第二話 不吉な船出(脚本)
〇港の倉庫
翌8月13日 午前10:46
和歌山県 薄暮(はくぼ)港
雄司(ゆうじ)「また遅刻かよ、せつな! 何分待たせんだ!」
雄司(ゆうじ)「もう出るからな!」
服部 せつな「え~、待ってよ、ケチィ~」
服部 せつな「よッ!」
〇漁船の上
服部 せつな「いっだぁああ⋯」
服部 せつな「なんでこんなとこに こんなもん置いてんのよ~!」
樋上 雄司「悪い、オヤジのかも」
服部 せつな「『オヤジ』、ね」
服部 せつな「着々家族が増えて幸せそうねぇ?」
樋上 雄司「ハハ、お陰さんで」
服部 せつな「って、あ──ッ!?」
服部 せつな「ヒッ、ヒールが⋯」
服部 せつな「折れてるゥゥ!!」
服部 せつな「イッキュッパもしたのにィ!」
服部 せつな「マジない 金ない 生きてけにゃい⋯」
無名山 ホルヘ「嘆くことはありませんよ セニョリータ」
無名山 ホルヘ「『貧しい人々は幸いである」
無名山 ホルヘ「神の国はあなたがたのものである』」
服部 せつな「いや、イミフ」
服部 せつな「てかホルヘ、まだ日本いたん?」
無名山 ホルヘ「ここで主の教えを説くことにしたのです」
無名山 ホルヘ「母を捨てた愚かな男が 生まれ育った、この国でね」
服部 せつな「ふーん」
服部 せつな「そんなことより、 お金、恵んでくんない?」
服部 せつな「靴代だけでいいからさ! ね? 優しい神父様🎵」
大原 満枝「アッハッハ! 揃いも揃って変わらないねぇ!」
佐江川 一輝「ミッチェママの豊満爛漫も!」
大原 満枝「いっちゃんの口達者もね!」
佐江川 一輝「それに比べて──」
佐江川 一輝「お春はどうしちゃったのさ?」
佐江川 一輝「アイランド・ウェディングなんて 女子力上がりすぎ~」
静永 春花「ち、近いです、一輝さん」
静永 春花「雄司さんが調べてくれたの」
佐江川 一輝「あの雄司が!? キャラ変わりすぎ~!!」
樋上 雄司「みんなに来てもらいたかったからな」
佐江川 一輝「あー」
ネイキッド・N・ヌーディック「波に集中⋯風に集中⋯」
ネイキッド・N・ヌーディック「これは海上ハンモック 乗り物ジャナイ⋯」
穂積 真緒 「その甲斐あって、7年ぶりの全員集合か!」
穂積 真緒 「君には初めて会うな」
穂積 真緒 「穂積 真緒だ。宜しく」
角下 イノ 「どうも、僕は角下イノ」
角下 イノ 「ネイキッド探偵の助手ッス!」
穂積 真緒 「探偵助手ってこと!?」
穂積 真緒 「えらい本格的だね、何かあったの?」
「もう済んだことだから!」
角下 イノ 「事件絡みの同行じゃなくて、 ただの付き添いッス」
角下 イノ 「いやね、参加を決めたのが、 昨日の昼過ぎだったんスよ」
角下 イノ 「で、速攻スーツ買ってきたのにセンセたら、」
角下 イノ 「そで通す前から蕁麻疹 & 過呼吸でさぁ」
角下 イノ 「諦めてマッパで行こうにも、 バイクや新幹線はアウトっしょ?」
角下 イノ 「だからレンタカー借りてきて──」
〇ペットショップの店内
ネイキッド・N・ヌーディック「デバくん、元気でね?」
ネイキッド・N・ヌーディック「私のこと忘れないでね?」
古野 育美「閉店のお時間です」
古野 育美「デバ様のことは私どもにお任せください」
角下 イノ 「たかが3日の別れを いつまで惜しんでるんスか?」
角下 イノ 「さ、腰のタオルお返しして」
古野 育美「お迎えのときで結構ですよ」
角下 イノ 「すみません」
角下 イノ 「さっさと車に戻りますよ!」
ネイキッド・N・ヌーディック「嫌だ⋯車は、もう⋯」
角下 イノ 「今乗ってきたっしょ?」
ネイキッド・N・ヌーディック「それはデバ君が一緒だったから⋯」
角下 イノ 「いい加減にしてください! 皆を守るんでしょう!?」
ネイキッド・N・ヌーディック「行きましょう」
ネイキッド・N・ヌーディック「⋯ぅん」
ネイキッド・N・ヌーディック「デバ君⋯」
〇繁華街の大通り
デバくぅ──ん
〇漁船の上
角下 イノ 「──で、夜通し走ってきたんス」
角下 イノ 「その間ネイキッさんは ずっと白目むいてたワケで、」
角下 イノ 「皆さんに迷惑かけちゃ悪いんで 同行したんス!」
