閉じの巫女

Saphiret

エピソード4(脚本)

閉じの巫女

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〇アパートのダイニング
  診察を終えた夏美と別れ真琴は家に帰って来た
  いつものように鍵を開けて家に入ろうとすると・・・
  中からドアチェーンがかけられている
根木鈴香(ねぎすずか)「真琴・・・?」
  母親の鈴香が恐る恐る顔を出した
根木真琴(ねぎまこと)「お母さん、帰ってたんだ」
根木鈴香(ねぎすずか)「ごめんごめん、今外すね」
  鈴香はほっとしたようにチェーンを外し真琴を迎え入れた
根木真琴(ねぎまこと)「もうこんな用心しなくていいのに」
根木鈴香(ねぎすずか)「そうよね 習慣ってイヤねぇ」
  おどけて額を叩く振りをする鈴香のその腕には
  先月「あの人」につけられた最後の痣がまだ痛々しく残っていた
根木真琴(ねぎまこと)「・・・お母さん」
根木真琴(ねぎまこと)「「あの人」はもう死んだのよ」
根木真琴(ねぎまこと)「早く忘れよう」
根木鈴香(ねぎすずか)「うん、真琴の言うとおりね」
根木真琴(ねぎまこと)「うん」
根木鈴香(ねぎすずか)「そういえば夏美ちゃん、大丈夫だったの?」
根木真琴(ねぎまこと)「ああ、夏美は・・・」
根木真琴(ねぎまこと)「大したことなかったみたいよ」
  実際、病院の検査では異常はなかった
根木真琴(ねぎまこと)(でも人格が変わったなんて、そんな感覚的なこと)
根木真琴(ねぎまこと)(病院でもわからないのかもしれない・・・)
根木鈴香(ねぎすずか)「ほんとに?」
根木真琴(ねぎまこと)「え、なんで?」
根木鈴香(ねぎすずか)「真琴、電話の声がすごく思いつめてる感じがしたから」
根木鈴香(ねぎすずか)「ひょっとしたら夏美ちゃん、大怪我なのかと心配してたの」
根木真琴(ねぎまこと)「あー・・・」
根木真琴(ねぎまこと)(どうしよう お母さんに話してみようかな・・・)
  その時、アパートの外廊下で何か物音がした
根木鈴香(ねぎすずか)「何・・・!?」
  鈴香がびくっと身を固くする
根木真琴(ねぎまこと)「お母さん、猫だよ お隣に良く来るノラ猫」
根木鈴香(ねぎすずか)「あっ、そ、そうよね」
根木鈴香(ねぎすずか)「そうだ、お腹空いたでしょう? ご飯にしようか」
根木鈴香(ねぎすずか)「って言ってもうちのスーパーの売れ残りだけどね」
根木真琴(ねぎまこと)「あ、このコロッケ、私大好き!!」
根木鈴香(ねぎすずか)「ふふ そう思って総菜係の人に頼んでおいたんだ」
根木真琴(ねぎまこと)「私、お皿に盛りつけるね」
根木鈴香(ねぎすずか)「ありがとう それじゃお味噌汁温めてくるわ」
根木真琴(ねぎまこと)「うん」
根木真琴(ねぎまこと)(お母さん、まだ全然立ち直れてないな・・・)
  「あの人」──真琴の実父の暴力に真琴親子はずっと悩まされてきた
  それが先月、偶然にも急死した時には正直ほっとしたのだった
根木真琴(ねぎまこと)(今まで通り余計な心配はさせないようにしなくちゃ)
  そう思って、いじめのことすら黙って来たのだ
根木真琴(ねぎまこと)(夏美は何でも聞いてくれたなあ)
根木真琴(ねぎまこと)(夏美・・・)

〇洞窟の入口(看板無し)
  急ぎ、木人が「知らせ」の後を追っていくと──
五味沢木人(ごみさわきと)「シカリ様!」
  そこにはすでに木人のシカリ――師匠である津南がいた
  近くの岩の上では「知らせ」が与えられた餌を食んでいる
津南承延(つなみしょうえん)「疎の封印に異変があったのではないかと豊岡神社が気を揉んでいるようだ」
  津南は広げた文を木人に見せた
五味沢木人(ごみさわきと)「供物の腐食、榊葉の枯れ、盃の破損・・・」
五味沢木人(ごみさわきと)「古文書にある順番通りですね」
津南承延(つなみしょうえん)「ああ もはや封印が解けたと考えた方がいいだろう」
五味沢木人(ごみさわきと)「今から始めるのですか?」
津南承延(つなみしょうえん)「もし本当に解けてしまったなら一刻をあらそう一大事だ」
五味沢木人(ごみさわきと)「分かりました」
津南承延(つなみしょうえん)「まずはいつもの儀式を」
津南承延(つなみしょうえん)「木人 今日も山に入っていたのだろう?」
津南承延(つなみしょうえん)「持っているな?」
五味沢木人(ごみさわきと)「はい今、準備します」
  木人は背負ったリュックから小型の酒瓶と小銭入れくらいの大きさの巾着袋を取りだした
  まず酒を洞窟の入口一帯にまく
  次に巾着袋から米粒を取り出し、酒と同じようにまく
津南承延(つなみしょうえん)「うむ」
  二人は無言で手を合わせ祈りを捧げる
津南承延(つなみしょうえん)「行くぞ 油断するな」
五味沢木人(ごみさわきと)「はい!」

