狙われる女性(脚本)
〇けもの道
シルビア・ヤン・オードリー「くうっ」
どこまで走っても見渡すかぎりの木々の中、激しい草木を踏み付けて森の中を1人の女性シルビア。
スライム(紫)「プギャアァァァッ!」
自分ほどの大きさの毒気がありそうな紫色の魔物スライムから逃げ出したかった。
シルビア・ヤン・オードリー「はぁっ、はぁっ、何処までもどこまでも追ってきて疲れたし、戦うしかない!」
腰から唯一の武器であるナイフを目と鼻の前に出して落ちついて構える。
シルビア・ヤン・オードリー「やぁっ!」
スライム(紫)「バァッ!」
うまくスライムの胴体にヒットするも液状なためナイフの手応えを感じない。
シルビア・ヤン・オードリー「なによこれ、倒せない・・・・・・」
スライム(紫)「ブチャッ!」
シルビア・ヤン・オードリー「うわっ!」
シルビア・ヤン・オードリー「しまった!」
効かないことに動揺し引いた右足が木の枝につまづき転けてしまう。
〇黒
シルビア・ヤン・オードリー「やられる・・・・・・」
「不届き者には天罰を・・・」
シルビア・ヤン・オードリー「え?」
〇けもの道
死を想像する刹那、大きな風斬り音とともに斧が激しく回転しながら目の前の魔物スライムの目に命中、液体を飛びつかせ消滅した。
シルビア・ヤン・オードリー「だれっ!?」
さっき茂みの方から聞こえたやさしいも芯の強そうな女声、こんな事する人は只者じゃないと唾を呑む。
アイン・イヨ・リトナ「だいじょうぶでしたか?」
やさ顔とは正反対のような赤い髪と眼、鎧を着ても柔らかそうな笑顔の女戦士リトナ。
シルビア・ヤン・オードリー「ええ、ありがとう・・・・・・早く逃げて」
アイン・イヨ・リトナ「え?」
シルビア・ヤン・オードリー「早くこの場から去りなさい」
眼を丸くした顔のあと、投げて地面に刺さった両手斧を軽く持ち上げ安心したような笑みになる赤髪の女戦士。
アイン・イヨ・リトナ「紫色のスライム、ここで生息するはずはないのに、どうして」
シルビア・ヤン・オードリー「ちょっと」
アイン・イヨ・リトナ「物騒な世の中ですね」
シルビア・ヤン・オードリー「ちょっとあんたっ」
アイン・イヨ・リトナ「あ、はい」
シルビア・ヤン・オードリー「『はい』っじゃない、この場から去れって言ってるでしょ」
アイン・イヨ・リトナ「はい、あっ・・・・・・あなたもこの場から離れたほうが良いですよ」
シルビア・ヤン・オードリー「はぁ? あんた良いやつだけど、あたしはいいのよ」
眉尻を下げ複雑な顔をしていると赤髪の女戦士は近づいてしゃがむ。
アイン・イヨ・リトナ「怪我していますね、ヒール」
シルビア・ヤン・オードリー「ちょっと・・・・・・ありがとう」
さっき転けた時に地面で皮が削れてしまった擦り傷にかけてくれた回復魔法は温かく丁度良い湯のよう。
アイン・イヨ・リトナ「この先に進みたいと言いましたが」
シルビア・ヤン・オードリー「なによ」
「ファアアァーッ!」
〇けもの道
シルビア・ヤン・オードリー「あっ、あれはっ」
アイン・イヨ・リトナ「黒い骸骨の魔物デス・キラー、どうして・・・・・・」
シルビア・ヤン・オードリー「あんたは、あたしから離れて逃げてっ!」
アイン・イヨ・リトナ「はい、って、えぇぇっ!」
巻き込むわけにはいかないとシルビアは離れると追いかける魔物デス・キラーは人の体型のため思ったよりも速い。
アイン・イヨ・リトナ(私を無視してデス・キラーはあの人を狙っている?)
