誘拐プランナー

吉永久

読切(脚本)

誘拐プランナー

吉永久

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〇廃ビルのフロア
  Introduction
市原耕三「う、うーん・・・」
市原耕三「こ、ここは?」
高木誘作「おはようごさいます、市原耕三(いちはら こうぞう)さん」
市原耕三「ええと、君は・・・」
高木誘作「お忘れですか? 俺ですよ、高木誘作(たかぎ ゆうさく)です」
市原耕三「あ、ああ。そうか」
市原耕三「確か帰りがけに車に引きずりこまれて」
高木誘作「その通りです。あなたを誘拐させていただきました」
市原耕三「そうか・・・ついにこの日が・・・」
高木誘作「少々、手荒な真似をさせてもらいました。痛むところとかありますか?」
市原耕三「いや、大丈夫だ・・・」
高木誘作「そうですか。では早速、身代金の請求に移らせていただきますね」
市原耕三「なるべく、早く終わらせてくれ・・・」
高木誘作「もちろんです。長引かせれば長引かせるほど、俺の立場が不利になりますからね」
高木誘作「電話、お借りしますよ」
高木誘作「では、行きます」
市原耕三「ああ・・・」
藤島真奈美「はい、こちら株式会社市原テクノロジーです」
高木誘作「もしもし」
高木誘作「はじめまして、誘拐犯です」
藤島真奈美「え?」
高木誘作「おたくの社長さん、誘拐させてもらいました」

〇廃ビルのフロア
  Development
藤島真奈美「そんな!」
藤島真奈美「そんな額、とてもすぐには・・・」
高木誘作「わかってるよ? だから猶予を与える」
高木誘作「そうねぇ、明日の夜明けまでというのはどう?」
藤島真奈美「そんな・・・そんなのできません」
高木誘作「なら社長さんはこれまでだね」
高木誘作「哀れ、市原耕三。無能な部下を得たばかりに死亡。その前途ある人生を道半ばにして死す」
高木誘作「なーむー」
藤島真奈美「せめて・・・」
藤島真奈美「せめて、社長の声を聞かせてください」
藤島真奈美「話はそれからです」
高木誘作「確かに」
高木誘作「でないとフェアじゃあないね」
高木誘作「社長、お電話です」
市原耕三「あ、ああ・・・」
市原耕三「もしもし」
藤島真奈美「もしもし! 社長ですか!」
市原耕三「ああ、藤島君か・・・」
藤島真奈美「はい。ご無事なんですね」
市原耕三「まぁ、何とか」
藤島真奈美「その、身代金なんですが・・・」
市原耕三「聞いていたよ。三億だそうだな」
藤島真奈美「そんなのすぐに用意できるお金じゃあ・・・」
市原耕三「わかってる。無理しなくていい」
藤島真奈美「そんな・・・」
市原耕三「私の運もここまでということなのだろう」
市原耕三「社長になったその日から覚悟はできている」
市原耕三「君たち社員には迷惑をかけるが、なに、問題ない」
市原耕三「私が手塩をかけて育ててきた部下たちだ。私がいなくなってもやっていけると確信してるよ」
藤島真奈美「うっ・・・うっ・・・」
市原耕三「泣かないでくれ、藤島君」
市原耕三「いや、真奈美」
市原耕三「こんなことになるなら、君とはもっと早く籍を入れるべきだったな」
市原耕三「本当にすまないと思っている」
市原耕三「真奈美、愛してるよ」
藤島真奈美「耕三さん・・・」
高木誘作「さて、じゃあお別れも済んだことだし」
高木誘作「社員一同、社長の死をお望みということなので──」
藤島真奈美「待って!」
高木誘作「お?」
藤島真奈美「なんとか・・・なんとかしてみるから、少しだけ時間をください」
高木誘作「こっちは始めからそのつもりだけど」
藤島真奈美「だから社長には! 耕三さんには手を出さないで!」
高木誘作「うん。そうと決まれば手出しはしないよ。大事な取引材料だからね」
藤島真奈美「絶対ですからね!」
高木誘作「わかってるって。信用ないなぁ、俺」
藤島真奈美「誘拐犯が何を言ってるんですか」
高木誘作「ご尤も」
高木誘作「ともあれ、頑張って金かき集めてよ。またのご連絡をお待ちしておりまーすっと」
高木誘作「・・・社長」
市原耕三「ん?」
高木誘作「名演技です」

