太閤要介護・惨

山本律磨

其の九(エピローグ)(脚本)

太閤要介護・惨

山本律磨

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〇貴族の部屋
  我が足元をすくおうとした内府に一杯食わせた高揚も
  再び床に伏している殿下の姿を見るにつけ次第に萎えていった。
  忌まわしき獅子身中の虫と小賢しき奸臣を一刀両断にした覇王秀吉の姿は、最早そこにはない。
  今はただごうごうと口を開けて眠りこけている小さな老人だ。
  ・・・もう何刻経っただろう。
  日が陰るそろそろ殿下は目覚める。
  そして丑三つ刻に疲れ果ててて眠るまで、また己を忘れ闇を恐れ泣き喚くのだ。
三成「・・・」
「・・・」
太閤「・・・おい」
三成「・・・!」
三成「お目覚めでございますか」
太閤「ここで何をしておる治部」
太閤「暇を与えたはずぞ。疾く、我が目の前から消え失せよ」
三成「覚えておいでで・・・」
太閤「・・・」
三成「・・・」
  私はその猛々しい叱責を待った。
  武士の最も大切な主君との思い出を汚した下郎に対する断罪を。
  そう。所詮は名もなき茶坊主に過ぎない。
  さような私に光を与えてくれた。侍にしてくれた。
  石田治部少輔。
  十分過ぎる名だ。
  豊臣秀吉は我が日輪。どんな姿になろうともそれだけは変わらない事実。
  そして日輪は今、西の空へと沈もうとしていた。
三成「お許し下され」
三成「消え失せるなど、私には出来ませぬ」
三成「これより先も殿下と共に・・・」
  ふと脇差に手をかけたその時・・・
三成「・・・」
  今度は夢ではない。
  殿下は童のように澄んだ瞳で、じっと私を見つめている。
三成「・・・」
太閤「申し渡す」
三成「は、ははっ」
太閤「豊臣を頼む」
三成「・・・」
三成「はっ!」
太閤「天下を、この国を頼む・・・」
三成「ははーっ!」
太閤「・・・」
太閤「我が息子・・・」
三成「・・・え?」
太閤「・・・」
  澄んだ瞳は静かに閉じられた。
  その後どんな言葉が続いたかは、最早知る由もない。
  「我が息子を頼む」だったのか。
  それとも・・・
三成「・・・」
三成「父上」
  私は埒もない言葉を口にすると、いつものように人を遠ざける苦笑を浮かべ自嘲してみた。

〇城
  完

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