第11話 『春の星座』(脚本)
〇黒
こいつを殺しますか?
→はい
いいえ
〇洋館の階段
決意のまなざしで、嵐は澱(よど)んだ暗闇が広がる小部屋の中に足を踏み入れた。
階段の踊り場から蕗子と大志の必死の呼びかけが聞こえるが、嵐の決意はゆるがない。
梵嵐「私が凪を止める」
正岡きらり「嵐ちゃん! 言うこと聞いて!!」
正岡が嵐の手を引っ張るが、嵐はその手を振りほどいて正岡を突き飛ばした。
梵嵐「ありがとう」
正岡きらり「だめええ!!」
嵐が部屋に入った途端、バタンと勢いよく小部屋の扉が閉まる。
それと同時に、鳴り続けていた鐘の音もピタリと止まった。
黒い蓮介「・・・・・・」
蕗子と大志の行く手を塞ぐようにいた黒い蓮介は、鐘の音が鳴りやむと同時に細かい粒子に砕けて消滅した。
正岡きらり「嵐ちゃん!」
正岡は急いで小部屋の扉を開けようとするが、ドアノブはびくともしない。
岡崎大志「どけッ!!」
駆けてきた大志がそのままの勢いで扉を蹴りつけると、扉は勢いよく開いた。
〇洋館の一室
小部屋の中には、今まさにガラス片となって砕けていく黒いなにかの姿があった。
黒いなにか「・・・・・・」
岡崎大志「嵐!!」
大志が黒いなにかの元へと駆け寄るが、たどり着く前にそれは塵(ちり)となって消滅した。
岡崎大志「・・・っ」
岡崎大志「・・・・・・」
岡崎大志「なんで止めなかったんだよ」
正岡きらり「と、止めました。でも・・・」
岡崎大志「でもじゃねえだろ!! 押さえつけてでも──」
大志が言いかけて正岡を見ると、正岡は静かに涙をこぼしていた。
岡崎大志「・・・くそっ!!」
正岡きらり「ご、ごめんなさ・・・」
岡崎大志「あんただけのせいじゃねえよ・・・俺が、蓮介に頼まれてたってのに・・・!」
鎧坂蕗子「嵐は?」
正岡きらり「・・・ごめんなさい。私が一緒だったのに」
鎧坂蕗子「・・・・・・」
岡崎大志「・・・行くぞ。30分後、またあいつらは来る」
〇洋館の玄関ホール
正岡きらり「・・・やっぱり直ってる」
玄関ホールにやってきた蕗子たちの前では、壊したはずの柱時計が元通りの姿で動いていた。
岡崎大志「三階の割れた窓も、もとに戻ってたな」
岡崎大志「どうすりゃいい・・・!」
鎧坂蕗子「蓮介君も・・・嵐も・・・」
蕗子が茫然として呟く。
岡崎大志「らしくねえだろ! しっかりしろ!」
鎧坂蕗子「でも・・・私・・・わたしが」
言いかけたとき、正岡が蕗子の手を握った。
鎧坂蕗子「・・・え」
正岡きらり「・・・あ、ごめんなさい!」
正岡きらり「わ、私なんかがその、励ますとか、蕗子さんの気持ち、全然わかってあげられないのに、余計なこと・・・」
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