第10話 【リアルデート】(脚本)
〇可愛い部屋
希美都ココロ「ハァ・・・」
紺野正樹「コ、ココロちゃん。コーヒー淹れたよ」
希美都ココロ「ありがと・・・」
紺野正樹「それで、そのー、 今日の収録なんだけど・・・」
希美都ココロ「グスン・・・スン・・・」
ソファーの上で丸くなり、
ふてくされているココロ。
小動物のようで可愛いが、今は
そんなことを言っている場合ではない。
希美都ココロ「わざわざ、 あんなこと書いてこなくてもいいのにさ」
ココロがすねている発端は、SNSや
問い合わせ先に届くメッセージに、
少々厄介なものが増えてきたことだった。
紺野正樹「ひどすぎるものは、僕のほうでも 報告とか対応していこうと思ってる」
アイリスが辿った運命を思うと、
ここで対応を間違えてはいけない。
荒らし対策も重要だが、何より大事なのはココロの気持ちをフォローすることだ。
紺野正樹「まあ、最近どんどん数字も伸びて、 これまでとは層の違う、 新しい視聴者さんも増えてきてるからね」
紺野正樹「話題になれば、それだけ肯定も否定も 出てくるものだし・・・」
紺野正樹「知名度が上がっているのは 間違いないから、そんなに落ち込まないで」
希美都ココロ「ヴァア」
奇声しか返ってこなくなってしまった。
丸くなった背中を見つめながら、
正樹は、数日前のことを思い出していた。
〇遊園地の広場
蒔苗「先輩みたいな人・・・ 先輩がやろうとしてること・・・」
蒔苗「蒔苗は、大っ嫌いです」
〇可愛い部屋
あの出来事も、ココロが落ち込んでいる理由の一つになっていることは間違いない。
どうしたものかと頭を悩ませる。
この状態で無理に収録を敢行しても、
良いものは生み出せないだろう。
紺野正樹「よし。今日は、お休みにしよう」
希美都ココロ「・・・ほぇ?」
〇玄関内
紺野正樹「それじゃ、行こうか」
正樹は靴を履きながら、傍らに置いた
タブレットへと話しかけた。
希美都ココロ「ちょ、ちょっと待って、 まだお洋服が決まってない! どうしよぉ」
タブレットの画面には、
ココロの部屋が映し出されている。
その中を、ココロが不安げに
行ったり来たりしている。
希美都ココロ「これでどうだろ・・・? うう・・・ちょっと子供っぽいかな・・・」
先ほどから、画面の枠外に
出て行ったかと思うと、
そのたび、違う服装で戻ってくる。
希美都ココロ「ど、どうかな、正樹くん。 こっちの服のほうが、いい?」
紺野正樹「どれも、ココロちゃんが着てる時点で 可愛いと思うんだけど・・・」
希美都ココロ「あー! 正樹くん! その返答は、 あまり良くないよ! 女子的には! ちゃんと見てよぉー・・・スン・・・」
紺野正樹「わ、わかった! ごめん! えっと・・・ とりあえず家を出るけど、いい?」
希美都ココロ「いまハダカなのに!?」
紺野正樹「あ、いや、 画面の外にいてくれたら大丈夫だから!」
希美都ココロ「ダメ! 気持ち的にスースーしちゃう!」
希美都ココロ「うー、・・・よし、これに決めた! 正樹くん・・・どう、かな・・・?」
〇可愛い部屋
ひらひらのワンピースを翻しながら、
自信なさげに、ひょこっと
ココロが姿を見せた。
普段は、アイドル衣装や、
バーチャルらしい未来的な服の
イメージが強いココロ。
そんな彼女が、リアルな普通の
女の子らしい服を着ている姿は、
新鮮だった。
紺野正樹「あ、可愛い・・・」
希美都ココロ「えへへ、やった。さ、行こ?」
少し無理をして元気に
振る舞っている様子のココロ。
今日の外出で、少しでも
元気になってくれればいいなと思いつつ、
正樹はタブレットを手に、家を出た。
〇動物園の入口
希美都ココロ「わ! ライオンだー!」
タブレットの背面カメラを檻のほうに
向けてあげると、カメラを通して百獣の王を目にしたココロが歓声を上げた。
行き先として動物園を選んだのは、こうしてタブレットを周囲に向けても不自然に
ならないということが大きかった。
希美都ココロ「すごいね! カッコイイね!」
紺野正樹「うん、すごい迫力!」
イヤホンからココロの喜ぶ声が
聞こえてくる。
周囲からは、正樹が電話の相手と
話しているように見えているだろう。
たくさん歩いて園内を見て回り、
色々な話をした甲斐あって、ココロは、
だいぶ元気を取り戻してくれたようだ。
から元気かもしれないけれど、下を
向いているよりは、ずっとマシなはずだ。
希美都ココロ「正樹くん! 次はあっち! えっと、 今いる場所から東に行ったところに、 白熊がいるらしいよ! 見に行こう!」
紺野正樹「よーし!」
希美都ココロ「白熊まで、あと300メートルです」
どうやらタブレット内でインターネットを
駆使し、動物園の地図情報を入手したらしい。お茶目な言い方に思わず吹き出す。
紺野正樹「すごい、カーナビっぽい」
希美都ココロ「ふふん。超優秀AIだからね」
〇公園のベンチ
希美都ココロ「・・・あ」
紺野正樹「あ?」
希美都ココロ「・・・いまの角を左でしたよ」
紺野正樹「行き過ぎてから言わないで! ・・・ん? さっき超優秀と言った?」
希美都ココロ「わー、いじわるなこと言うー!」
紺野正樹「冗談だよ」
そう言って笑いながら、ふと、
「あれ? コレものすごく面白くないか?」という思考が下りてくる。
紺野正樹「・・・ココロちゃん、今日は休養日と 言ったけど、ちょっとこの調子で、 動画を一本、撮ってみても良いかな?」
希美都ココロ「ん? どんな動画?」
紺野正樹「音の問題とか、ちょっとやりかたは考えるけど、タブレットに映るココロちゃんを、こっちの別のカメラで撮影するんだ」
紺野正樹「まるでリアル世界をココロちゃんと デートしている気分になれるような、 シチュエーション動画だよ」
希美都ココロ「あ! 面白そう!」
紺野正樹「ね。さっきのカーナビネタも使おう」
希美都ココロ「やってみたい! うん、やってみようよ」
紺野正樹「よし! じゃあ、いったん休憩所に入って、作戦会議しようか」
希美都ココロ「わかった! ・・・それにしてもさ」
紺野正樹「うん?」
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「気持ち的にスースーしちゃう」って言うAIって、何か面白い