エピソード3(脚本)
〇グラウンドの隅
浅野夏美(あさのなつみ)「そっちの提案どおり」
夏美は腹を押さえてかがみこんだ晶子の肩を躊躇なく蹴とばした。
片野晶子(かたのあきこ)「わっ!」
晶子がのけぞって2メートルほど後ろに吹っ飛んでいく
戸田瀬里奈(とだせりな)「えっ!」
柳川るみ(やながわるみ)「怪力すぎるんだけど!」
片野晶子(かたのあきこ)「うう・・・」
夏美は晶子の所まで歩いていくと、上から威圧的に見下ろして
浅野夏美(あさのなつみ)「屋上から私を落としたことも」
晶子の横腹を蹴りつける
片野晶子(かたのあきこ)「うぐっ!」
浅野夏美(あさのなつみ)「真琴をいじめてたことも黙っててあげる」
腹を押さえて倒れ込み、えびのように丸まった晶子の背中を蹴る
片野晶子(かたのあきこ)「あうっ!」
とどめのように晶子の顔を踏みつけ
浅野夏美(あさのなつみ)「だからこれも、私達の秘密ね?」
そのまま夏美は晶子の顔面をぐりぐりと踏みにじる
〇グラウンドの隅
根木真琴(ねぎまこと)(夏美、大丈夫かな)
須藤先生が救急車を呼んでくれている間
すぐに夏美の元へと、とって返す
根木真琴(ねぎまこと)(片野さんたちに乱暴されてないといいけど・・・)
夏美のいた植え込みが見えてきた時、
根木真琴(ねぎまこと)「え・・・!?」
一瞬、何が起こっているのか分からず
植え込みの手前で立ちつくす
片野晶子(かたのあきこ)「う、うう・・・」
晶子の顔面を夏美が踏みつけている
さらにその晶子の様子をスマホに撮っていた
根木真琴(ねぎまこと)(あれは・・・夏美? 夏美なの!?)
根木真琴(ねぎまこと)(信じられない)
いつも明るくて正しくて
そして暴力をとても嫌っていた──
あの夏美だとは思えない振る舞いだった
根木真琴(ねぎまこと)(と、とにかく止めなきゃ)
根木真琴(ねぎまこと)(でも・・・)
足が動かないのは恐怖だけではなかった
〇黒背景
いい気味だ
〇グラウンドの隅
いつも自分をいじめてた相手がこてんぱんに殴られている
どこか仄暗い満足感が密かに胸の奥に満ちていく
疎の長(そのおさ)「ふふふ・・・甘露であろう」
根木真琴(ねぎまこと)(えっ!?)
耳元で低く笑われた気がしてびくりとして振り返る
根木真琴(ねぎまこと)(誰もいない・・・)
根木真琴(ねぎまこと)(今、誰かに本心を覗かれたような・・・)
片野晶子(かたのあきこ)「グウッ!」
また晶子の呻き声が聞こえ
はっと我に返り、
根木真琴(ねぎまこと)(そうだ、 ゆっくりしている場合じゃない)
後ろを振り返り、まだ須藤先生の姿が見えないことを確認すると
根木真琴(ねぎまこと)「夏美!」
夏美がふと顔を上げ、大きく手を振る
浅野夏美(あさのなつみ)「あ、真琴」
暴力と笑顔
──そのちぐはぐな行動が夏美をいっそう不気味に見せたけれど
根木真琴(ねぎまこと)(夏美をおとなしくさせないと)
夏美にまっすぐ向かっていき
根木真琴(ねぎまこと)「何してるの!」
浅野夏美(あさのなつみ)「うーん、掃除?」
根木真琴(ねぎまこと)「え?」
浅野夏美(あさのなつみ)「自分の命の主(あるじ)の道を掃除するのは当たり前だけどね・・・」
根木真琴(ねぎまこと)「・・・意味が良く分からないよ」
浅野夏美(あさのなつみ)「真琴の邪魔者を排除するってことだよ」
夏美が横たわる晶子の頭をごつんと蹴る
根木真琴(ねぎまこと)「やめなよ!」
浅野夏美(あさのなつみ)「本当に? やめろって、それが真琴の本心なの?」
根木真琴(ねぎまこと)「え・・・」
夏美がじぃっと見つめてくる
根木真琴(ねぎまこと)「そ、それよりもうすぐ須藤先生が来るんだよ」
根木真琴(ねぎまこと)「暴力なんてやめて」
根木真琴(ねぎまこと)「こんなことしてたら夏美が怒られちゃうよ」
根木真琴(ねぎまこと)「そんな夏美、見たくないし」
根木真琴(ねぎまこと)(これは本心だから)
怖いような真剣さで見つめていた夏美が、ふと瞬きをして
浅野夏美(あさのなつみ)「わかった」
夏美はようやく晶子の頭から足をどけた
ほっと小さく息を吐いた時・・・
疎の長(そのおさ)「使役、相成(あいな)せり」
根木真琴(ねぎまこと)「えっ!」
また、あの声がした