角下 イノ 「手がいるときは手伝うッスよ! 撮影でも皿洗いでも!」
穂積 真緒 「そういうことね」
穂積 真緒 「心強いよ、ありがとう」
穂積 真緒 「でもお盆時期によかったの? 帰省とか」
角下 イノ 「全く問題ないッス」
角下 イノ 「僕、家族と縁切ってるんで!」
穂積 真緒 「話聞こうか? 相談窓口紹介できるかも⋯」
角下 イノ 「や、困ってないんで! むしろ気楽だし!」
穂積 真緒 「君がいいならいいんだ」
穂積 真緒 「ネイキッドも変わりないようで なによりだ!」
大原 満枝「変わりないもんかね!」
大原 満枝「あのちぃ探偵ちゃんが 随分とまぁ、立派になったじゃないの!」
大原 満枝「その、イロイロ、立派に、ね?」
佐江川 一輝「それな〜!」
佐江川 一輝「晴れの舞台にそんな危険な 『ブツ』ぶら下げて来るか?」
佐江川 一輝「ブフッ! な、ちょ、こっち来て?」
佐江川 一輝「はい! フ~ルモ〜ンティ〜♪」
佐江川 一輝「万バズいくっしょこれ!」
佐江川 一輝「あ!」
佐江川 一輝「ポリタンク映ってんじゃん! フォトジェニック台無し~」
佐江川 一輝「ちょっと雄司〜! 隠しといてよ、そのオレンジぃの!」
服部 せつな「探偵たん、今も ミニマリストなんだ?」
服部 せつな「お金余してない? 使ったげるよ♪」
無名山 ホルヘ「ほぅ?」
無名山 ホルヘ「その全裸は『聖貧』の実践でしたか⋯」
無名山 ホルヘ「さしずめ令和の聖フランチェスコと いったところかな?」
無名山 ホルヘ「長らく君を誤解してましたよ セニョール・ネイキッド」
〇繁華街の大通り
角下イノ「『着ぶくれた道化師』って──」
〇車内
角下 イノ「本当に過去の事件の犯人なんスかね?」
角下 イノ「パーティー会場知ってたんだから、 やっぱ施設メンの悪戯では?」
ネイキッド・N・ヌーディック「会場なら部外者でも知り得ますよ」
角下 イノ「この個人情報保護時代に?」
ネイキッド・N・ヌーディック「イノ君が私を知ったきっかけは?」
角下 イノ「SNSか!」
角下 イノ「確かに静永さん、 いつもSNS開いてたッスね」
角下 イノ「でも、小説の頭文字のコトは?」
角下 イノ「身近な人か犯人以外、知り得ませんよね?」
ネイキッド・N・ヌーディック「ですから、13年前の犯人かと⋯」
角下 イノ「そういえば!」
ネイキッド・N・ヌーディック「ウッぷ!」
角下 イノ「さっき店員さんに聞いたんスけど、」
角下 イノ「スローロリスって もう売ってないらしいッスよ」
角下 イノ「絶滅危惧種だとかで」
ネイキッド・N・ヌーディック「え、えぇ、」
ネイキッド・N・ヌーディック「それに、ペットでしたら毒腺は 抜かれているでしょうから、」
ネイキッド・N・ヌーディック「事件に用いられた個体は密輸や 『実験動物』の可能性が高いでしょう」
角下 イノ「フフッ」
角下 イノ「めっちゃ喋りますね、ネイキッさん」
角下 イノ「過去に向き合う気満々じゃないッスか👍」
ネイキッド・N・ヌーディック「イノ君、口を動かしてると 運転荒いんだもの」
ネイキッド・N・ヌーディック「警察の話では事件の3年前、」
ネイキッド・N・ヌーディック「G大学・遺伝子工学ラボから 1匹のロリスが失踪していたそうです」
角下 イノ「3年前ならさすがに 無関係じゃないッスか?」
ネイキッド・N・ヌーディック「奇しくも同時期に姿をくらました 研究者がいたとか──」
角下 イノ「怪ッし~ぃ!」
角下 イノ「どんなヤツなんスか?」
〇古生物の研究室
執木 尋(しきぎ じん)
失踪当時22歳
16歳で米国の大学に飛び級で入学。
遺伝子工学を専門とし、
遺伝子組み換え・クローニング・
抗老化などを研究。
21歳で帰国しG大学・
遺伝子工学ラボに編入するが、
そのわずか9ヶ月後に失踪。
以降姿を見た者はいない──
〇車内
角下 イノ「失踪当時22歳⋯ 16年前だから、今38ッスか」
角下 イノ「留学してたってことは、 海外に飛んだ可能性も⋯」
角下 イノ「ていうか、ネイキッさんの 母君って確か──」
ネイキッド・N・ヌーディック「ちょっ!左寄ってる! 前見て前!」
〇漁船の上
角下 イノ「ん? 船止まってる?」
