第6話 精霊祭(脚本)
〇結婚式場前の広場
情報屋「みなさーん!」
情報屋「お集まり下さーい!」
情報屋「明後日はみなさんご存知の通り、 精霊祭がありまーす!」
情報屋「精霊祭では例年通り、戦祭りを開催しまーす!優勝者には賞金が出まーす!」
情報屋「まだまだ参加を受付けしておりますので、 どなたでもご参加下さーい!」
情報屋「受付はロント教会でやっております!」
情報屋「ご参加お待ちしておりまーす!」
ホープ「精霊祭ってなんだろう? 戦祭り?」
ホープ「なんだか面白そう!」
ルーフェン「ホープ、こんな所にいたのか」
ホープ「ルーフェンさん! 服着替えたんですね」
ルーフェン「全く、ぼったくりだよ、あの店は」
ルーフェン「お前もすぐに宿で着替えるか?」
ホープ「いえ、今はこの服で大丈夫です」
ルーフェン「そうか、分かった」
ルーフェン「・・・?」
ルーフェン「どうかしたのか?」
ホープ「ルーフェンさん、ルーフェンさん! 精霊祭で戦祭りをするそうです!」
ホープ「誰でも参加できるみたいです!」
ホープ「──」
ホープ「精霊祭ってなんですか?」
ルーフェン「精霊祭かぁ、懐かしいな」
ルーフェン「赤月の日に、 精霊祭っていうのを開催するんだ」
ホープ「赤月の日?」
ルーフェン「その名の通り、月が赤くなるんだよ 2、3年に一度だったかな?」
ルーフェン「赤月の日に、 この世界に精霊が顔を出す、と言われてる」
ルーフェン「その精霊のために祭りを開いて、 精霊を楽しませようとするものさ」
ルーフェン「どうやらこの街では戦の真似事をして、 楽しませるようだな」
ルーフェン「俺の故郷では舞踊祭りだったが・・・」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「──」
ホープ「楽しそうですね! 見てみたいなぁ」
ルーフェン「・・・見たいのか?」
ルーフェン「──だったら・・・ 俺も参加するよ」
ホープ「えっ?!」
〇大聖堂
ホープ「広ーい!」
ルーフェン「こら、大声を出すな」
ホープ「す、すみません」
ルーフェン「受付は・・・、あそこだな」
レギン「受付がまだの方はどうぞこちらへ」
レギン「ごきげんよう」
ホープ「こ、こんにちは」
ホープ(綺麗な人・・・)
レギン「もしかして戦祭りの参加をご希望ですか?」
ルーフェン「あぁ、そうだ」
レギン「まぁ、いい男・・・」
「・・・!」
ルーフェン「・・・戦祭りに参加するには、 何が必要だ?」
レギン「えっ? あ、ええっと・・・」
レギン「まずはこちらに、 お名前をご記入下さいますか?」
レギン「それと、 あちらに注意事項が書かれています 後でお読み下さいね」
レギン「読み終わりましたら、 隣の部屋へ入って下さいね 面接を行っていただきます」
ルーフェン「面接? 一体何をするんだ?」
レギン「戦祭りで、むやみやたらに 人を傷つけない人かどうかの 判断をするためのものです」
レギン「お人柄を10分程見させていただきます」
ルーフェン「そうか。分かった」
ルーフェン「ここに名前を書いたらいいのか?」
レギン「ええ」
レギン「ルーフェン・ディン様ですね」
レギン「なんて美しい響きなのかしら?」
「・・・」
レギン「あら?お年は32歳ですの? 私と13歳も違うのですね 年下はいかがですか?」
ホープ(ルーフェンさんって32歳なんだ・・・)
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「いや、すまないが結構だ」
レギン「そうですの・・・ 残念・・・ですわ」
ルーフェン「ホープはここで待っていろ 面接とやらを終わらせてくるから」
ホープ「分かりました」
ルーフェン「この子のこと、見ててやって下さい」
レギン「ええ、一緒にここで待っていますね」
レギン「ふふっ、 あなたのお連れ様、素敵なお方ね」
ホープ(すごく積極的な女の人だ・・・)
〇大聖堂
レギン「坊やはルーフェン様が終わられるまで、 少し待っててね」
ホープ(また男の子に間違えられた・・・ 髪、伸ばそうかな)
ホープ「ええ」
レギン「あら?あなた・・・」
レギン「あなたの瞳の色、紫なのね」
ホープ「えっ?ええ・・・」
レギン「すごく珍しいわね、 ご両親のどちらかがそうなのかしら? 綺麗な瞳・・・、うらやましいわ」
