〇女の子の二人部屋
梵凪「・・・蕗子、さん？」
鎧坂蕗子「凪・・・？ どういう、ことなの」
鎧坂蕗子「あの黒いのが凪なんじゃないの!? なんでここに──」
梵凪「・・・・・・」
　　蕗子が凪の方へと一歩近づく。
梵凪「来ないで」
鎧坂蕗子「・・・っ」
梵凪「なんで、蕗子さんがいるの」
鎧坂蕗子「・・・凪。助けに来たわ。あなたを」
梵凪「助けに？ 今更、助けに来てくれたの？ 私、死んじゃったのに？」
鎧坂蕗子「違う。あなたは生きてる」
梵凪「・・・え？」
鎧坂蕗子「ここはあなたの心の中」
鎧坂蕗子「あなたの死にたいという気持ちと、生きたいという気持ちがせめぎ合ってるの」
梵凪「なに、それ」
鎧坂蕗子「信じられないかもしれない。 でも、現実のあなたは今でも病院で寝ている」
鎧坂蕗子「息はある。生きてるのよ！」
梵凪「・・・・・・」
鎧坂蕗子「帰りましょう。 みんな、あなたを待って──」
梵凪「触らないで！」
鎧坂蕗子「ッ！」
梵凪「ここがどことか、私がどうとか、そんなのどうでもいい！」
梵凪「私は静かにしてたいだけなのに！」
鎧坂蕗子「話を聞いて、凪!!」
梵凪「もう、消えてよ」
梵凪「信じてたのに・・・蕗子さんは、私のこと全部わかってくれてると思ったのに」
梵凪「私の大好きな、大好きだった蕗子さんなら」
鎧坂蕗子「・・・ごめんなさい。 私はあなたの理想にはなれない。 弱い人間だから」
梵凪「そんなの、わかってるよ。だから──」
鎧坂蕗子「あなたの理想になれないと、好きになってもらえないのかな」
梵凪「え」
鎧坂蕗子「弱い私じゃ、だめかな」
鎧坂蕗子「寄り掛かるんじゃなくて。 手を取り合えないかな」
鎧坂蕗子「互いの目を見て、話して」
梵凪「・・・・・・」
鎧坂蕗子「私も、誰か助けてっていつも思ってる。 凪と同じで」
梵凪「うそ・・・うそだ・・・。 そんなの、蕗子さんじゃない」
鎧坂蕗子「ごめんね、私はフリをするのが上手いだけ・・・傷の痛みを誤魔化してるだけ」
鎧坂蕗子「もっと早く、あなたにだけは、ちゃんと伝えられれば良かったのに」
梵凪「・・・やめて」
鎧坂蕗子「私も、あなたのことが正しくわかる気がした。 その苦しさを理解できた気でいた。 でも・・・違った」
梵凪「やめてよっ・・・」
鎧坂蕗子「人が心の底からわかり合えるなんて、きっと嘘」
鎧坂蕗子「辛いけど、でも──」
梵凪「やめて!!」
鎧坂蕗子「聞いて!!」
梵凪「！」
鎧坂蕗子「わからないからこそ、私は、あなたのことをもっと知りたい」