角下 イノ「島って、すぐあそこのッスよね?」
樋上 雄司「⋯舵が重い」
樋上 雄司「後ろ見てくるから、これ着て座ってて」
「救命胴衣!?」
服部 せつな「大袈裟くない? 映画か!」
佐江川 一輝「や~い! 雄司ちゃんのビビリ~!」
佐江川 一輝「お春のナイーブが移っちゃった?」
大原 満枝「守るべきモンができたからよ」
樋上 雄司「念の為だって」
樋上 雄司「この辺はスナメリとかも出んだ」
樋上 雄司「とにかく着て、座って待っててくれ」
角下 イノ 「砂メリ? チンアナゴの一種ッスか?」
ネイキッド・N・ヌーディック「小型のクジラですね」
ネイキッド・N・ヌーディック「体格は小柄の成人男性ほど、」
ネイキッド・N・ヌーディック「野生では警戒心も強く 船に近づかないと聞きますが⋯」
角下 イノ 「活字&デジタル恐怖症の 引きこもりの割には詳しいッスね!」
ネイキッド・N・ヌーディック「動植物の図鑑は好きなんですよ ネイチャーフルですし」
角下 イノ 「むむ⋯?」
角下 イノ「空気がシケてきたッスね」
角下 イノ「よし!」
角下 イノ「はい、注目ぅ! モノマネしまーす!」
角下 イノ「では──」
角下 イノ「どうッスか?」
ネイキッド・N・ヌーディック「デバ君ですね! 素晴らしいです!」
佐江川 一輝「いや、わかんねぇよ!」
ネイキッド・N・ヌーディック「今の振れは⋯?」
樋上 雄司「皆、海に飛び込めッ!! 今すぐだ!!」
樋上 雄司「浸水してる!! 沈没すんぞ──ッ!!!」
〇漁船の上
角下 イノ「わわっ、やっば!」
角下 イノ「イノ一番、行っきまーす!」
佐江川 一輝「ちょ!タンマタンマ!」
佐江川 一輝「オレのライフジャケット 破れてんだけどぉ!!」
ネイキッド・N・ヌーディック「こちらをどうぞ」
佐江川 一輝「え、これお前のじゃ──?」
ネイキッド・N・ヌーディック「私は着ません」
ネイキッド・N・ヌーディック「裸族ですから」
佐江川 一輝「そ、そうか!」
佐江川 一輝「じゃ、遠慮なく」
佐江川 一輝「サンキュな!」
無名山 ホルヘ「やれやれ、なぜ怖がるのか 信仰浅き者たちよ」
無名山 ホルヘ「祈るのです! 主が我らを救いたもう!」
大原 満枝「バカ言ってないでお逃げ!!」
大原 満枝「あんたも鞄なんて置いてきな!!」
服部 せつな「ぷえぇ、もったいにゃぃ〜」
樋上 雄司「こっちだ!春花!つかまれ!」
静永 春花「無理ぃ⋯」
樋上 雄司「春花!!」
樋上 雄司「俺を信じろ! 絶対にお前を離さない!」
静永 春花「雄司さん❤️」
穂積 真緒「海難は#118だったな」
「わ!」
穂積 真緒「くっ!スマホが⋯!!」
穂積 真緒「発煙筒はどこ!?」
ネイキッド・N・ヌーディック「穂積さん!君で最後だ! 早くこちらへ!」
穂積 真緒「でもまだ助けを呼んでな──」
〇水中
〇海
「プハッ!」
穂積 真緒 「何するんだ! 救助要請できなかったじゃないか!!」
ネイキッド・N・ヌーディック「でも君が危険だったから──」
穂積 真緒 「我が身より皆の安全だ!!」
穂積 真緒 「──とにかく!」
穂積 真緒 「なめてくれるなよ、警察を」
ネイキッド・N・ヌーディック「今日は完全オフでしょう?」
ネイキッド・N・ヌーディック「それに、この天気、この距離なら 皆無事に上陸できますよ」
穂積 真緒 (⋯)
穂積 真緒 (確かに──)
〇島
穂積 真緒(目的地は目と鼻の先、 せいぜい数十メートルか)
〇海
寄る辺なく海原に
放り出された僕らはただ、
船が緩やかに、
されど確実に沈みゆく様を
無言で見つめるしかなかった。
それはあたかも、
この先、彼らを待ち受ける
逃れようもない運命を
暗示するようだった⋯
裸族だからライフジャケット着ないという、分かるような分からないような理屈が最高でした!
個性豊かな面々、人数減るのはさびしいですが笑
あぁ、最後の分の香りがこれから起こる惨劇(?)を彷彿とさせるミステリーの香りがしますね。舞台も絶海の孤島でクローズドミステリー的にはもってこい。大きく物語が動き出しましたね
不穏な島…
“早く減らしたい”の作者コメント…
不吉ですね…
こういうの大好物です🤤