〇廃ビルのフロア
  Twist
市原耕三「当然だ。俺を誰だと思ってる」
高木誘作「そりゃもちろん、次世代を担うIT企業のトップ、市原耕三様その人です!」
高木誘作「技術も経営も一流ともなれば、演技の方も一流と来た!」
市原耕三「つまらんお世辞だな」
高木誘作「いやいや、実際大したもんですよ!」
市原耕三「もういい。それよりも、俺は何時まで縛られてればいいんだ?」
高木誘作「あ、きつかったですか?」
市原耕三「そうじゃない。俺は本当に縛られている必要があるのかと聞いているんだ」
市原耕三「どうせ、電話越しじゃ何も見えんだろうに」
高木誘作「やだなぁ。大事なのはリアリティですよ、リアリティ」
高木誘作「その方が社長だってやりやすいでしょう?」
市原耕三「それは・・・まぁ」
市原耕三「だけど、もう交渉は終わったんだろ? ならもう解いても・・・」
高木誘作「全然ですよ」
高木誘作「むしろこれからが本番です」
市原耕三「そういうもんか・・・」
市原耕三「だが、しばらく電話だってかかってこないだろうし・・・」
高木誘作「で? かかってきたらどうするんです?」
高木誘作「とっさに縛られたふりして、しかも何時間も拘束されていた体を醸し出せるんですか?」
市原耕三「それは・・・」
高木誘作「お気持ちはわかりますが、今しばらくの辛抱を」
市原耕三「はぁ・・・」
市原耕三「まぁ、しかたないか」
市原耕三「だが、文句くらいはかまわんだろう?」
高木誘作「もちろん。そのくらいしてもらった方が、こちらも身が入るというものです」
市原耕三「全く、奇特な商売だな」
市原耕三「確か、誘拐プランナーと言ったか?」
高木誘作「はい。皆様に快適な誘拐ライフを送っていただくため、様々な誘拐を企画・立案し、遂行させていただきます」
市原耕三「そうだな。実に快適だよ」
市原耕三「それで、それって実際儲かるのか?」
高木誘作「今まさに」
市原耕三「まぁ、せいぜい頑張ればいいさ」
高木誘作「もちろんですとも」
高木誘作「時に、本当に三億円なんて大金、用意してくれるんでしょうか」
高木誘作「自分で言っておいてなんですが、こんな短時間じゃまず無理では?」
市原耕三「それはもう説明しただろ」
高木誘作「すいません。実はまだよく呑み込めてなくて」
市原耕三「そんなんでよく引き受けたもんだな」
高木誘作「こんな破格の契約なんてそうそうないですからね。見逃す手はないと思ったんですよ」
高木誘作「だって一億五千万ですよ? 一億五千万」
市原耕三「ふん。そんなもんはした金だ」
市原耕三「そのくらい金、俺はいくらでも動かしてきた」
高木誘作「そこですよ」
高木誘作「あなたの会社なら三億円なんて用意できなくもない。それは何より、あなたが自由にできる金でもある」
高木誘作「だというのに、なんだってこんな狂言誘拐を?」
市原耕三「説明の義務があるのか?」
高木誘作「どうしても、ってわけじゃないですよ。俺の顧客はみんな訳アリなので」
高木誘作「まぁでも、誘拐している以上俺だって知らなかったで済む立場じゃないですし。できればして欲しいですね」
高木誘作「契約通り、報酬は身代金の半額」
高木誘作「でも存在しない金に時間を割きたくないという気持ちは、市原様ならわかるんじゃないですか?」
市原耕三「・・・はぁ」
市原耕三「そうだな」
市原耕三「・・・実はわが社は今、とんでもない負債を抱えている状態なんだ」
高木誘作「負債、ですか」
市原耕三「そうだ」
市原耕三「例えば契約を結ぶ時、想定よりも安い金額で引き受けられてしまったりなどな」
市原耕三「まぁ、そういう話はどこにでもある話だろうが」
高木誘作「つまり、赤字覚悟の契約ってことですか?」
市原耕三「ああ、そうだ」
