エピソード2 不思議な本屋(脚本)
〇本棚のある部屋
椿「ふう、おつかれ。ワタシ」
椿「よし」
仕事から帰って来た私は、
スーパーで買ってきた半額弁当と
ビールで、夜食を済ませようとしていた。
椿「いただきます・・・」
椿(もう疲れちゃって、食事作る気力も起きない・・・ お金もかかる・・・)
椿「まだ、お腹が減って 食べる気力があるだけマシだけど、 それすらも無くなりそう・・・」
椿「来週から、もっと切り詰めないと・・・」
椿「叔父の家の蔵書とか運ぶ費用もあるし・・・どうしようかな・・・」
椿「ご飯食べ終えたら、続きを読むんだ・・・ ワタシのささやかな楽しみ」
プルルルルル
プルルルルル
その時、スマホが鳴った。
椿「?」
ピッ
椿「はい、もしもし・・・」
「あっ、椿さん!
僕です、店主の長岡です!」
椿「?どなた?」
「あの・・・本屋の店主の・・・」
椿「あぁ、ナガオカさん、でしたっけ?」
「そうです、長岡英幸(ながおかひでゆき)です。
先日、お話した読書会を開催したいのですが。」
椿「ええ、どうしましょう? 私はいつでもいいのですが」
でしたら、
今度の土曜日に、
そちらにお伺いしたいのですが?
椿「叔父の家なら、いいですよ。 どっちにしろ、 蔵書を運ばないといけませんよね」
「それも兼ねて、お話しさせてください。
都合のいいお時間は?」
椿「えーと、・・・」
私は都合の良い時間を伝えると、
彼は電話を切った。
椿「ふう」
椿「家に人を入れるのは回避した。 人と話すだけで、疲れてしまう・・・」
椿「しかし、なんていうか、 見た目よりパワフルな人だなぁ。と。 行動的というか情熱的というか・・・」
椿「お店の店主さんをするくらいだもんね」
椿(ワタシは落ち着いて本を読みたいだけ・・・)
〇洋館の一室
パチッ
〇洋館の一室
椿「・・・」
椿「どうぞ。 この部屋まで来るのにも 大変だったでしょう?」
本屋の主人「すごい蔵書の数ですね! ワクワクします」
椿「沢山すぎて途方に暮れているのです」
本屋の主人「実は、本日もできるだけ蔵書を運ばせていただきたいと思いまして。 助っ人を呼んだのですが、ここにお呼びしていいですか?」
椿「は、はい」
椿(またヒトが増えるの?聞いてないよ〜)
本屋の主人「おーい!ヒデアキ〜」
ヒデアキ「こんにちは!」
椿「きゃっ!」
本屋の主人「おどろかせてスミマセン。 弟のヒデアキです」
椿「弟さん!?」
ヒデアキ「はい・・・」
椿(すごいマッチョ。 って初めてみたわ、こんな筋肉・・・)
ヒデアキ「兄貴〜」
本屋の主人「スミマセン、女性に面識がなくて、 恥ずかしがっているようで・・・」
本屋の主人「こんなに育ってしまいまして。 こう見えて本を書いてるんですよ」
椿「本を!? 小説家さんなのですか? すご〜い!」
ヒデアキ「これなんですけど・・・」
椿「えええ!?これ!? いま読んでますケド!!!」
彼はうなづいた。
椿「えっえっえっ!! めっちゃ凄くないですか!?」
ヒデアキ「いや、お恥ずかしい・・・」
本屋の主人「今から僕らで、店まで蔵書を運ばせていただきますね!」
椿「は、はい・・・」
ヒデアキ「どうぞ、サイン書いておきました。 よろしくお願いします!」
本屋の主人「少々、お読みになってお待ち下さい!」
本屋の主人「よし!やるぞ!ヒデアキ!」
ヒデアキ「おう!アニキ!」
バタバタバタバタ
椿「はぁ」
椿(ほ、本物?いったい何が起きてるの?)
〇古書店
本屋の主人「あらかた終わりました」
椿「車でワタシまで一緒に運んでいただいて、 ありがとうございます」
本屋の主人「仕事柄、よくトラックで荷積みしているものですから」
ヒデアキ「重い本を運んでいるうちに 筋肉がついてしまいました」
椿「なるほど〜」
本屋の主人「さ、どうぞ奥へ。 読書会のプランを相談しましょう」
〇おしゃれな居間
本屋の主人「どうぞ」
椿「ありがとう」
本屋の主人「なにか音楽でもかけましょうか。 レコードやCDも多数ございましたし」
本屋の主人「欧州17世紀初頭から18世紀半ばの ルネサンス音楽〜古典派音楽の間、 バロック音楽がお好きなようで。 叔父様は多才ですね」
椿「そうですね。 ワタシを「椿」と名付けたのも 叔父様と聞いています」
椿「庭にも色々、 椿の木が植えてあったでしょう? 叔父が好きな花だった様です。」
椿「でもワタシは花ごと落ちるので、 首が落ちると言われるように 縁起が悪いんだなぁと。 ワタシ自身、そんなに運も良くなくて」
椿「生活も苦しくて・・・」
ヒデアキ「そうなんですか」
椿「叔父は母の弟なのですが、 独り身で子どもがいなくて。 ワタシは両親を早くになくしてしまい、 祖母と暮らしておりました」
椿「仲の良かった父母が学の高い叔父に相談したところ「椿」という名前になったと祖母から聞いています」
椿「理由は、わかりません」
本屋の主人「そうですねぇ」
彼は少し考えてから、話した。
本屋の主人「椿は、日陰でも健気に育ち、 寒さにも暑さにも耐える強い性質を持ちますね」
ヒデアキ「花ごと落ちるので、 むしろ潔いとも言われていますね」
椿「潔い?」
ヒデアキ「そうですよ。 澄み切った感じで、すがすがしく、 とても清らかです。 縁起はむしろ良いのです」
椿「縁起が悪くはないのですか?」
本屋の主人「いえ、ちっとも。 むしろ好まれていますよ」
椿「そうなんですね。 ありがとうございます」
椿(そんなふうに言われたのは 初めてだわ)
〇おしゃれな居間
流れる音楽。
心地よい会話。
椿(美味しい紅茶と、知識のある会話。 なにより、ワタシを肯定してくれた)
椿(不思議な人たち・・・ 信用しても良いのかもしれない)
椿(裏切られるのが怖くて、 ヒトに期待をしないようにしてるのだけど)
椿(これを書く人なのだし、 もっとココロを開いても良いのかも)
椿(タンジュンだな、ジブン)
本屋の主人「どうしました?」
椿「いいえ、なんでも。 紅茶が美味しくて・・・」
本屋の主人「では、読書会のプランですが・・・」
本屋の主人「コチラに纏めておきました。 お好きな本をおえらびください」
ヒデアキ「選んで頂いた本をテーマとして 中心に会をすすめて参りましょう」
本屋の主人「出席者はこちらで募集します。 店の常連さんにも声をかけてみますから」
ワタシはページをめくった。
椿「わぁ。 すてきです」
ヒデアキ「楽しみにしててくださいね」
椿「はい」
〇黒
つづく