第7話 顕現する力(脚本)
〇ヨーロッパの街並み
「きゃああ!」
「ひぃ! だ、誰か助けてくれー!」
怪しい人影「ひゃはは! 燃えろ燃えろ!」
怪しい人影「こんなんじゃ暴れ足りねえ! もっと! もっと暴れさせろぉ!」
アレク「お痛がすぎるんじゃないか! チンピラども!」
怪しい人影「ぐぎゃ!」
怪しい人影「ぎゃわ!」
アレク「クソ! こいつらは一体!? 何がどうなってる!?」
リンス「みんな人が変わったように突然暴れ出したそうです! もう何が何だか」
スカーレット「アレク! リンス!」
アレク「レティ! 無事だったか!」
スカーレット「この程度でやられるほどヤワじゃない」
アレク「状況は!? 何がどうなってる!?」
スカーレット「カスディアの魔法薬が原因だ!」
スカーレット「何のつもりか奴ら井戸の水に薬を混ぜていたんだ!」
スカーレット「その水を飲んだ住民たちが一斉に暴れ出してこうなってしまった!」
アレク「クソ! 金稼ぎは囮で本命はこっちだったのか!」
アレク「もっと早く魔族が裏にいると知っていればこんなことには──!」
スカーレット「魔族だと? どういうことだ!? そっちで何があった!?」
アレク「説明はあとだ! 住民の鎮圧は任せる! 俺はこの絵を描きやがったクソ野郎をブチのめしに行く!」
リンス「先輩何か当てがあるんですか!?」
アレク「ない! だがよく言うだろ! 犯人は現場に戻るってな! 先ずはそこをあたる!」
リンス「そ、そんな山勘みたいな理由で見付かるなら苦労は──」
スカーレット「いや、こういうときのアレクの勘はよく当たる!」
スカーレット「アレクには女神の祝福があるからな! 魔族が関わってるなら尚更見逃さない!」
リンス「め、女神の祝福って、一体何の話──」
アレク「ここはお前たちに任せる!」
リンス「あ、アレク先輩!」
〇王宮の入口
アレク「よし、着いたな」
アレク「これで隠れてるつもりか? 魔族のドブ臭え魔力がぷんぷん漂ってやがる」
アレク「正面からカチ合ったら勝てねえからってくだらねえ手を使いやがって」
アレク「この落とし前はきっちり付けてもらうぜ」
リンス「はあ、はあ──あ、アレク先輩!」
アレク「お前! 何で付いて来た!? レティのところに戻れ!」
リンス「そのスカーレット少佐の許可をもらって付いて来たんです!」
リンス「ていうか先輩おじさんなのに速すぎませんか? 私これでも学校で一番──」
アレク「無駄話をしてる暇はない! ここは危険だ! お前は戻れ!」
リンス「嫌です! 独りで動いてしてやられたばかりなのに凝りてないんですか!?」
アレク「これは上官命令だ! ぎゃあぎゃあ喚いてないでさっさと──」
リンス「私そんなに頼りないですか!?」
アレク「!」
リンス「酒場で全部聞きました! 昔大切な人をみんな亡くしたって!」
アレク「お前、あそこにいたのか」
リンス「周りの人を死なせたくないから人を遠ざけてる」
リンス「それくらい言われなくても私にもわかります」
アレク「だったら──」
リンス「でもそんな話私には関係ありません!」
アレク「!」
リンス「私は私の意志で動いてるんです! 先輩に過保護にされる筋合いはありません!」
リンス「この仕事に就くと決めたときからいざというときの覚悟はできてます」
リンス「先輩が私にやってることはその覚悟を踏み躙る行為です」
リンス「先輩のやってることは気遣いでも何でもなくて、ただの独り善がりです」
リンス「それでも、どうしても私を遠ざけたいなら、もう一度命令してください」
リンス「そのときは言う通りにします。その代わり、私は先輩を軽蔑します」
アレク「────」
アレク「独り善がり、か。耳が痛いな」
アレク「自分の子供くらいの小娘に言われるようじゃ大人の面子が丸潰れだな」
リンス「最初から大人の面子なんてありませんでしたけどね」
アレク「言わなくていいことを言っちまうのはお前の良いところでも悪いところでもあるな」
アレク「──この先に魔族がいる。正直今の俺がどこまでやれるかは自分でもわからない」
リンス「危険は覚悟の上です」
アレク「なら一つだけ約束してくれ」
リンス「何ですか?」