市原耕三「会社が大きくなればなるほど、下っ端の社員にまで目がいかなくてな。そういったことがよく起こる」
高木誘作「そういうもんですか」
市原耕三「まぁ、これは原因の一つみたいなもので、いろんな要因が積もり積もって今の状態になっているに過ぎん」
市原耕三「実質的なリストラをしてみたり、いろいろと手は尽くしたがそれだけではもうどうにもならん状態だ」
市原耕三「だが、打開策がないわけではなかった」
高木誘作「と、言いますと?」
市原耕三「実はわが社には、藤島製薬のご令嬢がいる」
高木誘作「藤島製薬って、一代で財を築いたあの?」
市原耕三「そうだ」
高木誘作「そこのお嬢さんがいるから、出資してくれるだろうと」
市原耕三「そんなわけないだろ。でなきゃ、お前なんかに頼まん」
高木誘作「ですよねー」
高木誘作「でも、となると俺はよほどちょうどいいタイミングで現れたってわけですね?」
市原耕三「ああ、その通りだ」
市原耕三「お前の名刺を偶然拾った時は、天が俺に味方してくれているんだと思ったよ」
市原耕三「瞬く間に今回の狂言誘拐を思いついた」
高木誘作「それは何より」
高木誘作「しかし、たった一億五千万で会社が立ち直るもんですか?」
市原耕三「そんなわけないだろ。当面の資金だ」
市原耕三「それを元手に何とかする」
高木誘作「さすがは市原様! 手腕の見せ所ですね!」
高木誘作「しかし、それでもまだ疑問は残ります」
高木誘作「取引相手をご自身の会社にされたのわかります」
高木誘作「ご令嬢本人にすると露骨ですしね。多少の遠回りも致し方ないでしょう」
高木誘作「ですが、どうしてそのご令嬢が動く前提なんです? よほどの人望が──」
高木誘作「ってわけじゃないですよね?」
市原耕三「馬鹿にしてるのか?」
高木誘作「いえいえ、滅相もない!」
高木誘作「ただ、市原様ならより確実な理由がおありなんじゃないかなと」
市原耕三「ふん」
高木誘作「まだ隠してることありますよね?」
市原耕三「・・・はぁ」
市原耕三「わかったよ」
市原耕三「実は、俺はその例のご令嬢と付き合っている」
高木誘作「おやまぁ!」
高木誘作「じゃあ、もしかしてさっきの電話相手が」
市原耕三「ああ、彼女に出てもらえるよう時間帯を調整した」
高木誘作「なるほどなるほど。それで合点がいきました」
高木誘作「愛する者のためなら、お金なんて惜しまないでしょうね」
高木誘作「ましてやご令嬢。金に不自由してこなかったからこそ躊躇いもない」
高木誘作「あれ? でもそれなら初めから本人に頼めばよくないですか?」
市原耕三「そういうわけにはいかないんだ」
高木誘作「というと?」
市原耕三「彼女は親から自立したいと考えているようでな、どんなに頼んでも親に会わせてくれない」
市原耕三「家業と畑違いの会社に入ったのも、それが原因だろう」
高木誘作「ありがちですね」
市原耕三「まぁ、典型的なお嬢様と言われればそれまでだがな」
高木誘作「それでも愛は人を変える」
高木誘作「そういうことですよね?」
市原耕三「綺麗事だな」
高木誘作「またまたぁ、照れなくてもいいじゃないですか」
高木誘作「少なくとも、自身のちんけなプライドを折ってくれるくらいには愛されている。市原様もそう思っているんでしょう?」
市原耕三「・・・・・・」
高木誘作「ゆくゆくは結婚されるので?」
市原耕三「・・・もういいだろ」
高木誘作「そういえばさっき、もっと早く籍をいれておけばいいと何とか仰ってましたもんね」
高木誘作「いやぁ、楽しみだ。結婚披露宴には呼んでくれますか?」
高木誘作「曲がりなりにも、お二人の結婚を後押しした者として」
市原耕三「・・・・・・」

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