エピソード1(脚本)
〇ハチ公前
夕方の渋谷、僕は約束の場所に行く。
そこで、大切な人を出迎える。
僕「お父さん、こっち!」
忠犬ハチ公の銅像前で僕は大きく手を振った。
お父さん「ここじゃなくても、塾の教室で待ってくれていたら良かったのに」
僕「ううん。ここが良かったんだ」
僕はにっこり笑った。
〇センター街
時間は少しさかのぼる。
夏の特別授業で、僕は渋谷の塾教室に行くことになった。
僕(渋谷は人が多いっていうイメージがあるけど、本当にたくさんの人がいるんだな)
僕(夕方はお父さんが迎えに来てくれるって言ってたけど、気を付けなくっちゃ)
僕がそう思いながら歩いていると。
ふと道端に怪しげな占い師さんがいることに気が付いた。
占い師「坊ちゃん、良かったら占ってあげましょう」
僕「僕、お金持っていないんだ それに今から塾だから」
占い師「お金なんていらないよ だってあなたは特別な人だから」
やばそうな人だから、僕はそのまま走り去ろうとした瞬間。
占い師「あなた、前世はとても賢い犬だったんですね」
そう言われた瞬間に、僕は忘れていた大切なことを思い出した。
〇田舎町の駅舎
僕は前世、ハチと呼ばれた犬だった。
ハチ─僕には大切なご主人様がいた。
僕は仕事から帰って来るご主人様を、いつも渋谷の駅まで迎えに行っていた。
僕は、ご主人様が大好きだった。
でもある日、ご主人様はお仕事先で亡くなられた。
もう二度とご主人様を出迎えることが出来なくなってしまったのだ。
それでも僕は、帰って来ることのないご主人様を渋谷の駅前で待ち続けた。
その姿が新聞に取り上げられ、僕は忠犬ハチ公として一躍有名になった。
〇雲の上
僕は死んで神様のもとに行った時。
ご主人様を待ち続けた忠実な心と、多くの人を勇気づけた功績で人間に転生する事が許された。
僕は人間にしてもらえると聞いた時、神様にたった一つお願いした。
ご主人様だったあの人に会いたいって。
だから生まれ変わったご主人様に、近い場所に生まれ変わらせて下さいって。
たとえ姿や形が変わっても、どうしても会いたかった。
〇ハチ公前
迎えに来てくれるというお父さんに、僕は携帯電話で待ち合わせ場所を、塾の教室から渋谷駅前に変更してほしいってお願いした。
改札口から出てきたお父さんはいつもの見慣れたお父さんなのに、すごく胸が温かくて、とても懐かしい気持ちになった。
僕「お父さん、こっち!」
忠犬ハチ公の銅像前で僕は大きく手を振った。
お父さん「ここじゃなくても、塾の教室で待ってくれていたら良かったのに」
僕「ううん。ここが良かったんだ」
そう答えた僕に、お父さんはふと、こう言った。
お父さん「遅くなって、ごめんな 待っていてくれて、ありがとう」
僕「え?」
僕は驚いた。
お父さんは自分の言葉の意味に気付き、首を傾げた。
お父さん「あれ、俺は時間通り来たのに何でこんなこと言ったんだ?」
お父さん「でも、なんかここでお前に会ったら急にそう伝えたくなってしまって」
僕の目から涙があふれそうになった。
気付いてもらえると思っていたわけじゃない。
でも、お父さんが何かを感じ取ってくれたのだとわかった。
僕「迎えに来てくれてありがとう、お父さん」
僕はそう言って、泣き顔を隠すようにお父さんに抱き着いた。
お父さんは優しくぽんぽんと頭を撫でる。
お父さんの息子に生まれて良かったなと僕は思った。
この人生では、長く一緒にいられますように。
外側から見ると、親子の日常風景。それに、パラレルワールドが見事に成立して、子孫のお話がシンクロしていました。初めて読んだ、よくできた話だなぁと驚きました。感謝。
ハチ公をメインにしたストーリーはいくつかありましたが、
これもまた新しいなぁと思いながら読んでいました😌
最後のシーンに心温まりますね😊
忠犬ハチ公が、人間に生まれ変わったことに感動した。少年は、生まれ変わっても、いいお父さんの子供で良かった。いい死に方をすれば、また、・・・