ホープ「・・・ありがとうございます」
レギン「”大罪”に出てくる精霊様も、 こんな瞳だったのかしら?」
レギン「精霊祭で精霊様と同じ瞳の色の子と、 会えるなんて──」
レギン「──何かの運命かしら?」
ホープ「精霊様、というのも 瞳が紫色だったんですか? えっと、それと大罪って?」
レギン「あら?大罪の話を知らないの? ほら、昔話に出てくる竜の一族の物語よ」
ホープ「いいえ、知りません」
レギン「私はレギン あなたお名前は?」
ホープ「ホープです」
レギン「じゃあ、お話聞かせてあげましょうか? ルーフェン様が戻ってこられるまで、 時間がかかりそうだから」
ホープ「お願いします」
〇大聖堂
レギン「むかーしむかし・・・」
レギン「この世界には竜が存在していたの」
ホープ「ええっ!?」
レギン「ふふっ、ただの昔話だから、 最後まで静かに聞いていてね?」
ホープ「はい・・・」
レギン「竜達は皆、 ジアイナンと呼ばれる山に住んでいて」
レギン「決して山から出ないという掟に従って 生きていた」
レギン「ある日、 村長のガドゥの弟であるハーレンが、 山を出て外を見たいと思ったの」
レギン「そしてこっそり出ていって、 外の世界を旅したの──」
レギン「外の世界には、 石や木材で建てられた建物があって・・・ そこで初めて人間を目にしたの」
レギン「ハーレンは人間と仲良くしたいと思って 近づいたのだけど、 人間はそうではなかったの」
レギン「竜を初めて見て、 驚いて恐怖を感じた人間は──」
レギン「ハーレンを武器や魔法で 殺してしまったの・・・」
レギン「その頃、ガドゥ達、竜の一族は 山のどこにも見当たらないハーレンを 心配して探していたの」
レギン「しかしハーレンがどこにも見当たらず、 兄のガドゥ達竜の一族は、 ついに山を出てハーレンを探したの」
レギン「そこで人間に殺されたハーレンを見つけてしまった・・・ ガドゥや竜の一族は激怒し──」
レギン「人間を牙や爪で切り裂いた 人間は武器や魔法で戦ったのだけど、 怒り狂った竜には歯が立たなかった」
レギン「竜の一族は人間を殺すだけでは収まらず、山の外に住む全ての生き物を焼き付くした」
レギン「動物は死に絶え、草木は焼け落ち、 人間の遺体が転がっている」
レギン「そうして人間が滅んでしまう、というところで──」
レギン「精霊様がやってきたの」
レギン「紫の瞳の精霊様がね」
〇大聖堂
レギン「精霊様はフクロウの姿をされていて、 天から舞い降りてきたの」
レギン「そして竜達に一言告げた」
レギン「『私は神”シダ”の命で、 お前達を止めに来た』」
レギン「『自分達の行いを見てみなさい』──と」
レギン「竜はそれでも、 自分達の行いを悔いることはなかった」
レギン「すると精霊様は、 魔法の力で竜の翼を折って──」
レギン「二度とこの自由な空を飛べなくしたの」
レギン「竜達は地面から周りを見て、 そこで初めて自分達の行いが間違っていたことに気がついた」
レギン「そうしてガドゥが、 『どうすればこの罪を償えるか』と 精霊様に訊ねると──」
レギン「『人間と共に暮らしなさい 竜も人間もきっと同じ仲間となれるのだから』──」
レギン「『償いを終えるその日まで、 竜は空を飛ぶことはないでしょう』──」
レギン「そうして精霊様は どこかに飛び立ってしまわれたの」
レギン「精霊様はこの世界のどこかで──」
レギン「竜が大罪という罪を償い終えるその日まで、 人間と竜を見守るために眠っている──」
レギン「と、言われているわ」
レギン「でも精霊様には恋人がいらしてね、 ヘルクっていうフクロウらしいの」
レギン「神、シダの命で精霊様はこの世界に降り立ったけれど、 ヘルクを残したことだけが気がかりだった・・・」
レギン「愛する恋人と引き裂かれてもなお、 恋人を愛し続けるなんて──」
レギン「なんてロマンチックなのかしら・・・?」
〇大聖堂
レギン「どうだったかしら?」
ホープ「面白かったです! それで竜はどうなったんですか?」
レギン「さあ・・・どうかしらね?」
レギン「竜の骨は世界でいくつか出土されてるらしいけれど、 もうとっくの昔に死に絶えていると思うわ・・・」
ホープ「そう、なんですね」
レギン「まぁ、いい加減な昔話だから」