〇洞窟の深部
  明かりを持ちながら木人と津南が洞窟の中を進んでいくと──
津南承延(つなみしょうえん)「気配が現れたな」
五味沢木人(ごみさわきと)「ええ しかし妙です」
五味沢木人(ごみさわきと)「この程度ならば今まで片付けてきた妖かしや思念のレベルというか・・・」
五味沢木人(ごみさわきと)「こちらの命を取ろうとするほどの勢いが感じられません」
津南承延(つなみしょうえん)「そこよ」
  津南は木人の見立てに満足そうに口の端を上げる
津南承延(つなみしょうえん)「疎の長は強い」
津南承延(つなみしょうえん)「その術で大和朝廷を牛耳ろうとしたくらいだ」
津南承延(つなみしょうえん)「その話はお前も知っているだろう?」
五味沢木人(ごみさわきと)「はい」
五味沢木人(ごみさわきと)「封じ込めるために我々の祖先も、多く命を落としたとか」
  津南は一度深く頷き、洞窟の奥を見つめる
津南承延(つなみしょうえん)「それが封印を解いたというなら 我々をここまでやすやすと通すはずが無い」
五味沢木人(ごみさわきと)「罠でしょうか・・・?」
津南承延(つなみしょうえん)「わからん」
津南承延(つなみしょうえん)「どのみち手ごわい相手だ 手順通りの調伏とはならんだろうな」
津南承延(つなみしょうえん)「黒石の鏡はあるか?」
五味沢木人(ごみさわきと)「はい、ここに」
  木人はリュックからCDくらいの大きさの包みを取りだす
  包みの布を取ると中から黒く平べったい石が出てきた
津南承延(つなみしょうえん)「封じの甕(かめ)に近づいたらそれを使おう」
津南承延(つなみしょうえん)「決して直接見ないように気をつけろ」
五味沢木人(ごみさわきと)「はい」

〇ダイニング(食事なし)
  もう寝る時間なのに、なかなか眠る気になれず
  ダイニングの椅子に座ってぼんやりしているとメールの着信音がした
根木真琴(ねぎまこと)(夏美からだ)
  そこには「やっぱり明日学校にいくよ☆」とあった
根木真琴(ねぎまこと)(一応休んだ方がいいって言われてたのに)
  しかし内心ではほっとしていた
根木真琴(ねぎまこと)(片野さんたち、あんな目に合って明日どう出てくるか分からないしなあ)
  ふと、スマホの動画のアイコンの点滅に気付いた
根木真琴(ねぎまこと)(『新しいデータがあります』 動画なんて取ったかな?)
  開いて見ると──
根木真琴(ねぎまこと)「あ!」
  そこには昼間、殴られて弱っている晶子の様子が映っていた
根木真琴(ねぎまこと)(これ・・・夏美が撮ったの!?)
  「あの人」と夏海が暴力で重なって、嫌な気持ちになる
根木真琴(ねぎまこと)(でも・・・)
根木真琴(ねぎまこと)(やられている側じゃなくて、やる側で見ると、何だか・・・)
根木真琴(ねぎまこと)「ちょっとすっきり・・・?」
  昼間感じたのと同じ感覚に戸惑いながらも動画から目が離せない
疎の長(そのおさ)「・・・」
根木真琴(ねぎまこと)「えっ!」
  今すぐそこで誰かがニヤリと音もなく笑った気がした
根木鈴香(ねぎすずか)「真琴!」
  片づけをしていたはずの鈴香が真っ青な顔をしてこちらを向いている
根木真琴(ねぎまこと)「何、どうしたの?」
根木鈴香(ねぎすずか)「今・・・」
根木真琴(ねぎまこと)「え?」
根木鈴香(ねぎすずか)「い、いや、何でもないわ ごめんなさい」
根木真琴(ねぎまこと)「・・・大きな声出して驚いたよ」
根木鈴香(ねぎすずか)「ごめんね」
根木鈴香(ねぎすずか)(今、真琴の後ろにあの老人がいたように見えた・・・)
根木鈴香(ねぎすずか)(ばかばかしい・・・ 夢に出てくる人が見えるなんてこと)
根木鈴香(ねぎすずか)(少し過敏になっているのかも)
根木鈴香(ねぎすずか)(ダメね 真琴の言う通り、割ることは早く忘れてしっかりしなくちゃ)

〇洞窟の深部
五味沢木人(ごみさわきと)「シカリ様、これは・・・」
津南承延(つなみしょうえん)「・・・」
  ようやく洞窟の最奥近くにやってきた木人と津南は
  用心深く甕を正面から見ないように角度と距離を保ち
  黒石の表面に甕が映りこむように慎重にライトで照らした
  封印は、解けてはいなかった
  しかし──
五味沢木人(ごみさわきと)「なぜ内側の紐だけがほどけているのでしょう」
  何重にも巻かれた麻紐の外側はしっかりとゆるぎないのに
  甕に接している内側の紐になるほど、ほどけているのだ
津南承延(つなみしょうえん)「俺もこんな解け方は見たことがない」
  考え込んだ津南がはっとする
津南承延(つなみしょうえん)「もしかしたら・・・」

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