シルビア・ヤン・オードリー「ハァッ、ハァッ、もうなんて速さよ。でも、今度のは絶対に勝てないし」
魔物スライムから逃げた疲労も重なり息切れするも、止まればあの不気味な歯で食われてしまうかもしれない。
シルビア・ヤン・オードリー「食われて、たまるもんですかっ!」
「キャアッ!」
横から飛んできた黒い影に両肩を摑まれ一緒に茂みの中に入ってしまった。
シルビア・ヤン・オードリー「・・・・・・いてて、もう今度はなによ、あっ、あんた!」
アイン・イヨ・リトナ「シーッ、気づかれますから」
シルビア・ヤン・オードリー「どうして戻ってきたのよ」
アイン・イヨ・リトナ「ピンチな人をほってはおけません・・・・・・それと、あなたは狙われる特別な理由がある」
シルビア・ヤン・オードリー「あんた、気づいたのね」
アイン・イヨ・リトナ「はい・・・・・・だから私に離れさせようとしているんですね」
シルビア・ヤン・オードリー「ええ、ごめんなさい、あんたを巻き込んで、でもこれがあたしの運命だから」
アイン・イヨ・リトナ「運命?」
シルビア・ヤン・オードリー「今この世界は崩れかけてる、その崩壊が進めばあんな魔物じゃすまない」
アイン・イヨ・リトナ「崩れてるって、あなたは一体」
シルビア・ヤン・オードリー「・・・・・・あたしはシルビア」
〇霧の立ち込める森
しゃがんで移動すると草や葉が頬をくすぐる。
シルビア・ヤン・オードリー「はぁ〜・・・」
アイン・イヨ・リトナ「シルビアさん大丈夫ですか?」
シルビア・ヤン・オードリー「虫が付くのが嫌なだけ」
虫がくっつくと不快なシルビアは我慢する一方、
アイン・イヨ・リトナ「虫ちゃんごめんね」
後方のリトナは平気な顔で虫をそっとどかすほど、そんな二人は少しづつ魔物から離れていった。
シルビア・ヤン・オードリー「ところであんた名前は? まだ聞いてないんだけど」
アイン・イヨ・リトナ「私はアイン・イヨ・リトナ、リトナって皆に呼ばれてます」
おじいさんと二人で暮らし農業をやっていてつい最近旅に出ることにしたという赤髪の女戦士リトナ。
魔物の声ではなくリトナのお腹がなる。
シルビア・ヤン・オードリー「・・・・・・プッ、あんたよくこんな時に・・・・・・ププッ、お腹の音なんか、ハハッ」
こんな大変なときなのに場違いにもお腹が鳴るリトナにハッと笑ってしまったシルビア。
アイン・イヨ・リトナ「お腹、空いちゃって、えへへ」
シルビア・ヤン・オードリー「もう、ほらこれ食べなさいよ」
アイン・イヨ・リトナ「あ、ありがとうございます〜、アムッ」
シルビア・ヤン・オードリー「あたしも一つ、アム」
「ファアアァァァッ!」
シルビア・ヤン・オードリー「デス・キラー《あいつ》の叫びだ」
アイン・イヨ・リトナ「大丈夫ですシルビアさん、相手はまだ私たちを見つけてはいません」
こっそりと草の裂け目から覗いたリトナだったが、魔物に異変につい声が出てしまいそうになる。
アイン・イヨ・リトナ「あれは・・・・・・まさか目!?」
白い泡がブクブクッとおでこに現れ型どっていく。
シルビア・ヤン・オードリー「目って、なによリトナ」
アイン・イヨ・リトナ「シルビアさんまずいですっ、気づかれましたっ!」
魔物の第三の目は覗き見るリトナたちを捉えると、邪魔な木々をものともせず前進しシルビア達を追い詰めていく。
シルビア・ヤン・オードリー「キャッ!」
アイン・イヨ・リトナ「シルビアさんッ!」