片野晶子(かたのあきこ)「・・・学級委員」
浅野夏美(あさのなつみ)「なあに?」
片野晶子(かたのあきこ)「・・・あんた」
片野晶子(かたのあきこ)「こんなやり方・・・できるヤツだったっけ・・・」
浅野夏美(あさのなつみ)「びっくりした?」
片野晶子(かたのあきこ)「ああ・・・そうだね まるで別人だ」
片野晶子(かたのあきこ)「でも」
片野晶子(かたのあきこ)「だったらなんでウチらのこと、チクったのさ」
片野晶子(かたのあきこ)「そんな必要、なかったじゃん」
浅野夏美(あさのなつみ)「──眠りから覚めたからかな」
片野晶子(かたのあきこ)「・・・は?」
浅野夏美(あさのなつみ)「やっぱり先生なんかに真琴を助けることなんてできないだろうし」
片野晶子(かたのあきこ)「は・・・学級委員のセリフとは思えないね」
浅野夏美(あさのなつみ)「それより」
夏美が晶子の髪を掴み、顔を上向かせる
根木真琴(ねぎまこと)「夏美!」
浅野夏美(あさのなつみ)「大丈夫 確認するだけだから」
浅野夏美(あさのなつみ)「さっき、私の言ったことわかった?」
片野晶子(かたのあきこ)「・・・わ、わかった 誰にも言わないよ・・・」
浅野夏美(あさのなつみ)「ハイ、よくできました!」
浅野夏美(あさのなつみ)「後ろの二人も、いい?」
戸田瀬里奈(とだせりな)「え? う、うん、晶子がそう言うなら」
柳川るみ(やながわるみ)「わ、私も黙ってるから」
浅野夏美(あさのなつみ)「わかってくれて嬉しい!」
浅野夏美(あさのなつみ)「これから仲良くしようね!」
片野晶子(かたのあきこ)「・・・」
根木真琴(ねぎまこと)(まるで、立場が変わったみたい・・・)
〇グラウンドの隅
まもなく須藤先生が駆けつけて──
須藤真由美(すどうまゆみ)「浅野さん、本当にどこも痛くないの?」
浅野夏美(あさのなつみ)「実は・・・」
須藤真由美(すどうまゆみ)「え、やっぱり具合悪いの!?」
根木真琴(ねぎまこと)「夏美、どこか痛いの?」
浅野夏美(あさのなつみ)「お腹空いてて!」
須藤真由美(すどうまゆみ)「もう、驚かせないないで」
根木真琴(ねぎまこと)「夏美・・・」
浅野夏美(あさのなつみ)「ごめんごめん」
浅野夏美(あさのなつみ)「本当に大丈夫って言いたかったの」
根木真琴(ねぎまこと)「もう・・・」
浅野夏美(あさのなつみ)「だって2階から落っこちただけだし」
夏美は須藤先生にそう説明していた
須藤真由美(すどうまゆみ)「だけど病院で見てもらわなくちゃだめよ」
須藤真由美(すどうまゆみ)「自分では何でもなく感じても思わぬ深手を負っていることもあるから」
浅野夏美(あさのなつみ)「は~い わかりましたぁ~」
須藤真由美(すどうまゆみ)「浅野さん、あなたなんだか・・・」
根木真琴(ねぎまこと)(先生も、違和感を感じたんだ)
須藤真由美(すどうまゆみ)「あ、来たわ」
浅野夏美(あさのなつみ)「おーい!」
夏美が大きく手を振って救急車の方へ歩き出した
須藤真由美(すどうまゆみ)「浅野さん、そんなに歩いて大丈夫なの!?」
大人しく病院に行ってくれるということにほっとしたものの・・・
根木真琴(ねぎまこと)(夏美が負った「深手」は、検査ではっきりするのかな・・・)
〇グラウンドの隅
真琴たちが去った後──
植え込みの陰にしゃがんで隠れていた晶子たちが立ちあがり
戸田瀬里奈(とだせりな)「須藤ってばすっかり騙されて」
柳川るみ(やながわるみ)「でもマジで秘密にするつもりなんだ」
片野晶子(かたのあきこ)「あれはホントにあの生真面目な委員長なのかね・・・?」
戸田瀬里奈(とだせりな)「・・・」
柳川るみ(やながわるみ)「・・・」
片野晶子(かたのあきこ)「・・・」
〇黒背景
その頃
新潟県のとある森の中にバサリと羽音が響いた
〇けもの道
その羽音は木人のすぐ真上で聞こえた
見上げるとそこに1羽の烏がすごい速さで森の奥の方へと飛んでいくのが見えた
五味沢木人(ごみさわきと)(「知らせ」・・・!?)
五味沢木人(ごみさわきと)(まさか)
五味沢木人(ごみさわきと)(疎の封印に何か異変があったのか?)
五味沢木人(ごみさわきと)(とにかく確認しよう!)
夕闇せまる中、木人は烏と同じ方向へと足を速めた