人間である以上(脚本)
〇荒廃した市街地
由加「・・・・・・・・・・・・」
由加「(・・・手痛くやられたな)」
由加「(いや、今もやられてる)」
由加「(・・・)」
由加「(さっき一瞬、意識が飛んでた筈)」
由加「(なのに・・・何故か無事だ)」
由加「(でも、状況は変わらない)」
由加「(こっちはたまたま意識が戻っただけの殴り一辺倒の一個人)」
由加「(対して向こうは際限なく湧き出て来る。まるで大量生産の出来る親玉がいるみたいに──)」
由加「(──いや、『みたい』じゃなくて『いる』んだろう。恐らく、それを倒せば戦闘終了)」
由加「(・・・っていうか)」
由加「(これだけ色々食らってるのに、さっきと違って全然痛くない)」
由加「(痛覚が麻痺しちゃったのかな・・・)」
由加「(まあ、何にせよだね)」
由加「(よくわからないけど、今なら何でも出来そう)」
由加「・・・」
由加「よっと」
「!?」
由加「とりあえず・・・」
由加「好き放題攻撃してくるこのポンコツ機械に──」
由加「お返し」
流石だな、伊吹由加
由加「・・・誰?」
誰、か。そうだな・・・
貴様と伊吹康隆の言う所の──『ボス』と言えばわかるかな?
由加「・・・じゃあ、あんたが──」
ついさっきの事だ──私のかわいい右腕から、連絡が入ってね
由加「・・・佳菜ちゃんか。どうりで、途中から会話に入ってこないわけだ」
君がピンチで、もうすぐ殺られるというから来てみたが・・・ちょうど『力』の片鱗が目を覚ました頃だったようだ
仮想空間越しにその力を見たが・・・やはりその力を逃すのは惜しい
君がその力を失わぬ内に、私の元に来い。私なら君の力を十全に引き出せる
由加「・・・」
由加「私は──」
おっと、答えは求めていない。此方は既に、君をエスコートするに相応しい紳士を呼び寄せている。・・・前を見給え
由加「・・・」
由加「これが紳士?」
由加「・・・どう考えても、蛮族にしか見えないけど」
蛮族?
由加「・・・?」
由加「くっ!」
君のその『力』の方が、余程蛮族に近いのではないかね?
由加「・・・・・・」
・・・流石の君も、足を攻撃してしまえば動く事すらままならないようだな
ならばあとはじわじわと甚振るだけだ・・・最悪、君が死んでしまっても構わない。厄介な存在を永世まで封印できるのだからな──
由加「・・・・・・・・・」
ふん、まだ意識があるか
ならばもう、手加減は出来ん・・・この機兵の力を全て引き出し──貴様を拘束する
さあ・・・暴れ狂うが良い!究極の力を持ちし機兵よ!お前の力で──このガキを降伏させるのだ!
バーチャル戦闘機兵EX「グオオオオオ・・・・・・」
バーチャル戦闘機兵EX「オオオ!!!」
由加「・・・・・・」
由加「・・・・・・・・・」
由加「あれ?見た目が変わっただけ?」
由加「これなら、一瞬で仕留められそうだね」
ふん、そう言いながらも顔が引きつっているぞ?
無理もない。貴様の俊敏な足は既に封じてある。最早、貴様に勝機などないのだ。フハハハハハ・・・フハハハハハハハハハ!
由加「・・・」
由加「動けないなんて・・・誰が言った?」
何!
バーチャル戦闘機兵EX「・・・・・・」
由加「(動いてない・・・これなら!)」
由加「はあ!」
由加「っ!・・・避けた!?」
フフフ・・・見た目だけの変化だと?
由加「・・・・・・・・・」
そんな事・・・誰が言った?
由加「・・・・・・・・・」
笑わせる。見た目より中身を強化してこその強さだ。変色など強化の過程で起きる偶然の産物に過ぎない
由加「・・・そう」
この機体は、私の計算では攻撃、速度面において君に圧勝している
いくら君の足が自在に動けたからと言って、これから来る攻撃の連打に耐えられるかな?
由加「・・・・・・・・・・・・」
由加「(捉えた!)」
由加「ふっ!」
バーチャル戦闘機兵EX「・・・」
由加「っ・・・攻撃が当たらない!」
由加「うっ!」
諦めろ。性能で大きく差が付いているんだ。これ以上無駄に抵抗するな。死にたくなければ、な
由加「・・・・・・」
由加「ふっ・・・」
・・・何がおかしい?
由加「いや、おかしくなんてないよ。ただ・・・ちょっとはやる気出てきたかな」
・・・やる気?
やる気でどうにかなるなら、やってみるが良い。尤も、そんなもので力の差が埋まるとも思えんがな・・・フハハハハ!
由加「・・・・・・・・・」
由加「(・・・まあ、確かに的を得ている)」
由加「(やる気だけでどうにか出来る程度の戦況なら、きっとやる気がなくても勝ちを拾えるだろう)」
由加「(・・・なら、やる気以外で必要な物は何?)」
〇公園の砂場
だが・・・この世界は事前情報だけが全てではない
・・・つまり、此方の『成長性』を見る事は出来ない
我々人間の真価は、そこにあると私は思っている
〇荒廃した市街地
由加「成長・・・出来るかな」
由加「・・・考えてる暇はない」
由加「殴りながら考える!」
「(惜しい・・・!)」
バーチャル戦闘機兵EX「グオオ!?」
由加「っ!?」
由加「くっ・・・こっちもやられたけど、ようやく!」
由加「ようやく、スピードが追い付いた!」
ば、馬鹿な!つい1分前まで、私の機兵の方が勝っていた!
