第18話「告白」(脚本)
〇体育館の舞台
男子生徒「んじゃ、1回休憩なー。みんな、お疲れ様」
その声を合図に、クラスメイトは
各々散らばっていく。
葵もまた、皆にもみくちゃにされながら
どこかへ消えたようだ。
ステージ上に残ったのは、オニキス役の
要とカーネリア役の翠だけだった。
大和要「お疲れ様、翠。なんとか成功できそうだね」
小早川翠「うん・・・ねえ、要くん」
大和要「ん?」
小早川翠「ちょっと話があるの こっち、一緒に来てくれる?」
〇備品倉庫
翠に連れてこられたのは、大道具や衣装をしまってある控室だった。
演劇に使用される大道具は既に運び出されており、がらんとした室内に人の気配はない。
大和要「どうしたの? こんなところで、話ってなに?」
小早川翠「・・・あの、ね。その・・・」
大和要「もしかして何か、心配事? みんなには聞かせられない話とか──」
小早川翠「――好きなのっ!」
大和要「えっ」
必死の思いで言葉を絞り出した翠は
そのままの勢いで要に抱きつく。
ふわりと漂う“女の子”の香りが
要の鼻孔をくすぐった。
大和要「翠、え? 今、なんて・・・」
小早川翠「・・・好きって、言ったの 私、要くんのことが好き。好きなの」
要を抱きしめる翠の腕に
ぎゅっと力がこもる。
要の胸に埋めたままの表情は見えないが
声は微かに震えていて、その告白が決して冗談ではないと伝えている。
大和要(翠が、俺を・・・? そんなの全然気づかなかった)
大和要(・・・でも)
大和要「――翠、顔を上げて」
小早川翠「っ・・・」
そっと肩を押して体を離すと
翠の瞳は不安げに揺れていた。
2人はしばし見つめ合う。
――その様子を、たまたま通りかかった葵がドアの隙間から見ているとも知らずに。
姫野葵「・・・・・・」
大和要「ありがとう、すごく嬉しいよ」
大和要「でもごめん 翠の気持ちには応えられない」
小早川翠「・・・どうして?」
大和要「どうしてって・・・」
小早川翠「姫野さんのことが、好きだから?」
姫野葵「!」
大和要「それは──」
小早川翠「そんなの、おかしいよ」
大和要「翠?」
小早川翠「だって、姫野さんは男の人なんだよ?」
小早川翠「男の人が男の人を好きになるなんて おかしいよ。普通じゃないでしょ!?」
大和要「翠、落ち着いて」
激高した翠をなだめようとした要に
翠は再び抱きつく。
小早川翠「男の人同士の恋愛なんて どうせうまくいきっこないよ!」
小早川翠「それなら、私でいいじゃない! ねえ、私とつき合ってよ!」
姫野葵「・・・!」
翠の悲痛な叫び声を背後に
気づけば葵はその場から逃げ出していた。
〇学校の体育館
姫野葵(男の人が男の人を好きになるのは 普通じゃない)
姫野葵(男同士の恋愛なんて、うまくいきっこない)
姫野葵(・・・そう、最初から わかっていたことです)
姫野葵(だから、要くんには 近づきすぎないようにって──)
???「そんなに慌てて、どーこ行く気ィ?」
姫野葵「!」
黒須雫「元・お姫様がノゾキたぁ なかなかイイ趣味してんじゃねーの」
姫野葵「雫くん・・・どうして」
黒須雫「わりーけど アンタのこと尾行させてもらった」
姫野葵「どういうことですか?」
黒須雫「オレはさ、要の味方だから。ぶっちゃけると、アンタ見てるとイライラすんだわ」
黒須雫「要はとっくに、オニキスと自分は 別人だって理解してるよ」
黒須雫「今の人生で、アンタと一緒にどう生きるか 未来を見てる」
黒須雫「なのにアンタはどうよ、姫野サン アンタはちゃんと、今の要を見てるのか?」
姫野葵「見ているに決まっているじゃないですか!」
姫野葵「だからこそ、今の要くんの幸せを願うなら 私が身を引くのが最善だと──」
黒須雫「ハッ! 嘘だね アンタは要のことなんか見ちゃいない」
黒須雫「アンタは要を通して、オニキスの幻を 追い続けてる。ずっとな」
姫野葵「そんな、ことは・・・」
黒須雫「前世の恋人との約束に囚われて 今を、未来を生きようとしていない」
黒須雫「自分は前世と違うからって言い訳をして 傷つくことから逃げてんだ」
姫野葵「・・・・・・」
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