10 死神と愛 ―天郷編―(脚本)
〇黒
アリアが亡くなってからは
しばらく、泣き暮らす日々を送っていたの
ずっと引きこもっていたけど
仕事を再開して
家に帰ってきたら
〇西洋の街並み
ドアの前に、花が置いてあったの
来る日も来る日も
仕事から帰ると、花が置かれていて‥
誰がこんなことをしているんだろうって
思っていたんだけど
すぐに死神のレヴィオスだって
ピンと来たの
だって、置いてある花、ぜーんぶ
ドライフラワーだったんだもの
摘んだ花が枯れきる前に、急いで
ドアの前で手放してるって想像したら
なんだかおかしく思えて
笑っちゃった
アリアが亡くなってから
初めて、笑えたの
セリーナ「レヴィオス? いるんでしょ? 出てきてよ」
レヴィオス「よ、呼んだか?」
セリーナ「この花‥あなた、よね?」
レヴィオス「・・・」
セリーナ「慰めてくれてるの?」
レヴィオス「‥んん~、慰める、とかよくわかんねーけど」
レヴィオス「あんたが喜ぶかな‥笑う、かな‥って」
セリーナ「へ?」
レヴィオス「ほ、ほら! あんた妹に笑顔見せただろ!」
レヴィオス「そん時のあんたの顔が、頭にこびりついて離れねーんだ‥」
レヴィオス「で‥また、見たいなって、思って」
セリーナ「‥‥はあ」
レヴィオス「もしかして、花、嫌いだったか!?」
レヴィオス「迷惑だったか!?」
セリーナ「‥ううん。迷惑じゃないよ」
セリーナ「レヴィオス、ありがとう」
レヴィオス「良かった」
なんだか必死なレヴィオスが可愛く見えて
ふにゃっとした笑顔にキュンとしちゃった
〇ヨーロッパの街並み
それ以来、レヴィオスは頻繁に
私の前に顔を出すようになったの
レヴィオス「よう、セリーナ! 仕事終わったのか?」
セリーナ「ええ。レヴィオス、あなたも?」
レヴィオス「いや、まだ残ってっけど、今は空き時間」
お互いのことをいろいろ話して
セリーナ「そう‥最近、亡くなる人が多いわよね」
セリーナ「レヴィオス‥みんなの魂を、導いてあげてね」
レヴィオス「おう、任せとけ」
セリーナ「あの‥レヴィオス、お願いがあるんだけど」
レヴィオス「ん? なんだ?」
セリーナ「人が多い場所では、声をかけないでほしいの」
セリーナ「あなたのことを見ることができる人間は」
セリーナ「私だけだってこと、たまに忘れてるでしょ」
セリーナ「私、独り言いってるおかしな人だって、周りの人に思われちゃうじゃない」
レヴィオス「ご、ごめん! セリーナに会えたのが嬉しくてつい‥!」
セリーナ「もう、ホントに困っちゃう」
セリーナ「‥‥ぷっ」
セリーナ「いつまでそんな顔してるの? もう」
レヴィオス「え‥!」
レヴィオス「そんなに変な顔だった? はははっ」
たわいもない会話で笑いあう仲に
なっていったの
〇黒
でも、そんな幸せな日々は
長く続かなかった
少しずつ
病が
私を
むしばんでいたの
〇宿舎の部屋
セリーナ「はぁ‥はぁ‥頭が、身体が‥痛い‥うう!!」
セリーナ「レヴィ‥オス、ねえ‥手を、握って?」
レヴィオス「‥セリーナ」
レヴィオス「それは、できない」
セリーナ「お願い、よ‥この、痛みから‥解放‥されたいの」
レヴィオス「どんなにお願いされても‥俺が自ら人間を殺めることはない」
レヴィオス「死者の魂を導くことが、俺の仕事」
レヴィオス「すまない、セリーナ‥俺は‥こうやって見守ることしかできない」
セリーナ「‥ふふっ‥‥レ、ヴィオス、は‥仕事熱心だね‥」
セリーナ「ケホケホ! んん‥‥カハッ!!」
レヴィオス「セリーナ! セリーナぁ!!」
レヴィオス「すまない‥セリーナ‥‥すまない‥! 俺‥何もしてやれない!」
セリーナ「はぁ‥ふぅ‥‥ケホ! レヴィ‥オス、泣いて‥るの?」
レヴィオス「‥泣いてる? 俺が?」
レヴィオス「分からない‥セリーナが苦しんでいると」
レヴィオス「胸が締め付けられる‥」
レヴィオス「何もできない自分が‥」
レヴィオス「口惜しい‥」
レヴィオス「こんな気持ち、初めてなんだ」
レヴィオス「愛してる‥セリーナ」
レヴィオス「愛してる‥愛してる‥」
セリーナ「はぁ‥‥レヴィ‥オス」
レヴィオス「セリーナ、俺は‥! 本当は‥お前の魂を冥府へ送りたくない」
レヴィオス「ずっと‥一緒にいたいんだ」
セリーナ「嬉し‥い‥‥ありがとう‥レ‥ヴィ──」
レヴィオス「セリーナ‥!」
セリーナ「レヴィオス」
レヴィオス「セリーナ‥」
セリーナ「‥うん」
レヴィオス「セリぃナぁ」
セリーナ「うん」
レヴィオス「セリぃぃナぁぁぁ うっ‥えっえっ」
セリーナ「もう、泣きすぎ! 私が死んで悲しいの?」
レヴィオス「‥‥悲、しい?‥‥いや、今は‥嬉し、い」
レヴィオス「ぐすっ‥セリーナに、ふれられるのが‥嬉‥しい」
レヴィオス「ずっと‥ずっと‥お前にふれたかった」
セリーナ「なんだか感情がぐちゃぐちゃね」
レヴィオス「セリーナの‥せいだ」
セリーナ「あら! ふふっ、ごめんなさい」
セリーナ「レヴィオスをそんな風にさせた、責任をとらなきゃ」
セリーナ「責任をとるには、そばにいなきゃダメよね」
レヴィオス「・・・」
セリーナ「‥レヴィオス?」
セリーナ「ちょっと? ずっと、あなたと一緒にいるって言ってるんだけど!」
レヴィオス「い‥‥い、い、いいのか!?」
セリーナ「‥いいもなにも」
セリーナ「私も好きになっちゃったんだもん」
レヴィオス「‥セリーナ」
セリーナ「レヴィオス‥愛しているわ」
〇西洋風の部屋
