プロローグ(脚本)
〇男の子の一人部屋
ひかる(ねえ、お父さん? どうしてもわからないから教えて!)
ひかるの父(どうしたんだ、ひかる?)
ひかる(ボク、夏休みの自由研究でサイコロみたいなりっぽうたいを描いているんだけどね)
ひかる(途中からわからないことがあるんだ。 点を平行移動したら線になるよね?)
ひかるの父(ああ、線分な)
ひかる(このセンブンだっけ? この線をまた平行移動したら、今度は四角形になる。ここまではわかるんだ)
ひかる(だけど、その四角形をまた平行移動しようとしたら難しくって・・・・・・)
ひかるの父(ああ、そこは全く同じやり方で同じサイズの四角形を描いて、2つの四角形角の点それぞれを繋いでみたらどうだ?)
ひかる(あ、なんかサイコロみたいになった! でも・・・・・・、これってずいぶん横長なサイコロだね)
ひかるの父(あはは、そこは四角形をもう一つ書く時に、 最初の四角形の角と新しく描こうとする四角形の角との間の長さを、)
ひかるの父(線分の長さと同じにしてみるとどうだ?)
ひかる(あ、ほんとだ! 今度はさっきよりもサイコロっぽくなった)
ひかるの父(おー! ひかる、凄いぞ、頑張ったな)
ひかる(ありがとう、お父さん♪)
ひかるの父(なあ、ひかる。 仕事の都合でお前としばらく会えていなかったから実は父さん心配だったんだ)
ひかるの父(しばらく見ない間にお前も大きくなったんだな」)
ひかる(ねえ父さん! ボク、もう一つかわらないことが出てきたんだけど、聞いていい?)
ひかるの父(ああ、いいぞ)
ひかる(あのね、今度はこのサイコロを平行に動かそうとしてるんだけど絵がぐちゃぐちゃになって上手くかけないんだ)
ひかる(どうやって描いたら上手くかけるのかな?)
ひかるの父(それはひかるにはまだ早いと思うぞ)
ひかる(そんなことない。教えてよ、お父さん)
ひかるの父(わかった。 父さんがサイコロを平行移動した図を描いてあげるよ)
ひかる(父さん、何この図? アスレチック?)
ひかるの父(いいや、違うよ。 これはさっきのサイコロを今までの縦•横•奥行きとはまた別の方向に向かって平行移動した図だよ)
ひかる(え、嘘でしょ? だって、内側のサイコロは小さいし、)
ひかる(外側の大きなサイコロと内側の小さなサイコロを結ぶ線だって今までの線と長さも角度も違うじゃん)
ひかるの父(えーとこれはぁな、小学生のひかるに理解できる言葉で説明するのは難しいかな)
ひかるの父(低い次元のキャンバスを使ってより高い次元の存在を表現しようとすれば、 表現はどうしても歪められてしまうんだ)
ひかるの父(ひかるの部屋には地球儀と世界地図があるだろ?)
ひかる(あ、うん)
ひかるの父(世界地図にあるロシアと地球儀のロシア、 よーく観察すると形が違うのがわかるか?)
ひかる(あー! 確かに違うね)
ひかるの父(地球という丸いキャンバスの上にある国の形を平面の世界地図へはそのままの形では上手に当てはめることはできないんだよ)
ひかる(なるほど! 父さん、ボクなんとなくわかったよ!)
ひかるの父(賢いな、ひかる)
ひかる(ところで、ねえ父さん?)
ひかるの父(何だい?)
ひかる(サイコロを平行移動して作った図形を紙に描くとどうしてもゆがんじゃうのはなんとなくわかったよ)
ひかる(だけどさ、縦方向•横方向•奥行きはサイコロを書くときに使ってしまったよね)
ひかる(じゃあさ、縦•横•奥行きとは違う方向にっていうのはどの向きになるの?)
ひかるの父(次の方向か。その方向については父さんにも実はまだわからないな)
ひかるの父(ただしな、父さんはこう思っているんだ。人間には気づくことが出来ないだけで、実際には案外すぐ身近にあるのかもしれないとな)