エピソード3(脚本)
〇ファンタジー世界
翌日、午前中
箱庭世界にて
ファリン「では、氷属性魔術の初歩の初歩から説明します」
ファリン「まずこれが火属性」
ファリン「次に雷属性」
ファリン「最後に氷属性」
ファリン「三つの中で氷属性だけ明らかに違うところがあります、わかりますか?」
ロズール「え・・・炎と雷はプラスだけど、氷はマイナスみたいな?」
ファリン「エネルギーの方向性の話ですか?」
ロズール「そう、それ! 炎は温度が上がるし、雷も破壊的じゃん? 氷だけ違うと思う」
ファリン「まあ、間違ってはいないのですが・・・今は、もっと簡単な・・・」
ロズール「簡単? 氷だけそこに残っているとか?」
ファリン「正解です、では、なんでこれ消えないか、知ってますか?」
ロズール「わからん」
ファリン「魔力の物質化です」
ロズール「魔力の物質化? そんなの聞いたこともない・・・いや、聞いたことはあったかな?」
ファリン「ちゃんと授業を受けていたら、一年目に習っているはずなんですけどね」
ファリン「まあ、初級もできないと言うことは、授業をサボっていたんでしょうね」
ロズール「はい・・・」
ロズール「それで、魔力の物質化ってなんなんだ?」
ファリン「言葉通りの意味です 魔力を消費して物質を産み出しているんです」
ファリン「まあ、エネルギー量が釣り合わないので、異次元から召喚していると言う説もありますけど」
ロズール「そうなのか・・・物質化・・・この氷って溶けたら水になるのか?」
ファリン「なりますよ」
ロズール「そっかー、物質化、物質化、物質化・・・えい!」
ロズールは魔術を発動する
しかし、なにも起こらない
ファリン「魔力の物質化と冷却、二つを同時にやらないと氷は作れないんです」
ロズール「そんなこと言われてもな・・・」
ファリン「じゃあ私が作った氷を溶かして水にしましょう」
ファリンは氷を炎で溶かして、コップを水で満たした
ファリン「この水を、もう一度氷にできますか?」
ロズール「冷却だけに集中すればいいんだな? そらなら・・・たぶん・・・」
ロズールは水を凍らせようと試行錯誤する
そして一時間ほどがたった頃
ロズール「こ、凍った!」
コップの水は凍っていた
ロズールは手から冷気を出すことに成功したのだ
ロズール「できたぞ、ファリン? あれ? どこ行ったんだ?」
いつの間にか、ファリンの姿がない
ロズール「箱庭の外に帰っちゃったのかな?」
ロズールは辺りを探す
しばらくすると湖に建つ城の方からファリンが戻ってきた
ファリン「どうしました?」
ロズール「凍らせたぞ、次はどうしたらいい?」
ファリン「本当ですか?」
ファリンは疑うようにロズールを見る
ロズール「ほら」
ロズールはファリンに冷気を当てる
ロズール「ほら」
ファリン「冷たっ! やめてください!」
ファリンはロズールに雷を撃ち返した
ロズール「いてっ! 悪かったよ」
ファリン「まったく・・・ふざけないでください」
ファリン「でも冷気を出せるようになったなら、基礎はできていますね」
ロズール「次はどうしたらいい?」
ファリン「次は魔力の物質化です 水も魔術で出せないと試験をパスできませんよ」
ロズール「それは、ちょっと時間が掛かりそうだな 休憩にしないか?」
ファリン「そういえば、外はお昼時ですね ここはいつも太陽が動きませんけど」
〇ファンタジー世界
二人は持ってきたお弁当を広げる
ロズール「それもしかして、自分で作ったのか?」
ファリン「そうですけど、あなたは違うんですか? あ、彼女さんに作ってもらったとか?」
ロズール「彼女なんていないよ・・・ これは、学食で頼めば作ってもらえる」
ファリン「そんなのあったんですね 明日からは私もそれにしようかな・・・」
二人は、湖に建つ城を見ながらお弁当を食べる
ロズール「なあ、この箱庭は、おまえがつくったのか?」
ファリン「いえ、これは私の祖父から受け継いだものです」
ロズール「ってことは、おじいさんが作ったのか?」
ファリン「いえ、・・・この箱庭を作ったのは、ドーブラスという人です」
ロズール「ドーブラス?」
ロズール「もしかして、魔王ドーブラスか!」
ファリン「違います、ドーブラスは魔王なんかじゃありませんよ」
ファリン「ただの犯罪者です」
ロズール「犯罪者?」
ロズール「なんか凄い魔術をたくさん開発したんじゃなかったっけ?」
ファリン「ええ、その凄い魔術で何をしたかも知っているでしょう?」
ファリン「殺人、無差別テロ、政府に対する脅迫 犯罪者ですよ」
ロズール「それは・・・まあ、そうだな 犯罪か・・・」
ファリン「ドーブラスは誘拐した人間をこの箱庭に連れ込んで、魔術の道具を作らせていたそうです」
ロズール「悪い奴だったんだな」
ロズール「あれ? なんでおまえがそんな魔術具を持ってるんだよ?」
ファリン「ドーブラスを逮捕した祖父が押収したというか、押し付けられたというか・・・」
ロズール「何だ、ドーブラスの部下だったとかじゃないのか」
ファリン「ちょっと、どういう意味ですか?」
ロズール「ハハハ、冗談だってば」
ファリン「これは呪いですよ、私もこの箱庭のルールには逆らえない」
ロズール「じゃあ、あの湖に建っている城は?」
ファリン「それこそ、あなたに手伝って欲しいことです これを食べ終わったら行きましょう」
〇神殿の門
昼食を終えた二人は城の中に入る
ロズール「豪華な城だな・・・」
ファリン「ドーブラスの趣味でしょうね」
広い部屋の中には、良くわからない装置が無数に設置されている
そして部屋の奥には巨大な扉
ロズール「何だここ?」
ファリン「ただの足止めですよ」
ファリン「扉の左右にある二つの魔方陣を同時に起動する必要があるんです」
ロズール「面倒な・・・あれ、こっちの魔方陣、氷属性じゃないか? 俺、できるかな・・・」
ファリン「向こうの魔方陣は炎属性だから今日はそっちをお願いしますね」
ロズール「わかった」
ファリン「いいですか、行きますよ」
魔方陣が起動すると、扉は音を立てて開いた
扉の向こうは長い廊下になっている
ロズール「この扉を開けるために俺が必要だったのか?」
ファリン「たぶん、この先には、もっと面倒な仕掛けがあると思いますけどね」
ロズール「宝さがしでもしているのか?」
ファリン「宝・・・」
ファリンは一瞬、複雑そうな表情になる
ファリン「まあ、そんなところですね・・・」