それが・・・それが、互角に打ち合っただと?いったい、どういう・・・
・・・は!まさか・・・また手加減をしていたというのか?いや、しかし・・・パフォーマンスにしてはダメージを負い過ぎ・・・
由加「・・・うるさい」
由加「確かに、やる気では力の差は埋まらない」
由加「でも、人間は人間である以上成長する!」
バーチャル戦闘機兵EX「!?」
由加「こんなもの・・・当たらない!」
由加「そして!」
由加「人間である以上!」
バーチャル戦闘機兵EX「グオオオオオオ!」
バーチャル戦闘機兵EX「グオオオ!!!!?」
由加「そして、人間である以上・・・人には、無限の可能性がある!」
由加「はあああああ!」
バーチャル戦闘機兵EX「・・・・・・・・・!?・・・!?!?」
由加「・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・
バーチャル戦闘機兵EX「・・・・・・・・・・・・」
バーチャル戦闘機兵EX「グ、」
バーチャル戦闘機兵EX「グググ、」
バーチャル戦闘機兵EX「グググググ、」
バーチャル戦闘機兵EX「・・・・・・・・・」
バーチャル戦闘機兵EX「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
由加「・・・・・・」
由加「お、終わった・・・」
由加「・・・こんなギリギリの戦いは初めてだったな」
・・・・・・・・・
あ、有り得ん・・・
わ、私の力を注いだのだ・・・この私の力を・・・
それが・・・こうもあっさりと・・・
・・・山岡
・・・はい
この場は任せた・・・やはり、これを放置する訳には行かん・・・!
この『怪物』は・・・私の総力を持って止める。必ずな・・・!
由加「・・・」
由加「『怪物』・・・・・・?」
・・・伊吹由加さん
由加「・・・うん」
私の負けです
由加「・・・そうだね」
私は──途中から情報を更新していました
あなたと一通り会話を終えた後・・・改めてあなたとバーチャル戦闘機兵の戦闘能力を算出し、戦闘シミュレートを行いました
機兵が勝つ確率は、1%もありませんでした
由加「・・・」
だから──私は何らかの手段を打つ事を決めていました
由加「それが、ボスを呼ぶ事だったんだね」
まあ、躊躇がないと言えば嘘です。自分だけの力で勝ちたいと思わない事はないですし
何より、私は少し前まであなたに勝てると思っていましたから。ボスにも大口を叩いていたんです
「この戦いで負けるなんてあり得ません。負けたら死にます」って
由加「・・・ぷっ」
おかしいですよね。結局負けましたし──
由加「いや、そうじゃなくて」
?
由加「・・・言ったの。私も。我孫子の前で、佳菜ちゃんとおんなじ事」
・・・・・・・・・
プッ・・・アハハ!なんですか、それ──
〇大きい研究施設
由加「・・・それで、佳菜ちゃんはこれからどうするの?」
佳菜「そうですね・・・私は、またボスの元に帰ります」
佳菜「そして、次はあなたに勝つ!・・・当分は、それを目標にします」
由加「・・・うん。待ってる」
由加「ところで佳菜ちゃん、次の私の相手ってわかる?あんたらの所の」
由加「四人いるんでしょ?今までで二人戦ったから、あと二人と戦わないと」
佳菜「次が誰か・・・ですか?そんなの、私にわかる筈がありません。私はあくまで、ボスから命令を受けてあなたと接触したまでです」
佳菜「他の人がどう動いているかは、ボスから伝聞調で聞かされているだけに過ぎません」
由加「そう・・・じゃあ、残りの二人がどんな人かもわからないか」
佳菜「・・・あの。誰に聞いてるかわかってますか?私は、謂わばあなたの敵です、敵!仮にわかっていても、教える方がおかしいでしょ!」
由加「まあ、それもそうなんだよね・・・」
由加「・・・・・・・・・」
佳菜「・・・本当に知らないんですって。一人は常に殺気立った戦闘狂のような人ですけど、ボスの命令を聞いてる所を見た事がないですし」
佳菜「もう一人は、会った事すらありません。ボスからの命令の殆どは、我孫子さんが単独でやってるようなものですから」
由加「・・・そっか」
由加「まあ、会った時にまた考えるよ。ありがとう、佳菜ちゃん」
佳菜「はい。由加さんも・・・私以外の人に、やられないで下さいね」
由加「・・・うん。任せて──」
〇アパートのダイニング
由加「・・・今日は日曜日か」
由加「なんだか、一日が長いな。連日戦うはめになったし」
由加「特に、昨日は死にかけた。もっと修行しないとな」
由加「・・・・・・・・・」
由加「詐欺グループの所からのLINE通話だ」
由加「今更何だろう。復讐?」
由加「もしもし」
伊吹由加。すまない、私だ
由加「その声は・・・」
ああ。お前達の言う所のボスだ
由加「・・・そのボスが、私に何か用?私を倒す為に準備してるんじゃないの?」
・・・そうだ
だが、今回君を呼んだのは私との戦闘の為ではない
由加「・・・じゃあ何?」
単刀直入に言う。私の部下を、止めてくれないか
由加「・・・・・・」