第08話 【二人だけの遊園地】(脚本)
〇遊園地の広場
紺野正樹「もうちょっと左かな・・・ あ、ごめん、ココロちゃんから見て右!」
紺野正樹「・・・うーん、悪くない感じに撮れてる とは思うんだけど・・・確認してみる?」
希美都ココロ「うん!」
〇遊園地の広場
今日は、歌ってみた動画の
MV(ミュージックビデオ)撮影のため、
VR空間の遊園地へと来ていた。
ココロが駆け寄ってきて、
宙に表示したウィンドウを覗きこむ。
撮影したばかりの映像が、
様々なアングルで映し出された。
バーチャルであればカメラを購入する
必要もないし、現実では物理的に不可能な
アングルでも撮影できるのは強みだ。
希美都ココロ「あー、うん・・・。 そうだね、イメージ通り・・・ ではあるんだけど・・・こう・・・」
紺野正樹「なんだか、パッとしないよね。 正面からの抜けも、あまり良くないし」
紺野正樹「うーん、AメロやBメロまでは 順調だったんだけどなぁ・・・」
希美都ココロ「少し休憩しよっか。頭を切り替えたら、 いいアイデアが浮かぶかもしれないし!」
紺野正樹「それもそうだね」
希美都ココロ「ね、せっかく遊園地に来たんだし、 観覧車乗ろうよ、観覧車!」
紺野正樹(・・・ココロちゃんと 二人きりで観覧車!?)
希美都ココロ「ほら、早くー!」
そう言って、ココロが手を握ってくる。
紺野正樹「え、わ、わ! ココロちゃん、 そんな急がなくても! 誰もいないんだし」
現在ログインしているのはプライベートの
サーバーなので、見知らぬ第三者が
ログインしてくることはない。
〇観覧車の乗り場
希美都ココロ「これこれ! こういうのに誰かと乗るの、 憧れだったんだ!」
ココロに手を引かれたまま、観覧車の
下までやって来ると、ちょうどゴンドラが
下りてきたところだった。
〇観覧車のゴンドラ
希美都ココロ「私こっちの席!」
目をキラキラさせてはしゃいでいる
ココロの正面へと座る。
希美都ココロ「お、上がり始めた!」
紺野正樹「すごい・・・バーチャルだって 分かってても、ちょっと怖いな」
希美都ココロ「あれれ~、もしかして、高いところ苦手?」
紺野正樹「そ、そんなこと・・・ちょっとだけだよ」
希美都ココロ「ほぉ~ん。こいつは、からかい甲斐が、 ありそうですなぁ?」
紺野正樹「あ、あー、こっちの席の後ろ、海が見える」
希美都ココロ「話をそらしたね?」
紺野正樹「そんなことないよ! というか、すごいな、このワールド」
紺野正樹「ちゃんと、 遊園地の外まで作り込んであるんだ」
希美都ココロ「こっちは森が見えるよ。 でも、海も見たいな・・・ ね、そっちの景色も見せて!」
紺野正樹「えっ」
正面の席から、こちらの席に移動しようとしたのか、ココロが立ち上がる。
希美都ココロ「わっ!?」
その拍子にゴンドラが揺れ、
ココロが倒れかかってきた。
紺野正樹「あ! ココロちゃん!」
慌てて受け止める。
希美都ココロ「ててて・・・。へへ、うっかり」
紺野正樹「コ、ココロちゃん・・・!」
目と鼻の先に、ココロの顔があった。
正面から彼女の身体を受け止めたことで、抱き合うような形になってしまっている。
紺野正樹「えっと、その・・・」
希美都ココロ「うにゃ? ・・・っ!?」
彼女も自分たちの体勢に気がついた
ようで、顔がみるみる赤くなる。
紺野正樹(うわ・・・可愛い・・・)
天真爛漫な彼女があまり見せたことのない表情に、つい見とれてしまう。
希美都ココロ「ご、ごめんね!」
体勢を立て直し、ココロが起き上がった。取り繕うように、隣へと腰を下ろす。
希美都ココロ「あ、ほんとだ海が見える! いい眺め・・・綺麗だねー!」
そう言って笑うココロの横顔に光が差す。
紺野正樹「・・・・・・」
希美都ココロ「・・・? どしたの、私の顔、何か付いてる?」
紺野正樹「あ、い、いや!」
観覧車が一周するまでの間、
隣に座るココロのはしゃぐ姿が、
いつまでも眩しかった。
〇遊園地の広場
紺野正樹「酔った・・・」
観覧車を降りて、そのままベンチに
座りこむこと、何分が経っただろう。
紺野正樹「これって乗り物酔い? VR酔い? それとも高所酔いかな・・・」
希美都ココロ「大丈夫ー?」
隣に座るココロが、顔を覗きこんできた。
紺野正樹「あ、うん。だいぶ回復した。ありがとう。ごめんね・・・」
希美都ココロ「ううん! 私こそ、ごめんね! 高いところ苦手って言ってたのに。 休憩にならなかったね・・・」
紺野正樹「そんなことない!」
慌てて強めに否定した。
紺野正樹「ちょっと、はしゃぎすぎちゃったんだ。 すっごく楽しかったよ」
希美都ココロ「・・・そっか。それなら良かった」
安心したように、彼女は笑みをこぼした。
希美都ココロ「あ、そうそう! 考えてたんだけど、 サビのダンスは、やっぱり、 この広場で踊るのがいいよね」
紺野正樹「あ、うん。後ろに観覧車も見えるし、 周囲も見た目が賑やかだから、良さそう」
紺野正樹「・・・そうだ! 大サビで、ワールドの 時間を夜に設定してライトアップしたら、 すごく綺麗になるんじゃないかな?」
希美都ココロ「正樹くん、それ・・・かなり名案かも! さっそく、やってみようよ! えい!」
〇遊園地の広場
ふっと周囲が薄暗くなっていく。みるみるうちに太陽が沈み、辺りは闇に包まれた。
紺野正樹「さすがバーチャル」
希美都ココロ「それじゃ、いっくよー! ライトオン!」
〇遊園地の広場
ココロが叫ぶと同時に、
周囲の木々やアトラクションが
色とりどりに光り始めた。
紺野正樹「うわ・・・」
希美都ココロ「すごいすごい! 綺麗だねー! 想像以上だよ!」
叫んで、ココロが飛び出す。
そして、広場の真ん中で踊り始めた。
いくつもの色を身体に浴びて、
くるくると回る。
希美都ココロ「どうかなー!?」
紺野正樹「綺麗だよ・・・すごく」
呆けたように、小声で呟く。
希美都ココロ「なーにー?」
紺野正樹「あ、ごめん! 見栄え最高だよ! 後ろに見える観覧車の照明が、 いい味出してるね」
紺野正樹「撮影してるから、そのまま踊ってみて!」
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