第11話 【オトナとの密会】(脚本)
〇店の入口
紺野正樹「早すぎたかな・・・」
正樹は、待ち合わせをした喫茶店の
前に立ち、そわそわとスマートフォンで
何度も時間を確認する。
時刻はお昼のランチ時で、
商店街は賑わいを見せていた。
???「あー・・・紺野正樹さん?」
声がして振り向くと、
そこに女性が立っている。
小鳥遊ことり「どもー」
Tシャツとパンツスタイルに身を包み、
遠慮がちに手を振ってきたのは、
小鳥遊ことりの中の人、だった。
〇レトロ喫茶
小鳥遊ことり「好きなもの頼みな。 ここは、あたしが出すよ。 一応、社会人だし。新卒だけど」
喫茶店のカウンター前で、
ことりが振り返り言った。
普段こういう店に誰かと入ったりする
ことがないので、やけに緊張する。
紺野正樹(ということは、ことりさん、 22歳くらいなのか・・・)
バーチャルiTuberの
小鳥遊ことりは17歳。
中身はオジサンと公言している。
けど実際は、綺麗な大人の女性だった。
紺野正樹「あ、いや、今日はこちらからの お話なので・・・」
小鳥遊ことり「いいから」
紺野正樹「ありがとうございます。 それじゃ、お言葉に甘えて・・・」
アイスコーヒーを注文し、
ことりと一緒に奥の席へと座る。
紺野正樹「あの、本日はありがとうございました。 通話でも大丈夫だったのですが・・・」
小鳥遊ことり「いいよ。顔を合わせずに話すの、 ちょっと苦手だし」
紺野正樹「まさかリアルで お会いして頂けるとは・・・」
小鳥遊ことり「ま、既に一回、顔を見られてるしね」
言って、じろりと睨まれる。
あれは事故というか、こちらに落ち度は
あまりないはずなのだが・・・。
小鳥遊ことり「それに一応、お前も運営側の人間な わけだから、リアルでの打ち合わせも まぁ、普通のことだろ」
綺麗な女性に「お前」と呼ばれるのは、
なかなか新鮮なものがあった。
小鳥遊ことり「とはいえ、ただいま絶賛、 人見知り発動中だからな」
小鳥遊ことり「本当はアルコールを キメたいところなんだが」
紺野正樹「あ、そういえば明後日、 ベストパートナー決定戦での共演も、 よろしくお願いします」
紺野正樹「えっと、何とお呼びすれば・・・」
小鳥遊ことり「ことりでいいよ。本名も別に教えたって いいけど、使い分けるの大変だろうし」
紺野正樹「それじゃ、ことりさん・・・」
紺野正樹「今回は、ココロちゃんのサプライズ企画に ご協力いただけるということで、 ありがとうございます」
小鳥遊ことり「何でも頼みを聞いてあげるって 約束しちゃったしね」
小鳥遊ことり「ま、あの子とのコラボ楽しかったし、 いい子だもんね。できるかぎり協力するよ」
そう。もうすぐココロの誕生日
ということで、正樹は本人には内緒で、
その準備へと取りかかっていた。
ちなみに一般公開されている
ココロの誕生日は、
彼女がAIとして生まれた日ではなく、
初配信をした日付が設定されている。
紺野正樹「では早速、詳細についてなんですが・・・」
〇可愛い部屋
希美都ココロ「む~、遅い!」
バーチャル空間にログインすると、
膨れっ面のココロが待っていた。
希美都ココロ「今日はベストパートナー企画の台本を一緒にチェックしようって約束してたのに!」
紺野正樹「ご、ごめん! ちょっと用事が長引いちゃって・・・」
希美都ココロ「でも昨日に続いて、二回連続で遅刻だよ? ・・・何やってたの?」
紺野正樹「何って、えーと・・・色々だよ」
希美都ココロ「あ! その顔は何か隠してる顔だー!」
紺野正樹「い、いやいや、違うよ!」
慌てて否定する。
ココロは妙なところで鋭いところがある。
バレてしまったら、
せっかくのサプライズが台無しとなる。
なるべく本当のことを言おうと、
どこどこというお店で友達と会って
話をしていたのだと説明する。
すると、どういうわけか、
ココロの表情が変わった。
希美都ココロ「そ、その会ってた人って、 ひょっとして・・・ことりさん?」
紺野正樹「あぇ!? 何で!?」
希美都ココロ「だって今日、ことりさんのSNSに投稿 された画像と、お店の名前が同じだもん!」
そう言って、ココロが問題の
投稿画像を見せつけてくる。
〇SNSの画面
そこには確かに、
『たまには外出』という文言と共に、
お店の名前が書かれた
コップやコースターの画像が
添付されていた。
〇可愛い部屋
紺野正樹(あの人ー!!)
紺野正樹(自分はオジサンだって公言してる割に、 なんて女子なことしてるんだ・・・)
希美都ココロ「私、知ってるんだ! こういうの、匂わせって言うんだよ!」
希美都ココロ「え、というかリアルでも会う関係なの!? いつから!?」
紺野正樹(な、なんてややこしいことに!)
それにしても、ココロがここまで
正樹の行動を気にするというか
束縛するような態度を取るのも珍しい。
確かに遅刻したのは完全に
正樹の落ち度だが、ここまで追及される
理由が分からず、戸惑う。
紺野正樹(とにかく、サプライズ企画の秘密だけは 死守しないと・・・)
どうせなら最大限に驚かせたいし、
喜ぶ顔が見たいから。
希美都ココロ「正樹くん! 怖くない! 怒らないから、 正直に言おう!? ことりさんと何を・・・」
紺野正樹「何でもないよ!」
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