キミトココロの物語~バーチャルiTuberの日常~

泡沫彷徨

第09話 【後輩の思惑】(脚本)

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〇遊園地の広場
希美都ココロ「はーっ! いやぁ、意外と大盛り上がりに なっちゃって大変だったけど、 これは宣伝効果バツグンだったね!」
紺野正樹「うん! お疲れさま、ココロちゃん」
  路上ライブを終え、木陰に移動して
  休憩をするココロを労いながら、
  さっき見た少女のことを考える。
  正樹が見ていることに気がついたのか、
  すぐに姿を消してしまったが、
  あれは、人気バーチャルiTuberの
  蒔苗(まきな)だった。
紺野正樹「ココロちゃん、あのさ・・・」
  そのことについて話をしようとした、
  ちょうどそのとき──
???「ちょっと」
紺野正樹「え?」
  背後から呼ばれて、
  正樹とココロが振り返ると、そこに、
  帽子を深くかぶった人影が立っていた。
希美都ココロ「えっと・・・あっ?」
  何かに気づいたのか、ココロが歩み出る。
希美都ココロ「もしかして・・・マッキー?」
  相手の顔を覗き込むようにして、
  ココロが問いかける。
  すると、
  人影がわずかに帽子を上げて見せた。
  そこに立っていたのは、まさに先ほど
  柱の影に隠れてココロたちを見つめていた
  少女、蒔苗だった。
希美都ココロ「やっぱり! マッキーだ、おひさ~!」
蒔苗「ちょっ、大声を出さないでください! 周りに見つかったら騒ぎになっちゃう じゃないですか!」
希美都ココロ「あ! ごめん・・・」
蒔苗「まったく、相変わらず意識の低い・・・」
紺野正樹「あの、僕は」
  初対面なので挨拶をしようと声を出しかけたところで、じろりと睨まれてしまった。
蒔苗「興味ありません話しかけないでください」
紺野正樹「こ、ココロちゃん! あの子、ちょっと 普段のイメージと違うんだけど・・・」
  蒔苗と言えば、とにかく声が大きくて
  元気、ウザカワイイ系の
  小悪魔な後輩・妹キャラとして有名だ。
  ところが目の前の少女は、非常にツンツンとした毒舌キャラといった感じで、
  人懐こいイメージとは程遠い。
希美都ココロ「マッキー、素だと、 いつもあんな感じだよ」
希美都ココロ「それから、実はね・・・マッキーも 私やアイリスと同じ、AIなんだ」
紺野正樹「え!? そうなの!?」
蒔苗「何ブツブツ言ってるんですか。 とりあえず場所を変えましょう」
蒔苗「蒔苗のプライベートサーバーへの 招待コードを送ります」
  宙にウィンドウがポップアップし、招待を受けるかどうかという表示が出たので、手で【イエス】のボタンに触れ、承諾する。

〇幻想空間
  すると一瞬、周囲の光景が歪み、

〇遊園地の広場
  それが収まる頃には、正樹とココロ、
  蒔苗以外の人の姿は見えなくなっていた。
蒔苗「さて、と」
  蒔苗が両手を腰に当て、振り返る。
蒔苗「説明してもらいますよ、ココロ先輩。 その男、誰なんです?」
紺野正樹「・・・え、僕?」
  正樹は、ぬいぐるみ姿の
  自分の身体を見下ろした。
紺野正樹「どうして、男だと・・・?」
蒔苗「そんなの、身体の動かし方を見れば 一発で分かります! というか口を挟まないでください」
紺野正樹「すごいし、ひどい!」
蒔苗「先輩・・・あなたという人には 本当に呆れます」
蒔苗「仮にもアイドル的な活動をしている人が 身辺に男を置くとは、 いったい何事ですか!」
希美都ココロ「えっとー、ほら、だから一応、 ぬいぐるみの恰好をしてもらってるし」
蒔苗「そんなことしたって、 分かる人には分かりますよ」
蒔苗「・・・それで、この人は 先輩の恋人か何かですか?」
希美都ココロ「こここ、恋人!? い、いや、違うよ!? ・・・えと、違うもん、ね?」
紺野正樹「そこで僕に話を振られても!? いや、その、僕はココロちゃんに雇われて・・・」
希美都ココロ「そう! そうなんだよ、そうでした! マッキー、この人は正樹くん」
希美都ココロ「彼にはね、 運営のお仕事を手伝ってもらってるんだ」
蒔苗「手伝い? なら、この人を選んだ理由は?」
希美都ココロ「そ、それは・・・」
紺野正樹「・・・?」
  正樹をチラチラと気にしながら、ココロは蒔苗に近づき、その耳元で何かを告げた。
蒔苗「・・・ふぅん」
  少しだけ興味が出てきたといったように、蒔苗が改めて正樹を見る。
蒔苗「正樹くんとやら」
紺野正樹「な、何・・・?」
蒔苗「そうですね・・・どうでしょう、 蒔苗のマネージャーになってみません?」
紺野正樹「え!?」
希美都ココロ「ま、マッキー!?」
蒔苗「先輩より待遇はよくしますよ」
紺野正樹「どうして急に、そんなことを・・・」
蒔苗「あのですね」
  後ろ手を組み、蒔苗は笑みを浮かべて、
  ぐっと顔を寄せてくる。
蒔苗「蒔苗、この能天気な先輩が気に入らない ので、へし折ってやりたいんです」
  笑顔のまま告げる蒔苗。ココロが、
  ハッとしたような、驚愕にどこか哀しみが
  織り交ざった複雑な表情を浮かべる。

〇黒
  そう言えば、と
  正樹はあることを思い出す。
  ココロと蒔苗の間には、昔から、
  ちょっとした不仲説が付きまとっていた。
  ただの噂だと、
  気にしたことはなかったが・・・。
  二人の様子を見るに、実際、
  何らかの因縁があるのかもしれない。

〇遊園地の広場
蒔苗「なので、その協力をしてくれません? ちゃんと報酬は支払いますよ?」
  蒔苗の指が、そっと腕に触れてくる。
紺野正樹「報酬?」
蒔苗「あなたに、夢を与えてあげます」
  淡々とした口調だったが、
  正樹を動揺させるには充分だった。
  効果があったことを悟り、蒔苗が笑う。
蒔苗「大学生になって、周囲が将来のビジョンを 持っていく中で・・・あなたには、 明言できる夢がない。焦りますよね」
紺野正樹「どうして、そんなことまで・・・!?」
蒔苗「たまには、AIらしいことをしてみました」
蒔苗「このくらい、SNSとか身辺情報を 漁れば、すぐに分かります」
蒔苗「蒔苗が、あなたの夢になってあげますよ」
紺野正樹(夢・・・)
  かつて、夢中で絵を描いていた自分の姿が脳裏をよぎり、思わず首を振った。
蒔苗「あなたの素質を見出して、 認めて、求めてあげます」
蒔苗「そうすれば、お互いにとってWinWinの関係を築くことができるでしょ?」
紺野正樹「いや、僕は・・・ココロちゃんの夢を 叶えるお手伝いをするって、約束したんだ」

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