第一話 深淵からの足音(脚本)
〇商店街
商店街 宝くじ売り場
影山遊馬「当たり出すまで絶対動かないからな!」
おばちゃん「お兄ちゃん、私が当選決めてるわけじゃないのよ」
影山遊馬「うるせぇ!早く当たり券だせ!」
おばちゃん「いい加減に・・・ああ、そこのお客さん助けて下さいよ」
阿久津九楽「くく」
〇シックなリビング
諸宮家 リビング
諸宮みどり「またこの俳優不倫したのね、こりないのかな」
諸宮優作「イケメンだし金持ちだからな、仕方ないよ」
諸宮みどり「あなただってそうじゃない?」
諸宮優作「はは、俺が不倫するように見えるか?」
諸宮みどり「ごめんなさい、ご飯作りますね」
諸宮優作「・・・」
〇寂れた雑居ビル
〇雑居ビルの一室
阿久津総合調査社
「あっはっは!」
〇綺麗な会議室
阿久津九楽「当たり券よこすまで地蔵になるってか?面白いなおまえ」
影山遊馬「冗談です。金なくて」
阿久津九楽「借金か?」
影山遊馬「ええ、色々ありまして」
阿久津九楽「自業自得?当たりだろ?」
影山遊馬「俺は悪くないんです!騙されて」
阿久津九楽「騙す奴は嫌いか?」
影山遊馬「当たり前じゃないですか!クズですよ!」
阿久津九楽「クズね。どうだ?金に困ってるんならうちで働いてみるか?」
影山遊馬「え?でもここ興信所、つまり探偵するところですよね?自分なんのスキルもないですし」
阿久津九楽「いや~いい感じだと思うよ」
影山遊馬「は?」
〇シックなリビング
諸宮みどり「おまたせしました、どうぞ」
影山遊馬「変わった色ですねこの紅茶」
諸宮みどり「自作のハーブティーなんです、お口に合えばいいのですが」
影山遊馬「頂きます」
諸宮みどり「浮気じゃないと思うんです。けど不安で不安で。私悩みだすと深みにはまる性格でして」
影山遊馬「綺麗ですねその指輪、ペリドットですか?」
諸宮みどり「主人がプロポーズの時にくれたもので」
影山遊馬「ペリドットには夫婦の愛や幸福という意味がありますね」
諸宮みどり「お詳しいんですね、宝石お好きなんですか?」
影山遊馬「ええ・・・それよりご自宅で話してて大丈夫ですか?」
諸宮みどり「旦那は帰りも遅いですし、家には定期的に来る業者さんもいらっしゃいますから」
影山遊馬「成程、他の場所での密会が見られる方がまずいですもんね」
諸宮みどり「調査の方、どうぞよろしくお願いします」
影山遊馬(しかし綺麗な人だな・・・ん?)
影山遊馬(首筋に痣のようなものがある。DVでも受けているのか?)
