お世話になります!(脚本)
〇立派な洋館
ついて行った先は、街の端にある
大きなお屋敷だった。
大きさの割に華美ではないお屋敷の
廊下を進んでいき、応接室のような
部屋に通される。
〇貴族の応接間
ラハオルト「まずは自己紹介からだな。 俺の名前はラハオルト。 ヴァンパイアハンターの組織 【アロウ】のリーダーをしている」
理華「あ、【アロウ】って・・・」
赤い髪の男性もそう名乗っていた。
組織の名前だったんだ。
ラハオルト「こっちの赤い髪をした目つきが悪い男が ミトクタシア。あと灰色の髪をした ちっこいのがペペルだ」
ペペル「ちょっと、ちっこいは余計なんだけど。 それに僕、成長期でぐんぐん 伸びてるから。今にリーダーを超すから」
三人の紹介を終えて、六つの目が
私に向けられる。
理華「私は綾川理華と言います」
いつの間にか森にいて、この世界にいる
理由も帰り方もなにも分からない
ことを正直に告げる。
「・・・・・・」
ラハオルト「・・・・・・」
三人から返ってきたのは沈黙だけ。
すんなり受け入れてくれるような
内容でないことは私も分かっている。
理華「私、おかしなことを言っていますよね。 でもこれ以上に説明しようがなくて・・・」
ペペル「おかしなこと言ってるって自覚 あったんだ。じゃあ隠し立てしないで、 本当のことを話したら?」
理華「だから私は、本当に・・・!」
ラハオルト「話は分かった」
ペペル「リーダー!?」
ラハオルト「・・・噂で聞いたことがある。 俺たちが住むこことは別の世界があって、 そことの行き来を管理してる一族が いるって話だ」
ペペル「えっ!?」
ラハオルト「それが本当ならこの子の言ってることは 真実かもしれない」
理華「そ、それって、その一族の人に頼めば 帰れるかもしれないってことですか!?」
ラハオルト「・・・悪いがそれは分からない。 俺が聞いたのは噂程度のことだからな」
ペペル「でもさ、それがただの噂だとしたら、 やっぱりこの女は嘘を吐いている 可能性が残るよね?」
ラハオルト「・・・ミトはどう思う?」
ミトクタシア「俺も噂は聞いたことがあるが、 ラハオルトと同様に確かなものじゃない。 それにペペルが言っていることも 理解できる」
理華「・・・・・・」
ミトクタシア「――だが」
赤い髪の男性――ミトクタシアさんの
目がスッと細まり鋭さを帯びる。
ミトクタシア「その格好の説明がつかねえ。 まったく見たことのないデザインだ」
ミトクタシア「つーことは、この小娘の言ってることは 本当なんだろうよ」
理華「・・・・・・」
意外にもミトクタシアさんが助け舟を
出してくれる。
ミトクタシア「勘違いすんじゃねぇよ」
理華「え・・・」
ミトクタシア「俺は別におまえの味方をしてやった わけじゃねえ。状況的に考えて 信用できると思っただけだ」
理華「は、はい。 全然ミトクタシアさんのことを いい人だなんて思ってません」
ミトクタシア「・・・・・・」
理華「あ・・・」
ラハオルト「ともかくだ。 この子は本当に異世界から来て、 行く当てがないんだろうさ」
ラハオルト「な?」
理華「・・・はい」
ミトクタシア「はあ。 ラハオルトが何を言いたいのか 見当がついた」
ミトクタシア「つまり小娘をここに置くって 言いたいんだろ」
理華「え・・・」
ミトクタシア「この女が【聖女】でヴァンパイアに 狙われてる上に帰る場所もないんなら、 おまえが取る選択なんてひとつしか ないだろ」
ラハオルト「話が早くて助かる」
ラハオルト「というわけでだ。 今日からこの屋敷に綾川の部屋を 用意しようと思う」
ラハオルト「それで構わないか?」
願ってもない申し出で、
こちらの方こそ本当に構わないのかを
確認したい。
理華「あの・・・自分で言うのも おかしいですが、私みたいな素性の 分からない人間を屋敷に置いても 大丈夫なんですか?」
ラハオルト「ああ。 ヴァンパイアに襲われた人間を 保護するのも仕事のうちだしな。 気にしなくていい」
理華「そ、それなら・・・ ありがとうございます、 お世話になります」
しかしただ世話になるだけなのも
心苦しい。
一瞬逡巡したのち、
私はラハオルトさんに申し出る。
理華「あの! お世話になる代わりになんでも しますので、いろいろ言いつけてください」
理華「掃除とか食事の用意とかできることは しますから」
ラハオルト「それは助かるな。 人手が足りてなかったんだ」
ラハオルト「部屋に案内するからついてきてくれ、 こっちだ」
こうして私はこの【アロウ】の屋敷で
お世話になることになった。
〇貴族の応接間
ラハオルトと理華が部屋を出て、
残された二人は足音が
遠ざかっていくのを静かに聞いていた。
ペペル「ねえ、ミトさん。 もしかしてリーダー最初から・・・」
ミトクタシア「さあな。 どの段階でこうしようと考えたのかは 分からねえよ」
ミトクタシア「だがもしあの小娘が自分から手伝いを 申し出なかったとしても、 そうなるようにしただろうな。あいつは」
ペペル「リーダーってそういうとこありますよね」
ミトクタシア「ああ。それでいて人の良さそうな顔を してるから性質《たち》が悪い」
二人がこんな会話をしているなどと、
理華は知る由もなかった。