第17話 『二万海里の孤独』(脚本)
〇観測室
正岡きらり「蕗子さん、そっちはどうですか!?」
鎧坂蕗子「駄目です、見つかりません!」
蕗子がポケットから携帯端末を取り出すと、時刻は22時55分を示していた。
鎧坂蕗子「急がないと・・・ん?」
そのとき、蕗子は壁を背にして置かれていた大きな本棚に目をとめた。
本棚から一冊の本を抜き取る。
鎧坂蕗子「こんな本、あったかしら」
蕗子は抜き取った本を眺めてから、あらためて本棚を見渡した。
鎧坂蕗子「!!」
すると、本棚には全て同じタイトルと著者の本──『志木忍』という作者の『二万海里の孤独』という本が並んでいた。
鎧坂蕗子「正岡さん、来て下さい!!」
正岡きらり「なにか見つかりましたか!?」
鎧坂蕗子「見て下さい。本棚が全部同じ本なんです!」
正岡きらり「!!」
正岡きらり「・・・これ・・・私の本」
鎧坂蕗子「え!?」
正岡きらり「これ私の書いた本です」
鎧坂蕗子「正岡さん・・・作家、だったんですか!?」
正岡きらり「全然売れてなくて、名乗るの恥ずかしいんですけど・・・」
正岡きらり「そっか。だから私も呼ばれたんだ」
鎧坂蕗子「とにかく調べてみましょう!!」
二人は本棚から一冊、また一冊と抜き取って中身を調べ始める。
鎧坂蕗子「?」
調べながら、蕗子は本棚の後ろに隠されるようにして扉があることに気づいた。
鎧坂蕗子「こんなところに、扉・・・?」
ボォーン・・・ボォーン・・・
「!」
二人は部屋の入口まで走り、その扉を塞ぐように置かれた机を慌てて押さえつけた。
扉の向こう側からはコンコンというノックの音が聞こえる。
正岡きらり「き、来た!!」
鎧坂蕗子「危ない!」
正岡きらり「え?」
次の瞬間、蕗子が正岡に飛びかかってその場から押しのけた。
その直後、ガシャンと大きな音が部屋に響く。
黒い蓮介「あはは」
先ほどまでふたりの立っていた場所に落ちてきたのは黒い蓮介だ。
鎧坂蕗子「大丈夫ですか!?」
二人が黒い蓮介に目を向けていると、入口の扉を押さえつけていた机がギシッと大きな音を立てて軋んだ。
「!!」
少しずつ扉が開いていく。
正岡きらり「どうすれば」
鎧坂蕗子「──もうひとつの扉」
正岡きらり「え? そんなのどこに──」
鎧坂蕗子「本棚の奥に扉があったんです!」
正岡きらり「!!」
鎧坂蕗子「あそこから逃げましょう!!」
正岡きらり「でもこの本棚、動かせますか!?」
鎧坂蕗子「ふたりならいけます! せーのっ!!」
正岡きらり「んんん!!」
二人は本棚を横から思いっきり押すが、本棚はびくともしない。
その間にも入口の扉は少しずつ開き、さらに黒い蓮介も体を引きずりながら二人の方へと進んでくる。
鎧坂蕗子「本を掻き出して! 軽くなる!!」
正岡きらり「はい!」
鎧坂蕗子「もう一度!! ・・・っ!!」
正岡きらり「う・・・ぐぐぐ!!」
二人が力を込めると、少しずつ本棚が動き、その後ろに扉が現れた。
正岡きらり「や、やった!」
鎧坂蕗子「行きましょう!」
二人が扉の中へ走ろうとした寸前、正岡が何かに気づいて立ち止まった。
正岡きらり「絵が!!」
観測室の机の上には『手がかり』である絵が残されたままである。
正岡は急いで絵の元へ駆け戻った。
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