シルビア・ヤン・オードリー「リトナっ・・・・・・あんたはあたしから離れてっ」
アイン・イヨ・リトナ「・・・・・・いえ、バナナの分は、戦って恩返ししますっ!」
森の異様な熱風に弱い魔物達は逃げ出し、また飛行出来る魔物はその様子を見守っていた。
アイン・イヨ・リトナ「どこを攻撃しても効かないなんて」
アイン・イヨ・リトナ「はぁ、はぁ、シルビアさんっ、うわっ!」
シルビアを心配した隙をついて魔物は片手の刃でリトナの横腹にクリティカルヒット
彼女は吹き飛び木々を2本、3本となぎ倒す。
シルビア・ヤン・オードリー「あたしのせいで・・・・・・くっ!」
衝撃で唇を切って血を流し気絶したリトナにとどめを刺そうと動く魔物の前に、シルビアが両手を広げた。
シルビア・ヤン・オードリー「デス・キラーっ、リトナは関係ないっ、あんたはあたしを狙ってるんでしょ、だったらあたしを襲いなさいっ!」
デス・キラー「グルルゥッ」
シルビア・ヤン・オードリー「あたしは・・・・・・この世界の崩壊を止めるシルビア・ヤン・オードリーッ、|魔物《あんた》なんか怖くないっ!」
アイン・イヨ・リトナ「シルビア・・・・・・さん・・・・・・」
リトナはシルビアが身を挺して自分を守ろうとしているのが薄っすらと見えた。しかし体は手足が痺れて動かす事が出来ない。
シルビア・ヤン・オードリー「キャアァァァーッ!」
シルビアの細い首に血の通らない冷たい魔物の両手が締め上げていく。
シルビア・ヤン・オードリー「あ、あたしは・・・・・・こんな、ところで死ねない・・・・・・死にたく、あ・・・・・・あっ」
意識が遠くなっていくと、何故か、暑さを感じた。
ザァクッ・・・・・・。
冷たく不気味な両手が落ちた。
シルビア・ヤン・オードリー「いたっ、痛〜・・・・・・なにが・・・・・・」
炎に包まれ、僅かな隙間から覗く赤髪、両手斧を片手で持つリトナだった。
シルビア・ヤン・オードリー「リトナ・・・・・・あんたまさか!」
デス・キラー「グァガァァァァァァァァーッ!」
デス・キラーに臆すること無く無言で飛び出し向かっていくリトナ。
〇白
〇霧の立ち込める森
シルビアの目に映るのは、落ちている魔物デス・キラーの首と炎を纏い立つリトナの姿だったが、
〇炎
シルビア・ヤン・オードリー「これは・・・・・・」
〇霧の立ち込める森
ほんの一瞬、炎の獣の様な姿が見えた。
シルビア・ヤン・オードリー(リトナ、あんたが、獣を宿すものだったのね・・・・・・)
立って気絶しているリトナ、優しく背中を支えシルビアが声をかける。
シルビア・ヤン・オードリー「リトナ、リトナッ、目を開きなさいっ、リトナッ!」
アイン・イヨ・リトナ「シルビア・・・・・・さん」
シルビア・ヤン・オードリー「リトナ、よかった」
アイン・イヨ・リトナ「わたし・・・・・・」
シルビア・ヤン・オードリー「どうしたの? どっか変なの?」
アイン・イヨ・リトナ「のど、渇きました」
シルビア・ヤン・オードリー「はあぁ? 喉って・・・・・・もう、仕方ないわね」
アイン・イヨ・リトナ「エヘヘ」
こんばんは
シルビアはきりっとしていて厳しそうに見えたけど🍌くれて優しいですね
アインは優しそうで物腰も柔らかだけどとっても強くてカッコいいです!
シルビアとリトナ、それぞれに訳ありの背景があったんですね。それとなく互いをかばいあって助け合う姿が健気でした。この二人が共闘することになるのか敵対関係になってしまうのか、これからの展開が気になります。