セリーナ「それで、私たちは結ばれたんだけど‥」
セリーナ「レヴィは、死神の位から降格させられたの」
セリーナ「人間の魂を導くことを放棄して、結婚しちゃったんだから」
セリーナ「相応の処分よね」
セリーナ「ひ、陽菜?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「ず、ずびばぜん~! 涙が‥止まらなくて‥」
セリーナ「もー、泣き虫はレヴィだけかと思ったら」
セリーナ「陽菜も、だなんて」
セリーナ「はい、陽菜」
久遠 陽菜(くおん ひな)「あ‥ありがとうございます」
セリーナ「降格後は、いろいろ大変だったけど、幸せに暮らしてるから」
セリーナ「もう泣かないで?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「‥はい」
セリーナ「今度は、陽菜の話を聞かせて?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「え!?」
セリーナ「神狐様ってどんな方なの?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「素直でまっすぐ、とにかくストレートですね」
久遠 陽菜(くおん ひな)「私のことを、すごく好きな気持ちは伝わってきます」
セリーナ「へえ、いいわね♪ それから?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「護ってくれるし、強いし、頼りになります」
セリーナ「いいじゃな~い! でも、陽菜‥何かに悩んでる感じ?」
セリーナ「あ‥外見が好みじゃない、とか?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「いやいやいや! カッコいいと思いますよ!」
セリーナ「ああ‥そう」
久遠 陽菜(くおん ひな)「私、彼のこと好きだとは思うんです」
久遠 陽菜(くおん ひな)「でも、その好きって気持ちが、どういう好きなのか、わからなくて」
セリーナ「うんうん。陽菜はまだ若いものね。悩むのは当然だと思うわ」
セリーナ「でも、結婚したら、陽菜も天郷に住むことになるから」
セリーナ「私は、とっても楽しみ♪」
久遠 陽菜(くおん ひな)「え! そうなんですか!?」
セリーナ「ん~、おそらくそうよ?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「知らなかった」
セリーナ「あ! なんだか悩み事、増やしちゃったかしら?」
セリーナ「えっと‥もしかしたら天郷に住まなくてもいい方法があるかもしれないわ」
セリーナ「私がそうだからって、天郷に住むとは限らないわよね?」
セリーナ「ごめんなさいね? 適当なこと言って」
セリーナ「陽菜にそんな顔してほしくないわ」
セリーナ(んーっと、どうしよう)
セリーナ「そうだ、陽菜? 神狐様って甘えてくることある?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「甘えてくること‥ですか?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「う~ん」
久遠 陽菜(くおん ひな)「あ! 犬みたいにまとわりついてくることは、あります」
セリーナ「犬みたいに? あはは! 陽菜に心を許してるのね」
セリーナ「レヴィはね、泣き虫だって話したけど、甘えん坊でもあるの」
久遠 陽菜(くおん ひな)「甘えん坊!?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「ええ~‥ぷふっ、想像できない」
セリーナ「甘えたくなったら、『セリたん』って私のこと呼ぶの」
久遠 陽菜(くおん ひな)「セ、セリたん‥ですかぁ!?」
久遠 陽菜(くおん ひな)「え~! ギャップがありすぎて‥ふふふっ可愛いですね」
セリーナ「でしょ? レヴィは、とっても可愛いの」
(やばっ! 帰ってきちゃった!)
レヴィオス「あれ? 外まで笑い声が聞こえてたけど‥どうした?」
セリーナ「何にも話してないし」
久遠 陽菜(くおん ひな)(この人が‥泣き虫で‥甘えん坊‥)
久遠 陽菜(くおん ひな)(ダメ‥我慢できない‥!)
久遠 陽菜(くおん ひな)「ぷっ‥くくくく」
セリーナ「陽菜、ダメよ~我慢して! ふふふっ」
レヴィオス「なに? なに?」
レヴィオス「一体なに話してたんだよー!?」
前話からの新しい舞台での物語に、陽菜の覚悟を感じました!
泣き虫で甘えん坊の死神…尊いですね😇二人の馴れ初めに泣いちゃう陽菜もとっても可愛かったです🥰
これは…死んだのが先かな。触れてしまったのが先かな。禁忌を犯した死神が降格処分で恋人と幸せそうに暮らしている。もっと罰とかくらって投獄されるのかと思いました。良かったです。天界で妹に会えたりするといいですね。もうアリアは次の人生に行ってるかもですね。
陽菜の冒険も楽しみです。
死という悲しいきっかけが、幸せな結末につながっていく、とても素敵なサブストーリーでした! 惚れた理由である笑顔が今も守られている…回想が終わった後で、彼女の表情を見ると、感慨深くなりました^^
神様は、普段威厳を出さなくてはいけないせいか、パートナーには甘える傾向があるののでしょうか。神様たちはみんなカワイイですね。笑