レギン「絵本に出てくるただのおとぎ話よ」
「待たせたな、終わったぞ」
ルーフェン「宿に戻るぞ、ホープ」
ホープ「はい。レギンさん どうもありがとうございました」
レギン「どういたしまして、またね」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「この子が世話になったようだな 感謝する」
レギン「ええ」
ホープ「面接どうだったんですか?」
ルーフェン「無事終わったよ 戦祭りは明後日で、 朝8時に闘技場で集合らしい」
ルーフェン「面接の後、戦祭りのルールの書かれた紙をもらったんが、 お前も見るか?」
ホープ「はい」
ルーフェン「字は読めるか?」
ホープ「ええ、大丈夫です」
・一対一の試合形式
・魔法、武器は禁止
・相手が戦闘不能になるか、『参った』と言えば試合終了
・精霊様に感謝の気持ちを持つこと
・優勝者には5万タウの賞金
・服装は古代の戦士を模した戦闘着を着用すること
──以上
ホープ「ふぅーん。 ルールがこんなにあるんですね」
ホープ「ルーフェンさんは・・・ 魔法を使えるんですか?」
ルーフェン「いいや、魔法使いですらないさ 使えたら何かと便利なんだがな・・・」
ホープ「そうなんですね」
ホープ(私が魔法使いであることを 言うべきなんだろうか・・・)
ホープ(いや、言わなくてもいいことは 言わないでおこう・・・)
ホープ(これって・・・ フェア、じゃないのかな でも──)
ルーフェン「ん? どうかしたか?」
ホープ「い、いえ 何もないです」
「師匠!頑張って下さいね! 絶対今年も優勝しますよ!」
バラバイ「こら!静かにしないか!」
サイガ「ご、ごめんなさい!」
サイガ「戦祭り、頑張って下さいね!」
バラバイ「ああ、任せておけ」
ホープ(あの人達も参加するのかな)
ホープ(あの男の人、かなり強そう・・・ ルーフェンさん勝てるかな?)
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「師匠と弟子・・・か」
ホープ「・・・?」
〇可愛らしいホテルの一室
ホープ「ふぅ・・・」
ルーフェン「初めての街はどうだった?」
ホープ「すごくすごく、楽しかったです!」
ルーフェン「そうか」
ホープ「ルーフェンさん」
ルーフェン「ん?」
ホープ「今日は一日、本当に楽しかったんです ありがとうございます」
ホープ「本当にありがとうございます・・・」
ルーフェン「・・・あぁ」
〇可愛らしいホテルの一室
ホープ(今日はすごく楽しかったなぁ 面白い昔話も聞けたし・・・)
ホープ(昔、この世界には竜がいたんだね・・・)
ホープ(・・・)
ホープ(・・・)
〇湖畔
ホープ「・・・」
ホープ「あれ?」
ホープ「ここ、どこ?」
ホープ(いや、私はここを知ってる・・・)
ホープ(そうだ、ずっと私はこの湖で・・・)
「やあ!」
ホープ「えっ?竜!?」
ハーレン「やあ! 僕だよ、僕」
ホープ「もしかして・・・」
ホープ「あなた大罪に出てきた、 人間に殺されたハーレン?」
ハーレン「そうだよ、 僕を見ても怖がらないんだね」
ホープ「う、うん なんだか、あなた優しそうだから・・・」
ホープ(あれ? どうしてハーレンって、 分かったんだろ・・・)
ハーレン「ねぇ、ホープ」
ハーレン「君は全てを思い出したいと思っているかもしれないけれど、」
ハーレン「大丈夫だよ いつかきっとその時が来るから」
ホープ「えっ?どういうこと?」
ハーレン「それと、ごめんね」
ホープ「何が?」
ホープ「もしかして、 大罪で竜が人間達をたくさん殺したこと?」
ハーレン「・・・」
ハーレン「いや──」
ハーレン「・・・」
ハーレン「いつかでいい・・・ いつかでいいから、 僕を、僕達を許して・・・」
ホープ「ハーレン、あなたは何も悪くないわ」
ホープ「外の世界を見てみたいと、 思っただけなんだから」
ホープ「それは罪ではないわ?」
ホープ「それにハーレンは、 誰も傷つけていないでしょう?」
ハーレン「・・・」
ハーレン「ほら、もう朝みたいだよ」
ハーレン「ほら起きてホープ・・・」
精霊の恋人とか、フクロウが今後何かに関わってくるのかな。竜は少なくともまだ居そうな気がしますね。魔法の成り立ちとも関わりがあるのか…。祭りの結果も楽しみです。