〇黒背景
　　１日目
　　最近の俺はツイている。
　　思わず自慢したくなるくらい、
　　星の巡り合わせがいい。
　　仕事で大きな契約が取れたり、
　　数年ぶりに可愛い彼女が出来たりと、
　　ラッキーが続いているのだ。
　　そんな俺も今日は早く家に帰りたくて堪らない。
　　何といっても待ちに待っていた日がやって来た。
　　そう・・・
　　以前より気になっていた
　　新作スマホゲームがリリースされるのだ。

〇整頓された部屋
　　１時間後──
　　夕飯も食べた、お風呂も済ませた。
　　俺はワクワクしながら、スマホのアプリストアを開いた。
俺「うわ・・・えー・・・」
　　・・・スマホの容量が足りない。
　　クソッ、出鼻を挫かれた。
　　何か画像やアプリを消さないとな。
俺「ん？　なんだこれ？」
　　見覚えのないデータがフォルダにある。
　　気になったので、とりあえず開いてみた。
　　これは・・・近所の公園か？
俺「指が当たったか？」
　　俺はよく解らない動画データを削除した。

〇整頓された部屋
　　２日目
　　今日は久しぶりの休日だった。
　　俺は趣味の食べ歩きを楽しんで、
　　最高の気分で帰宅した。
　　ベッドに寝転びながら、
　　ＳＮＳ用にアップする写真を選んでいた。
俺「ん？　なんだこの動画・・・」
　　撮った写真の途中に、突然『黒い動画のサムネ』があった。
　　気になったので、とりあえず開いてみた。
　　動画の画面は真っ暗で何も映っていない・・・
　　遮断機の音と、通過する電車の音だけが響いていた・・・
俺「指が当たった・・・にしては、変な位置にあるな」
　　同じ店で撮った写真の間に保存されている。
　　これはあれだ、うん。よく解らん。
　　消そう！
　　俺はよく解らない動画データを削除した。

〇整頓された部屋
　　３日目
　　ここ最近、スマホに変なデータがあるんだよな・・・
　　俺は昼飯の写真チェックも兼ねて、
　　フォトアプリを確認する。
俺「うわ、またある・・・」
　　少し複雑な気分だったが、とりあえず開いてみた。
　　動画には、階段をゆっくり上る様子が
　　映し出されていた。
俺「これって家の前？ やっぱり指が当たって録画されたのか？」
俺「・・・」
　　よし、削除～っと。
　　俺はよく解らない動画データを削除した。

〇散らかった部屋
　　４日目
　　・・・最近なんだか身体がだるい。
俺「うう～ん・・・」
　　どうやら熱もあるようだ。
俺「風邪かな？　うん、今日は早めに寝よう」
　　ゴソゴソと布団にもぐり、慣れた手つきでスマホを操作する。
　　変なことが続いているせいか、
　　写真チェックが日課になっていた。
俺「ん？　これって・・・」
　　眉をひそめながら、見覚えのないデータを開いてみた。
　　アパートの廊下の動画だ・・・
　　見覚えのある玄関ドアが画面に映っている。
俺「この家の前!?」
　　突然、得も言われぬ恐怖を覚える。
　　・・・・・・
　　俺はよく解らない動画データを即削除した。

〇整頓された部屋
　　５日目
俺「今日こそ、変な動画がありませんように⋯」
　　俺は、恐る恐るスマホのデータを確認する。
　　直視するのが怖くて、薄目でそっと画面を覗いた。
　　画面を覗くと、廊下のサムネがあった。
俺「一体、何なんだよこれ・・・」
　　俺は震える手で動画を再生する。
　　今いる部屋のドアに近づいてくる動画が再生される・・・
俺「──ッ!!」
　　俺は驚きのあまり、持っていたスマホを放り投げた。
　　その刹那、背後に何者かの気配を感じる。
　　恐怖を押し殺し⋯意を決して振り返った。

〇黒
　　そこには、髪の長い女が立っていた。
　　女は、じりじりとこちらに近づいてくる。
　　恐怖のあまり、喉からヒュッと音が漏れる。
　　そして・・・
　　目の前に女の顔がきたその時──
　　歪んだ口元から漏れる笑い声に
　　俺の意識は闇へと飲まれた・・・
　　第壱夜　見知らぬデータ
　　作：相模 凛
　　終