〇ネオン街
諸宮優作「おまたせ」
サングラス女性「・・・」
諸宮優作「飯はいつもの場所で食おう」
影山遊馬「・・・」
〇ラブホテル
影山遊馬「当たりか、奥さん可哀そうに。けど浮気の事実はあった、そこだけは少し安心だな」
〇綺麗な会議室
阿久津九楽「諸宮優作は中学教師だ。しかしある時期から副業を始め、羽振りがかなり良くなっている」
阿久津九楽「その事で帰宅が遅くなるようだが、翌日まで帰ってこない日もあるそうだ」
影山遊馬「それだけで浮気ってのは無理がありませんか?」
阿久津九楽「不安要素は他にもあるらしいが、いいか、よく聞け影山」
影山遊馬「は、はい」
阿久津九楽「こういう所に相談に来る客ってのは不安や恐怖に魅入られやすい人種が多いんだ」
阿久津九楽「そしてこの仕事において最も大切な事はそれを解消することじゃない、できる限り広げる事なんだよ」
影山遊馬「不安や恐怖を広げる?それじゃあやってる事真逆じゃあ」
阿久津九楽「調査会社ってのはな、依頼を成功させる事以上に継続させる事が重要なんだ。今回で言えばまず浮気の事実がない事には話にならない」
影山遊馬「まさか虚偽の報告をしろって言うんじゃないですよね?」
阿久津九楽「そうは言ってねぇ、ただ依頼者の心に灯った小さな火に、薪をくべてどんどん大きくするのが大切だって事だな」
影山遊馬「・・・」
阿久津九楽「諸宮みどり、この手の客の火はいったん燃え上がれば巨大なものになる、そうなったらこっちのもんだ、くく」
影山遊馬(この人大丈夫か。着いてくるんじゃなかったか)
〇シックなリビング
諸宮みどり「・・・別人という事はありませんか?」
影山遊馬「お察しします」
諸宮みどり「嘘、信じたくありません。きっと何か理由が」
〇綺麗な会議室
阿久津九楽「確約している報酬は分配させてもらうが、火に薪をくべた分は全額あんたの取り分だ」
影山遊馬「どういう意味ですか?」
阿久津九楽「言ったろ?この仕事は調査を継続させる事が重要だと。あとはおまえの腕次第なんだよ」
〇シックなリビング
影山遊馬「提案ですが、もう少し証拠を集めてから問い詰めるというのはいかがでしょう?」
諸宮みどり「何故です?」
影山遊馬「裁判になった時に色々と有利になります。その為にももう少し調査を継続された方がよいかと」
諸宮みどり「お金、結構かかりますよね、私旦那から生活費くらいしか頂いてないもので」
影山遊馬「旦那さんって副業されてるんでしたっけ?どんなお仕事なんですか?」
諸宮みどり「人材派遣の会社とか言ってましたが、詳しくは教えてくれないんです。学校にも内緒にしているようですし」
影山遊馬(それを利用して浮気の時間を作ってるわけだ)
諸宮みどり「ああ・・・」
影山遊馬「奥さん!」
胸を押さえ倒れこむみどり、みどりを介抱する遊馬
諸宮みどり「すいません、私不整脈があって」
影山遊馬(間近で見ると本当に綺麗だ、こんな人がいるのに浮気なんて)
〇繁華な通り
影山遊馬(どうする?あの様子じゃもう金はなさそうだ)
影山遊馬(そうだ!離婚をさせて慰謝料から請求すればいい。これならいける!)
影山遊馬(ならもっと強力な証拠を掴まないと。どうするか)
〇綺麗な会議室
阿久津九楽「依頼者の心に灯った小さな火に、薪をくべてどんどん大きくするのが大切だって事だな」
〇繁華な通り
影山遊馬「薪をくべるか」
青谷「くそ!5万いかれたわ、二度といかねぇ、あのパチンコ屋!」
赤山「おれも5万、このままじゃ俺ら深淵までジェットコースターだよ」
影山遊馬「・・・」
〇飲み屋街
諸宮優作「嫁?大丈夫、今日は家にいるよ」
サングラス女性「・・・」
青谷「痛いよ、お姉ちゃん」
赤山「大丈夫かマイブラザー、やべこれ腕折れてるわ、慰謝料10万だわ」
諸宮優作「今、君の方からぶつかってー」
諸宮優作「ぐわっ!」
青谷「おまえめちゃ金持ってんな、何か悪いことしてんじゃねぇの?」
赤山「俺は女もらっていい?」
諸宮優作「金は全部やる!彼女には触れるな!」
青谷「浮気野郎が、偉そうによ」
諸宮優作「え?」
赤山「おい馬鹿」
