inakamono(脚本)
〇渋谷駅前
「おう、今日は祭りか?」
渋谷駅の改札口までの間にそう思った。
なんだ、この改札が違えば目的地までのリカバリーが大変になるシステム。田舎者の出張者には難易度が高い。
あっちはなんか駅ビルの中に突っ込んでんな。
っていうか今、何階にいるんだ?
地面が見えねぇな。
登るのか?下るのか?
外の景色が見えねぇ。
ハチ公口ってどこだよ。
あの長瀬が窪塚とやってたロケ地どこだよ。
あ、あれ池袋か、IWGPだ。
田舎者には池袋の渋谷も新宿も大して差はない。ただの都会だ。ドラマや番組のイメージだけのファンタジーの都市みたいなもんだ。
TVで美味い店の特集なんかをしてても、決していけない場所のグルメ情報だ。ここ渋谷が近所だったならば、
「あ、こここないだTVでしてたとこだ!」なんて思えるんだろうな。なんてことを思ったけれども、ここら辺で生まれてたら
そんな感覚はゼロで「そうなの?普通に行けるからわかんないや」とか東京弁を用いて鼻で笑われるのであろう。
大体、渋谷って文字からしたら「谷」だろ?そうか、重力に引かれて人が落ちてくるのか?あの交差点に。
本来は白土三平の漫画に出てきそうなくらいの田舎で本場の伊賀や甲賀には敵わないけれども、良質な忍者の訓練場とか
そういう施設があったのかもしれない。渋谷が三重と滋賀に憧れる時代があったかもしれない。渋谷が?滋賀に?憧れるぅ?
渋谷が?三重に?憧れるぅ?いや、それはないな。ないない。忍者育成場の推測はここで諦めよう。いや、そんなことよりハチ公口。
どこだよ。あ、あそこか?人がたくさん降りてるわ。見えるけど、なんだ、この人の量は?人流は。
感染症云々の話はどこいったんだよ。3密はどこいったんだよ。俺はあそこの階段からハチ公口に行きたいんだよ。
元inakamono「今日くらい人が少なかったら密じゃなくていいよね」
tokaimono「こんなに人少ないの珍しいよね」
なんだ、こいつら何を言っているんだ。この人数はうちの地元の花火大会の開催時間に併せて周辺から集まってくる駅の
構内以上に人がわんさかいるんだぞ。人で溢れている。こいつらは一体何を言っているんだ?あ、少し人波が進み始めた!
もう少しでハチ公口に続く改札だ。急げ。約束の時間まではあと15分。
待ち合わせはT珈琲の渋谷スクランブルなんたら店ってとこだけど、ハチ公口から見えるらしいから1階に着けばわかるだろ。
よし、あともう少しだ。こいつらさっさと進めよ。しゃんと進め。しゃんと。
さっき右ポケットに切符入れたよね。っていうか出張増えればsuicaとか買うけど、年に数回じゃ買う気にもなんねぇな。
そもそもうちの地元で使えねぇっつうの。suica。採算も取れないからずっと切符なんだろうけど、
それはそれでなんか寂しさと悔しさがあるよね。あ、切符あった。
ピッピピッピやってんだから、もっとスムーズに進めるだろ。俺だってこの段階で切符握ってんだからな。
元inakamono「でさー。その店員の対応がぜんまい仕掛けかってくらい遅くて・・・」
tokaimono「ふーん。それは嫌だね」
元inakamono「でしょう?」
お前のこないだ食った飯屋の店員の態度はどうでもいい。店員さんだってお前の世話だけしてるんじゃねぇんだよ。
はよ進めや。俺は急いでんだよ。
よし、もう少しだ。そろそろ切符を出しとこう。右のポケットだったな。
よし、俺の番だ!切符ゴー!
バンッ!
何、閉まってんだよ。さっさと通せよ。しかも切符が出てこねぇじゃねぇか。
あれか!?俺のエキサイティングな感情が手汗となり、切符に影響を与えたというのか?
そんなことはどうでもいい!はよ、店員いや駅員来い!あと、なんだこの周囲の冷たい目線は!
元inakamono「切符が詰まったのかな?」
tokaimono「切符ってなんだよ!今、令和だぞ」
なんだ、この屈辱は。カモン駅員。俺の切符を出してくれ!カモン駅員。ヘイ、カモン!
あいつら、殴ったあとに急に優しくなるような共依存の男でも捕まえて痛い目にでもあいやがれ!あ、駅員だ。こっちこっち!
なんとか駅員が切符出してくれたおかげで改札を出れた。時間もまだ余裕がある。間に合いそうだ。
よし!こんな思いをするんなら、ずっと避けてきたオンライン会議のアプリをダウンロードしよう。
こうして渋谷駅は中年のテレワーク勤務者を一人増やしましたとさ。
田舎から出てきたら、たしかに改札とかは分かりづらいかもですね。
路線図とかにも特に書いてないので、ちょっと不親切な感じはします。
女の子たちの名前がすごかったです。笑
今は令和だぞというツッコミが
この作品を物語っている様で面白かったです😂
切符、確かに使う機会はもうほとんどありませんね🤔笑
タイトルが、日本語ではなく、ローマ字になっている感じがさらに言葉が強調されている感じがしてよかったです。言葉の運び方からもタイトルが強調されている感じがしました。