辺りは治安が悪いから・・・」
エリーザ「学園の生徒として貴方の素行が気になっただけですっ!」
エリーザ「それに今日休んだのも・・・風邪でもひかれたのかと気になっておりましたし」
エリーザ「昨日は魔法で乾かすだけではなく、 馬車で送ってあげるべきでしたわね・・・」
エリーザ「って、勘違いしないでくださいね!」
  そう言ってバツが悪そうにそっぽを向くエリーザ。
エリーザ「・・・学園の模範生として気にしているだけですから」
権田原万里「ふふっ」
  その姿がなんだか可愛らしくて私は思わず笑ってしまった。
エリーザ「な、なにがおかしいんですの?」
権田原万里「申し訳ありません・・・ エリーザ様はお優しいんですね」
  私の言葉にエリーザは驚いたように目をぱちくりさせ、訝しそうに零す。
エリーザ「・・・優しいなんて言われたのは初めてだわ」
エリーザ「それに貴方は・・・ わたくしの事が苦手でしょう?」
権田原万里「いいえ、 苦手なんて思った事はありませんよ」
権田原万里(――少なくとも「私」はな)
  私の言葉に彼女は何かを考えこむように黙り・・・そして口を開いた。
エリーザ「淑女は立ち話なんてしないものよ・・・」
エリーザ「この近くにティーサロンがあるの。 よろしければ・・・いかがかしら?」
エリーザ「もう少し、 貴方とお話をしてみたいと思いましたの」
エリーザ「・・・貴方が嫌でなければ、ですけど」

〇レトロ喫茶
権田原万里「――先日は大変申し訳ございませんでした」
  席に着くなり、
  私はエリーザに深々と頭を下げた。
エリーザ「・・・いきなり、どうなさったの?」
権田原万里「先日のクッキーの件です。 心よりお詫びを申し上げ・・・」
権田原万里「そして感謝いたします」
権田原万里「エリーザ様に叱責頂けなければ、私はミハエル様に取り返しのつかない軽率で非礼な行動を取っておりました」
エリーザ「わ、わたくしも・・・食べ物を粗末にしてしまって申し訳なかったわ・・・」
エリーザ「言い訳がましく聞こえると思うけれど ・・・払い落とすつもりはなかったの」
権田原万里「はい。わかっておりますから」
  私の言葉にほっとしたように息を吐いたエリーザは、今度は言いにくそうに問い掛ける。

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