アレク「死ぬなよ」
リンス「先輩と約束とか背中がぞわぞわするので命令ってことで」
アレク「言ってくれるぜ」
アレク「行くぞ! 後れを取るなよ!」
リンス「はい!」
〇荒廃した教会
リンス「な、何ですか、ここ。やけに息苦しいです」
アレク「どうやらこの奥に掃き溜めの大将がいるみたいだな」
リンス「こ、この肌に粘り付くような感覚が──」
アレク「魔族の魔力だ。クソ、俺としたことが!」
アレク「こんなドブ臭え魔力を持った奴が町に入り込んでるのに気付かねえなんて、勘が鈍ってやがるな」
リンス「あ、アレク先輩! あそこに誰かいます!」
アレク「なっ! ば、バカな。何でお前が──」
ローガン「よう、久しぶりじゃねえか。アレク」
アレク「ローガン!」
リンス「えっ!? この人が!? でも死んだはずじゃ──」
ローガン「どうした? 久々に会ったのに浮かねえ顔してるじゃねえか」
ローガン「そのお嬢ちゃんはお前の新しい相棒か? むさ苦しい俺から若い女に乗り換えとはやるじゃねえか」
リンス「し、信じられません。でも死体は見付からなかったって話だから、生き延びてる可能性も。でも──」
アレク「この薄汚え気配は間違いなく魔族のものだ。これに気付かねえほどおれはバカじゃない」
アレク「お前──誰だ?」
ローガン「くくっ、やっぱりバレちまうか。まあそうだよな。そうだよなぁ!」
魔人ヴェルザー「ひゃははは! この姿を見られたからには生きて帰さねえぜ!」
リンス「へ、変身した!? じゃあさっきの姿は──」
魔人ヴェルザー「ちょっとしたサプライズさ。気に入ってもらえたか?」
アレク「死人に化けるとは悪趣味な野郎だ。今ので騙せると本気で思ってたのか?」
魔人ヴェルザー「くくくっ、今まですっかり騙されてた奴の言うことじゃねえな」
アレク「何だと!? どういう意味だ!?」
魔人ヴェルザー「おかしいとは思わなかったのか?」
魔人ヴェルザー「腫れ物扱いでも腕は確かなお前と俺で捜査してたのに中々カスディアの尻尾が掴めねえなんて、あり得ると思うか?」
アレク「てめえ! さっきから何の話をしてやがるんだ!? そんなことあるわけ──!」
魔人ヴェルザー「ここまで言ってわからねえほどお前は間抜けじゃねえだろ。なあ、相棒」
リンス「ど、どういう意味ですか!? さっきから何を言って──」
魔人ヴェルザー「仕方ねえ。先輩として新米にもわかるように教えてやるか」
魔人ヴェルザー「──俺とローガンはとっくの昔に成り代わってたんだよ」
リンス「な、成り代わり? 一体どういう意味ですか!?」
魔人ヴェルザー「言葉通りの意味さ」
魔人ヴェルザー「俺みたいに実体が曖昧な魔族は人間に化けることもできれば、人間の体に入り込むこともできる」
魔人ヴェルザー「そこで俺は情報を手に入れやすい憲兵に成り代わろうと思い、ローガンの体を頂いたのさ」
リンス「ひ、酷い──どうしてそんなことを!?」
魔人ヴェルザー「そのほうが都合が良かったからさ」
魔人ヴェルザー「俺ほどの魔族にもなればどんなに隠そうとしても魔力が溢れ出ちまう」
魔人ヴェルザー「化けて忍び込むだけじゃアレクみてえに勘の良い奴には気付かれちまう」
魔人ヴェルザー「そこで成り代わりさ」
魔人ヴェルザー「てめえの魔力を最小限に抑えておけば宿主の魔力に隠れて気配が感じられなくなるからな」
魔人ヴェルザー「それだけじゃねえ。人間の体に入り込めば記憶も人格も全部読み取ることができる」
魔人ヴェルザー「それを元に本人の振りをすればバレねえってわけさ」
魔人ヴェルザー「くくくっ、俺に人格を塗り潰されるときのローガンは傑作だったぜ」
魔人ヴェルザー「奴の最期の言葉は何だと思う?」
魔人ヴェルザー「すまねえ、アレク。だとよ!」
魔人ヴェルザー「ローガンの奴は最後まで相棒を気遣ってやがったってのに、てめえはどうだ!?」
魔人ヴェルザー「俺と成り代わったことに気付かねえで間抜け面をぶら下げて一緒に捜査してたってわけさ!」
魔人ヴェルザー「俺がカスディアに情報を横流しして後手に回ってることに気付きもしねえでよぉ!」
魔人ヴェルザー「唯一の誤算はあの火事でローガンの体が損傷したことだな」