赤山「お姉ちゃん苦しそうだな、ちょっとお顔見せてよ」
諸宮優作「やめろ!離れろ!」
赤山「そんなに好きかこの女。じゃあ愛の証明ここで見せてくれたら勘弁してやるよ」
諸宮優作「なんだよ証明って」
赤山「簡単だよ、ここで濃厚なキスして見せろよ」
諸宮優作「何言って」
青谷「ささっとやれ!ちゃんと抱き合ってやれよ!」
諸宮優作「大丈夫か!?」
サングラス女性「・・・して」
〇飲み屋街
「よし」
〇シックなリビング
諸宮みどり「・・・」
諸宮優作「だたいま」
諸宮みどり「遅かったね、食事できて・・・あなた顔に傷が」
諸宮優作「ちょっと転んでね」
諸宮みどり「手当しなきゃ」
諸宮優作「今日は疲れた、先に寝るよ」
諸宮みどり「あなた、今日は結婚記念日ー」
諸宮みどり「・・・」
みどりの薬指からするりと指輪が抜け落ち地面で回る
ペリドットの緑の輝きが光沢を失っていく
〇シックなリビング
諸宮みどり「・・・」
影山遊馬「残念です」
諸宮みどり「探偵さん、この苦しみはどうしたらいいの?」
影山遊馬「別れてしまった方がよろしいのでは?奥さんはとても綺麗だ。いいよる男なんて星の数ほどいますよ」
突如、遊馬に抱き着くみどり
影山遊馬「奥さん!?」
みどりの心臓の鼓動が遊馬に伝わる
諸宮みどり「証明して下さい」
影山遊馬(・・・まさかこんな事が)
遊馬、痣のついたみどりの首筋にそっとくちづけする
〇オフィスビル前の道
数年後
〇個別オフィス
影山探偵事務所
影山遊馬「部屋に誰かがいる?それは怖いですね」
影山遊馬「安全の為にも綿密に調べましょう。それでは調査は継続という事で」
阿久津九楽「ふ~、景気良さそうだな」
影山遊馬「おかげさまで」
阿久津九楽「今の電話、察するにAだろ?」
影山遊馬「ご名答、そして今や私の主な収入源」
阿久津九楽「くく」
Aとは『影のえい』からくる、我々の業界でよく使われる隠語だ
『影がある人物』心が過度に疲弊し、妄想を生み出すレベルまで病んだ依頼人の事を指している
影山遊馬「あの時、阿久津さんに拾われてなけりゃこっちがAになってましたよ」
阿久津九楽「あの時の依頼人の事覚えてるか?諸宮夫妻、不倫のよ」
影山遊馬「忘れるわけありませんよ、それが始まりだったんですから。それが何か?」
阿久津九楽「いや、いいんだ。邪魔したな、帰るわ」
影山遊馬「え?飯でもいきましょうよ。それか女でも用意しましょうか?」
阿久津九楽「いや、女遊びは当分いいわな」
影山遊馬「らしくないですね?」
阿久津九楽「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になる事のないよう気をつけなくてはならない」
影山遊馬「え?」
阿久津九楽「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
影山遊馬「はは、それニーチェですよね。なんですか急に」
阿久津九楽「大変なのはこれからって事だ、じゃあまたな」
影山遊馬(諸宮夫婦か。離婚が成立したまでは聞いていたが、その後の事は何も知らない)
影山遊馬(諸宮みどりから連絡してくる事もなかったしな。まぁ結局彼女も同じ過ちを犯したわけだが)
影山遊馬「どうぞ」
貴島あおい「こんにちわ!予約していた貴島あおいといいます!」
影山遊馬「影山です。どうぞおかけになってください」
貴島あおい「よろしくお願いします!」
この時の僕は、阿久津さんの言葉の意味に気づけないでいた
それは深淵から僕の元にゆっくりと
足音を立て迫ってきていた
二話へ続く
こんばんは
こういう話は知識もないし書いたことないのでとても面白いです!
登場人物、良い人が少なそうですがなんとも魅力的ですね
探偵業の闇を垣間見てしまいました…!((((;゚Д゚)))))))
しかしそれは序章に過ぎなかったのですね。
これからもっと恐ろしいことが起こると思うと怖いもの見たさでワクワクしますね!
最後に登場の彼女は何者なのか!?彼は何から巻き込まれそうになているのか?早く続きが読みたくなるようなフィナーレでワクワクしてきます。