勇者の姉とビン詰め魔王

久望 蜜

第5話 魔女の足止め【後編】(脚本)

勇者の姉とビン詰め魔王

久望 蜜

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〇山中の川
ライラ「ど、どういうこと!?」
ビンス「おそらく変身魔法で、人間に化けていたのだろう」
ライラ「これって、魔物っていうの・・・?」
ビンス「いや、魔法が使える、ただのカニのようだ」
ライラ「それって、ただのっていうのかな・・・?」
カニ「ん・・・」
ビンス「おっと」
カニ「あれ? あたし、どうしたっすか?」
ライラ「よかった、気がついた」
ライラ「魔女さん、なんだよね?」
カニ「え? そりゃ、当然──」
カニ「うわあ、変身魔法が解けているっす!」
カニ「くっ、やっぱり変身魔法だけはダメダメっすね・・・」
ライラ「魔女さんの正体は、カニさんなの?」
カニ「そうっす」
カニ「これが、あたしたち魔女の秘密っす」
ライラ「ということは、他の魔女さんも皆、カニさんってこと?」
カニ「あ・・・」
カニ「余計なことを口走ったっす・・・」
カニ「もういっそのこと、カニ鍋にでもしてくれっす・・・」
ライラ「それより、お兄さんを返してほしいって、どういうこと?」
カニ「そうだったっす!」

〇水中
カミーラ「普通の人間にも魔法は使えるっすけど、」
カミーラ「うちの一族はそんじょそこらの人間より、魔法との親和性が高いんす」
カミーラ「だから、魔女と呼ばれているんすよ」
カミーラ「そして1年前、あたしの兄貴は勇者に誘われて、魔王討伐の旅に出たっす」
カミーラ「でも、いつまで経っても帰ってこないんすよ」

〇山中の川
カミーラ「だから、兄貴を返してほしいっす!」
ライラ「ちょっと待って!」
ライラ「1年前だったら、うちの勇者パーティーとは無関係だよ」
カミーラ「へ?」
ライラ「だって、ルー・・・勇者様が旅に出たのは、つい数日前のことだもの」
カミーラ「そんな、人違いだったんすか・・・」
カミーラ「勘違いしてから回って、おまけに魔女の秘密までバラして・・・」
カミーラ「あたし、バカみたいっすよね・・・」
ライラ「そんなことないよ」
ライラ「家族が心配なのは、ちっともバカなことじゃない!」
ライラ「私も、弟のことは心配だもん」
カミーラ「ライラさん・・・」
ライラ「そこで提案なんだけど」
ライラ「魔女さんは、里の外にお兄さんを探しにいきたい?」
カミーラ「もちろんっす!」
ライラ「じゃあ、うちの勇者パーティーに入らない?」
カミーラ「えっ」
ライラ「里の外で直接お兄さんを探せるし、勇者パーティーなら目指す場所は同じでしょ?」
ライラ「途中でお兄さんが見つかるかも」
ライラ「何より、うちの勇者様は強いからね」
ライラ「安全な旅を保証できるよ」
カミーラ「・・・わかったっす」
カミーラ「里の皆は説得するっすから、」
カミーラ「あたしを連れていってくださいっす!」
ライラ「決まりだね」
ライラ「じゃあ、お願いなんだけど、私のことは勇者様には黙っておいてくれる?」
カミーラ「へっ?」
ライラ「実は私、勇者の姉なんだけど・・・」
カミーラ「お姉さん!?」
ライラ「私はここには来てないことになっているから、秘密にしておいてね」
ライラ「あと、勇者パーティーには、どうにかして自分で加入してね!」
カミーラ「えええっ!?」
カミーラ「それだと、あたしの能力が認められないと、ダメじゃないっすか!」
ライラ「大丈夫だよ!」
ライラ「カニーラは強いから」
カニーラ「カ、カニーラ!?」
ライラ「それと、あともう一つ、お願い」
ライラ「魔法が得意なら、解いてほしい封印魔法があるの」
カニーラ「封印魔法?」
ライラ「そう、この封印」
ビンス「よろしく頼む」
カニーラ「なっ、何すか!? この妙な生物は!」
ライラ「ちょっと事故で封印しちゃって・・・」
カニーラ「事故にしては、がっつり封印してあるみたいっすけど・・・」
カニーラ「っていうか、中身は誰っすか?」
ビンス「我は魔──」
ライラ(さすがに、それはバレたらまずいって!)
ライラ「ま、ま・・・ママの友だちだよっ?」
カニーラ「不思議な友だちもいたもんっすね・・・」
カニーラ「まあでも、普通の人間が封印されたら、不便っすよね」
カニーラ「あたしに任せるっす!」
カニーラ「『汝を縛る封印よ、解けろ!』」
「・・・え?」
カニーラ「ウソ、解けてないっすか!?」
カニーラ「何で──」
カニーラ「うっ」
カニーラ「あー、封印っていうのは、神官の管轄だったかもしれないっす」
カニーラ「きっと、多分?」
ライラ「・・・他の魔女さんで、封印が解けそうな人はいないの?」
ライラ「こういうのって、里長さんや長老さんがあっさり解いてくれるパターンじゃ・・・」
カニーラ「いや? 里で今、一番魔法が得意なのはあたしっすよ」
カニーラ「変身魔法だけは、いまいちっすけど・・・」
ライラ「じゃあ、誰もビンスくんの封印が解けないってこと!?」
カニーラ「そうなるっすね」
カニーラ「あ、で、でもっ、封印を一時的に弱めることなら、多分できるっす!」
ビンス「弱める?」
カニーラ「はい! この封印をしたのは、ライラさんっすか?」
ライラ「うん、まあ・・・」
カニーラ「よかった、それならこの方法が使えるっす!」
ライラ「え?」
カニーラ「ずばり、口づけっす!」
ライラ「く?」
カニーラ「ちょうどビンに口が生えていて、ラッキーだったっすね!」
ビンス「おい、ライラ?」
ライラ「む──」
「む?」
ライラ「無理だよ、そんなの!」
ビンス「だろうな」
ビンス「我も、無理やり唇を奪おうとは思わぬ」
ビンス「というか、お主の弟が怖い」
ライラ「あはは・・・」
カニーラ「とりあえず、今晩はもう遅いっすから、魔女の里近くの山小屋に泊まるといいっすよ」

