サルヴァ・ダルマ・アートマン 世界はみえない「かたち」で出来ている(脚本)
〇研究施設の守衛室前
・・・・・・・・・・・今のは、夢?
その日も僕は、
城一杯に隙間なく詰め込まれたケシ粒を一粒一粒取り出すような目で、
億劫《おっくう》なほどたくさんの数字が並ぶ画面とにらめっこしていた。
鬼山「五色《ごしき》!ちょっと来い! 頼んでた事全然やってないじゃないか!」
ひかる「いえ、その、実は」
鬼山「いつも言い訳ばっかりじゃないか!」
はぁ~。 どうして僕がこんなことまでやらなきゃいけないのかなぁ~。
いっそのこと鬼山《きやま》さんなんて、
消えていなくなっちゃえばいいのに・・・・・・
僕の手はそのとき、ワラ人形と五寸釘《ごすんくぎ》を無性に欲っしていた。
〇本屋
「店員 いらっしゃいませ♪」
ある日、僕は本屋で奇妙な本を見つけた。
『科学論文にもまだ載っていない
宇宙の本当の秘密をあなたに教えます』
という大きな文字と、星空の写真があった。
中身を見てみると、科学や哲学や神話など、様々な分野の知識が混ざり合っていた。
天文学者という職業柄、
元々その分野に興味があった僕は、つい興味本位でその本を買ってしまった。
それがすべての始まりだった。
〇本棚のある部屋
その夜、僕はその本の興味深い内容に惹かれて一晩中読みふけった。
〇本棚のある部屋
翌朝、気がつくと僕はその本を一日で読破していた。
すると、本の最後のページには、
『宇宙の秘密を探す会』という団体の連絡先が書いてあった。
電話番号やメールアドレスやウェブサイトなどがあった。
僕は好奇心に負けて、そのウェブサイトを開いてみた。
そこには、『宇宙の秘密を探す会』という団体の紹介や活動内容や参加方法などが書いてあった。
〇研究所の中
その日の夜、 深夜のようにひっそりと静まり返った研究室《ラボ》で一人、
僕が書類を整理をしていた時のことだったと思う。
「ツンツン」
何かが、僕の背中をツツいている。
「はい?」
後ろを振り返るとそこには・・・・・・、
「あの・・・・・・」
おとぎの国からきた迷子の妖精のような
可憐な少女がいた。
その髪は長くツヤやかで、まるで水彩絵の具で描いたような透き通った水色をしていた。
そして、その妖艶な栗色の瞳はさっきからずっとこちらをみつめている。
ひかる「きみ・・・・・・名前は?」
愛理栖(アリス)「《《愛理栖《ありす》》》と言います」
ひかる「きみは、え~と確か実家のお隣の女の子だよね? 雰囲気違うから一瞬わからなかったよ」
愛理栖(アリス)「・・・はい」
愛理栖(アリス)「実は・・・・・・、私お兄さんに渡したいものがあるんです」
彼女は僕に恥ずかしそうに何かをくれようとする。
ラブレターかな?
それとも、バレンタインのチョコかな?
後者は時期的に違うか。
僕が自分の世界で天狗になり勝手に妄想を膨らませている間に彼女は僕に差し出してきた。
愛理栖(アリス)「これ・・・・・・」
ひかる「あ、ありがとう。 名刺のようだね、なになに? "宇宙の秘密を探す会"?」
昨日、僕が買った本と同じだ。
ひかる「愛理栖ちゃん、これはどういう・・・・・・」
愛理栖は僕に名刺を渡すやいなや、飼い猫から逃げるネズミのようにこの場を去ろうとしていた。
ひかる「ねえ、君は本当にあの愛理栖ちゃんなの?」
愛理栖(アリス)「ごめんなさい・・・・・・」
愛理栖(アリス)「信じて! あなたが消えちゃうその前に・・・・・・」
その言葉を最後に愛理栖の姿は見えなくなった。
何を言おうとしてたんだろう?
それに、愛理栖ちゃんの性格ってあんなだったかな?
何かひっかかる・・・・・・。
名刺の裏には地図と時間、そして"誰にもいわないで"と書かれていた。
僕は喉に刺さった小骨のように愛理栖のことがずっとひっかかっていたので、後日先輩に聞いてみた。
〇研究施設のオフィス
ひかるの先輩「誰も来てないぞ! 夢でもみたか?」
ひかる「だって、現に来たんですよ」
僕は名刺を見せようとしたが、注意書きを思い出し思いとどまった。
そして話題を変えた。
ひかる「ところで先輩? 今日は朝から鬼山さんを見ませんね?」
ひかるの先輩「はい? おい五色。 お前本当に頭大丈夫か? 鬼山なんて人はこの研究所にいないだろ」
僕は、言い訳なんてさせないぞと言わんばかりの先輩の表情に、恐怖すら感じていた。
終業のチャイムを聞くやいなや、僕はもらった名刺をポケットから出し食い入るように見つめていた。
『信じて、君が消えちゃう前に・・・・・・』
僕は、愛理栖が去り際に言っていた"消える"という言葉が全然他人事とは思えなかった。
『ブルブルブルブル!』
突然、僕の携帯アラームが鳴った。
今日は、母さんのお見舞いに行く約束をスケジュールに入れてあったからだろう。
「あれ? おっかしいな〜。 絶対に消したりとかはしていないはずなのに・・・・・・」
僕は見落としが無いか念の為にと思い、
自分の携帯のアドレス帳を何度も何度も入念に見返す。
しかし、どうやっても母の名前をみつけられないのだ。
すごく嫌な予感がした・・・・・・。
僕は、ワラにでもすがるような気持ちで、母の病院に電話をかけた。
「もしもし、五色ですが。203号の母に今から行くと伝えてもらえませんか?」
僕は電話の向こうの声を聞き、
喉の奥に指を突っ込まれたような衝撃を受けた。
そして同時に、空気の抜けたゴム人形のように倒れ込んだ。
「もしもし、五色さん? 大丈夫ですか? もしもし・・・・・・」
床からの声は容赦なく僕に現実を浴びせ続けた。
この日、僕は神様なんて絶対信じないと決めた。