魔人ヴェルザー「何とか這い出て町の外へ逃げたは良かったが、そこで体がダメになっちまった」
魔人ヴェルザー「そのあとは機が熟すまで隠れなきゃならなかった。退屈で仕方なかったぜ」
魔人ヴェルザー「そうだ、奴の死体は魔物に食わせてやったから安心しな」
魔人ヴェルザー「今頃は魔物の糞に変わって虫が集ってるだろうぜ。ひゃはは!」
アレク「──」
リンス「あ、アレク先輩」
魔人ヴェルザー「おっと、この話はまだ終わりじゃねえぜ!?」
魔人ヴェルザー「独りで何とかしようとするつまらねえ意地のせいで新しい相棒もここで死なせることになるのさ!」
魔人ヴェルザー「死神の異名は伊達じゃねえなぁ! 相棒ぉ!」
アレク「──」
リンス「アレク先輩! 辛いのはわかりますけど今は! アレク先輩!」
魔人ヴェルザー「魔王様亡きあと俺たちは弱体の一途を辿っちゃいるが、何もできないわけじゃねえ!」
魔人ヴェルザー「お前たち人間も勇者を失ってるんだ! 魔王様が復活を遂げる日に備えて俺が侵略の足掛かりを作ってみせる!」
魔人ヴェルザー「手始めにこの町だ! お前との相棒ごっこはそれなりに楽しかったぜ! アレク!」
魔人ヴェルザー「その礼だ! 燃えカスになれ! あの世でローガンが待ってるぜ!」
リンス「あ、アレク先──」
魔人ヴェルザー「なっ!? お、俺の魔法をあっさり相殺しただと!?」
魔人ヴェルザー「それだけじゃねえ! か、雷魔法だと!?」
魔人ヴェルザー「それを使える奴はこの世に唯一人! だが奴はとっくの昔に死──」
アレク「派手にやりすぎたな、ゲス野郎」
魔人ヴェルザー「あ、あり得ねえ! そ、その剣は! その剣は──」
アレク「皮肉な話だな。お互い何も気付いてなかったんだからな」
リンス「う、嘘。その剣はまさか、まさか──」
リンス「女神が勇者に与えた聖剣グランディア!?」
アレク「お前にまんまと一杯食わされたのは認める」
アレク「強さもだ。お前は手加減をして勝てる相手じゃない」
魔人ヴェルザー「こ、こんなことあるはずねえ! 奴は! 勇者ユリウスは死んだはずだ!」
アレク「死んださ。お前の目の前にいるのはただの抜け殻だ」
アレク「それでも──俺のほうが強い」
魔人ヴェルザー「ま、待──」
〇荒廃した教会
アレク「外の騒ぎも収まってきたみたいだな。さすがはレティだ」
リンス「あ、あの、アレク先輩? それとも──」
アレク「何も見なかったことにしてくれ」
アレク「って言っても見逃してはくれないだろうな」
リンス「あ、当たり前じゃないですか! さっきから何が何だか」
アレク「昔話なんてしみったれた真似はしたくないんだが、そうも言ってられそうにないな」
アレク「場所を移そう。ここは臭くてかなわない」
〇王宮の入口
〇城壁
リンス「町のほうはどうにかなりそうですね」
アレク「主犯が死んだからな。あとはレティに任せておけばいい」
リンス「私たちは仕事しなくていいんですか?」
アレク「俺の話を聞きたいんじゃなかったのか?」
リンス「それはそうですけど、今なのかなってふと思っちゃって」
アレク「俺は気紛れなんだ。話そうって気になる機会はもうないかもな」
リンス「そ、それは困るのでおとなしく話を聞くことにします」
リンス「一応訊いておきますけど、アレク先輩はあの勇者ユリウスと同一人物、で良いんですよね?」
アレク「聖剣が浮気性じゃなければそうだろうな」
リンス「もう! はぐらかさないでください!」
リンス「こっちは色んなことがあり過ぎて何が何だかわからなくなってるのに!」
アレク「実を言うと俺もよくわからなくなってる」
リンス「どういう意味ですか?」
アレク「アレクと名乗って惰性で生きてる今の俺と、すべてを失たユリウスが同じ人物なのか」
アレク「そう言われると、どうにも釈然としなくてな」
リンス「昔、一体何があったんですか?」
アレク「別に大した話じゃない」
アレク「大した話じゃ──」
魔物の胸糞感が👍
アレクの語りで引く所もいいですね😀
今話はシリアス、ハードボイルド感が戻った感じだなーと思っていたら、衝撃の展開と真相告白に驚きっぱなしです!そして、絶妙のヒキに感服です……