〇森の中の小屋
ライラ「泊めてくれて、ありがとう」
ウマ「ウマ〜!」
カニーラ「うわあ、ケーキが増えているっす!?」
ライラ「ああ、ウマちゃんね」
ライラ「この子の封印も解いてあげたいんだけど・・・」
カニーラ「何で、こんなに封印されているっすか・・・」
ライラ「それより、私たちはこのまま出発するけど──」
カニーラ「事情はよくわからないっすけど、時間稼ぎをしたいんすよね?」
カニーラ「麓の村長に、勇者が来たら里への許可証を発行するように頼んでおくっす」
カニーラ「発行までには、数日かかるっすから!」
カニーラ「で、そのあと勇者パーティーに加入すればいいんすよね?」
ライラ「うん!」
ライラ「ルーくんをお願いね」
カニーラ「はいっす!」
カニーラ「そうだ、今後ライラさんと連絡がとれるようにしたいんすけど」
ライラ「え? いいけど、どうやって?」
カニーラ「あたしの分身を連れていってほしいっす!」
ライラ「カニさんが増えた! すごい!」
カニーラ「意識は繋がっているっすから、こっちに呼びかけてくれれば、あたしにも聞こえるっす!」
カニーラ「よろしくっす!」
ライラ「よろしく〜」
ライラ「それじゃ、私たちはもう行くね」
カニーラ「はい、気をつけてっす!」

〇黒
  数日後

〇山中の川
刺客「うー、勇者の村に行こうとしたが、道に迷った・・・」
刺客「大体、魔王様をどさくさに紛れて始末しろだなんて、」
刺客「イーノク様も魔物使いが荒いんだから・・・」
刺客「ん? あそこ、人間の家があるな」

〇ヨーロッパの街並み
ルーク「ここが、魔女の里か・・・」
イーさん「許可証が発行されるのに、ずいぶん時間がかかったなあ」
ルーク「仕方ないさ」
ルーク(何だか、姉ちゃんが裏で手を回していた気がするし・・・)
???「あの!」
カニーラ「勇者様っすよね?」
カニーラ「あたしを仲間にしてほしいっす!」
ルーク「ふーん?」
ルーク「ちょっと、実力を見せてもらってもいい?」
カニーラ「いいっすよ。ついてくるっす!」

〇森の中の小屋
カニーラ「この辺りなら人もいないっすから、お手合わせを──」
刺客「あれ? 勇者の村じゃない?」
「サメ!?」
「って、カニ!?」
ルーク「何で、森の中で海産物が集まっているんだ?」
カニーラ「失礼な!」
カニーラ「あたしは、サワガニっす!」
イーさん「悪い、心底どうでもいい」
ルーク「まあ、ちょうどいいや」
ルーク「君の実力も見てみたいし、あいつと戦ってみて」
カニーラ「さすがに、サメと戦ったことはないっすけど──」
カニーラ「やってやるっす!」

〇森の中の小屋
刺客「俺は、上級の魔物だぞ」
刺客「ただのカニに何ができるというんだ?」
カニーラ「あたしは、魔女っす!」
カニーラ「絶対に負けないっすよ!」
刺客「ふん、ならば俺の顎の力を味わえ!」
刺客「これは・・・歯が立たない・・・!」
カニーラ「終わりっすよ!」
カニーラ「『我の敵を凍らせろ!』」

〇森の中の小屋
イーさん「お〜なかなか、やるじゃねえか」
イーさん「合格でいいんじゃねえの?」
ルーク「ああ」
ルーク「それに──」
  くんくん
ルーク「何だか、いい匂いがするしね」
カニーラ「カ、カニ鍋にでもするつもりっすか!?」
ルーク「あはは、違う違う」
ルーク「天の思し召しってやつを、感じただけ」
  勇者は、魔女を仲間にした!

〇山中の川
カニーラ「本体が、無事に勇者の仲間になったっす!」
ライラ「そう、よかった!」
ビンス「向こうの行動がわかるのは、便利だな」
ライラ「足止めも成功したみたいだし、順調だね」
ライラ「いよいよ今度の目的地は、神官がいっぱいの聖都よ」
ビンス「魔王の我には、気が重い場所だがな・・・」
カニーラ「魔王?」
「あっ」
カニーラ「え」

〇森の中の小屋
カニーラ「えええぇぇぇっ」

次のエピソード:第6話 勇者の終わり

コメント

  • カニーラかわいい!!
    パーティーはパーティーでも鍋パーティーですね!!
    違うかww
    旅の仲間が増えていって楽しみですね。
    それにしても、やはりファンタジーネタは使える背景が限られるので皆さんかぶりますね・・・私も含めてww

  • 個性的なパーティーで
    めちゃ楽しいです!

  • カニーラ可愛いです!
    なんだろう…、キャラ達に全員悪い人がいないからすごく優しい気持ちになるんですよね☺️
    ライラの策略通り勇者の仲間にもなってニコニコしながらお話を読ませていただきました😊

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